ドリームパラダイス



「ねえ、女の子になってみない?」
猪上久樹が日曜退屈しのぎに街を歩いていると女にそう話しかけられた。
「えっ?」
(何、言ってんだ、この人?)
不審に思いつつも足を止めてしまった。
「そう、あなた。女の子になってみない?」
久々の獲物だったのだろう。
女は"逃さないわよ"という意志を前面に押し出して迫ってきた。

久樹がこんな誘いに興味を持ったのは理由がある。
単純な理由だが、久樹はTS好きだったのだ。
インターネットでTSサイトを見つけては読み漁り、マスターベーションに励んでいた。
女装にも強い関心があった。
これまでの人生の中で数回スカートを履いたことがあった。
家族全員が出払ったときに姉のスカートを履いてみたりしたのだ。
しかし運動して筋肉が発達した身体にはスカートは合わなかった。
鏡に映した姿は自分でも見られたものではなかった。
それでもスカートの感触は楽しくスカートを履いたままテレビを見たりしていた。
しかしそれ以上進むことはなかった。
社会人になって一人暮らしを始めても女装はしなかった。
ただインターネットでTSサイトを見つけてはROMっていただけだった。
そういう久樹だから怪しいと思いながらも女の言葉は魅力的に響いたのだ。

「女の子になるってったってこの身体ですよ。化物になるだけでしょ」
「そんなことないって。君みたいな運動系でガッチリした体格でも小柄で華奢な女の子になれるんだから」
「手術…でもするんですか?」
「そんなの街角で声をかけるわけないじゃない。おかしな人ね」
「それじゃ薬とか…」
「そんな薬って存在するの?少なくとも私は知らないわ」
「じゃあ、どうやって?」
「興味あるのね?じゃあ一緒に来て」

連れて行かれたのはコスプレの店のようだった。
店の名前は『ドリームパラダイス』だった。
センスの欠片も感じられない名前だ。
でもこんな店にセンスなんか必要ないんだろう。
久樹を連れてきた女は店の者に「このお客さんは女役だから」と小声で伝えていた。
女は端末の前に座った。
「それじゃ私の横に座って。まずはあなたがどんな女性になりたいかを決めてもらうわね。どんな女性が好きなの?」
「そうだな、柴崎コウと宮崎あおいと志田未来…かな」
「なんかちょっとバラバラね」
そう言いながら女はキーボードから3人の女優の名前を入力した。
すると画面に6人の女性の写真が表示された。
どの子も可愛い久樹好みの女性だった。
「何番の子が好き?」
「うーん、迷うな。……3番…かな?」
「それじゃ3番。髪型はどんな感じかな?」
「このままでいいっすよ」
軽くカールがかかった肩にかかる長さだった。
「服装は?」
「そりゃ女の子と言ったら女子高生でしょ?そこは外せないね、絶対」
「セーラー服?それともブレザー?」
「もちろんセーラー服。体操服にブルマも捨てがたいけどね」
「それでは処方箋ができたから、こっちに来て」
久樹は一昔前の公衆電話の電話ボックスのようなものに入れられた。
「それじゃその中で服を脱いでね。下着も全部脱いで置いてある籠の中に入れておいてね」
久樹は言われた通り着ている物を脱いで籠に入れた。
「それじゃ行くわよ。ちょっと強い光が当たるから、しっかり目をつぶっててね」
久樹は目を閉じた。
フラッシュのような光があった。
「はい、変身完了よ。出てきていいわよ」
久樹は妙な違和感を感じながら電話ボックスもどきから出た。
「こっちに来て」
女は久樹の手を引いて鏡の前に立たせた。

「えぇぇ!」
久樹は思わず声を出してしまった。
鏡に映っていたのはさっき選んだ3番の女性だった。
セーラー服を着た3番の女性が自分のことをじっと見ている。
「どう?気に入った?」
久樹は女の顔を見た。
そのときさっき感じた違和感の原因が分かった。
久樹の身長は178センチあった。
したがって女の顔はやや見下ろし気味に見ていたのだ。
しかし今はほとんど同じ高さになっている。
20センチほど低くなったわけだ。
視点の高さの変化を違和感として感じたのだった。
「これってどうやって?」
発した声に久樹自身が驚いた。
(女の子の声だ)
久樹は自分が綺麗な女の子になったことで気持ちが弾んでいた。
「詳しい仕組みは私も分かんないんだけど、着ぐるみを着てるみたいなものらしいわ」
どんな仕組みなのかが知りたかったが、それ以上に早くこの身体で動き回りたかった。
「それじゃこの店のシステムを説明するわね。このドアの向こうはレストランバーになってるの。食べ物はバイキング形式。女の子役のお客さんは何を食べても何を飲んでも自由。その代わり、殿方の相手をしてあげてね。ここに来るお客さんは元男の子の女の子が大好きなお客さんばかりなの。お金は男のお客さんからもらってるから女の子役のお客さんはいらないの。簡単に言えば、女の子になりたいお客さんに無料でホステスをやってもらってるって考えると、あなたも遠慮せずに食べたり飲んだりできるでしょ?」
女は久樹が理解しているのかを確認するように久樹の顔をじっと見た。
久樹はあまり話を聞いてなかったが、肯いた。
女の子になれた嬉しさで心ここにあらずの状態だった。
女はなおも説明を続けていたが、久樹はその後の話もほとんど聞いていなかった。
「…ということ。分かった?」
「は…はいっ」
「それじゃ女の子を楽しんで来てね」

久樹はドアを開けた。
入ると店員らしき男に声をかけられた。
「それでは十分にお楽しみください。飲み物も食べ物もご自由にどうぞ」
男の声に押されるように久樹は店の中に入って行った。

一斉に男たちの視線が久樹に集まった。
(見られてる、見られてる)
久樹は自分へ集まる視線を感じていた。
店の中は圧倒的に男のほうが多かった。
(確かに女の数が少ないや。だから女役をする男を捜していたんだな)
久樹は次から次へ男に話しかけられた。
久樹は男たちを適当にあしらいながら、腹いっぱい料理を食べた。
お腹が落ち着くと、カウンターに行きビールを飲んでいた。

「ここ、いいかな?」
久樹と同じくらいのサラリーマンっぽい男性だった。
「別にいいよ」
久樹は男のことはほとんど気にせずビールを飲んでいた。
「高校生がビールなんか飲んでいいのかな?」
「いいんだよ、実年齢は余裕で成人なんだから」
久樹は残っていたビールを一気に飲んだ。
それを見た男は店員に声をかけた。
「マスター。僕と彼女にいつものやつ、頼むよ」
出てきたのはカクテルグラスに入った青いカクテルだった。
「俺はカクテルはあんまり飲まないんだけどなぁ」
「まあそう言わずにつきあってよ」
「まあいいか」
「それじゃ君と僕との出会いに乾杯!」
「はいはい、乾杯っと!」
久樹は一気にカクテルを飲んだ。
とても口当たりのいいカクテルだった。
「君の名前は?」
「久樹だよ」
「男のときの名前じゃなくって女の君の名前だよ」
「久子でも久美(ヒサミ)でも何でもいいぜ。好きに呼んでくれ」
「それじゃ久美(ヒサミ)と書いて久美(クミ)でいいかな?」
「はいはい、どうぞ。それにしても中身が男だって知ってて口説くんだ。世の中には変わった男がいるんだね?」
「そういう君だって男なのにそんな格好してるんだろ?」
「知らなかったんだよ、こんな店だなんて。でも…」
「でも?」
「でもうまいものが食えるし、うまい酒も飲めるし、最高だね…」
久樹は急に強烈な睡魔に襲われた。
「……酒になんか入れたのか?」
「僕特性のオリジナルカクテルだよ、睡眠薬入りのね。あんまり暴力で女性をモノにするなんて僕の性に合わないんでね。かと言って君は素直には抱かれるタイプには見えないんでね」
「俺は男だぞ」
「今は可愛い女子高生だろ?」
「うるさ…」
久樹は机のところに突っ伏してしまった。

男は久樹を軽々と隣のベッドルームのひとつに連れ込んだ。
「それじゃいただくとしますか」
男は久樹の着ている服をゆっくりと脱がせた。

久樹は意識が戻るにつれ、胸の辺りに不思議な感覚を覚えた。
「おっ、気がついたのか?」
さっきの男が久樹の胸を揉んでいたのだ。
久樹はすでに全裸にされていた。
「やめろ。離してくれ」
「お前は女役なんだろ?誰かに抱かれなきゃお前はこの店から出られないんだぜ」
「そう…なのか?」
「お前、何も知らないのに女になったのか?馬鹿だな」
「…道で声をかけられたから……」
「でも店の人間から説明があったはずだぞ」
「あったといえばあったけど…」
「どうせ女になれたことに浮かれて話を聞いていなかったんだろ」
「…」
「まあいいや。俺が簡単に説明してやる。ここは男が女を抱きに来る店だ。ただし女と言ってもお前のように中身が男だ。男に科学的なはりぼてを着せて女にするらしいんだ。言い換えると生きたダッチワイフなんだ、お前たちは。いくら美人でも中身は男だし、妊娠の心配はない。しかし感触は女そのものなんだ。俺はやったことがないから知らないが、女役の男も本物の女のような快感を感じることができるらしい。つまり男も女役の男も楽しめるってわけだ。ホステスを雇う必要もないし、人件費はかからない。場所を提供してるだけで、あとは好き者の男を集めれば儲かるってことさ。なかなかいいシステムを作ったもんだな、この店も」
男は少し間を取って話を続けた。
「女側は無料だが誰かに抱かれなきゃいけない。そうでないと店から出ることは許されない。相手の申し出に使える拒否権は2度まで。3度目はどんな野郎であっても抱かれないといけないんだ。本当に知らなかったのか?」
「…ああ…」
「俺は拒否されるのが嫌いでね。だからバーテンに金を渡していつも気に入った女に特製カクテルをプレゼントするんだ。久美は可愛いし、俺好みだったからな」

男は話をしながらも久樹の身体を撫でていた。
そしてついに男の手が久樹の秘部に滑り込んだ。
「…あああああ……」
久樹は突然の感覚に大声を出した。
「どうだ?クリトリスに触られた感覚は?女が感じるのと全く同じらしいぜ」
男は久樹のクリトリスに刺激を与え続けた。
「あああああ…もう……もう…やめてくれ……おかしくなる……」
久樹は快感で何も考えられない状態だった。
苦しささえ感じた。

男が久樹の膝の裏に手をやり大きく股を広げさせた。
「それじゃ天国に連れてってやるぜ」
男のペニスが久樹の中に入ってきた。
「あああああぁぁぁぁ……いい……」
久樹は初めて感じる被挿入感に気持ちよさを感じていた。
クリトリスを触られたほうが快感が強いのだが、入れられるのは静かな気持ちよさがあった。
久樹の膣は男のペニスを全て飲み込んだ。
(実際はどこに入れられているんだろう?)
久樹は気持ち良さに喘ぎながらも頭の片隅でそんなことを冷静に考えていた。
「どうだ?初めて男のものを銜え込んだ感想は?」
「…んっ…気持ちいい」
「男のくせに男に入れられて感じるなんて俺には理解できないけどな」
「今は女だよ」
「でも中身は男だろ?気持ち悪くないのか?」
「そんなことを言ったってお前もその男を抱いているんだぞ」
「俺から見ればお前は女だよ。それじゃそろそろ動いていいか」
男が腰を動かした。
久樹は男を抱きしめた。
抽送が生み出す快感は久樹の身体と心をバラバラにしてしまうかのようだった。
久樹はどこにも行ってしまわないように男にしがみついていたのだ。
男のペニスが何度も奥の壁を打つ。
その度に意識が飛んでしまいそうになる。
男の動きが激しくなった。
「早く…早く…いってくれ…」
久樹は男をさらに強く抱きしめた。
男のペニスから熱いものが放たれた。
久樹は痙攣して気を失った。

久樹が気を取り戻すと目の前に男の顔があった。
「もう一回やるか?」
男が久樹の股間に手をあてた。
「誰が!」
久樹は口ではそう言ったが、男の手を払いのけようとはしなかった。
(もう一回やりたい)
そう考えていたのだ。
男の指がクリトリスに触れる。
「…ぁふ……」
久樹が溜息とも喘ぎ声ともつかない反応をした。
「それじゃやめてもいいんだぜ」
「……」
「やるのか?やめるか?」
「…やりたい……」
「最初からそう言えばいいんだよ」
男がクリトリスをもてあそんだ。
久樹はあっという間に軽くいってしまった。

気がつくと男の指が膣に入っていた。
そしてゆっくりと指を出し入れした。
久樹は物足りなさを感じた。
「…ぁぁぁぁ…指じゃなくてあれを入れてくれ……」
「もうスケベエな女になったのか、すごい適応力だな」
「…じらさないでくれよ…早く入れてくれ……」
「女らしくお願いしてみろよ。そうでないと白けるだろ?」
「…」
「ならやめてもいいんだぜ」
久樹は躊躇した。
「女を演じるつもりでやればいいんだよ」
久樹は男に言われたように女を演じようとした。
「…お願い…あなたのペニスが欲しい…の……」
意外と特別な違和感もなく女の言葉を発することができた。
「堕ちるのが早いな。もう少し焦らしてみようか」
「いやっ……早く……入れて……」
久樹は自分が女を演じることで、より興奮してきた。
「なら女らしく喘いでくれよ」
再び男のペニスが久樹の中に入ってきた。
「…ん……ぃぃ……」
男がゆっくりゆっくり久樹の反応をうかがうように動いた。
久樹は男にジッと見られている恥ずかしさと股間からの沸きあがる快感にものすごく感じて、昇りかけたときだった。
『ピピピピピピピ』
部屋のどこからか電子音がした。
「何だ、もう時間切れか。おい早く戻れ。そうじゃないと延長料金取られる」
男が慌ててペニスを抜いた。
「…ぃゃ…もっとして…」
久樹は手で男のペニスを追った。
「馬鹿か、お前。延長は30分単位で10000円だ。1秒オーバーでも10000円取られるんだ。今俺は金がないんだ。早く出て行ってくれ」
「そうなの?」
「ああそうだ。つべこべ言わずに早く出てくれ」

久樹はボゥーッとした頭で、それでもそれなりに急いで服を着て部屋を出た。
それでも少し超過してしまったようだ。
部屋の中からはマイクからの男の声が聞こえてきた。
「志水様、お相手の女性の方の超過料金としてプラス10000円いただくことになります」
「そんなの払えねえよ」
久樹がさっきまで相手をしていた志水とかいう男が文句を言っているのを聞きながら、久樹は出口に向かった。

出口を出るとさっきの女が待っていた。
「どうだった?楽しめた?」
「ああ、まあ」
久樹はまた電話ボックスのようなところに入り、フラッシュを浴びると男に戻っていた。
自分の服を着て電話ボックスから出た。
「気に入ったらまた来てね」
女の声を聞きながら店から出た。

店を出るといつものような雑踏の中にいた。
店のほうを振り返ると『ドリームパラダイス』という看板が見えた。
まさに久樹は夢を見ていたような気分だ。
自分があんな可愛い女の子になって男のペニスを受け入れていたなんて。
ついさっきの出来事が全くの夢のようにしか思えなかったのだ。
(いい店を知ったな)
久樹は絶対にまた来ようと思っていた。


次の日の月曜、久樹は仕事どころではなかった。
朝起きたときから昨日の店に行きたくて仕方なかったのだ。
少しくらい間をあけたほうがいいと思わないでもなかった。
しかし、湧き上がる欲求に自分を抑えることができなかった。
残業すべき仕事はあったが、久樹は外せない用があると言い訳をしてすぐに会社を出た。

店に入ると、昨日久樹に声をかけた女性がいた。
昨日は気がつかなかったが、胸に名札がついていて、そこには『亜美』と書かれていた。

「いらっしゃい。今日も来てくれたんだ」
「うん、昨日楽しかったから」
「でもあんまりはまったらダメよ。一時的にでも女性になると精神的にも肉体的にも影響が出ちゃうから」
「そうなんすか?」
「そりゃそうよ。あなただって女の感触が忘れられなくってきたんでしょ?そのうち性の対象そのものが男になっちゃうかもしれないわよ」
「まさか」
そう言いながらもそういう可能性もあるかもなと思った。
「今日はどんな女の子になる?」
「昨日と一緒でいいです。ただし服装はこんな感じで」
久樹は雑誌のグラビアアイドルの写真を出した。
そこには10代の少女が着るようなキャミソールとマイクロミニスカートを履いたグラビアアイドルが映っていた。
「へぇ、こんなの用意してきたんだ。やる気満々じゃない」
久樹は恥ずかしくてさっさと電話ボックスの中に入って全裸になった。
フラッシュを浴び希望通りの服装になっていることを確認した。
「これでよかった?」
「うん、想像通り」
久樹は鏡を見ながら嬉しそうにポーズを取ったりしていた。
「それじゃ行ってきます」
ひとしきり鏡に映る自分の姿を楽しんでから店に入った。

店に入ると一人のメイド服を着た少女が久樹のところに寄ってきた。
その少女は可愛い声で久樹に話しかけてきた。
「久美か?」
「誰?…ぁ…まさか…」
「ああ、そうだよ。昨日お前の相手をした男だよ。お前が時間に間に合わなかったから、このザマさ。昨日からホステス役をやらされてるんだよ」
「へえ、そんな格好が趣味だったんだ」
「俺の好みじゃないよ。店のやつが決めたんだ、こういうのが客が喜ぶってな」
「へぇ、そうなんだ」
「お前のせいでこうなったんだぞ」
「ギリギリまでやってるお前も悪いんだろ?ところでお前の名前は何て言うんだ?」
「志水勇太だから、今は優子だよ」
「へええ、優子ちゃんか。優子ちゃんって本当に可愛いな。明日は男でやってきて相手してもらおうかな」
「よせよ、気持ち悪い」
久樹と勇太が話をしていると中年の男が勇太に声をかけた。
「おい、そこのメイド姿の女。俺の相手をしてくれるか?」
「今、こいつと話してるからちょっと待ってくれないか?」
「さっきから何人かの誘いを断ってるよな?店の奴に言ってもいいか?」
「分かったよ、すぐ行くよ。それじゃまた後でな」
勇太は男の腕を取って部屋に入って行った。

久樹は昨日と同じように適当に食事を取って男からの誘いに備えた。
最初に久樹に声をかけてきたのは中年お脂ぎったおっさんだった。
適当にあしらってお引取り願った。
次に声をかけてきたのは金を持っていそうな30歳くらいの男だった。
(これくらいの男ならいいかな?)
昨日と違い男の品定めをする余裕のあった。
顔もそれなりにいい感じで男目線ではいい男に見えた。
この男を断ってろくでもない男の相手をするのは避けたかった。
久樹はこの男にすることに決めた。

「名前は?」
「女としての?」
「もちろん。男の名前なんて知りたくもないからな」
「久美」
「久美か、いい名前だ。それじゃ久美、俺の相手をしてくれるか?」
「いいよ」
「できれば女らしくしてくれたほうがうれしいな」
「分かったわ。ところでわたしはあなたを何て呼べばいいの?」
「久嗣と呼んでくれ」
「それじゃ久嗣さん、いきましょ」
久樹は自分の意識のままで女らしくするより、俳優になったつもりで女を演じればそれほど恥ずかしくないことを昨日の経験で分かっていた。
久嗣は久樹の腰に手を回し部屋に導いた。

部屋に入ると久嗣はすぐに久樹を抱きしめた。
そして唇を重ねてきた。
久樹は男の熱いキスに応えた。
久嗣のキスは執拗だった。
久樹はキスだけですごく感じた。
キスだけでこんなに感じるなんて知らなかった。
久樹の神経は唇に集まったようだった。
久嗣に抱きしめられていないとそのまま崩れ落ちてしまうほど全身から力が抜けていた。
実際、久嗣が唇を離したとき久樹はベッドに崩れ落ちた。

久嗣はその後も執拗だった。
久樹の頭から足の先まで手で口で性器で刺激を与えられた。
前戯の途中にアラームが鳴った。
「2時間延長してくれ」
久嗣は言った。
「了解しました」
スピーカーからそんな返事が返ってきた。
(まだ2時間もやるのか)
久嗣の愛撫がもたらす快感に溺れていた久樹はそんなことを考えていた。

長い長い前戯ですでに女としての快感に身も心もクタクタだった。
やっと久嗣のペニスが入ってきた。
昨日の男ほどの硬さはなかった。
しかし久嗣の抽送は長かった。
しかも久樹の様子をうかがいながら強弱をつけているようだった。
久嗣はなかなかいかなかった。
一方久樹は何度も絶頂に達した。
長い長い抽送の後、久嗣が久樹の中で爆発した。
(やっと終わった…)
久樹は正直ホッとした。

「まだまだバテるなよ」
久嗣は久樹の中で萎えかけた状態で再度ゆっくりと腰を動かし始めた。
(えっ!?)
久樹が驚いているのもお構いなしに久嗣は腰を動かした。
ゆっくりゆっくりと。
久嗣の萎えていたペニスは久樹の中で元の状態に戻りつつあった。
それからも久樹は久嗣のもたらす快感に飲まれていた。

ようやく久嗣から解放された。
(女って抱かれる男によって全然感じ方が違うんだな)
久樹に戻ってからも久嗣とのセックスの疲れと気だるさを感じながら家路を急いだ。


水曜、木曜は仕事の都合でどうしても行くことができなかった。
そして金曜日、久樹が店にいくと、すぐに店の中に勇太の姿を見つけた。
「あれ?一昨日で終わりじゃなかったの?」
久樹はわざと女言葉で話しかけた。
「えっ…ああ…まあそうなんだけど…」
勇太は困ったような顔をしている。
「女になりたい男なんて理解できないって言ってたんじゃなかったの?そう言えばダッチワイフとも言ってなかったっけ?」
「悪かったよ。俺も女になりたい変態男だよ」
「そんな乱暴な言葉遣いしないでよ。女同士仲良くしましょ」
勇太は恥ずかしそうに久樹のほうを向いた。
「うん、そうね」
勇太ははにかみながらそう言った。
久樹たちが話をしていると筋肉隆々の男が近づいてきた。
「お前ら、知り合いか?」
「ええ、そうよ」
「俺の相手を頼めないか?」
「わたし?それともこの子?」
「二人ともだ」
久樹と勇太は顔を見合わせた。
二人とも面白そうと思ったのかすぐに頷きあった。
「わたしたちはいいわよ。でもこの店としてはいいのかしら?」
「それは俺から了解を取るから問題はない」
久樹と勇太は男のあとについて部屋に入った。
男はすぐに電話をかけた。
「山田だ。3Pすることにした。…ああ、分かってる。オプション料金は支払う」
男は電話を切ると久樹たちのほうを見た。
「それじゃお前たち二人でレズってもらおうか」
久樹と勇太は顔を見合わせた。
「私たち二人だけ?」
「ああそうだ。俺は適当なタイミングで参加させてもらうから遠慮せず二人で楽しんでいいぜ」
久樹と勇太は着ている物を全て脱いだ。
「どっちがタチやる?」
勇太が聞いた。
「そりゃもちろん前回と交代しなくちゃね」
「えっ?どういう…」
勇太が言い終わらないうちに久樹は勇太をベッドに押し倒した。
「この前はわたしが志水さんに犯されたものね?」
「それはちょっと違うんじゃ…」
「細かいことは気にしないの」
久樹は勇太の柔らかい乳房に手のひらをあて大きく円を描いた。
「…ぁぁぁ……」
「優子、感じるの?」
「……ん……」
「優子って可愛い」
久樹は思わず言った。
そして勇太にキスをした。
勇太の唇はとても柔らかかった。
久樹自身の唇も柔らかいので余計にそう感じるのかもしれない。
久樹は自分の乳房を勇太の乳房に重ねて身体を動かした。
二人の間の乳房が形を変えている。
乳首が擦れあったときに身体に電流が流れたような快感が走る。
久樹も勇太も喘ぎ声をあげた。
久樹が勇太の股間に手をやるとそこはおしっこをしたようにぐっしょりと濡れていた。
「優子、すっごい濡れてるわよ」
勇太には久樹の声が届いてないようだった。
自分の世界に入り込んでヨガっていた。

「久美、優子にクンニしてやれ」
背後から男の声がした。
「はい」
久樹は小さな声で返事をして、優子の股間に顔をうずめた。
部屋の明かりはついたままだったので、勇太のオマンコをはっきりと見ることができた。
自ら出した分泌液でグッショリと濡れていた。
「優子、舐めてあげるね」
久樹は勇太の割れ目に舌を這わせた。
「あああああああ……」
勇太は大きな声をあげた。
「うるさいな。ちょっと静かにしてもらおうか。これでも銜えときな」
いつの間に男が近づいてきていて、勇太の顔に自分のペニスをあてていた。
「ほら、早く銜えろよ」
勇太は男のペニスを口に入れた。
久樹はそんな様子を感じながらも勇太のオマンコを舐め続けた。
「…んぐっ……んんん……」
勇太が声を出そうとしても男のペニスを口に銜えているので声を発することができなかった。
勇太は腰を浮かすようにして久樹の顔に股間を強く押し当てたかと思うと低い呻き声を出して痙攣した。
「いったか」
男は勇太の口からペニスを抜くと久樹の前にやってきた。
「それじゃ今度は久美がフェラチオしてくれ」
久樹は勇太の股間から顔を離し上半身を起こして男のペニスを見つめた。
久樹は今日までフェラチオをやったことがなかったのだ。
(チンポなんか銜えられるか!)
男は無理やり久樹の口に入れようとした。
久樹の唇に男のペニスが当たり、いやな匂いが鼻をついた。
久樹は入れられまいと口を真一文字に閉じた。
「なんだ、フェラチオは嫌いなのか?」
男はニヤッと笑って久樹の乳首を指で弾いた。
「痛っ…んぐ…」
久樹の口がわずかに開いた瞬間、男はペニスを久樹の口に押し入れた。
(変な味がする)
男は久樹の顔に腰を押し当てた。
口に広がる味や匂いもいやだったが、陰毛が鼻にあたるのもいやだった。
久樹は男から離れようと男の腰を持って男を押し離そうとしたが女の力では何の効果もなかった。
ペニスだけでも押し出そうと口の中に入ったペニスを舌で押し出そうともがいた。
「嫌がってた割にはなかなかうまいじゃないか」
男には適当な刺激になったようだ。
男のペニスから塩辛いものが出てきた。
「おお、出そうだ」
男が両手で久樹の頭を抱きしめ股間から離れないようにした。
「出たものを全部飲めよ」
男のペニスから大量の精子が出た。
久樹は飲み込むことができずほとんど吐き出した。
「せっかく俺の出したものを飲めないのか」
男は相変わらずニタニタ笑っていた。

久樹は口から男の出した精子がこぼれ出た。
久樹を気持ち悪くて飲み込むことも拭うこともできなかった。
「優子、久美の口を綺麗にしてやれ」
勇太は久樹の唇に舌を這わせた。
「…ぁ……」
勇太の舌に舐められるのは気持ち良かった。
久樹にとっては男よりも勇太との関係のほうが心地よかった。
久樹の身体から力が抜けていった。
勇太は久樹の身体を静かに倒した。
そして、久樹のありとあらゆる箇所に舌を這わせた。
久樹が勇太の舌技に翻弄されていると、急に股間に侵入物があった。
男のペニスが久樹を貫いたのだ。
「お前らのレズプレイはなかなか興奮するぜ」
久樹は男が疎ましかった。
せっかく勇太とのプレイを楽しんでいるのに、それを邪魔するものに怒りさえ覚えた。
しかしペニスが生み出す暴力的な快感の前に久樹は無力だった。
次第にその快感に飲み込まれていった。


男との交わりが終わり、久樹と勇太は二人揃って部屋を出た。
「優子、女同士ってのもよかったわね」
「うん、そうね」
「ここじゃすぐ誰かに声かけられるからどこかに行かない?」
久樹は勇太ともう少し楽しみたかった。
そこで店の外で勇太との時間を持ちたかったのだ。
「いいのかしら?」
「いいって、いいって」
久樹と勇太は一緒にレストランバーから出た。
「一応亜美さんに言っておいたほうがいいかもね」
久樹は亜美に声をかけた。
「ねえ、亜美さん、このまま外に出ていい?」
「ダメよ、絶対」
亜美は強く否定した。
「そんなこと言わないで。いいじゃない?ね?」
「ダメだったらダメ」
亜美がそんなに強く否定することに二人は少したじろいだ。
「やっぱりやめたほうがいいんじゃない?」
「いいっていいって。後で謝ればいいんだし」
久樹と勇太は亜美の言葉を無視して、店の外に出た。

「きゃああああ」
近くにいた女が悲鳴を上げた。
「変態よ」
「変態」
「警察を呼べ」
周りが自分たちを見て騒いでいる。
「優子、何騒いでいるのかしら?」
久樹は勇太のほうを見た。
そこには全裸の勇太が立っていた。
優子から勇太へ戻っていた。
もちろん久樹も男に戻り全裸だった。
店の中から亜美の声が聞こえてきた。
「あなたたち、ダメよ。女の子でいられるのはこの店の中だけなんだから」


《完》

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