同級生



今日は久しぶりの中学の同窓会だ。
中学3年のクラスの同窓会は卒業して次の年に開催された。
しかし、その後は間が空いてしまい、今回が4年振りの開催となる。
成人式を迎え、みんなが集まりやすいということで、成人式に合わせて企画されたのだ。

4年振りに会う同級生はかなり外見が変わっていた。
それでも、半分は顔と名前が一致した。
残り半分は怪しいものだった。
男子の顔は大体覚えていた。
名前が出てこない奴もいたが、ほぼ全員が知っている顔だった。

一方、女子はほとんど分からなかった。
普段着だと分かったのかもしれない。
しかし、成人式ということでほとんど全員が振袖を着ていた。
しかも念入りに化粧しているのだ。
毎日会っていたとしても、誰だか分からないかもしれないくらいだ。
それが4年振りなんだから、誰が誰だか分からなくても仕方ないと言えるだろう。

それでも俺が好きだった矢野裕子だけははっきりと分かった。
相変わらず美人で可愛い。
俺としては近くに行って少しでも言葉を交わしたかった。
でも、女の子たちでかたまって話しているので、なかなか近づくことができなかった。
男どもとの雑談も一段落し、友達同士で抜け出していく奴らや、カップルで抜け出していく奴らがでてきた。
おかげで徐々に人数が少なくなってきた。
そろそろ矢野裕子と話ができるかと思い、彼女の姿を探したが、すでに矢野裕子の姿もなかった。
彼女がいないのなら、特にそこにいる目的も理由もない。
俺も抜け出すタイミングを計っていた。

すると、一際美しい女性が俺の方向に歩いてくるのが目に入った。
振袖の女性が多い中、珍しく黒のパーティドレスを着ている。
こんな美人に気がつかなかったほど、俺は矢野裕子だけを見ていたのだ。
肩にかかった細い肩紐がセクシーだ。
胸元の豊満なバストは目のやり場に困ってしまう。
俺はわざと視線は別の方に向けながらも彼女の動きに注目していた。

「林くん、お久しぶり」
驚いたことに俺のところにやってきた。
しかもどういうわけか俺のことを知っているようだった。
「おぉ、久しぶり」
俺は誰だったっけと考えながら返事を返した。
「あたしのこと、覚えてる?」
「ああ、もちろん」
そう言いながら俺の頭では過去の記憶を必死にたどっていた。
しかし全く思い出せない。
「あたし、卒業してから同窓会って全然来たことがないの。だから、今回が初めてなの。皆変わっちゃって誰が誰だか分かんないわね」
「そうなんだよ。俺もほとんど分かんなくって」
俺は適当に話を合わせて、過去の記憶を必死に呼び起こそうと努力していた。
「林くんってサッカー部だったよね?今でもサッカーしてるの?」
俺がサッカーをしてたことを知ってるんなら、間違いなく同級生のはずだ。
しかし、一向に思い出せない。
「高校まではやってたんだけど、今は何もしてない。時々友達とボールを蹴ってるくらいかな」
「その割には引き締まった身体してるじゃない?」
「そうか?」
「うん、そうよ。どれだけ締まっているのか見てみたいな」
彼女は俺の手の上に自分の手を置いた。
俺は驚いて彼女の顔を見た。
「どうしたの?」
「あっ、いや別に…」
あらためて彼女の顔を見た。
化粧は少し厚い気がするが、間違いなく美人だ。
この際、彼女が誰でもいい。
俺はこれからの展開に胸をときめかせていた。

中学時代の先生の思い出なんかで話をした後、俺は彼女を誘った。
「これから何か予定があるの?」
「ううん、別にないわよ」
「じゃ、もう少し落ち着いたところで飲み直そうか」
「ええ、いいわ」
彼女は会場の隅に掛けてあった毛皮のコートを取ってきた。
毛皮なんてよくは知らないが、決して安いものではないだろう。
何となく水商売のにおいがした。
「林くんが誘ってくれるから付き合ってあげるのよ。どこに連れて行ってくれるの?」
彼女は腕を組んできた。
「気に入ってもらえるかどうか分からないけど、まあついて来て」
俺は彼女をエスコートするような気分で歩き出した。

俺は時々一人で行く駅近くの行きつけのバーに行った。
まだ7時だったので、店には誰もいなかった。
「おっ、林くん、今日は早いね」
顔馴染みのマスターは俺に話しかけてきた。
「うん、今日は同窓会があってさ、その帰りなんだ」
「じゃあそちらは元クラスメートなのかい」
マスターの目は彼女に向いていた。
「林くんっていい奴なんだけど、女っ気がなくってさ。初めて女の子を連れてきたと思ったらあなたみたいな美人を連れてきて、ホンット驚くよな」
「マスター、余計なことは言わなくていいよ」
「はっはっはっ…、でも本当に林くんっていい奴だから。それだけは僕が保証する」
「ええ、あたしも昔から林くんのこと、知ってますから」
「そりゃそうだよな、同窓生だもんな」
「マスター、もういいから。俺たちでやるから」
「はいはい、それじゃ二人で頑張ってよ、邪魔者は消えるから」
俺は彼女が誰なのかを探るべく、中学時代の先生の話や授業の思い出を話した。
しかし、全く手がかりを得られず、彼女が誰なのか分からなかった。
とにかく彼女が俺に好意を持っているらしいことは十分に分かった。
俺は一大決心をして彼女をホテルに誘った。
彼女は期待通り拒否しなかった。

俺は彼女を連れてラブホテルに行った。
部屋に入ると俺はすぐに彼女と抱き合ってベッドに倒れ込んだ。
そして強く抱きしめて唇を重ねた。
長いキスの後、彼女は俺に聞いた。
「ねえ、林くんって女の人抱いたことがあるの?」
「残念ながら」
俺は人生19年間、女性とは縁がなかった。
「じゃあ今日はあたしが教えてあげるから、林くんはじっとしてて」
俺は彼女に仰向けに寝かされた。
彼女は俺のズボンのベルトを緩めてジーパンを少し下ろした。
さらにトランクスをずらし、俺のペニスを取り出した。
上目遣いに俺を見上げて悪戯っぽく笑ってから、俺のペニスを銜えた。
俺は初めての感覚にすぐにでも昇りつめそうだった。
しかし、初めての経験で緊張があったのだろう。
気持ちの高ぶりとは裏腹に、なかなか最後まで到達しなかった。
それでも気持ち良さを感じているうちに、俺の下半身は彼女にズボンまで脱がされてしまった。
「ねえ、林くん、上も脱いでよ」
彼女は俺のペニスから口を離して、ドレスを着たままストッキングとパンティを脱いだ。
俺は一旦起き上がり上半身の服を脱いで全裸になり、また仰向けに寝た。
彼女はドレスのまま俺にまたがり、俺のペニスを持ちながらゆっくりと腰を落とした。
全裸ではなくドレスを着たまま、しかもその部分がスカートで隠れて見えない。
しかし、確かに挿入されようとしている。
そういう状況に俺は興奮していた。
俺のペニスはこれまでになく固くなっていた。
また、彼女の部分も準備が整っていたのだろう。
ヌルッとした感覚を感じると、ほとんど抵抗なく俺のペニスが彼女の中に入っていた。
初めての女性の中は温かかった。
「はぁ〜〜ん……。どう?あたしの中は?」
すごく締め付けられる。
千切れそうだ。
「ん……、すごく気持ちいい…」
「じゃ、動くわよ」
彼女が俺の上で身体を上下させた。
彼女は自分の乳房を揉みながら喘ぎ声をあげている。
気持ちはよかったが、俺は相変わらずなかなかいけなかった。
長い長い刺激の後、やっといけそうな感じになってきた。
「出、出そうだ」
「いいわよ。あたしの中に出して」
一瞬俺の頭に"妊娠"の2文字が浮かんだ。
しかし、迫ってくる快感には勝てなかった。
俺は彼女の中に大量の精液を出した。
彼女は身体を反り返るようにして、大きな声をあげた。
そうして、俺の身体に覆いかぶさるように動きを止めた。
俺と彼女はつながったまま抱き合っていた。
俺は自分のペニスが小さくなるのを感じつつも、彼女がなおも締め付けるのを感じていた。
やがてペニスがいつもの状態に戻ったときに彼女の中から自然に抜けてしまった。
彼女は俺の唇を求めた。
短いキスの後、彼女が言った。
「林くん、ホントはあたしのこと、思い出せないんでしょ?」
俺はセックスまでした相手のことが思い出せないなんて相手に失礼なような気がして何も言えなかった。
「いいのよ、思い出せないなら思い出さなくても」
「…うん、実はまだ分からない」
「相変わらず嘘が下手だもん、直ちゃんは」
"直ちゃん"というのは俺が幼いころから呼ばれていた呼ばれ方だ。
"直樹"の"直"をとって"直ちゃん"。
ベタだけど、直樹という名前だったら大抵はそう呼ばれていると思う。
俺のことを"直ちゃん"と呼ぶということは小学校から一緒だった娘か?
しかしやはり分からなかった。
「まだ分かんないみたいね。あたしよ、あたし。小川和美よ」
「えっ?」
俺は訳が分からなくなった。
というのも小川和美は男のはずだ。
目の前は間違いなく女性だ。
「俺が知ってる小川和美って男だぞ」
「そう、その和美よ」
彼女はこれ以上はないというような怪しい笑みを浮かべた。
その表情に幼いころの小川和美の表情が重なって見えた。
「"その和美"って"かずくん"か?」
「そう、その"かずくん"」
「嘘だろ?」
「嘘じゃないわ」
「身体はどうなってるんだ?」
「胸は自前よ、女性ホルモンだけでここまで大きくなったの」
「下の方は?」
「まだ工事中。タマはとっちゃったけど、まだ竿はあるわよ」
「じゃあ今俺が入れてたのは?」
「あたしたちみたいな人間が殿方のお相手するのは後ろに決まってるじゃない」
俺は少し複雑な心境だった。
そんな思いが顔に出たんだろう。
「直ちゃんはニューハーフは嫌い?」
彼女はそんなことを聞いてきた。
俺は彼女の顔をじっと見て言った。
「今まであんまり考えたことなかったけど、かずくんぐらい綺麗だったらいいかな?」
それは本心だった。
これまで出会った女性で一番綺麗に思えた。
それは初めての相手だということもあったのかもしれない。
「ふふふ、ありがと。直ちゃんって相変わらず優しいのね。でもその"かずくん"ってのはやめてくれない?」
「そりゃそうだな。今の姿に"かずくん"は似合わないよな。どう呼んだらいい?」
「和美でいいわよ、みんなにもそう呼ばれてるし」
「みんなって?」
「一緒に働いている仲間よ」
「その人たちも同じなんだ」
「もちろんよ」
彼女はまた唇を重ねてきた。
俺は一瞬躊躇したが、彼女のキスに応えた。
「でも何で俺なんだ?」
「直ちゃんは分からなかったと思うけど、あたし、ずっと直ちゃんのことが好きだったのよ」
「そうか。全然気がつかなかった」
「直ちゃんは普通に女の子が好きだったもんね。でもあたしはずっと直ちゃんのこと見てたのよ」
「う〜ん、なんか複雑な心境だな」
「そんなこと言わないの。ところで、これからも会ってくれる?」
「和美さえよければ」
「嬉しい!だから直ちゃんのこと、大好き」

俺たちはその後も時々会った。
そのたびに逢瀬を楽しんだ。
やがて、俺たちは同棲するようになった。

その日は、いつものような簡単なデートの後、俺たちは交わった。
「ねぇ、直ちゃん、あたしね、性転換できる薬を手に入れたの」
セックスの後、和美がそんなことを言い出した。
「へぇ、そんなのあるんだ。本当に効くのか?」
「それは分かんない。体質とかいろいろな要素があるんだって。でもあたしが聞いた範囲だとほとんどの人は効いたみたい」
「こんな薬って安くないんだろ、きっと?」
「うん、ほとんど1千万円」
「そんなに高いのに効かなかったら詐欺じゃないか」
「でも今はこれしかあたしのような人間が女性になるチャンスはないから」
彼女は寂しげに笑った。
「ねぇ、直ちゃん、あたしが本当の女になっても愛し続けてくれる?」
「もちろんだよ。和美がちゃんと女になったら結婚しよう」
「本当に?」
「ああ、俺は和美しかいないからな」
「でもあたしは本当の女じゃないんだよ。それでもいいの?」
「薬で本当の女になれるんだろ?本当の女にしろそうでないにしろ和美は和美なんだから俺はそれで十分だ」
「嬉しい!これであの薬を飲む勇気が出たわ。明日すぐにでも飲んだみる。直ちゃんを好きでいて良かった」
和美は涙を流した。
俺は黙って和美を抱いた。
俺たちは人生で最高の幸福感に包まれて眠りについた。

その夜、俺は喉の渇きで夜中に眼が覚めた。
俺は寝ぼけ眼で冷蔵庫の中にあるオレンジジュースを飲んだ。
そしてまたベッドに潜り込み再び眠った。

「直ちゃん、直ちゃん」
俺は和美の切羽詰った様子で起こされた。
「直ちゃん、昨夜ラベルのついていない小さな容器のオレンジ色の物、飲んだ?」
「ああ、喉が渇いて夜中に起きたときに飲んだけど」
「やっぱり…」
「あれって栄養剤かなんかだったのか?あんまりオレンジジュースっぽくなかったけど」
「あれはね、昨日話した性転換の薬なの」
「えぇぇぇぇ!」
「もう直ちゃんったら。どうしてくれるのよ!あの薬って安くないんだからね」
「ごめん、悪かった。そんなことより、俺、どうなるのかな?」
「多分、女の子の身体になっちゃうんじゃないかな」
「えぇ、そんな…」
それからすぐに、40度近い高熱が出た。
身体全体が熱く、熱で溶けてしまうんじゃないかと感じたほどだ。
しかも身体中が痛んだ。
高熱と関節の痛みに俺は苦しんだ。
それらの苦しみがひくまで丸二日かかった。
二日後、彼女が言った通り俺の身体は女の身体になっていた。

「直ちゃん、薬の効果がどれくらいか知りたいから、どれくらい女の子になったか見せてね」
熱が下がったとは言え、急激な変化のせいか俺の身体は自由が利かなかった。
自分の意思では全く身体が動かない状態だったのだ。
そんな俺は彼女にされるがままだった。
胸には決して小さくない明らかな乳房が形成されていた。
「あたしより大きそう」
和美はそう言いながら乳首を舐めた。
「んん…」
胸にペニスの先がついているような感じだ。
俺はシーツを握り締め、声を出さないように耐えた。
和美は俺の反応を確かめるように乳房への愛撫を続けた。
やがて和美の手が俺の股間に移動した。
その感触でペニスがなくなっていること、溝が形成されていることを気づかされた。
和美は手を溝で前後させ、その手を俺の目の前に持ってきた。
和美の手には粘っこいキラキラした液体がついていた。
「ほら、これが直ちゃんが感じて直ちゃんの新しい女性器から出てきた愛液よ」
和美は液体のついた手を俺の口に入れた。
少し塩辛い生臭い味が口の中に広がった。
和美は俺の愛液と唾液のついた手で俺の股間の溝の中を愛撫した。
「…あ…あん……」
俺は股間への刺激に声をあげるのを抑えられなかった。
「あらっ、直ちゃんの声、可愛い」
俺の声もしっかり女性化していた。
俺は経験したことのない快感の波にただただ身を委ねるだけだった。
しばらくすると股間に息がかかるのを感じた。
「すごい。本当に女性器ができてるわ」
和美は両手で俺の両足を広げ、股間を凝視しているようだ。
すごく恥ずかしいが、身体の自由が戻らない俺は何も抵抗できずされるがままの状態だった。
股間に何かザラッとしたものが当たるのを感じた。
和美が俺の股間を舐めているのだった。
快感はさらに高まった。
和美はなおもクンニを続けた。
「…あ…もう…やめて…くれ……。お…かしく……な…り…そう…だ……」
ようやく言葉を発することができるようになったようだ。
それでもまだ身体の自由は戻らない。
俺は和美のクンニに翻弄されていた。
徐々に自分の身体が自分の意志で動かせるようになっていた。
俺は和美の頭を自分の股間に押さえつけていた。
そして無意識に腰を浮かせ、和美が舐めやすいような体勢を取っていた。
やがて痺れたような大きな快感を感じ、そのまま脱力してしまった。
「すごい、直ちゃん。潮吹きできるんだ」
俺は息が切れ、頭はボゥ〜ッとした状態だった。
やがて、身体からは少しずつ快感の波がひいていくのを感じていた。
「女の快感ってすごすぎる」

和美の攻撃で快感に翻弄されていた俺は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
俺はようやく自分の意志で動くようになった身体を起こして、改めて自分の身体に起こったことを観察した。
身体全体が透き通ったような綺麗な肌になっていた。
少し黒めだった腕は白くなっていた。
また濃かった脛毛もなく、脚はスベスベしていた。

お尻が大きくなり、その分ウエストが引き締まって見えた。
何より胸が大きかった。
持ち上げるようにして両手で持っても、それなりに重さを感じるようなサイズだ。
EカップかFカップくらいだと和美は言う。
股間には見慣れたものはなく、逆三角形の陰毛が生えているだけだ。
手鏡に股間を映してみると、グロテスクなオマンコが見えた。
和美との行為で俺自身が出した液体がキラキラ光っていた。
初めて見る実物のオマンコが自分の物だなんて信じられない思いだった。
しかもそのオマンコはちゃんと機能しているようだ。
おそらく生理にもなるし、妊娠もできるのだろう。

全身の映る鏡で自分の姿を見た。
どこをどう見ても女にしか見えない。
髪は元のままなので女らしくないのだが、顔の造詣が微妙に変わったようだ。
確かに俺の顔なのだが、どう見ても男には見えなかった。
唇が少しプックリしていて、そこが厭らしい艶気を感じさせる。
男の時には嫌だったところが、女になると魅力的なところになっていることに不思議な気がした。
俺がマジマジと自分の姿を見ているとベッドから声がした。
「あの薬って本当によく効くのね」
ベッドで横になっている和美が寂しそうに呟いた。
「和美、俺、和美のためにお金を貯めて、その薬を買ってやるよ」
俺は和美のためにそうしなければならないような思いだった。
「でも高いわよ」
「分かってる。でもやるしかないだろ。解毒薬というか元に戻る薬もあるのか?」
「あるらしいわよ。でも、4倍か5倍の値段するんだって。大して製造費は違わないんだけど、戻ることを前提に面白がって性転換する人間が増えることを抑止するためだって聞いたわ」
「そうか。あるんだったら、その薬も買う。そして俺は男に戻って、和美と結婚する」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「直ちゃん、ありがとう」
和美は寂しそうな笑顔を浮かべた。
俺は和美のために、そして自分のために薬を買うことを心に誓った。


俺は和美の紹介でキャバクラに勤めることにした。
手っ取り早く金を儲けるには水商売が一番だと思ったのだ。
ニューハーフと純女の店に交流があるとは思わなかったが、いろんなところでつながっているそうだ。
どうせ仮初めの女だ。
中途半端な貞操観念なんか持ち合わす必要もない。
俺はそう思っていた。

俺は和美から借りたドレスを着て、肩より長い巻き髪のウイッグをつけた。
なかなかの美人だ。
「直ちゃん、大丈夫?」
「何が?」
「女性らしくできるってこと」
「難しいけど、何とかなるだろ」
「だって、その話し方がもうダメじゃない」
「あっ、そうか。まずは言葉遣いからちゃんとしないとな」
「そうよ。だから今からちゃんとしないとね」
「分かったよ」
「よ?」
「分かった…わよ…。これでいいんでしょ?」
「何かタドタドしいけど、頑張ってね」
「うん、何とかやってみるからね」
「名前はどうするの?」
「さすがに本名は言えないから、ハヤシナオにしようと思ってるわ」
「ナオ?どんな漢字を当てるの?今のままの"正直"の直?」
「う〜ん、漢字までは考えてなかったけど、菜っ葉の"菜"と鼻緒の"緒"くらいでいいんじゃない?」
「菜緒ちゃんか。いいんじゃない。菜緒ちゃんだと女の子の名前で通用するね」
「でしょ?これでいくわ」

俺は女性の言葉をブツブツと練習しながら、今日から働く店に行った。
「あなたが和美さんの紹介の方ですね?お名前は?」
「ナオです」
「ナオさんですね。どんな字を書くんでしょうか?この店は水商売ですが、ちゃんとした店だから本名を言ってくださいね」
「ハヤシナオです。木が2つの"林"と菜っ葉の"菜"と鼻緒の"緒"です」
和美と話していたことが役に立った。
俺は考えていた名前を言った。
「菜緒さんですか。いい名前ですね。うちには菜緒って子がいないし、源氏名もそれでいきましょうか?」
「はい、お願いします」
「今日から働いてもらうってことでよろしいですか?」
「はい」
「しばらくは見習い扱いになりますからね」
俺は"菜緒"という名前でキャバクラ嬢になった。

店の中では性的な行為は許されていないそうだ。
それでもバカな客は少なくない。
だから適当にあしらう術を身につけるよう言われた。
それでも、しつこくイヤらしいことをされることは時にはある。
そんなときはホールにいる黒服と呼ばれる男性に助けてもらうことができるそうだ。
さすがにその点は安心だった。
ただし、店の外は個人の判断で行動せよと言うことだ。
ただ、客と一緒に出勤する『同伴』や閉店後につきあう『アフター』などをすれば、その分給料に反映されるのだそうだ。
幾分かリスクはあるようだが、これを利用しない手はない。
さらに、売上の貢献度は一週間単位で発表されてトップ3にはボーナスが出るそうだ。
どれくらいの金額かは教えてもらえなかったが、週単位でボーナスが出れば、それだけでもそれなりの収入になりそうだ。
俄然やる気が出てきた。

俺はキャストと呼ばれる女性たちに紹介された。
「今日から働くことになった菜緒さんです。しばらく見習いで働いてもらいますので、皆さん、フォローをお願いします」
「菜緒です。よろしくお願いいたします」
女性たちは俺に興味を見せるわけでもなく、お喋りに興じたり、必死に化粧していたりしていた。
店が開いてもしばらくは客が来るわけでもなく、キャスト同士でしゃべっているだけだった。
僕はひとりでポツンと座っていた。
やがて9時を迎えるころになると、少しずつお客さんが入りだした。
当然俺を指名してくれるお客がいるわけがない。
店から指示されてお金のあまりなさそうな客の相手をさせられていたくらいだ。

「菜緒さん、ちょっと」
俺はフロアディレクタの香田に呼ばれた。
「ごめんなさい。ちょっと行ってきます」
「すぐに帰ってきてよ」
俺は学生風の客を残し、香田の後に続いた。
「今からお相手をお願いする鈴木様は一流企業の役員です。うちの店ではトップクラスの上客だから顔を覚えてもらっておいて損はありません。とりあえず今日は挨拶だけでもしておいてください」
香田はキャストが4人もついているテーブルで止まった。
俺は脂ぎった腹の出た老人を想像していたが、意外にもスマートな初老の男性が真ん中にいた。
「鈴木様、これが今日入りました菜緒です」
「菜緒です。よろしくお願いします」
俺は丁寧にお辞儀をして、一番離れた席に座った。
「菜緒、そんな遠くに離れてないで、私の隣でお酒を入れてくれないかな」
俺は先輩のキャストに睨まれながら鈴木の隣に座った。
慣れない手つきで酒を入れた。
「菜緒、こういう店は初めてか?」
「はい」
「どうしてこの仕事を選んだ?」
「お金が欲しかったんです」
「ははは、正直な娘だ。菜緒も飲みなさい」
「はい、いただきます」
俺はウイスキの水割りを作り、少しだけ口を塗らした。
「菜緒が好きな物は何だ?」
「サッカーです」
言ってからしまったと思った。
キャバクラではあまりにも異質すぎる。
しかし鈴木はその話に乗ってきた。
「ほぅ〜、女の子には珍しいな。どこのファンなんだ?」
「バルセロナです」
俺は正直に話した。
「おぉ、私もバルサは好きなチームだ」
鈴木の反応はよかった。
俺は気を良くしてサッカー談義で盛り上がった。
ロナウジーニョの名前はキャストの一人は知っていたが、メッシやデコやイニエスタ、プジョルになると鈴木と俺の二人の世界だった。
周りの女性はつまらなそうに座っているだけだ。

「菜緒さん、鈴木様がアフターを希望されてます。菜緒さんは今日が初めてですし、本人が嫌なら無理強いはしないとおっしゃってますが、どうされますか?」
「えっ、こういう場合はどうすればいいんですか?」
「今日の場合は菜緒さんが決めてください。断られても鈴木様は気分を害されるような方ではございませんし、店にも被害が出るわけではありませんので」
「迫られたりしないのでしょうか?」
「それは分かりません。男性をうまくあしらうのもキャストに求められる技術ですから」
「分かりました。それでは鈴木様とご一緒します」
「そうですか。それでは菜緒さんは今日はもうお店の方は結構ですので、鈴木様のところへ行ってください。店の前の車でお待ちですから」

車は都内の一流ホテルに着いた。
そしてそこのスイートルームに通された。
部屋に入るとすぐに鈴木が迫ってきた。
「菜緒。今日初めて会ったのに私の心は菜緒でいっぱいだ」
「どなたにもそんなことをおっしゃっているんでしょ?」
「そんなことはない。今までいろんな女性に出会ったが、菜緒ほど心を奪われた女性はいない」
俺は臭いセリフだと思いながらも、何故かドキドキしてしまっていた。
「鈴木様」
「こんなところに来てまで鈴木様はやめてくれ。裕之でいいよ」
「裕之さん」
俺は目を閉じ、キスを求めた。
鈴木は軽く唇を重ね、俺の肩にかかっている細い紐をずらした。
ドレスの上から乳房を揉みながら、首筋に舌を這わせた。
男からの初めての愛撫に俺は身を硬くしていた。
「菜緒、そんなに硬くならなくていいから」
「えぇ、でも…その……初めてなんです……」
「本当に初めてなのか?」
「ええ」
「初めての相手が私みたいのでもいいか?」
「裕之さんのような方が夢でした」
「お世辞でも嬉しいな。じゃ、ベッドに行こうか」
俺の身体は宙に浮いた。
鈴木が俺をお姫様抱っこしたのだ。
ベッドに下ろされ、俺は鈴木を待った。
鈴木はスーツを脱ぎ、ネクタイを外してから、俺に覆いかぶさってきた。
俺は鈴木の舌の動きに感じていた。

鈴木の前戯は優しく執拗だった。
俺は前戯だけで何度も昇り詰めた。
いよいよ鈴木のものが挿入されるときになると、俺は身体を股を閉じて固くした。
「菜緒、そんなことしてるとできないじゃないか」
「だって、恐いんですもの」
「大丈夫。優しくするから」
鈴木は優しく、しかし強引に俺の股に割って入った。
ペニスを膣口にあてて、ゆっくりと俺の中に入ってきた。
痛みしか感じなかったが、俺は何も言わなかった。
鈴木が動き出した。
最初は痛みだけだったが、徐々に少しだけだが快感らしき物を感じた。
しかし、やはり圧倒的に痛みが強かった。
鈴木はいよいよ発射しそうになると、ペニスを抜き、俺のお腹の辺りに白い液体を発射した。
俺は感じることもなく初体験を終えた。
シーツには破瓜の血がついていた。
「本当に処女だったのか…。まさか処女のキャバクラ嬢がいるとは思わなかったな」
「嘘だと思ってらしたんですか?」
「……まあ、そうだ。悪かった」
「いいです。これからもあたしを指名してくれますか?」
「ああ、もちろんだよ。菜緒は男と女の関係になっても、馴れ馴れしい喋り方しないんだな。そういうところも珍しいよ」
「そうなんですか?よく分からないですけど」
「そんな菜緒だから本気に好きになりそうで恐いよ」
鈴木は俺の頬に優しくキスをした。
俺はそんな鈴木に対し、好意を持っていた。

夜明けに部屋に戻った。
和美は寝ずに待っててくれた。
「遅かったね」
「意外と最初からモテちゃったから」
「まさかお客さんとアフターまでしたんじゃないでしょうね」
「……………」
「えっ、まさか、もう………」
俺は頷いた。
「そんなことにならないように、あの店を紹介したんだけどな。でも菜緒は美人だから仕方がないか」
「ゴメン」
「いいわよ、でも直ちゃんはもう女の子なんだから妊娠する可能性があるのよ。それは忘れないでね」
「あ、そうか。…そうだったわね」
「私がちゃんと女の子になったとき用に用意しておいたピルがあるから、それを飲むといいわ」
「ピルって?」
「避妊薬よ。妊娠しないようにするの」
「分かった。ありがとう」
俺はピルを飲むことにした。

次の日も鈴木は店に来た。
当然のように鈴木は俺を指名してくれた。
その日も鈴木とベッドを共にした。

最初の1週間目には俺は早くも売上3位に食い込んだ。
これも鈴木のおかげだ。

しかし見習いの身で売りを上げたことは悪い影響もあった。
俺への陰湿な苛めが始まったのだ。

化粧室に戻ると鏡に『出て行け!』と口紅で書かれていて、化粧道具が散乱していた。
ロッカーにかけておいたドレスがビリビリに破かれていた。
ヒールが生ゴミと一緒に捨てられていた。
しかし、俺は無視して淡々としていた。
それが彼女たちにとっては余計に腹が立つことだったのだろう。
苛めは執拗に続いた。

一方では売上を順調に上げている俺を確実に囲い込もうと「見習い」の身分は2週間で終わった。
俺は正式のキャストになったのだ。
そうなると、収入もかなり上がった。
売上の順位のボーナルも5倍ほどの金額になったのだ。

ある日、早めに店に入ると、俺のロッカーを荒らしている奴がいた。
麻奈美だった。
「何してんのよ。ガキみたいな悪戯が続いてるけどあなたの仕業だったのね」
「そうよ、あたしよ。でもアンタが悪いんだからね。あたしのお客を奪うなんて許さないんだから」
俺が来るまでは鈴木は麻奈美の客だったらしい。
鈴木を俺に取られた上に売上トップ3の座からも外れてしまったそうだ。
どうやらその腹癒せのためにやっていたらしい。


この世界は売りを上げているキャストの方が店の中では発言力がある。
俺はフロアディレクタの香田に言って、麻奈美をこの店から追い出すように言った。
さすがに香田としてはやめさせるまではいかなかったようだが、それなりに釘を刺してくれたようだ。
次の日から嫌がらせはピタッと収まった。

俺は今回は強権を使ったが、周りを懐柔する作戦を取ることにした。
そうでないと女同士というのは何かと陰湿なのだ。
嫌な相手だと全く協力しようとしないばかりか邪魔さえしてくる。

俺は店では新人なので、できるだけ先輩を立てるように気を配った。
そもそも運動部に入っていたため、自然と先輩を立てるのは身についている。
できるだけでしゃばらずに、しかも慇懃無礼にならない程度に新人としての行動を心がけた。
まず誰よりも早く来て化粧室の掃除をした。
パシリのようなことも文句も言わずにした。
話をするときも決してタメ口では話さず、丁寧語で話すように心がけた。
お陰で少しずつだが俺への風当たりは弱まって行った。

俺は店ではスポーツネタを話せるキャバ嬢として結構指名されるようになっていた。
ここでも客の顔を潰さないように気を配った。
ある程度、名前が売れると俺がスポーツの話ができる女性だという前提で話をしてくる。
質問されれば普通に答えればいいんだけど、これ見よがしに見当外れのことを言う客も中にはいる(こういう人種が結構多いのだ、これが)。
こういう客であっても「そういう見方もあるんですね」と感心したように相手をするのだ。
そうすると客は結構喜んでくれるのだ。

売上を伸ばすため、鈴木以外とも同伴やアフターをやった。
そして、鈴木以外とも寝るようになった。
初めの頃はただただ相手に身を任せて、感じている振りをしているだけだった。
ただ、女性がどう反応すれば、男が喜ぶかを分かっているのは俺の優位な点だった。
おかげで俺のアフターはかなり忙しくなった。
童貞の男の子を相手にしたときに初めてフェラチオをした。
さすがに初めてのフェラチオのときには抵抗感があったが、慣れてしまえば何てことはなかった。
むしろ男性の反応が面白く、大好きな行為になった。
俺の強みとしてどこを刺激すればどういう感じているのかが感覚として分かるのだ。
だからどんどんフェラチオがうまくなった。
同時にどんどんフェラチオの魅力にはまっていった。

こういう地道な努力と少しずつ上達したセックス技術の結果、3ヶ月目には売上トップになることができた。
おかげで収入もアップした。

それに加えて、店に分からないように鈴木からは小遣いをもらっている。
小遣いと言ってもおそらくサラリーマンのひと月分の給料よりも多い額だ。
それを毎月もらっているのだ。
俺は衣装や化粧品など"必要経費"以外は徹底的に貯金した。
俺は手段を選ばずに和美のために金を貯めた。


和美とは同じ部屋で暮らす女友達のような関係になっていた。
もう性的な関係はない。
和美によれば、俺の女度はかなり上がっているらしいのだ。
「直ちゃんはもうすっかり女性になっちゃったんだよね」
ある日、寂しそうに呟いた言葉が心に刺さっていた。


キャバクラに勤め始めて半年ほどで和美の薬を買えるくらいのお金が貯まった。
俺は和美のために薬を買った。
それを飲み、和美はやっと女になれた。
「ありがとう。次は直ちゃんが男に戻る番だね」
俺はその言葉に何も答えずに笑顔を返すだけだった。


それから半年後、俺は相変わらず女のままだ。
まだ解毒薬を買えるほどお金が貯まっていないこともある。
でもすでに解毒薬を買う気はなくなっていた。

「いらっしゃいませ、菜緒でぇ〜す。よろしくお願いしまぁ〜す♪」
今日も鼻にかかった甘い声で客の心をもてあそんで、金を稼いでいる。

確かに最初は金を稼ぐだけが目的だった。
でも今は女としてチヤホヤされるのが楽しくなっていた。
俺の胸や脚をイやらしく見られるのが好きだった。
男から性の対象として見られることに喜びを感じるようになっていたのだ。
そして男に突かれることが何より好きだった。
鈴木というステディがいることも大きかった。
心のどこかで鈴木からプロポーズされることを期待していた。
安定した生活への期待と自由奔放なセックスを楽しむこと。

俺は身も心も女になっていた。


《完》

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