呪われた肉体



工藤紗也香は今、内山寛太の姿になっている。
こうなった原因は紗也香自身にもなぜだか分からない。

紗也香が所属する営業部の飲み会があったのが昨夜。
その翌日、朝起きると見知らぬ部屋にいた。
散らかった男臭い部屋。
最初自分の身に何が起こったのか理解できなかった。
身体を起こそうとしたが、やたらと身体が重い。
これまでのように身軽に起こすことができないのだ。
それは昨日までと違って、すごく太っていたせいだった。
最初自分が一晩で異常に太ったのかと思った。
よくよく自分の姿を見ると、白いシャツに青っぽいトランクスを着ていた。
(何で男の下着なんか履いてんだろ?)
そう思ってトランクスの前を触るとグニュッとした感触があった。
(えっ?)
慌ててトランクスの中を見るとペニスがあった。
紗也香は処女ではなかったし、セックスに関しては人並み以上の経験があった。
だからと言って、いつもは自分が性の対象としている物が自分の股間に存在する事実はすぐには信じられなかった。
だからと言って、時間が経てば信じられることでもなかった。
紗也香は自分の姿を確かめるべく、洗面所にある鏡の前に立った。
そこの鏡に映った顔は内山だった。
(どうして…?)
紗也香は目の前の鏡を見つめていた。

内山と紗也香は同じ部署だった。
内山という男は、性格が暗く、存在感のないやつだった。
いてもいなくても誰も気にしないほどだ。
その内山が何を思ったか、3週間前紗也香に告白してきた。
紗也香は内山に「コーチのバッグを買ってくれたらデートしてあげる」と言った。
そんな高価なバッグを買うわけがないと思ったからだ。
しかし、内山は紗也香の希望するバッグを本当に買ってきた。
まさか買うとは思わなかった紗也香は驚いた。
紗也香はバッグを受け取った。
しかしもちろんデートなんか約束するわけはなかった。
「不細工なくせして鞄くらいでデートしてもらえるなんて甘いわよ。プレゼントを受け取ってもらえるだけでもありがたいと思ってよね」
こんな言葉を吐いて内山を振ったのだ。
デートしてもらえると期待していた内山はものすごい形相で睨んできた。
そんな内山を紗也香は無視して、その場を去った。

紗也香はそんなことを思い出していた。
(その恨みでこんなことをしたのかしら?まさかね)
そんなことが頭をよぎった。
紗也香は自分の携帯に電話してみた。
『……電源が入っていないか電波の届かないところに…』
というアナウンスが聞こえるばかりで、全くつながらなかった。
自分のマンションにも行ってみたが、内山の姿になった今の自分には入ることができなかった。
それは女性専用のマンションでオートロックになっているためだ。
住人の後について入ろうとしたのだが、内山の姿でウロウロしているだけでも目立ってしまうのだ。
実際この日も通報されそうになってしまったため、急いでその場を立ち去ったのだ。

紗也香は自分が内山の姿になっているのかの理由はもちろん、自分の元の身体がどうなっているのかを確かめることもできなかった。
何も手がかりのないまま、紗也香は土日を内山のアパートで過ごすしかなかった。

紗也香は週明けに仕方なく内山として出社した。
"工藤紗也香"は休みだった。
聞くと故郷の母親が病気のため2週間くらい休むとのことだ。
紗也香はすぐに実家に電話を入れた。
『もしもし』
電話に出たのは病気のはずの母親だった。
「もしもし、私、工藤さんの同僚の内山と申しますが、紗也香さんはおられますか?」
『紗也香はここのところ全くこちらには帰ってませんが』
(えっ、やっぱり嘘?)
「そ、そうですか。ご自宅に電話しても捕まりませんので、ご実家かなと思い、連絡を入れさせていただきました。別のところに当たってみます」
『あの娘、もしかしたら無断で会社を休んでるんですか?』
「いいえ、休むという連絡は受けているのですが、仕事上、紗也香さんしか分からない点をうかがおうと電話した次第でして」
『そうですか。あの娘は昔から黙って友達の家に泊まったりしてましたから、きっと友達のところにいるんだと思いますよ』
「そうですね、それではそちらに当たってみます。どうもお邪魔いたしました。失礼します」
"工藤紗也香"の行方は全く掴むことができなかった。
紗也香は何もできずに時間だけが過ぎていった。

紗也香が内山になってちょうど2週間経った。
元々紗也香の仕事は社員のサポート的なものだった。
つまりお茶汲みやコピーなどの雑務や営業部員から言われた資料作成などが業務だったのだ。
それに対し、内山は外回りの営業だった。
最初のうち紗也香は慣れない営業回りで苦しんでいた。
しかし、生来の社交的な性格が営業に向いていたようだった。
徐々に顧客の方から声をかけてもらえるようになっていった。
内山の内向的な性格で手を焼いていた内山の上司は内山のこの変化を喜んでいた。
そしてついに、初めて自分の力で営業に成功し、新規顧客を獲得できた。
配属され10ヶ月近く全く一人では何もできなかった内山の成長に周りは驚いた。
課長にいたっては泣き出さんばかりに喜んでくれた。
課長からは金一封をプレゼントされた。
内山の姿になったことは嫌だったが、責任のある仕事ができ、その成果をあげたことは素直に嬉しかった。

紗也香は課長からもらった金一封で、会社帰りに気持ちよく一人で飲んでいた。
そこにひとりの女が近づいてきた。
「内山くん、お久しぶり」
それは"工藤紗也香"の姿をした女だった。
「お隣、座ってもいいかしら?」
「あ、あなた、私の身体、返しなさいよ」
「そんな大きな声出すから、みんながこっち見てわよ。少し落ち着いてよ」
「これが落ち着いていられるもんですか」
「あなた、今日、新規契約取ったんですって。すごいじゃない、あなたの方が内山寛太に合ってるんじゃないの?」
「何を勝手なこと言ってるの!」
「もう本当に大きな声ね。ここじゃゆっくり話できそうもないから、あなたの部屋に行きましょうよ」
女に言われるまま、女と一緒に自分のアパートに戻った。
紗也香が部屋に入るとすぐに、ついてきた女に何かのスプレーを浴びせられた。
紗也香はすぐに意識を失った。

気がつくと、身体の自由が奪われていた。
全裸にされ、布団の上に横にされて両手両足をロープで大の字に固定されていた。
「気がついたか、本物の紗也香さんよ」
そばには紗也香の姿をした女が立っていた。
「あなたは誰なの?どうしてこんなことをするのよ」
「俺が誰かって?どうせ分かってんだろ?俺はあんたの甘い言葉に騙されて全財産で鞄を買わされた内山寛太だよ」
「ど…どうして…こんなことをするの…?どうしたら……入れ替わることができるの?」
「お前に高い鞄をプレゼントして、そのまま振られた日があったろ?これまで女と付き合ったことがなかった俺が、鞄を買ってやれば生まれて初めて付き合えってもらえるって、本当に期待してたんだ。その期待していた分、振られたことがショックでよ、あちこちで飲み歩いてたんだ。そしたらあるバーでバーテンが『どうしたんですか』って聞いてきやがってよ。俺はお前にされたことをそのバーテンに話したんだ。そうしたら『ひどい女がいるもんですね。そんな女は懲らしめてやらないといけませんね』って言って、俺に変な薬みたいなもんをくれたんだ。何の薬かと聞いたら、相手が寝てるか気を失っているときに、これを飲みながら相手と入れ替われと念じて相手の身体に触れると相手と入れ替われるって言いやがるんだ。俺は信じなかったね。けど、騙されたと思って持って行けって言うんで、もらって帰ったんだ。それで…」
「部の宴会の後、私で試したのね?」
「そうだ。俺が良からぬことを企んでいるとも知らず、あんたはすごいピッチで飲んでたよな。俺は意識朦朧のあんたを、俺のアパートに連れ込んで、試してみたってわけだ。本当に入れ替わったときは驚いたね。でもあんたの身体のアルコールが強すぎて、こっちの意識がやばかったんで、そのときはすぐに戻ったんだ。あんたが酔って気持ち良さそうに寝ている横で俺はあんたの身体からアルコールが抜けるのを一晩待ったんだぜ。どっちかっつうと興奮して眠れなかったってのが正しいんだけどな、ははは…。そのまま犯してもよかったんだけどな。せっかくだし、この薬を使って面白いことをしようと、俺は入れ替わって機会をうかがってたんだ」
そこまで話すと内山は一息ついた。
「見ろよ、あそこ」
紗也香は内山が指を差した方を見た。
そこにはビデオカメラがあった。
ビデオカメラが三脚にセットされていた。
「あそこにビデオカメラが置いてあるだろ?あれで工藤紗也香がロープで動けない内山寛太を無理矢理犯すところを撮影しようと企画だ。どうだ、面白いだろ?」
「変態!」
「ああ、そうだ。変態さ。その変態にこれから紗也香の身体は突かれて悶えるんだぜ。最高だろ?撮った映像は会社に流してもいいし、何ならネットで流してもいいかもな」
「お願い、そんな酷いこと、やめて」
「お前は俺に何て言った?不細工なくせに鞄ひとつで私とデートできるなんて考えるなって言ったよな?あのとき以上の屈辱をお前には味合わせてやる」
内山はゆっくりと服を脱ぎ出した。
「お前と入れ替わった次の日に生理が始まってさ。大変だね、女は。月一回あんなものに付き合わなくちゃいけないなんて。それから基礎体温なんてものをつけてみたんだよ。体温の変化だと今日か明日には排卵日みたいだぜ。いわゆる危険日ってやつだよな」
内山はニヤッと笑った。
「俺ってまだ童貞なんだよ。工藤みたいな美人に俺の筆下ろししてもらえるなんて嬉しいな。しかも美人との愛の結晶の誕生も確実、ってか、ははは…」
紗也香は内山の考えていることを理解して、顔が強張った。
「やめて、お願いだから」
「人の命は金で買えねえんだぜ。あんな鞄よりもっと高いものを紗也香の子宮にプレゼントしてやるんだ。俺って気前いいだろ?」
「やめて」
「じゃあ、そろそろ始めようか」
内山がリモコンをビデオカメラに向けて録画ボタンを押した。ビデオカメラの録画を示す赤いランプが点灯した。
「工藤、お前の身体って本当にいやらしいな。毎晩毎晩オナニーしてたらよ、オマンコに何か突っ込んで欲しくって仕方なくなるんだぜ。冷蔵庫にキュウリがあるのを見つけてさ、それで毎晩毎晩自分でなぐさめるしかなかったぜ。やっと本物のペニスで慰めることができるんだ」
内山はゆっくりと服を脱ぎ出した。

「やめて、お願いだから…」
紗也香になった内山の裸体を見ても、紗也香の股間のペニスは全く大きくならなかった。
「おいおい、せっかく俺みたいな綺麗な女の身体を見てるんだから、チンポを大きくしろよ。そうじゃないと女に失礼だろうが。あっ、そうか。自分の身体だから興奮しないのか」
内山はしなを作って紗也香の脚の間にひざまずいた。
両手で紗也香のペニスを優しく握って刺激を与えた。
紗也香のペニスはあっという間に大きく勃起した。
「ほら、お前のチンポが大きくなったぜ。すぐにでも女のオマンコに入れてほしいって言ってるみたいだな」
内山は紗也香のペニスを握ったまま、紗也香の腰辺りにまたがるようにした。
そしてペニス先を自分の股間にあて、ペニスの先を自分の股間に擦らすようにして刺激を与えた。
「お前のチンポに刺激されて、俺のオマンコがよだれを流し始めて濡れてきたぜ」
内山はいちいち卑猥な言葉を発しながら行為を行った。
「俺のオマンコが準備できたみたいだから、お前の童貞をもらおうかな」
「や…めて……」
内山はペニスに手を添えて、ゆっくりと腰を下ろした。
「あ…ん〜ん。やっぱりキュウリと違うぜ。お前のチンポって暖かくて気持ちいい…。じゃ、動くぞ。さっきも言ったけど、中出しなんかしたら妊娠するかもしれないぜ。それが嫌だったら頑張って耐えろよ」
内山はゆっくりと身体を上下し出した。
「はふっ…あ…ん…気持ちいい……ぞ。子宮に当たる感じがすごくいい…ん…ん…ん…ん…」
内山が10回も動いていないのに、紗也香は射精してしまった。
「あ〜あ、もう出ちゃったんだ。いくら何でも早すぎるって。お前って早漏なんじゃないの?俺はまだいってないんだからもう一回しようぜ」
内山はまたがった身体を移動させ、紗也香の股間辺りを覗き込むような体勢をとった。
そして、何の躊躇もなく小さくなった紗也香のペニスを銜えた。
「そんな、汚い」
紗也香は小さく叫んだ。
内山は紗也香の言葉を無視して、内山は紗也香のペニスを銜えた。
放出された精子と自分の愛液で生臭い味がした。
内山は小さくなった紗也香のペニスを丁寧に舐めた。
するとすぐに元の硬度が復活した。
「さすがにお前はいやらしいな。すぐにこんなに大きくなっちゃって。今度は俺の口でいってもらおうか。いやらしい絵が撮れるぜ、きっと」
内山は紗也香が感じる様子を上目遣いに見ながら、ペニスの先に舌で刺激を与えた。
やがて塩辛いものが先から出てきた。
内山はペニスの先を舐めながら、手でシャフトの部分をしごいた。
すぐに精子が飛び出してきた。
内山はそれを顔で受け止めるしかなかった。
顔中精子まみれになった顔をわざとらしくビデオカメラの方に向けた。
「ほ〜ら、見ろよ。工藤紗也香ともあろう女が内山寛太ごときの精液を顔で受け止めていやらしい顔しているぞ」

紗也香は顔を逸らして、涙を流した。
「なに泣いてんだよ。お前も気持ちよかったから射精してんだろ?男の欲望なんてチンポ見てりゃ分かるんだからよ。いつまでもそんな顔せずに俺と楽しもうぜ」
内山はそばにあった布で顔を拭いた。
それは紗也香が着ていたワイシャツだった。
「それじゃ今度は俺をいかせてもらうぜ」
内山はまた紗也香の股間のペニスに手を伸ばして、刺激を与え始めた。
「さすがに2回も出すとなかなか勃起しないな」
紗也香はこれ以上やめてと願っていたが、願いも空しく紗也香のペニスはまたも雄々しく勃起した。
「何だかんだ言ってもお前っていやらしいやつだな、俺の身体でこんな短時間に3回も勃起するんだからな」
内山は紗也香のペニスを右手で持ち、自分の膣口に当てた。
「今度は楽しませてくれよ」
そう言いながらゆっくり腰を下ろした。
「あ…この挿入感がたまんねえぜ」
内山は後方に右手をつき、身体を反らすようにして、紗也香のペニスと自分の部分が結合しているところを見やすいようにした。
「ほら見てみろよ。お前のチンポが俺のオマンコに入ってるんだぜ」
紗也香はチラッとその部分に目をやり、すぐに横を向いた。
「それじゃ動くぜ」
内山は身体を反らしたまま、身体を上下した。
「…ん…ん…ん…気持ち…いいぜ……ん…。まだまだ出すなよ」
『クチュクチュクチュクチュクチュクチュ』
静かな部屋に結合部分の音だけが響いた。
内山は後方についていた手を離し、真っ直ぐな体勢でなおも上下に動いていた。
自由になった手で自分の乳房を揉みしごいた。
「…あ…あ…あ…ぁん……すご…い……感じるぜ…」
かなり長い間動いていた。
やがて内山は感じ方が強くなってきたのを感じた。
「…あ…あ…あ…あ……何か…変に…なりそう…だ……」
次の瞬間、紗也香のペニスが爆発した。
子宮に精子をぶちまかれたのを感じると同時に内山の意識がホワイトアウトした……。
気がつくと結合したまま上半身を倒し、紗也香の身体を抱きしめていた。
「…はぁ…はぁ…はぁ……」
内山は結合している部分を離し、紗也香の横に仰向けに横になった。
「女ってすごいな。こんなにすごいなんて思わなかった。お前も男になってまだ少ししか経ってないのに女をこれだけ感じさせるなんてプレイボーイの素質があったんじゃねえか?」
紗也香からの反応はなかった。
「そうか、工藤の奴も感じすぎて気を失いやがったのか。それじゃ今のうちに元に戻ろうか。今度は男に戻ってこいつの身体を犯してやる」
内山は紗也香を固定していたロープを外した。
そして、置いてあった鞄から薬を取り出し、口の中に入れた。
そして横たわっている紗也香の身体に触れて戻るよう念じた。
「あれ?戻れない。……さては」
紗也香は気を失った振りをしていただけだった。
内山がそのことを覚ったと同時に、紗也香はカッと目を開き、反撃に出た。
「その薬を私に渡しなさいよ」
紗也香は自分が男になって力が強くなっている自覚がないため力いっぱい内山に襲いかかった。
女になっている内山は絶対的な力の差が大きすぎ、抵抗することが全くできなかった。
紗也香は内山の首を絞めた。本人が思っている以上に強い力で、だ。
(殺される!)
内山は本能的にそう感じた。
反撃すべく紗也香の首に手をかけたが、苦しさから全く力が入らなかった。
内山は薄れゆく意識の中で、何か反撃の道具を探すかのように辺りをまさぐった。
それは生への執着心からなのかもしれない。
右手に何かが触れた。
それを手に取り、しっかり握り直した。
そして思い切り紗也香の頭へ振り下ろした。
「うっ」
短い呻き声とともに紗也香がドサッと倒れた。
「ゴホッゴホッゴホッ」
ようやく自由に呼吸ができるようになった内山は咳き込んだ。
咳き込むと喉が痛んだ。
「お前は今男なんだからもっと手加減しないと死んでしまうだろうが」
内山は身体を起こし、倒れている紗也香に目をやった。
紗也香は頭から血を流し、目を見開いた状態で倒れていた。
(死、死んでいる!)
生まれて人が死んでいる状態を見たことがない内山でさえも紗也香が死んでいることは一目で分かった。
膝がガクガク震え、立っていることさえできず、その場に座り込むしかなかった。
(殺してしまった…どうしよう……)
内山は今紗也香の姿でいることを思い出した。
(今なら元に戻れるかも)
内山は薬を口に含み、戻れ戻れと念じながら、横たわっている身体に触れた。
そんなことをすると、自分が死ぬ可能性があることにも考えが及ばなかった。
それほど正常な思考ができなくなっていたのだ。
しかし、何も起こらなかった。
内山は紗也香のままだった。
(そんな。俺はこれからずっと工藤の姿のままいなくちゃいけないのかよ)
最初はこの状況に考えをまとめることができなかった。
時間の経過とともに、少しずつ冷静さが戻ってきた。
そして内山はこの状態をどうするかについて考えをめぐらせた。

やがて、携帯を取り出し110番に電話した。
「人を殺しました」
ほとんど感情のない声で伝えた。
警察が来て現場検証が始まった。
紗也香になった内山は警察が到着するまでに服を着た。
当然内山は容疑者として取調べを受けた。
内山の両手足のロープの痕が少し問題になったが、セックスの際のプレイという主張がそのまま認められた。
結局紗也香の首に残っていた扼痕と扼痕から採取された内山の指紋が、内山に絞殺されそうになったことを示す証拠として採用された。
4日ほどの拘留で解放された(後の裁判の結果、正当防衛が認められた)。

内山は警察から出ると、その足で薬局に行った。
妊娠検査薬を買うためだ。
紗也香の部屋に戻り、すぐに妊娠してるかどうかを確かめた。
妊娠検査薬の検査窓には何の反応も現れなかった。
内山はほっとした。
いくら何でも自分の子供を身籠もるなんて経験はしたくなかったからだ。

内山は会社に3ヶ月の休暇届を出した。
あんな事件の後だったので、周囲の理解を得ることができた。
休暇届は何の問題もなく受理された。
休み中は特に何もせず家の中でおとなしくしていた。
内山の性対象は女だった。
大抵の男が女しかも美人を性対象として考える。
その内山が紗也香という美人になったのだ。
自分が出歩けば、男が自分のことをどういう目で見るか想像に難くない。
自分を見る男たちは妄想の中で甚振られ陵辱されるのだ。
そんなことを考えると、恐くて毎日部屋の中で過ごすしかなかった。

内山が紗也香になって1ヶ月ほどした日のことだ。
朝起きて洗面所に行くと胃の辺りがムカムカするのを感じた。
嫌な予感がした内山はすぐに置いてあった妊娠検査薬で検査した。
今度は1分ほどで検査窓に陽性の反応があった。
(どうして?)
説明書を読むと『この検査薬では、生理の周期が順調な場合は、生理予定日のおおむね1週間後から検査ができます』と書かれていた。
前回検査したときは紗也香と交わって1週間ほどしか経っておらず、ひっかからなかったのだ。
(俺のお腹に俺の子供が入っているのかよ)
内山は部屋に戻りカーテンを閉め薄暗い部屋でほとんど身動きすらせずにじっとしていた。
行動と言えるのは、時々自分のお腹を擦って溜息をつくくらいだった。

そんなある日、携帯に藤島一郎という男からメールが入った。

紗也香へ
帝国ホテルの1002を予約した。必ず来るように。

内山はその名前を知っていた。
それは社長だった。
年は60を軽く過ぎているおじんだった。
(こいつ、社長の女だったのか)
内山としては男に抱かれるのは嫌だった。
しかし相手は社長だ。
生来気の小さな内山にとって社長の言葉は絶対守るべき命令だった。

内山はメールで指示されたホテルに行った。
「休んでるそうだが、元気そうじゃないか」
藤島に命じられるまま、内山はシャワーを浴びた。
心では嫌悪感を持ちながら、藤島に身体を預けるしかなかった。
しかし藤島に抱かれると、藤島の老練な前戯に内山は翻弄されるしかなかった。
抱かれるまでの抵抗は全くなくなっていた。
前戯だけで内山は何度もいきそうになった。
実際にペニスが挿入されていた時間は短いものだった。
それでも十分すぎる前戯のため内山は絶頂に達した。
行為が終わっても、快感が身体の中で余韻のように続いていた。

内山が正気を取り戻したのは、決して短くない時間だった。
そのときには藤島は隣で静かな寝息を立てていた。
(今だ!)
藤島が眠っているのを確かめると、内山は鞄から例の薬を取り出した。
藤島と入れ替わろうというのだ。
いくらセックスの感じ方が強いと言っても、女でいることは耐えられそうもなかった。
年寄りになるのは嫌だったが、社長になれるのも内山にとってうまい話のような気がしていた。
内山は薬を口に入れ、藤島の身体に触れた。
そして入れ替われと念じながら薬を飲み込んだ。

何も起こらなかった。
内山は紗也香のままだった。
なぜか薬の効力が失われていた。
絶望的な気持ちになった。

そんなときに射精された精液が逆流して流れ出るのを感じた。
自分の身体の中に男の精液が入っている。
その事実が耐え難いことのように感じた。
内山は入れ替わりを諦めて、シャワーを浴びようと思ったのだ。
内山がベッドから抜け出た。
そのときの振動で藤島が目を覚ました。
「紗也香、お前、どこ行くんだ?」
「すいません、起こしてしまって。ちょっとシャワーを浴びようと思って」
「今日久しぶりに会ってからずっと思ってたんだが、紗也香、お前、紗也香じゃないな」
「な、何言ってるんですか、社長」
「紗也香がそんな丁寧な言葉を使ったのは最初会ったときだけで、ワシのことを社長なんて呼んだのは初めて抱かれるまでの数時間だけだったぞ。なのに今日のお前は最初から敬語を使っている。お前はいったい誰なんだ?」
内山は本当のことを話した。
「ほぅ〜、そんな面白い薬があるのか。だったら一回替わってみようじゃないか」
「それが全然ダメなんです」
「そんなことを言いよって。現にお前は紗也香と入れ替わったんだろ」
「それはそうなんですが、それから後は全然ダメなんです」
「つべこべ言わずにその薬を寄こせ」
内山はどうせ効かなくなった薬だと思って残っている薬をビンごと渡した。
まだ薬はビンの中に20錠近く残っていた。
「どうやって使うんだ」
「まず相手は眠っているか気を失っていなくちゃいけないんです。薬を一粒口に含み、入れ替われと念じながら相手の身体に触れて薬を飲み込むんです」
「そんな簡単な方法で入れ替われるのか?」
「はい、最初は入れ替わってからも、同じ方法で元に戻ることができたんです」
「そりゃ面白い。紗也香、早く眠れ」
「そんなことを急に言われても無理です」
「まあ焦らずにゆっくり横になってろ。そのうち眠るだろう」

やがて内山は眠りについた……。

内山が気がついたときには内山は男に戻っていた。
隣にはオナニーにふける女の姿があった。
左手で乳房を揉みながら右手で股間を擦っていた。
「…ん…ん……女は…すごいな……」
内山は女の乳房に貪りついた。
「…お…内山くん……起きたのか……。女はいいな……。こんなに感じるんだったら、声を出すはずだ」
「社長、女のセックスの喜びを教えてあげますよ」
「おお、楽しみにしてるぞ」
内山は女になった社長のオマンコにペニスをぶち込んだ。
内山にとって男として初めての経験だった。
「ぁあん」
目の前の女は歓喜の声をあげた。
「社長、どうです?」
「……んんん……すごい…。もっと…もっと……強く……突いてくれ…」
「こうですかっ!」
内山は興奮に任せ、女を突きまくった。

女は髪を振り乱し歓喜の声をあげていた。
やがて内山は精液を女の中にぶちまけた。
女は身体を反らせて痙攣したようだった。
内山のペニスは急速に萎えていくのが分かった。
「はあ…はあ…はあ…」
社長は息を切らせ、セックスの余韻にひたっていた。
「はあ…はあ…女の感じ方は男の数倍とかいう話を聞いたことがあるが、確かにすごかったぞ。いい経験をさせてもらった。それじゃ内山くん元に戻ろうか」
「やだね、ちょっとおじんになっちまったけど、この身体はもう俺のものだからな」
「何!それは困る。すぐに元に戻すんだ」
「何偉そうに言ってんだ。あの薬はどちらかが眠ってなくちゃいけないんだ。俺はあの薬が使えない。なら俺が眠らないと、お前は元に戻れないんだろうが。俺がこのままお前の目の前からいなくなったら、元に戻れないんだぞ」
「頼む、元に戻ってくれ。だいたいお前なんかに社長が務まると思ってるのか!?」
「さあ、それはやってみなくちゃ分からんだろ?とにかく俺は女でいたくはないんでね」
「ワシにこのまま女でいろと言うのか?」
「あんたが好奇心かなんか知らないけど入れ替わるから悪いんだろ?自業自得ってやつじゃねえの?」
「分かった。何日かは我慢してやろう。その後は戻るんだ」
「やだね、おじんでも男の方がいいのさ。俺はこのままでいるぜ」
「何日かして替わってくれと言っても知らないぞ」
「そんなことあるわけないだろ。俺は女なんかでいたくないんだ」
「とにかく当面の生活資金を都合してくれ。ワシの鞄に小切手帳があるから」
「当面ったってなあ、おそらく一生だぜ。あんたの財産を全部もらうのも悪いから、あんたの好きな額を書きな。そうだな、1千万円くらい書いてもいいぜ」
藤島は小切手を出し『¥50,000,000.─』と書いた。
「5千万か、ちょっと多いような気もするが、まあそれくらいはいいだろ。その代わりあんたの身体と財産はいただくぜ」
内山は社長の服を着た。
「それじゃあな。言い忘れてたけど、その身体は元の俺との赤ん坊がお腹にいるみたいだぜ。元気な赤ん坊を産んでくれよな」
内山は出て行った。
あとに残された藤島は内山の遠ざかる足音を聞いていた。

やがて内山の足音がしなくなったことを確認すると藤島は起き出した。
シャワーを浴びるためだ。
藤島はバスルームに入った。
シャワーを弾く肌の感触に若さを感じた。
(女になったのはともかく、これで癌の苦痛から解放されたな。24才か。もう一度人生を楽しめるぞ。あいつには悪いが、この身体でもう一度若さを楽しませてもらうとするか。女の快感もなかなかのもんだったしな。考えようによっちゃ、女になれてラッキーとも言えるかもな。あの女の快感をこれからも経験できるんだからな。飽きりゃそのうちまた誰かと入れ替わりゃいいんだし)
藤島は股間に流れる粘液を手に取った。
(これがワシの精液か。それがワシの股間から出てくるなんて不思議な感覚だな。…そう言えば、内山とか言う奴がこの身体が妊娠してるとか言っておったな。出産を経験してみるのも面白いかもしれんな)
藤島は股間にシャワーを近づけた。
(ホォ〜、これはなかなか…)
病みつきになりそうな感触だった。
膣の周辺を念入りに綺麗にした。
一通り身体の汗を落とすと、バスタオルを胸元で巻き、ホテルについているドレッサーの鏡で今の自分の顔を確認した。
(紗也香のスッピンの顔をこういう形で見ることになるとは思ってもいなかったな。スッピンでもなかなか美人じゃないか)
床に脱ぎ捨ててあるショーツを手に取り、身体に巻いているバスタオルを床に落とした。
(女物を身につける羽目になるとはな)
そんなことを考えながら脚を通した。
股間に張り付くようにピタッと収まった。
(股間に何もないのも思ったより違和感がないな)
悪戦苦闘の末ブラジャーを胸につけ、スカートの前後に迷いながらスカートを履き、何とか服を着た。
藤島は服装におかしなところがないことを確認してから靴を履きホテルの部屋を後にした。
藤島が歩いていると道行く人が藤島のことをじろじろと見た。
(何見てんだ、こいつら)
藤島は気がついていなかった。
大股で歩く姿が全く男だったことを。
また全く化粧すらしていないこともじろじろと見られる原因だった。
藤島がそのことに気がついたのは駅に向かう途中のショーウインドウに映った自分の姿を見たときだった。
藤島は女子トイレに飛び込んだ。
しかし化粧なんかやったことがない。
仕方なく、鞄から口紅を取り出し、口紅だけを塗ることにした。
それほどうまく塗れたとは思わなかったが、スッピンよりは幾分か見れるようになったような気がした。
藤島はとりあえずそれで満足し、トイレを出た。
歩幅を意識して狭くするように心がけた。
それでもやはりじろじろと見られることに変わりはなかった。
しかしそれまでの感じとは違い、すけべそうな目つきが多かった。
否が応でも藤島は自分が女性であることを認識させられた。
何とも言えない居心地の悪さを感じながらも、紗也香のマンションへと足を速めた。

紗也香のマンションは女性専用のワンルームマンションだった。
部屋に入った藤島はベッドに身体を投げ出すように倒れこんだ。
思いもよらない事態に精神的にまいっていたのだろう。
1分も経たない内に深い眠りに落ちた。


藤島になった内山は次の日に自分の身体の異変に気がついた。
腹部の強烈な痛みでそのまま意識を失ったのだ。
そして搬送された病院でこの身体が末期の癌に侵されていることを知った。
内山は会社の者に命じて紗也香の姿を探させたが陽として見つからなかった。
そのまま病院から退院することもなく、最期まで癌の痛みと薬の副作用に苦しんだ。
藤島と入れ替わってからおよそ3ヶ月後に老妻に看取られて内山は息を引き取った。
自業自得はまさに内山の方だった。

紗也香になった藤島は入れ替わった次の日起きると悪阻という物を経験した。
内山の言葉が気になっていたこともあり、すぐに産婦人科に行った。
そこで正式に妊娠3ヶ月であることが告げられた。
藤島はすぐに堕ろしてもらうよう頼んだ。
医者からは何かと説得されたが、最後は渋々堕ろすことを認めた。

その翌日、お腹の子供を処分してもらった。
一晩入院して退院することができた。
その手術のせいで二度と妊娠できない可能性があることを医者に告げられた。
(妊娠できない方が思いっきりセックスが楽しめるということだ)
藤島にとっては不妊症になったかもしれないことも全く問題にならなかった。

身軽になった藤島は、内山から手に入れた5千万を活用して、都内にエステティックサロンを開業した。
これが当たり、半年後には都内に2店目をオープンすることができた。
必要以上に女性として見られるのは落ち着かないため、できるだけビジネスに没頭したのだ。
だから短期間で成功したとも言えた。
しかし時にはビジネスのため女性という武器を活用することも厭わなかった。
藤島は根っからの経営者だった。

店の展開が順調に進み出すと、店の経営は後任者に任すようになった。
藤島は第一線から身をひいたのだ。
店のオーナーとして利益の数パーセントを受け取るだけで、経営には全く参画しないようにした。
確かに経営は藤島にとって重要なビジネスではあった。
それ以上に重要なことができたのだ。
藤島にとっては、女でいることに強い嫌悪感を覚えるようになったのだ。
確かに女としてのセックスをすると感じた。
その感じも嫌いではなかった。
しかし、その対象となる男を好きになれなかった。
かといって女性を好きになることもなかった。
そもそも持っていた道徳心が同性愛に走ることに歯止めをかけていたのかもしれない。
そういう心の歪を解放するためにも早急に男に戻るべきだと考えていた。
そんな個人的な欲求によって、会社に混乱を起こすことだけは絶対に避けたかった。
今のうちから自分がいない状態でも経営が行われるようにするのが自分の役目だと考えた。
だから経営から退いたのだ。
一方、エステティックサロンで儲けたお金の一部は隠し口座に入れていた。
元に戻ったときの軍資金として準備していたのだ。
そんな抜け目のなさは相変わらずだった。

藤島は毎晩のように男を捜した。
藤島が男を選ぶ基準は自分が入れ替わるのに相応しいかどうかという一点だった。
目星をつけると、その男に近づいた。
近づいた男は100%の確率で藤島をホテルに誘った。
一通りの行為が終わると藤島は、あたしと入れ替わってみない?と聞いた。
大抵の男は、その言葉を笑って聞き流していた。
薬は藤島が飲んでも効力がなかった。
飲んだ者が自分自身の身体にいるか、入れ替わりの対象となる身体が自分自身の物のときだけに効力を発揮するのだろうというふうに藤島は考えていた。
だから紗也香になった内山も、紗也香になった藤島も自分では薬を利用できなかったのだ。
入れ替わるためには相手にやってもらうしかない。
気長に見つけるしかなかった。

男漁りを始めて3週間ほど経ったある日のことだった。
その日、藤島が見つけた男は、初めてその話に乗ってきた。
「ほぅ〜、俺がアンタみたいな綺麗な姉ちゃんになれるのか?」
「そうよ。女の快感を知ると病みつきになるわよ」
「どうやるんだ?」
藤島は薬の使い方を説明した。
「じゃ、興味があったら使ってみてね」
藤島は眠りについた。

「おい、起きろよ」
藤島は乱暴な女の声で起こされた。
「本当に入れ替わっちまったぞ。どうしたらいいんだ?」
紗也香になった男は恥じらいも全く見せずに無防備に全裸のままだった。
「どうしたらって男と女がひとつのベッドにいたらやることはひとつでしょ?」
藤島はわざと女の話し方で答えた。
「本当にやるのか?」
紗也香になった男は少し脅えているように見えた。
「あなたも興味があるから薬を飲んだんでしょ?だったらやるしかないんじゃない?」
藤島は紗也香に覆い被さった。
久しぶりに女を抱けることに胸が高ぶっていた。
(やはりワシは男の方がいいみたいだ)
ペニスはすでに固く大きくそそり立っていた。
「何か恐いぞ」
紗也香になった男は不安げな顔をしていた。
「大丈夫。優しくしてあげるから」
藤島は久しぶりの男のセックスを楽しんだ。
長い間紗也香だった藤島はどうすれば紗也香の身体が感じるのかを熟知していた。、
新たに紗也香になった男は藤島の腕の中で気も狂わんばかりに歓喜の声をあげた。
藤島はやはり自分は男の方がいいと思った。
女を攻めている方が性に合っていた。
紗也香になった男はセックスの後、幸せそうな顔で眠っていた。
「幸せそうな顔して寝ておるな。おまえには悪いが、ワシはおまえさんの身体をいただいていくからな。恨むんじゃないぞ。とりあえずこれからの生活に困らないように新しいお前の情報をまとめておいたからな」
藤島は封筒を枕元に置いた。
そして、男の服を着て、入れ替わりの薬をポケットに入れて、ホテルから出た。

ホテルから出ると複数の男に取り囲まれた。
「秋山孝一、強盗殺人及び死体遺棄容疑で逮捕する」
彼らは刑事だった。
「私は秋山じゃない」
「何を訳の分からんこと言っとるんだ。さっさと来い」
せっかく男に戻ったのに、藤島は警察に連行された。

秋山は窓から元の自分の身体をした男が警察に連行されていくのを見ていた。
秋山は眠っている振りをしていただけだった。
藤島が部屋を出るとすぐ警察に電話したのだ。
指名手配の男がホテルにいるのを見たと。
「俺の罪をせいぜい償ってくれよ。これからは俺があんたとして生きていってやっからよぉ」

秋山は枕元の封筒を開けた。
手紙と鍵と免許証が入っていた。
手紙を開いた。
「名前は工藤紗也香か、いい名前じゃねえか。ほぅ〜、ビューティサロンのオーナーか、生活には困らんくらいの収入がありそうだな。ん、貯金通帳があるじゃねえか。一、十、百、千、万、…2500万もあるぜ、こりゃすげえや。毎月2、300万は振り込まれてるみてえだし、遊んで暮らせそうだな」

秋山は女が残していった服を着た。
バッグには財布が入っており、10万円ほど入っていた。
「俺の代わりに警察に捕まって、こんなにお金をくれて、奴も人が良すぎるぜ」
秋山は笑いが止まらなかった。

藤島の話は警察では全く聞いてもらえなかった。
物証が揃いすぎるほど揃っており、秋山の犯行であることは動かし難い事実であった。
判決は無期懲役だった。
収容された刑務所で藤島は同じ受刑者から犯された。
紗也香であったころの女性としての身体の動きが身についており、男の性欲を引き起こすのだった。
男とのセックスのときにはどういうわけか藤島は喜んで男のペニスを受け入れた。
このときになって初めて自分の気持ちが女性化していることに気がついた。
藤島は刑務所の中で、数少ないネコ役でだった。
受刑者にはもちろん少なくない刑務官の相手をして、周りから可愛がられることに喜びを感じるようになった。
しかし、不特定多数の者を相手にしたためか、感染症にかかってしまった。
刑務所の中で満足な看病もされないまま、服役して3年弱で生命を落としてしまった。

紗也香になった秋山はホテルを出てタクシーを捕まえた。
タクシーの運転手に手紙に書かれていた住所を告げた。
「今日からここが俺の家かぁ」
これまでの人生を考えると雲泥の差だった。
38階建てのマンションの最上階。
最上階は2戸しかなく、5LDKで一つひとつの部屋が広い。
部屋の2つはクローゼットとして使われていた。
服は軽く100着以上はあった。
しかし、ビジネススーツが中心で、秋山が好きな可愛い系の服は全くなかった。
秋山は自分の好きなカジュアルで可愛い服を買い漁った。
特にスカートはミニスカート、マイクロミニスカートばかりを買った。
可愛い服を着ると十分女子大生に見えるような気がした。
秋山はその服を来て、大学へ行き、何をするでもなく、キャンパスを歩き回った。
秋山に声をかけてくる男性は少なくなかった。
秋山が男を選ぶ基準は乗っている車だった。
初日はフェラーリに乗っている男と寝た。
次の日はポルシェに乗っている男と寝た。
秋山は男から奢ってもらうことで、十分な贅沢な生活を送っていた。
エステティックサロンからは十分すぎる収入があったが、そのお金は必要なかった。
秋山は紗也香になったこと、女になったことに十分満足していた。

秋山が紗也香になって9ヶ月が経った。
秋山は紗也香になったことを利用して毎日面白おかしく過ごしていた。
元に戻りたいとか男に戻りたいとは全く考えもしなかった。
女には嫌われていたが、そんなことは露ほども気にならなかった。

そんなある日のこと、2ヶ月ほど前につき合っていた男が急に目の前に現われた。
男は山形という男だった。
山形は生活を切り詰めても大好きなジャガーに乗ることを楽しみにしていた気の弱い男だった。
出会った当初、秋山はそんなことは知らず、どこかの金持ちのボンボンだと思ってつき合い出した。
つき合っているうちに実態が分かってきた。
それでも頑張って、高級レストランに連れて行ってくれたり、ねだった物は大抵買ってくれたりしたので、特に気にもせずにつき合っていた。
つき合って1ヶ月くらいしても手さえ握ろうとしない山形に物足りなさを感じていた。
それでも、世の中にはこんな男もいるのかと感心するだけで、特に気にもかけてもいなかった。
徐々に会う間隔が長くなり、2ヶ月くらい前から秋山が連絡しても言葉を濁したりして会おうとしなくなった。
そして、そのまま自然消滅した男だった。

「あれっ、山形くんじゃない?久しぶりね」
秋山は目の前の男に声をかけた。
しかし、男はそんな声は届いていないようだった。
「お前のせいで」
山形の右手にはナイフが握られていた。
「お前のせいで俺の人生はメチャメチャだ」
「何、言ってるの?」
「お前とつき合うために俺がどれだけ借金したか知ってるのか?」
「そんなのあなたの勝手じゃない」
「お前とつき合うには金がいるんだよ。その金を俺はサラ金から借金してたんだ。今じゃヤミ金にまで追われる羽目になってしまった」
「だからどうしようって言うの?あたしと無理心中でもするって言うの?」
「お前を僕のものにする」
「はあ?最後にあたしを抱かせろって言うの?いやよ、そんなの」
「つべこべ言わずに来い」
山形はナイフで脅しながら秋山をラブホテルに誘導した。
部屋に入るとすぐに山形は秋山に服を脱ぐように言った。
(はあ、だから馬鹿は嫌なんだよ。馬鹿を相手にした俺も悪いか。まっ、適当に相手してやってうまく逃げることを考えるしかないな)
秋山は頭でそんなことを考えながら服を脱いだ。
「よしっ、それじゃベッドに入れ」
秋山がベッドに横になったのを見届けると、山形は性急に服を脱ぎベッドに潜り込んできた。
山形の愛撫は稚拙なものだった。
ほとんど感じなかった。
「山形くん、もしかして初めてなの?」
「……ああ」
「じゃああたしがリードしてあげる」
秋山は山形に愛撫の方法を優しく教えた。
山形は不器用ながら秋山の身体に舌を這わせた。
あまりうまいものではなかったが、徐々に秋山の身体が準備できた。
「山形くん、そろそろ来て」
秋山は股を広げて、山形のペニスを促した。
山形のペニスはこれまで経験した中でも最も固くて大きなものだった。
それが山形の中に入ってきた。
愛撫では不満だったが、入れられてからは秋山には演技をする余裕もないほど感じていた。
「男としての経験もさせてもらったし、これで思い残すことはないな」
快感の波にまだ漂っていた秋山はそんな山形の呟きを遠い声のように聞いていた。
山形は脱ぎ捨てた服のポケットからビンを取り出した。
「それは……」
紗也香になった男は山形の左手を見つめていた。
左手には例の薬と同じように見えた。
違う点は中にはいっぱいの錠剤がはいっている点だった。

「これか。よく分からないけど、これで僕とお前が入れ替われるらしいんだ。さっき言ったろう?お前を僕のものにするって」
そう言って山形は秋山にスタンガンを当てた…。

山形は気を失った紗也香と入れ替わった。
「それじゃ、これからは僕が紗也香として生きていくから。お前は僕の借金よろしくな」
紗也香になった山形が出て行こうとした。
そのとき、山形に付き纏っていた借金取りが3人部屋に入ってきた。
「どうして、ここが?」
「おぅ、姉ちゃん、わしらのこと、知っとるんか?今は何でもコラボレーションっちゅうていろんなとこが繋がっとるんや。このホテルのオーナからお前がここに女と入ったっちゅう知らせをもろて、こうしてお邪魔したわけや。もちろん鍵はオーナが開けてくれたんやけどな。せやけど、何であんたが俺たちを知ってるんや?」
「えっ、そ…それは…」
「前に山形んちに取り立てに行ったときとかにわしらの顔を見たとかそんなんやろ。気にするほどのことでもないで」
ドアにもたれている男が言った。
「で、山形はどこや?」
紗也香になった山形は黙ってベッドの方を見た。
「借金も返せへん癖に女とセックスするたぁ図太いやっちゃ」
男が山形に近づいた。
「おい、山形。女としてる暇があったら借金返せや。他人様から借りたもんは返すのが常識やろうが」
男は気を失っている山形を無理やり起こし、腹にこぶしをぶち込んだ。
山形が前のめりになったところを、脚で顎を思い切り蹴った。
山形は後ろ向けに倒れ、机の角で頭を強打した。
即死だった。
「あ〜あ、やっちまった。どうすんねん、金返してくれる奴を殺ってしもて」
「そんなこと言うても。あれくらいで死ぬなんか思うかいな」
「まあ一人代わりに返してくれそうな人間がおるけどな」
3人の男は一斉に紗也香を見た。
「おい、姉ちゃん。姉ちゃんは山形の女か?」
「そらそやろ。おいらの顔を知っとるってことは前にも山形と一緒におったっちゅうことやからな。今日だけの関係ってことはないやろ」
「まあどっちにしても山形なんかと一緒におった己の不運を恨んでくれや」
「そんな…僕…わたしには関係ないのに…」
「ガタガタぬかすな。おい、お前ら早よこの姉ちゃんを連れて行け」
山形は山形の恋人として借金取りに拉致され、どこかの事務所に連れていかれた。
「そしたらちょっと我慢してや、あんたが逃げへんようにするための薬やからな」
「お、おい、やめろ」
山形はこいつらのやり口が分かっていたので抵抗した。
しかし二人がかりで組み敷かれ、注射された。
「何の注射だ?」
「元気な姉ちゃんやな。もうちょっとしたら分かるから、そんな焦らんでええがな」
30分ほどすると意識が朦朧として、身体が熱くなってきた。
「はぁ…はぁ…熱い……」
「そろそろ効いてきたみたいやな」
男のひとりが山形の耳に触れた。
「あぁぁん…」
「耳にちょっと触っただけで声をあげるか。さすがに覚醒剤に催淫剤を混ぜると強力みたいやな。そしたら姉ちゃん、服脱いでくれるか」
山形は頭では拒否した。
しかし、身体は言われるまま服を脱ぎ始めた。
それからは命ぜられるがままだった。
山形が拒絶したくとも紗也香の身体がペニスを求めた。
山形は涙を流しながら、男たちのペニスを迎え入れ、そして腰を動かした。
「お前の顔とオマンコなら半年くらいで彼氏の借金を返せるで」
山形を抱いた男たちはニタニタしながら、そんな言葉を吐いた。
山形に残された人生は自分の借金を返すために紗也香として男に奉仕するだけの毎日だった。
数週間後、山形は手首を切って自殺した。
そばには例の薬が次の獲物を待つように転がっていた。


《完》

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