馨と香緒里の事情



1 祈り


N電機に入社して一ヶ月が経った。
早坂馨ら男女5人ずつの10人は会社近くの小綺麗な居酒屋に集まっていた。
一ヶ月間の新人教育を終えて、新たな職場の内示を受けた。
ゴールデンウイーク明けからそれぞれ新たな職場に配属されることになっていたのだ。
そこで、それぞれの職場での活躍を約束し合うため、皆で集まることにしたのだった。
次の日からは9連休のゴールデンウイークが待っていた。

早坂は京都のK大学を卒業し、いくつかの企業の中からこの会社を選んだ。
規模こそ大きくないが、いろいろな先進的な研究をいろいろな場で発表している企業姿勢に惹かれてこの会社への就職を決めたのだ。
親が幾分かの金銭的な余裕があったために、給料の高さよりも自分の趣向で選んだ点があることは否めない。
早坂は本人の希望通り要素技術研究所に配属された。
今後の製品開発の基礎技術を研究開発する部門で、早坂が大学で学んだ基礎物理を十分活かせそうなところだ。
早坂は典型的な理系人間だった。
学力というよりはファッションの点での話だ。
服装や髪型なんかには全く気を配らなかったのだ。
ボサボサの髪型で寝癖がついたまま、出社することも一度や二度ではなかった。
というよりもほぼ毎日といった方が正しいだろう。
また周りのことにはそれほど気にとめるタイプではなく、同僚の顔は4人程度しか顔と名前が一致しないという有様だった。

佐野香緒里はいわゆるお嬢さま大学のO女子大を卒業した。
お嬢さま大学を卒業したと聞けば、おっとりした少し天然惚け気味の可愛い女性を想像しがちだが、彼女はそのイメージとは違っていた。
顔は整っており、はっきり言って美人なのだが、どことなく冷たい印象を受けるタイプだった。
それは、他人を小馬鹿にしたような表情を浮かべることが多いせいかもしれない。
話をするのも同じような感じで、自分以外は全部馬鹿だと言わんばかりの高飛車な雰囲気があった。
だから学生時代から多くの友達に嫌われていた。
早坂と同じく大学では物理を専攻していた。
同窓の男性よりも優秀だったにもかかわらず、なかなか就職が決まらなかった。
自分より馬鹿な男子学生が良い会社に決まっていくことで社会への怒りがあった。
本来ならもっと良い会社に行けたはずなのに、この程度の会社にしか就職できなかった。
そんな思いがあったこともあり同僚と仲良くする気持ちなんてほとんどなかったのだ。


新入社員の宴会も終わり、それぞれの帰路についた。
早坂と香緒里は方向が同じだと言うことで、二人で帰ることになった。
「早坂くんてさあ、どうしてこんな会社に入ったわけ?私なんて、受けた会社みんな形だけの面接試験して、ほとんどセクハラ紛いの質問されてさあ、結局不採用ってばかり言われて、もうやんなっちゃって。そんな中で唯一採用してくれたここに入ったんだ。配属は人事ってことになってるけど、やることは"受付"だって。女の子はニコニコ笑って座っときゃあいいんだみたいな感じで…。ホント嫌になっちゃう」
香緒里はほとんど話を聞いていそうもない早坂馨に向かって一人でしゃべっていた。
実際、中途半端に優し気な顔を向けてくれるより早坂のようなタイプの方が今の香緒里には話しやすかった。
一人で話している気楽さがあり、一人で話す空しさがなかったからだ。
早坂としてはそんな期待に応える気はないのだが、結果的には十分香緒里の要求に応えていたことになる。
特に相槌を打つでもなく、黙々と香緒里と一緒に歩いていた。

早坂と香緒里はお互いの住居の近くの神社の前にやってきた。
「ねえ、早坂くん。ちょっと付き合ってよ。私、神様にお祈りしたいことがあるの」
早坂は日頃の香緒里からは想像もできない「神様」「お祈り」という言葉に驚いた。
今夜の香緒里は日頃の刺々しさは感じられず、愛らしさすら感じていたが、それでも驚きだった。
「お前から『お祈りしたいの』なんて聞くとは思えへんかったな」
「うーん、確かに私らしくないかも。だって、早坂くん以外は私の話、聞いてくれないじゃない。それに、早坂くんとお祈りしたら何かかなうような気がするのよね」
「まあええわ、どうせ帰って寝るだけやし。ちょっとくらいの寄り道くらい付き合うたろ」
早坂と香緒里は連れ立って境内に入った。

賽銭箱の前に二人して立った。
「で、何、お願いすんねん?」
「早坂くんみたいに仕事がバリバリできますようにってお願いするの」
「そうなんか。受付は受付で大変やと思うで。礼儀正しいお客さんばっかりやないやろうし、お前の態度次第で会社のイメージが変わるんやろ?ある意味、俺らみたいな技術職より重要な仕事やんか」
「そんなこと言ってもセクハラ親父みたいなのがやってくるだけで、よっぽど重要なお客さんは私よりずっと偉い人が対応するんだもん。やっぱりただのお飾りでしかないのよ。一度早坂くんがやってみたら?なら私の言ってる意味がよーく分かるわよ」
「そんなこと言っても男じゃな。それにこの顔だし」
「だったら私みたいだったら受付でもいいのね?」
「ええかもしれんな」
「もう!そしたら入れ替われるようにお願いしてみるわ」
「おお、そしたら二人でお願いしてみよか」
早坂はムキになる香緒里をからかうように話を合わせていた。
「神様、私たちを入れ替えてください。お願いします」
「お願いします」
二人は小銭を賽銭箱に放り込み、柏手を打った。
「よっしゃ、これで俺は佐野香緒里やな。休み明けから受付がんばろ」
「もう早坂くんったら私を馬鹿にして。私は真剣なんだからね」
その夜、早坂は香緒里を送り、そのまま自分のマンションに帰った。


2 入れ替わり


次の日、早坂は見知らぬ部屋で目が覚めた。
(あれぇ、ここ、どこや?昨日は佐野を送って帰って、ちゃんと自分ちに帰ってきたはずやけどなあ…)
早坂は上半身を起こし、部屋の中を観察した。
6畳ほどの1LDKの部屋だった。
パステル系のモスグリーン色のカーテンで、部屋の中にはぬいぐるみなどのいわゆる女の子女の子したものはないが、ちょっとした小物なんかで、持ち主は女の子なんだろうと想像させた。
(うーん、どうも女の子の部屋みたいやで。ちゅうても俺はあれから女の子の家なんて行ってへんし、第一そんな彼女おらへんもんな。それにしても部屋には俺一人みたいやし、ここの部屋の持ち主はどこ行きよったんやろ?)
早坂はとりあえず頭をはっきりさせるために顔を洗うことにした。
布団から出て、洗面所らしいドアを開けた。
そこはユニットバスになっていた。
早坂は蛇口を捻ろうと前かがみになった。
顔の横に何かが落ちてきた。
髪の毛だった。
(何やこれ?俺の髪の毛か?)
早坂はその髪の毛を触った。自分の頭からも髪の毛が触られている感じがあった。
(!)
ここで早坂はようやく目の前の鏡に意識が行った。
鏡に映っているのは佐野香緒里だった。
(何やねん、これ?どないなってねん?)
早坂はお約束通りに胸の存在が確かめた。
股間の空虚感も確かめた。
(まさかあの神社のお祈りが効いたんか?)


ほぼ同じ時刻、香緒里は自分が早坂馨になっていることを確認してガッツポーズを取っていた。
香緒里が目を覚ましたのは早坂より1時間ほど早かった。
しかし、香緒里の場合、すぐに自分の身体の異様に気がついた。
股間に異様な力強さを感じたためだ。
いわゆる"朝立ち"だ。
もちろん生まれて初めての朝立ちに、香緒里はどう処置していいのか分からなかった。
それでも触るに触れず、催してきた尿意にしたがって尿を出すことによって、この危機を乗り越えた。
このときは座って、パジャマ越しにペニスを便器の中に押さえつけることによって、尿を出した。
その後はパジャマも下着も取って、新しい自分の身体を観察した。
あまり運動していないのだろう。
筋肉がブヨブヨだった。
それでも女よりは力は強そうだった。
力が強くなったことも香緒里にとっては喜びだった。
香緒里は元の自分の携帯に電話した。
しかし、香緒里の携帯は登録番号以外着信拒否しているため、つながらなかった。
(まあそのうち目が覚めて慌てて電話してくるでしょうね)
香緒里はそう思い、自分の身体のチェックを続けていた。


早坂はしばらくの間呆然としていた。
いつもの冷静な早坂からは考えられない状態だった。
感情が考えることを邪魔していた。
脳が女の脳になったせいかもしれない。
だが、早坂にはどうしようもなかった。
何もする気が起きなかった。

やがて連絡を取ることに思い至った。
自分の携帯電話の番号くらいは打てる。
しかし肝心の香緒里の携帯がどこにあるのか分からなかった。
昨日持っていたと思われる鞄の中にもなかった。
部屋の中の置けるスペースにもなかった。
早坂の頭の中はパニックになっていた。
(落ち着け、落ち着け。まずは今俺の姿になってるやつと連絡取ることや)
早坂は自分に言い聞かせるように頭の中で反芻した。
(電話がないとなると俺が向こうのマンションにいくしかない)
やがて意を決して自分のマンションまで行くことにした。
香緒里のところから早坂のマンションまで歩くと20分以上はかかる。
普通の状態だと徒歩と言う選択肢もあるが、今の状態で長時間人目につきたくない。
ということで、タクシーで行かざるをえない。
財布はさっき携帯を探したときに見つけていた。
中身は5千円くらいしか入ってないが、タクシー代としては十分だ。
問題は服装だ。
あんまり女の子っぽい服装は嫌だったが、香緒里はスカート派のようで、パンツ類がまったくなかった。
とりあえずオレンジ色のカットソーと膝より少し長めの白い軽めに見えるスカートに、淡いピンク色のカーディガンを着た。
これは昨日香緒里が着ていたと思われる服だった。
正直なところ早坂は誰であっても、どんなものを着ていたかを記憶しているような性格ではなかった。
したがって、大体こんな感じだろうという程度の記憶でしかなかった。
外に出ようとして問題が生じた。
胸の揺れが気になるのだ。
しかも乳首がTシャツに擦れて痛い。
早坂にとってブラジャーなんて着るべき物として思い浮かばなかったため、ノーブラだったのだ。
早坂はブラジャーの必要性を強く知ることになった。
早坂は上半身裸になりブラジャーをつけた。
ようやく胸が落ち着いたような安心感が出てきた。
ブラジャーの存在意義を知り、早坂は何となく感慨深いものがあった。
その上からさっきの服を着て、下駄箱にあったスニーカーを履いて、早坂は表に出た。
タクシーは比較的すぐにつかまった。運転手に行き先をつげて、マンションに着くまでの道中もドキドキものだった。
「お姉さん、これから彼氏のところに行くのかい?」
「スッピンのまま外に出れるなんて素顔に自信があるんだねえ」
「髪がボサボサだけど、彼氏に嫌われないかい?」
などの大きなお世話の話ばかりしてくるのだ。
ようやくタクシーがマンションに着き、玄関のドアロックの番号を押し、早坂は自分の部屋の701号室のインターホンを押した。


香緒里はマンションの前にタクシーが止まる音に気がついた。
タクシーからボサボサ頭の元自分が飛び出してくるのを見て驚いた。
あまりにもだらしない姿だったのだ。
(もう女性が外に出ていくときはブラッシングくらいちゃんとしてよね)
香緒里は箪笥から小綺麗なジャージの上下を取り出して着た。
やがて自分の部屋のインターホンが鳴ったので、ドアを開けた。

素早く表にいる者の腕を取って部屋の中に引き入れた。
そのとき自分の力が強くなったことを認識した。
「痛いなあ。そんな無茶苦茶すんなよ」
引き入れられた者、すなわち、早坂は腕をさすりながら言った。
「もう女の子がそんな恥ずかしい格好で外出ないでよ」
「やっぱりお前は佐野なんか?」
このときお互いが入れ替わっていることを二人とも改めて認識した。
「もう私になったんだからそんな変な関西弁使わないでよ」
「そんなこと言うんやったら、俺になったんやから女言葉使うなや、おかまみたいで気持ち悪いわ」
早坂と香緒里は今更言ってもどうしようもないことを玄関先で怒鳴り合っていた。
「とりあえず中に入れてくれや。いつまでもこんなとこで立ってるのも疲れた」
早坂と香緒里はリビングのソファに腰を下ろした。
「まずは何でこんなことになったかや」
「"何で"って昨夜のお祈りがかなったからじゃない。そんなことも分かんないの?」
香緒里は早坂の姿になっても、いつもの香緒里らしく憎まれ口を叩いている。
「"お祈りがかなった"って、それだけで納得できるわけないやろ」
「じゃあ納得できたら何かが解決できるわけ?今の状況を説明できたとしても、どうしたら元に戻れるか?戻れないのなら、これからどうするかを考える方がよっぽど建設的じゃなくて?」
「そらそうやけど、何がどうなってるのかさっぱり分からないし、それはそれで知りたいやろ?」
いつもの早坂と違って感情のおもむくままにしゃべっている。
それに比べて香緒里はいつもになく落ち着いている。
元々あった性格が残っているのか、男脳・女脳の差なのかは分からないが、とにかくいつもの二人とは違っている。
二人ともそれに気がついていないが。
いろいろ話していて結論はもう一回神社に行って、お祈りしようという想定通りの行動に落ち着いた。
「神社に行くのはいいけど、その前に早坂くんのその頭と顔をどうするかよね?」
「別におかしくないやろ」
「だ・か・ら、髪にブラッシングするとかお化粧をするとかよ」
「服はどうや?」
「服は意外とおかしくないのよね。早坂くんって案外女の子の服、着慣れてたりして」
「何を言い出すんや。お前が昨日着てた服を思い出して着ただけや」
「全然違うわよ。会社に行くのにそんな普段着で行くわけないじゃない。まあとりあえず早坂くんは女の子になってもファッションについては問題なしよね」
香緒里は意味ありげな笑いを浮かべた。
「あとお互いの言葉遣いやな」
「言葉遣いなんて注意すれば何とでもなるわよ。それよりあなたのだらしない格好は元に戻ったら私の恥になるんだから、気をつけてよね。それでこの部屋にヘアブラシとかないの?」
「そんなものあるわけないやろ」
「当然化粧品なんてものもないわよね?じゃあ私がコンビニでヘアブラシと口紅くらい買ってくるわね」
香緒里は早坂が持ってきた香緒里自身の財布を何の疑問も持たずに持って行った。
香緒里は通りに出て、近くのコンビニに入った。
ヘアブラシとヘアスタイルフォームと口紅を選んでレジに持って行った。
レジでは妙にジロジロ見られた。
(何よ、気持ち悪い)
香緒里は内心そう思っていたが、コンビニを出て、マンションに入るときにガラスに映った自分の姿を見て、納得がいった。
(私ったら、こんな男の姿で口紅を買ったの?恥ずかしい)

マンションに戻るとすぐに香緒里は早坂のヘアメークに取り掛かった。
ボサボサの髪にブラシを入れただけで、それなりに見えるようになった。
さらにヘアフォームをつけ、手櫛で整えていった。
髪の艶が蘇ったように綺麗になった。
「それじゃ、これつけて」
香緒里は早坂に買ってきた口紅を渡した。
「こんなんつけなあかんのか?」
「女性は外に出るときは必ずお化粧してるでしょ?今日は仕事じゃないし、近くに行くだけだから口紅だけで許してあげる」
「スッピンでもええやんか」
「だーめ。そんなことして恥ずかしいのは私なんだからね。絶対口紅はつけていってよ」 「こわぁ。おかまに怒られてるみたいで、むっちゃ恐いわ」
早坂は鏡を見ながらしぶしぶ口紅をつけた。
「なんかベトベトして変な油みたいやで」
「そんなにいっぱいつけるから。上唇と下唇でティシュを咬んでみて」
「んと。こんでええか」
「まあまあね。綺麗になったじゃない」
「それにしてもあんまり美味しいもんやないな」
「女の子はみんな綺麗になるために我慢してるんだから早坂くんも我慢なさい」
早坂は鏡に映った自分の顔を見た。
口紅ひとつつけただけで確かにずっと綺麗に見えた。

早坂と香緒里は二人で神社に行った。
そして昨日の夜のように二人でお願いを言った。
「神様、私たちをまた入れ替えて元に戻してください。お願いします」
「お願いします」
二人は小銭を賽銭箱に放り込み、柏手を打った。
入れ替わった状態のまま、それぞれの部屋に戻った。

次の日の朝は爽やかな目覚めだった。
だが、入れ替わったままだった。


3 共同生活


次の日、早坂と香緒里は再び早坂の部屋にいた。
今後の対応を話し合うためだ。
さすがに早坂は前日と違って、それなりに女性としての身嗜みに注意していた。
髪のセットもきっちりと行い、化粧も口紅だけだったが塗っていた。
服装はオフホワイトのタンクトップと膝より10センチほど上のキュロットスカートだ。
そして昨日のカーディガンを着て、すぐに早坂のマンションに行った。
香緒里もすでに起きていて、そこで、早坂と香緒里は今後のことについて話をした。
お互いのことも分からないし、早坂にとっては女性の身嗜みについても分からない。
そのため、離れたところで暮らすより、二人で同じところにいた方が良いだろうということになった。

住む場所は香緒里の部屋より早坂のマンションの方が適切だということになった。
香緒里の部屋は6畳のワンルームマンションだった。
それに比べ、早坂のマンションは2LDKだった。
早坂は16畳のLDKでほとんど生活しており、8畳の部屋を寝室に使って、残る10畳の部屋は引越してきたときのダンボールが幾つか未開封のまま置いてある部屋だった。
今、香緒里が借りている部屋はなかなか良い物件だったが、お金が勿体ないということで解約してしまおうということになった。
すぐに戻れた場合のことを考えると解約することは危険なことではあったが、二人とも何となく戻れないような気がしていた。
しかし念のため幸運にも元の身体に戻れたら、次の住み家が見つかるまでは住み続ける権利を保障するということも決めた。
お金は二人で出し合い、共通の財布で生活することにした。
幸いなことにマンションの家賃は早坂の親の口座から支払われており、日々の生活費の分だけでよかった。
家事はお互い分担することにした。
しかし、実際問題として香緒里は料理をほとんどしたことがなかったので、食事に関しては早坂が行うこととして、その他食事の後片付けや掃除は香緒里が行うこととした。
当然、早坂は"香緒里"として、香緒里は"早坂"として、振舞うことも決めた。


決めるべきことを決めると、二人ともすぐに行動を起こした。
まずお互いの実家にゴールデンウィークは帰省しないことを連絡した。
二人ともいろいろ言われたが、何とか言いくるめることができた。
それから引越し屋に電話して香緒里の引越しの段取りをした。
費用は気にせず、その日のうちにやってくれるところを選んだ。
香緒里の部屋の大家にも連絡した。
あまりに急な引越しのため、大家は文句を言ったが、半年分の家賃を追加支払いするということで、何とか納得してもらった。
それから早坂の部屋のダンボールを開梱して必要なものはあるべきところに置き、不要なものはゴミとして分けた。
ゴミになったものは寝室におき、10畳の部屋は空っぽにした。
夕方には香緒里の荷物が到着した。元々6畳のワンルームマンションにあったものだ。
10畳の部屋には余裕で置くことができた。

とりあえずこれで新しい生活基盤ができた。

香緒里の姿になった早坂は慌しい一日が終わり、元々使っていた寝室で横になっていた。
「ねえ早坂くん」
早坂の姿になった香緒里が声をかけてきた。
「そのベッドは私が使うんじゃなくって?」
「ええっ、だってこれは俺の…ということは早坂馨のベッドってことで、今はお前のベッドってことになるんか?そうか?そんでええんか?うーん…」
早坂はしばらく一人でブツブツ言っていたが、やがて納得したように
「そやな、俺は向こうのお前のベッドで寝るべきなんや」
早坂のベッドには羽毛布団であり、香緒里のベッドは綿布団だったので、早坂にとっては何となく損をしたような気がするのだが、これからもそういうことはあるだろうし、それはそれで仕方のないことのように思えた。
「そんなことはどうでもいいんだけど、新しい門出を祝して外食しない?」
「あんまり『祝して』という気分でもないけどなあ……まあ腹は減ってるし、最近碌なもん食うてへんからたまには豪勢なもんでも食いに行こか」

「じゃあ決まりね。だったら私が服を決めてあげるね」
香緒里は嬉しそうに"香緒里"の部屋に行って洋服ダンスから胸元が大きく開いた白いワンピースとストッキングを取り出した。
同じく白いブラジャーとパンティも出した。
「じゃあそれを着て」
「こんなん着んでもええやん、たかが飯食うだけやねんから」
「曲がりなりにもレディが外出するんだから、少しはお洒落してもらわないと」
「それにしても下着まで変えんでもええんちゃうか」
「今の下着だったら、服の上からでも色が分かっちゃうじゃない。同系色の下着を着けるのが常識でしょ?」
「そんなこと言っても俺、常識ないもんな」
香緒里は黙って早坂を睨んだ。
「分かった分かった、何でも言われたもん、着たるわ」
早坂は今の服を脱いだ。
下着も取ろうとしたが、香緒里の視線が気になった。
「恥ずかしいから向こう向いててくれや」
「恥ずかしいって元の自分を見て何が悪いの?」
「そやかて、何となく恥ずかしいし…」
早坂は恥らうように言った。
「変な早坂くんね。なら向こう向いててあげるから、さっさと着替えて」
早坂は急いで今着けている下着を脱いで、出された下着をつけた。そして、ストッキングを履こうとした。
「ああ、だめじゃない。そんな履き方じゃすぐに伝線するわよ。履く前にこうやって丸めてゆっくり脚を通してみて」
「邪魔臭いなあ……。ってお前見とったんかい!恥ずかしいから向こう向いててくれって頼んだやんか」
「まあ別に良いじゃない。なかなか早坂くんの着替えてる姿、艶っぽかったわよ」
早坂は文句を言いながらも、香緒里が準備した洋服を身につけた。
ストッキングを履いた足が床を滑る感じが何とも言えず心地よかった。
「じゃあそこに座って」
「今度は何すんねん?」
「"何"ってお化粧に決まってるじゃない」
「口紅くらい自分でつけるって」
「今日はきちんとベースからやってあげる。早坂くんがずっと私のままだったら自分でお化粧くらいできないといけないし、明日から私が徹底的に教えてあげるね」
「そんなんええよ」
「あなたが良くっても私が良くないの!分かった?」
「……ああ、分かった」
香緒里が早坂の顔に化粧を施した。
鏡の前で美しく変化していく自分の顔を見て早坂は胸がときめくのを感じていた。
「じゃあ私はスーツを着るから、ちょっと待っててね」
スーツに着替えるため香緒里が部屋に戻っていくのを確認してから、早坂は全身を鏡に映した。そして鏡に映る自分に見惚れていた。
(佐野ってこんなに美人やっけ?)
やがてスーツに着替えた香緒里がやってきた。
「自分に見惚れてないで、さあ行きましょう。靴はあんまりヒールが高くない方がいいわよね?これくらいでどうかしら?」
早坂は香緒里の出した5センチのヒールを履いた。
少しバランスが取りにくかったが、香緒里の腕を持つことで、何とか歩くことができた。

二人はイタリア料理の店に行った。
二人が座った席は窓ガラスの側だった。
夜になっていたため、窓ガラスに自分たちの姿が映った。
窓ガラスに映る今の自分の姿と素晴らしい店の雰囲気と美味しい料理で、早坂は雰囲気に酔っていた。
男のころにはこんな感覚になったことはなかったのだが、窓ガラスに映る今の自分の美しい姿があたかもお姫様になったような気持ちにさせた。
一通りのコース料理が終わったときに、早坂は軽い尿意を感じた。
短い女性としての経験で、早目に行かないと碌なことがないことを学習していた。
「トイレに行ってくるね」
早坂は香緒里に声をかけて、バッグを手に持ちトイレに行った。
早坂は外出での初めてのトイレということで、少しばかりドキドキしていた。
トイレに入ったときには誰もいなかったので、まずは一安心だった。
個室に入り、用を済ませた。
手を洗うべく、鏡の前に立った。
早坂は自分の顔を点検した。
少しだけだが、口紅が落ちていることが気になった。
早坂はバッグから口紅を取り出し、リップブラシを使って、口紅を塗り直した。
その最中、別の女が入ってきたが、一瞥しただけで何もなかったように個室に入っていった。
早坂は変に咎められなかったことに安心し、口紅とリップブラシをバッグにしまって席に戻った。
「へえ、ちゃんとお化粧直ししてきたんだ、感心感心」
香緒里は早坂が口紅を塗ったことにすぐに気がついた。
この辺りはさすが元女性だ。
早坂は化粧直しという行為を自分が何の違和感も抱かずにやったことに驚いていたが、自分がこんなに綺麗な女性になったんだから当然だわと女言葉で考えている自分がいることにさらに驚いていた。
早坂は少しずつ女になりつつあった。

次の日からはそれぞれの身体に馴染むように努力に励みはじめた。
早坂にとっての大きな問題は化粧だと思われた。
あまりにも多くの化粧品の種類に早坂は驚く反面、結構楽しんでいた。
自分の顔が化粧の仕方ひとつでいろんな表情を実現できることに喜びを見出していた。
化粧品メーカのWebサイトを見て、いろいろな化粧の練習に励んでいた。
化粧がこのような状態だったので、女性らしい仕草の方はそれほど問題にならなかった。過剰に女性をアピールしすぎのような感じではあるが、まあまあの線を行っていた。
とっさの時に男っぽい動作になるが、それも問題のない範囲だった。
一日一日普通に女性らしい仕草になっていった。
元々早坂にはこういう下地があったのかもしれない。

香緒里は香緒里で改造に燃えていた。
髪を濃いブラウンに染めて、若干のパーマをあてた。
肉体も改造すべく、ジムで毎日3時間以上鍛えていた。
始めた当初は筋肉痛で起き上がるのもつらい状態だったが、5日も続けると筋肉痛もなくなった。
ゴールデンウイークが終わるころにはそれなりに引き締まった肉体になった。
元々の顔が悪くないこともあり、まあまあ良い男になった。


4 職場交換


ゴールデンウィークが明け、新入社員たちは朝は一度人事部に集まった。
しばらくすると、それぞれの職場の上司が迎えに来た。
そして、それぞれの職場に分かれて行った。
早坂と香緒里は当然職場も入れ替わらずをえなかった。
すなわち早坂は"佐野香緒里"として人事(受付)へ、香緒里は"早坂馨"として研究所に行った。

早坂は小林課長によって人事部の6人のメンバーに紹介された。
「今年入社した佐野香緒里さんです。彼女には河野さんと一緒に受付業務に就いてもらいます。河野さん、しっかり指導してあげてね」
「佐野香緒里です。入社したばかりで皆さんにご迷惑をおかけすると思いますが、頑張りますので、皆さん、よろしくお願いします」
パラパラと拍手があった。
特に歓迎されているような雰囲気はなかった。
早坂と一緒に受付をする河野洋子は1年先輩だった。
150センチちょっとでちょっとポッチャリした笑顔が可愛い女性だった。
「よろしくお願いします、洋子先輩」
「先輩はやめてよ、先輩は。洋子でいいわよ」
「そんな先輩を呼び捨てになんかできません、じゃあ"洋子さん"でいいですか?」
「私は"佐野さん"でいいかな?」
「はい!よろしくお願いします♪」
「あなた、なかなか明るくて元気いいわね。受付は笑顔が大事だけど、あなたなら心配なさそうね。今日から一緒に頑張りましょうね」
早坂は第一印象は無事にクリアできたようだ。
「これが受付の制服だから着替えてきてくれる?」
女子更衣室の場所はあらかじめ香緒里に教えてもらっていた。
早坂は自分のロッカーを見つけると、受付用の制服に着替えた。
白いブラウスに、首元にやや大きめの白いリボンをつけ、膝やや上のピンクのタイトスカートで、ピンクのジャケットというものだ。
靴は必ず5センチ以上のヒールをはかなければならず、色も白っぽいものというふうに定められている。
制服に着替えた"香緒里"は全身が映る鏡でおかしなところがないかチェックした。
ここ数日の特訓で女らしい仕草も身についていた。
ハイヒールにも慣れた。
早坂は鏡の前で一回転してみた。
鏡に映る姿は自分で見ても美しいと思った。


山本所長は50人ほどのメンバーに向かって叫んだ。
「おーい、みんな、ちょっと集まってくれ。新人を紹介する」
メンバーはぞろぞろと集まってきた。
「今年は2人の新人が来てくれた。田代賢治くんと早坂馨くんだ。それぞれ簡単に自己紹介してくれ」
「おはようございます、田代賢治です。大学はW大学の電子工学科を卒業しました。慣れないことが多く、いろいろと質問すると思いますが、よろしくお願いします」
「早坂馨です。よろしくお願いします」
香緒里の挨拶はシンプルだった。
「それじゃみんなよろしく頼むな」

香緒里は教えられた席に座った。
PCの前にはメールアドレスなどネットワーク環境が書かれた紙が置いてあった。
目の前のPCを立ち上げ、ブラウザにプロキシを、メールソフトに自分のアカウントを設定した。
これでメールが使えるようになった。
しばらくすると、田代からメールが来た。
文面を見て、思わずニヤッと笑った。

 早坂
 ゴールデンウィークはどうだった?
 4月28日の飲み会の後、お前、佐野を送って帰っただろう?
 どうだった?ちゃんと送り狼したか?
 彼女、ちょっと冷たいけど美人だもんな。
 成功(性交?)を祈る!
 田代


(男ってこんなことばっかり考えてるの?やっぱり馬鹿ね)
香緒里は返事を返した。

 田代へ
 佐野は綺麗な女性だけど、そんな軽い女じゃないぞ。


すぐに返事が返ってきた。

なんだ、ふられたのか。残念だったな。

香緒里はふと思った。
(こんなふうに言われるってことは早坂くん、私のこと好きだったの?)
男にとっては何の意図もない他愛もないやりとりにしかすぎないのだが、"早坂"になっても相変わらず自意識過剰な香緒里だった。

早坂は受付で河野と一緒に座っていた。
目の前のPCに映っているソフトの使い方を河野から説明を受けていた。
会議室の予約や全社員のスケジュールを見ることができた。
だが説明を受けなくても早坂には大体分かりそうだった。
「……ということ。大体分かった?」
「はい、何とか大丈夫だと思います。分かんなかったら、教えてくださいね。ところでメールとかは使わないんですか?」
「社内の連絡なんかはほとんどメールよ。そっか、まだ佐野さんのアドレスを教えてなかったね」
河野は社員の名簿を調べてくれた。
「あなたのアドレスはk_sanoよ」
「メールサーバーとかはどう設定するんですか?」
「そういうのって私あんまり強くないんだ。私のメールソフトを立ち上げるからそれで調べてくれる?」
「分かりました」
早坂はメールの設定も完了した。
人事メンバーに宛てたメールが10個ほど送られてきた。
「佐野さんってPCに強そうね。女の子なのにすっごぉーい」
「メールとネットサーフィン専門ですけど」
早坂は香緒里のアドレスを調べてメールしてみた。

 こっちは何とか馴染んでるけど、そっちはどう?

すぐに返事が返ってきた。

 ちゃんとやってるよ。今は材料の受入検査の機械の操作マニュアルを読まされてる

早坂はメールでチャットをしているような気分になっていた。
すかさずこう返した。

 分かる?

やはりすぐに返事が返ってきた。

 何とかね。一応理系ですから

さらに返事をしようとしたときに、河野からチェックが入った。
「佐野さん、あんまり私用メールはしない方がいいわよ」
早坂は慌ててキーボードから手を離した。
「ちょっとくらいならいいけど、受付はいつお客様が来られても応対できるように心の準備が必要なの。 私用メールしてたりすると、どうしても注意力がそっちにいっちゃうでしょ?だからなの。いい?」
「はい、分かりました。これから気をつけます」
早坂はメールソフトを閉じた。
「それからおトイレとかで席を外すときは、一声かけてね」
「そんなときの隠語はないんですか?」
「どうせ二人だけじゃない。分かればいいわよ。あとお昼も交代で取らないといけないから。佐野さんは今日11時半から45分間ね。休憩の終わる5分前にはここに戻ってきて。私と交代するときに引き継がなきゃいけないことがあるかもしれないから」
「分かりました」


早坂は近くのマクドナルドで昼食を取っていた。
そこに香緒里と田代がやってきた。
「おっ、早坂、佐野がいるぜ。同席させてもらおうか」
「一人でゆっくりしたいんじゃないか」
「いいからいいから」
田代は香緒里の言葉を無視して、早坂に近づいて行った。
「佐野さん、一緒に座っていいですか?」
「あっ、田代…くん。早坂くんも。いいわよ、どうぞ」
「佐野さん、受付ってどうですか?」
「うーん、今のところ、まだお客様の応対をしてないから、よく分かんないかな?田代くんはどうなの?研究所ってすっごい頭使いそうだけど」
「まだ機械のマニュアルを読まされてるだけで、眠気と格闘してるだけですよ。なっ、早坂」
「そうだな」
「へぇ、そうなんだ」
田代と早坂と香緒里は昼休みのほとんどを3人で喋っていた。
早坂と別れ、田代と香緒里の二人になったとき田代が言った。
「佐野ってさ、あんなに可愛かったっけ?もっと冷たいやつだと思ってたけどな。俺、好きになるかも」

早坂が受付に戻ると河野が聞いてきた。
「ねっ、今一緒だった男の子って同期の子?」
「はい、そうですけど」
「ちょっと髪の毛を染めた子、ちょっと可愛いよね?何て言うの?」
「早坂くんのことですか?へへへ、そうですか?」
早坂は少し照れて言った。
「何あなたが照れてんのよ?あなた彼と付き合ってるの?」
「いえいえ、そんなことないです」
早坂は思い切り首を横に振った。
「彼って今まで付き合った女の子いないそうですよ」
「へぇ、そうなんだ、ぅふっ」
河野は早坂の姿をした香緒里に興味を持ったようだった。

その日の夜、この日は早坂が夕食を準備していた。
するとそこへ香緒里が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り。ちょっと待ってな、今、食事の支度できそうやから」
「うん、ありがとう。それじゃ私は着替えてくるね」
香緒里はビジネススーツを脱ぎ、カジュアルシャツに着替えてきた。
ちょうどテーブルに夕食を並べ終わったタイミングだった。
二人は揃って手を合わせて
「いただきます」
と言って食事を始めた。
「味、どう?」
「うん、美味しい」
というやりとりは新婚のようだった。
食事が終わり、二人でコーヒーを飲んでいた。
「仕事どうやった?」
「うーん、まだ分かんないかな?田代くんが言った通り、マニュアルを読んでるだけだから。あなたはどうなの?結構うまく女の子してたみたいだけど」
「結構うまいこといけてると思うで」
「でしょうね。田代くん、あなたのこと、可愛いって言ってたもの。私のときより可愛いんだって」
「そうなんか。そらしゃあないわな、こんだけ魅力的な美人やもんな」
「それって自画自賛?」
「でも今の俺ってお前やん。だからお前のこと褒めてることなるやん」
「でも私のころは冷たいって言ってたわよ」
「なるほど、ね。でもお前のこと、一緒に受付してる河野さんが可愛いって言ってたで」
「男が可愛いって言われても、あんまり褒められてるわけじゃないんじゃない?」
「お前も女やってんから分かるやろ?女が可愛いって言うのは褒め言葉やん」
「でも私、その河野さんってどんな人か覚えてないな」
そんな大したことのないその日の出来事を喋っていた。
12時前にはそれぞれの部屋に入った。


5 交際


次の日、香緒里が会社から出ようとすると呼び止められた。
「早坂くん、よね?」
「はい、そうですが…」
「私、河野って言うの。佐野さんと一緒に受付やってるんだけど、佐野さんから聞いてるかな?」
「はい、お名前だけは」
「それじゃ話は早いわね。単刀直入に聞くけど、今日は何か予定ある?」
「いえ、別に。もう帰るだけですけど」
「なら私と食事に付き合ってもらえないかな、ダメ?」
香緒里は畳み掛けるような河野の勢いに負けて、一緒に食事に行くことになってしまった。
河野に連れていかれたのは落ち着いた雰囲気の洋食屋だった。
ここだとそれほど財布を気にしなくて済むなと"早坂"は考えていた。
二人は安いワインと定食を食べた。
1時間ほどで店を出ると、河野は香緒里と腕を組んできた。
(うざいなあ)
と思いながらも、香緒里は一緒に歩いていた。
そして言われるままにバーに行った。
お酒を飲んでる間に変な雰囲気になった。
そのまま二人でホテルに行った。
「河野さん、やめませんか?」
「何言ってるの、ここまで来たんなら覚悟決めなさいよ。『据え膳食わぬは男の恥』って言うでしょ?」
河野は香緒里のズボンの上からペニスを撫でてきた。
香緒里のペニスはすぐに硬度を増した。
「ほら、早坂くんのここも元気になってきたじゃない」
河野は膝をついて、香緒里のズボンのファスナーを開け、ペニスを取り出した。
河野は上目遣いに香緒里の顔を見ながら、ペニスを銜えた。
香緒里はあまりの気持ち良さに、すぐに河野の口の中に放出した。
河野は一滴残らず飲み込んだ。
「早坂くんのこれってあんまり使ってないみたいね。すっごく濃かったわよ。じゃあ今度は私を気持ち良くして」
香緒里は河野に全裸にされた。
河野は自分で自分の服を脱いだ。
「早坂くん、もしかして初めて?」
「はい」
「なら私が教えてあげるわね」
河野が香緒里をベッドに導いた。
「キスして」
香緒里は河野に言われるまま、唇を重ねた。
自分の精液の微妙な臭いがした。
「乳房を揉んで」
"早坂"は唇を放し、河野の首筋を舐めながら、右手で河野の左の乳房を優しく揉んだ。時々乳首に軽く触れるようにしながら、乳房に触れるかどうかのところで愛撫した。
「早坂くん、うまいじゃない。すごく気持ちいいわ」
河野は香緒里の下で喘ぎ声をあげていた。
香緒里にとっては女性の身体が感じるところは分かっている。
優しく丁寧に感じるところを愛撫した。
河野は次第に余裕をなくしてきた。
「あん……早坂くん……すごい…感じる……」
香緒里は右手で乳房を愛撫しながら、舌を這わせ、徐々に下腹部に近づいた。
河野の股間に達し、丁寧になめ続けた。
河野は大きな声で喘いでいる。
やがて仰け反るようにして大きな声をあげた。
「はあはあ……すごい…よかったわ。舌だけで行っちゃったのって初めて…」
河野は香緒里のペニスを握った。
「もう準備できてるから、来て」
河野は香緒里のペニスを自分の秘部に当てた。
香緒里はペニスを河野の秘部に押し込んだ。
「ああ……河野くん、すごい…」
「河野さんのあそこってすごく気持ちいいです」
「"河野さん"なんてやめて。"洋子"って呼んで」
「洋子さん、動いていいですか?」
「"洋子さん"はイヤ。洋子って呼んで」
香緒里は河野の言葉に答えず、ゆっくりと動き出した。
香緒里は河野が時々強く締め付けるのが感じていた。
香緒里はゆっくりしたり強めにしたりを繰り返した。
「い…いい……も…もう来て…」
河野の身体がガクガクと痙攀した。
香緒里も次の瞬間達した。
河野の膣の中に大量の精子をぶちまけた。
(男のセックスもいいわね)


それから香緒里は河野を中心に何人かの女性と寝た。
高校生のように頭はセックスでいっぱいだった。
河野のように何度も寝た女性もいるが、1、2度だけで終わる女性が大半だった。
帰りも遅くなりがちだったが、早坂には特に怪しまれている様子はなかった。


一方の早坂は受付の仕事を無難にこなしていた。
基本的には受付の一日を日報にまとめてしまうと特に業務があるわけではないので、ほとんど毎日6時過ぎには会社を出ることができた。
入れ替わる前に香緒里が言っていた「女の子はニコニコ笑って座っときゃあいいんだみたいな感じでホント嫌になっちゃう」という言葉の意味が早坂には最近分かってきたような気がした。
何の成長もすることができず、結婚したら寿退職していくようなつまらない人生は送りたくない。
あのときの香緒里の気持ちが今になってみると分かるような気がする。
早坂は香緒里が羨ましかった。
最近帰りが遅いのも、やりがいのある業務を与えられていて、仕事が楽しくって遅くなるんだろうと思っていた。
一人の夕食にも慣れてきていた。

そんなある日、早坂はいつものように一人ぼっちの夕食を食べていると、下腹部に妙な違和感を覚えた。
(あれっ、何か腐ったモンでも入れたっけ?)
早坂はトイレに入った。
その時、自分の太腿を一筋の血が流れていることに気がついた。
(生理だ!)
早坂は少し前からこの日が来ることを覚悟していた。
しかし、やはり本当にこの日を迎えてしまうと、そのショックは大きかった。
今までは心のどこかに仮装パーティをしていたような気持ちがあった。
実際生理を迎えてしまうと、女装でも何でもなく、女性になった現実を重く突きつけられたような気がした。
そんな心の動揺を抑え、早坂は準備していた整理用ショーツとナプキンでとりあえずの対応をした。
香緒里が帰ってきたのは12時前だった。
「お帰り。今日も遅かったんやな」
「早坂くんだったら簡単なのかもしれないけど、私にはなかなか仕事が難しくって」
「まあそんなことはどうでもええねんけど……」
「どうしたの?何かあったの?」
「………生理になってもうた」
「あっ、そうか。そう言えばそろそろだったわね」
「生理って大変やねんな」
「私のは軽い方みたいだけど、早坂くんにとっては初めての生理だからちょっと大変かもね」
「なんか腰は重いし、気分ももうひとつはっきりしないし、女性は毎月こんなもの、よく辛抱できるな」
「だってしょうがないじゃない。生理がなくちゃ赤ちゃんを産めないのよ」
「赤ちゃんか。俺もいつか産むのかな?」
「そんなこと分かんないわよ。女でも一生結婚しない人もいれば一生子供に恵まれない人もいるのよ。早川くんがずっと私の姿のままだとしても結婚するのか母親になるのかは分かんないでしょ?」
「そんなことは分かってるけど、そんなことを言ってほしいわけやないんや」
「うん、ごめんね。分かってる。この身体になってからどうしても理屈っぽくなっちゃって。答えが欲しいんじゃないよね?こうして欲しいんでしょ?」
香緒里は黙って早坂を抱きしめた。
早坂は心が落ち着いてくるように感じた。
女が質問形式で話しても、それは答えが欲しくて言っているわけではない。
ただ自分の考えを聞いて欲しいだけだ。
早坂は男に戻ったとしてもこれだけは忘れないでいようと考えていた。


6 異動


ある日、早坂は何気なく自社のWebサイトを見ていた。
ちょっと悪戯心を起こして、適当な入力フォームにUNIXのコマンドを入力した。
入力したコマンドは簡単に効いた。
/etc/passwdファイルの中身が全て表示されたのだ。
早坂はそのことを河野に話した。
「よく分かんないんだけど、それって大変なことなの?」
「企業ブランドとか企業イメージという意味ではすごい問題だと思います」
「でもうちってちゃんとした情報部門があるわけでもなく、有志で作ってるホームページなんで誰に連絡すべきか分かんないし、とりあえず社長にでもメールで書いてみる?」
「私たちが社長に直接メールしちゃっていいんですか?」
「いいのいいの、うちってそういうとこオープンだから」
早坂は残業時間に自社のWebサイトの脆弱性についてまとめ、社長にメールした。

次の日、出社した早坂に小林課長が近づいてきた。
「佐野さん、すぐに社長室に行ってくれない?社長が呼んでらっしゃるの」
早坂は急いで社長室に行った。
「早速だが、昨日もらったメールの意味がよく分からないのだが、説明してもらえるかな」
早坂は社長のPCを使って説明した。
「ここにお客様からのお問い合わせをいただくページがあります。ここにこのようなコマンドを打つと passwd ファイルというサーバーに入れるアカウントの一覧を見ることができます」
「それは危険なことなのか?」
「例えば、別のページにお客様のメールアドレスを登録してもらうページがあります。これはあるファイルに貯まっているようなんですけど、この脆弱性を利用して、このように入力すると…お客様の名前とメールアドレスがブラウザに表示されます。これは社内からやっているから見えるわけではなく、インターネットのどこからでも実行することが可能です」
「個人情報保護法が施行されている現在、このままじゃ我が社が問題を起こすのは時間の問題じゃないか。で、どうすればいい?」
「とりあえず見つけた脆弱性については、プログラムを修正することで対応できます。しかし、このレベルの対応もされていないということはもっと根深い問題が内在されていると考えるべきです」
「君はこういうことに詳しそうだな。早速だが、取りかかってもらえないか」
「しかし私には受付の業務がありますし」
「君はまだ入ったばかりで分かってないかもしれんが、うちには情報部門がない。研究所のちょっとPCに詳しい社員がPCやネットワークを見てくれているだけだ。ホームページもないと他社との競争すらできないと考え、その社員を中心にホームページを作ったんだ。彼らも本来の業務があるし、彼らにはこのような問題にどう対応すればいいのか分かってないと思う。だからぜひこの問題に詳しそうな君がやってくれ。いっそのこと、社長付けのセキュリティ対策室を作って、そこの社員として、君の知識を活かしてもらった方がいいかもしれんな。……よし、そうしよう。小林くんには私から話しておく。早速かかってほしい」
社長は人事の小林課長に電話し、今の話を伝えた。
さらに、情報セキュリティ対策室を新設し、室長は社長が兼務し、メンバーとして"佐野香緒里"が着任したことを全社員にメール連絡した。
"佐野香緒里"の指示は最優先で対応するようにとも書かれていた。

早坂はその日のうちに見つけたプログラムの脆弱性を修正した。
全てのWebアプリケーションは、脆弱性など全く気にしていない作り方だったので、入力される文字についても確実にチェックするようにした。
これに2週間ほどを要したが、全てのWebアプリケーションについて、何とか脆弱性が見られないレベルまで修正できた。
次は外部に発信しているWebサーバーについてチェックした。
Webサーバーは無料サーバーを利用して作っており、いつダウンするか分からないものだった。
そもそもダウンした場合の損害などの契約すらない。
企業サイトを無料サーバーで実現しているのはいくら小さな企業とは言え、リスクが大きい。
万が一のときは企業イメージにも影響しそうだ。
早坂は社長の許しを得て、ある程度のサービスレベルを維持できる有料のホスティングサービスを利用することにした。
しかも、OSやミドルウエアには確実にパッチを当ててもらえるところを選んだ。

早坂は自分の仕事で遅くなることが多くなると、香緒里が仕事で遅くなっていたわけではないことを知った。
ほとんど毎日のように定時で帰っていくらしい。
それでいろんな女性と会っているらしいことを田代から聞いた。
(俺のときは全然モテたこともないのに、あいつ、やるな)
早坂は自分がモテてるようで嬉しかった。


7 初体験


ある日、早坂は社長直々に夕食に招待された。
脆弱性対策の頑張りのご褒美だそうだ。
早坂は高そうなフランス料理に連れていかれた。
「こんな高級なレストラン、大丈夫ですか?」
「どうせ会社の交際費で落とすから、佐野くんは心配しないでいい」
「でもこんな上品なところじゃ、食べた気がしませんから」
「じゃあ、佐野くんは何がいいんだ?」
「居酒屋で十分です」
「ははは、私もそっちの方がいいんだが、若くて美しいレディとのデートなんだから、これくらいの店にさせてくれよ」
食べた気がしないと言ったのだが、実際の料理はすごくおいしかった。
その上、ワインがこれまで飲んだことのない美味しいワインで、早坂はいつもより飲むペースが速くなった。
早坂の今の身体にはアルコールが多すぎたようで、レストランから出て迎えの車に乗り込むとすぐに眠ってしまった。

気がつくと知らない部屋のベッドに寝かされていた。
少し離れたソファでは社長がスーツを脱ぎ、ネクタイを外した状態で、ブランデーを飲みながら、クラシックを聴いていた。
「佐野くん、気がついたか。帰りの車であまりにも気持ち良さそうに寝てたし、君の家も知らないから、私のマンションに運んでもらったんだ」
「すみません、あんまりワインが美味しかったので、飲みすぎたようです」
「無理しなくていい。気分がよくなるまで、そこで横になってていいよ」
社長はゆっくり早坂の寝ているベッドに近寄ってきた。
「君さえ異存がなければ、私は君を抱きたいと思っているがどうだ?」
「えっ?」
「男と食事に行って、酒を飲みすぎるってことは、その男に心を許してるってことだろ?」
「当然です。社長は紳士だと信じてますから」
「紳士と言われるとつらいが、紳士も男だからな」
「もし社長が私を抱いたら、私は明日会社を辞めます」
「うーん、君に辞められるのは痛いなあ。でも君ほどの美人とこういう状態になって、何もしないというのもなあ」
「……」
「それじゃ、キスだけでもしようか」
「社長!」
「はははは、冗談だ。君ほどの人材を、自分の欲望で手放すほど私は馬鹿じゃない。もう少しゆっくりして元気になったら君の家まで送ってやろう。私の運転だが、ドライブには付き合ってくれるだろうね」
「はい、ありがとうございます」
これが"香緒里"になって初めて迎えた貞操の危機だったが、何とか無事に乗り越えた。
早坂は自分が襲われる立場だというのを改めて認識した。
これからお酒を飲むのはセーブしようと固く心に誓った。

社内での活躍を通じ"佐野香緒里"はかなり注目を浴びた存在になっていた。
美人で、優秀で、それを決して鼻にかけることのない性格はいろんな人から愛された。
早坂にしてみれば男同士のような意識がどこかにあるので、男に誘われても気楽に男と食事に行ったり、お酒に誘われれば飲みに行ったりしていた。
もちろん飲む量はちゃんとセーブしながら。

ある程度、脆弱性の問題が目処をつけると、『セキュリティ対策室』はセキュリティに限らず、情報システム全般を見る『情報システム部』になった。
ただ部長は社長の兼任で、メンバーは相変わらず"佐野香緒里"一人だった。
しかもそれに加えて、社長秘書のような役割も兼ねるようになった。
元々いた社長秘書がちょうど寿退社をしたためだった。
社長が早坂のことを気に入っていたことも大きな理由だった。
給料は初任給の倍近くまで上がっていた。

入社して半年ほど経つと、新入社員の優劣がはっきりしてきた。
トップクラスは"佐野香緒里"で、落ちこぼれは"早坂馨"だった。
夏を過ぎると、香緒里と遊んでくれる女性もいなくなった。
仕事に集中しようにも、職場の仲間とはしっくり行かない。
香緒里は少しイライラしていた。

その日の夜は珍しく二人が揃って、自宅でテーブルを挟んで向かい合っていた。
「早坂くんってすごいよね」
早坂は黙って香緒里の話を聞いた。
「早坂くんって私になっても、自分の努力で会社での存在感をどんどん高めていったもんね。それに比べて私は男になれたことに胡坐をかいて何の努力もしなかったし、その上、遊びまくっていたもん。聞いてるでしょ?私の女性関係。そのせいで私は自分の居場所をなくして職場でもつらい立場になってるし」
早坂はなおも黙っていた。
「ホント早坂くんはすごい。そんなすごい人が私として存在してるなんて何か不思議だし、嬉しくもあるの。ねえ早坂くん。だいぶ前に田代くんがあなたのことを可愛いって言ってたけど、その意味が今は分かる。私と違って、周りを明るくするところがあるのよ、早坂くんには。そんな早坂くんになれた私はもっともっと頑張らなくちゃいけないはずなのに全然できていない。これってすっごい早坂くんに対して失礼だと思う。ずっと考えてたんだけど、やっと決心できたと思う。これから私は佐野香緒里であったことを忘れて、必死で頑張ろうと思ってる。だから最後にお願い。私の裸を見せて」
早坂は香緒里の勢いに押されて、何となく裸にならないといけないような気がしたのだ。
そうしないと香緒里のせっかくの決心を無にするような気がした。
早坂は着ている物を脱いだ。
香緒里も全裸になった。
二人は裸のまま見つめあった。
香緒里のペニスは雄々しくそそり立っていた。
香緒里は早坂を抱きしめた。
早坂は抵抗もせずにおとなしく抱きしめられていた。
お腹のあたりに固くなったペニスがあたった。
荒い鼻息、お腹にあたったペニスで早坂の気持ちが怪しくなってきた。
香緒里は手で髪を撫でていた。
二人の視線があったとき、どちらからともなく、唇を近づけあった。
そして、二人の唇が合わさった。
少しの間キスをした後、「いいの?」と香緒里が聞いてきた。
香緒里の言葉に早坂はコクンと頷き、「初めてだから優しくしてね」と返事した。
早坂のこの言葉を合図に、二人は"早坂"のベッドに移動した。
香緒里は元の自分の身体の感じやすいところを念入りに攻めた。
耳、うなじ、首筋を執拗に何度も何度も舌を這わせた。
早坂は声をあげるのが躊躇われるのか耐えるようにシーツを握り締めて、声を押し殺していた。
香緒里はもう一度唇を合わせ、早坂の口の中に舌を挿入させた。
右手では乳房を優しく揉みながら。
乳頭に触れたときに唇を離した。
「あん…」
その途端、早坂の口から声がこぼれた。
一度声が出ると抑えが効かなくなった。
香緒里に乳房や乳頭を愛撫されて早坂は言葉でも答えていた。
「あ…あ……気持ち…いい……」
「乳首が固くなってきてるわ、感じているのね」
香緒里は乳頭を口に含んで、舌の上で転がすようにした。
「あ…あ……すご…い……おかしくなりそう……」
香緒里は指を股間に移動させた。
早坂は『処女の本能』から股間に力を入れて、しっかり閉じた。
「そんなに力を入れないで。力を抜いて」
香緒里は早坂の内股を優しく撫でながら、早坂の警戒心が和らぐのを待った。
少し力が抜けたときにやや強引に股間の溝に滑り込ませ、クリトリスに触れた。
早坂は身体に電気が走ったように感じた。
「あ…あぁぁぁ…」
早坂は快感に身をくねらせていた。
香緒里は指を膣に入れた。
すでにしっかりと湿り気を帯びていたため、何の抵抗もなくすんなり入った。
早坂はそのときには脚を大きく広げて、迎え入れる体勢になっていた。
「早坂くん、それじゃ入れるわよ」
香緒里はペニスを早坂の秘部にあて、ゆっくり挿入した。
早坂は痛みに顔をゆがめていた。
「早坂くん、痛い?」
「うん、ちょっと」
「動いていい?」
「ゆっくりとな」
香緒里はゆっくりと動き出した。
早坂は大きな喘ぎ声を出した。
「ん…んん………」
早坂は痛みしか感じていなかった。
しかし心の中は言い知れぬ充足感に満たされていた。
やがて香緒里のペニスから精子が早坂の膣内に放出された。
香緒里はゆっくりペニスを抜いた。
香緒里のペニスには早坂の破瓜の血がついていた。
香緒里は早坂にティシュボックスを渡した。
早坂は自分の股間をティシュで拭いた。
白濁した液体とともに赤いものが混じっていた。

「早坂くん、女の子としての初体験はどうだった?」
「この身体って本当に初めてやってんな、すごく痛かった」
「そりゃそうよ、こう見えても私は身持ちが固いんですからね」
「男になってから軽くなったけどな」
「んもう、それは言わないでよ」
「それより言葉遣いもそれなりにちゃんとせえへんか?おかまに抱かれたようで気持ち悪いし」
「じゃあ、これから二人だけのときも私が"早坂馨"で、あなたが"佐野香緒里"ということにする?」
「ちょっと照れくさいけど、皆の前でやってんねんから大丈夫やろ?」
「それじゃ言葉遣いも100%入れ替わって、もう一度やろうか」
香緒里は早坂をひき寄せて、抱きしめた。
早坂は黙って目を閉じた。
前戯はさっきよりも念入りだった。
早坂は今度は我慢することなく喘ぎ声をあげていた。
もう香緒里になりきろうと心に決めたせいかしっかり女になっていた。
「あん…あん…、早坂くん…、すご…い……」
再度二人は結合し、二度目の行為を終えた。

「"香緒里"、こうなってホントによかった?」
「…うん、なんだかんだ言っても、やっぱ元自分のことが一番気になっていたから。気になっていたってことは好きってことでしょ?」
「うーん、何か違うような気がするんだけど………」
「いいの。じゃあ、"早坂"くんはどうなの?」
「私…じゃなくて、僕は"香緒里"のことをすごく尊敬してるし、すごく愛してる」
「……ホントに?」
「もちろん」
「嬉しい♪」
早坂は心の底から幸せだと感じていた。


8 結婚


入れ替わったときの行動が早かった二人である。
お互いの気持ちを確かめると、その週末にはお互いの実家に挨拶をした。
双方とも大喜びだった。
週明けには入籍し、その後に会社に報告した。
社長からは「道理で私の誘いを断ったはずだな」と軽く嫌味を言われた。
さらに結婚後も長く会社に勤めることを念押しされた。

双方の両親の希望もあり、形ばかりの式をあげた。
早坂はウェディングドレスを着て幸せそうだった。
「それは僕が着るはずだったんだぞ」
香緒里は周りに聞こえないように小声で話した。
あまりにも幸せそうな顔をしている早坂に嫉妬していたのだ。
「じゃあもし元に戻ったらもう一度結婚式をあげましょうよ」
ウェディングドレスを着た新婦の早坂は幸せそうな顔で笑った。


《完》

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