スリー・デイズ・エクスチェンジ



「ねぇ、お願い。数学を落としたら卒業できないの」
高本紗恵は箕島和彦に必死に懇願していた。
今は2月。
高校最後のテストが終わり、明日から卒業式までテスト休みだ。
しかし紗恵は数学の追試が決定していたのだ。
学校からの帰り、和彦は紗恵に捕まっていたのだった。
「それよりそんなこと本当にできるのか?」
「だっておまじないのサイトに紹介されてたんだもん」
「紹介されてても試そうなんて奴はいないだろ?」
「いるよ、ここに」
紗恵は自慢気に自分を指差した。
「できるわけないだろ?」
「だったらもしできたらやってくれる?」
「ああいいよ。もしできるんだったらな」
和彦は紗恵の言葉にしたがってやることにした。

和彦と紗恵は家が隣同士の幼馴染みだ。
幼いころはいつも一緒だった。
同い年なのだが、成績が優秀でクラス委員に選ばれる和彦。
成績がイマイチでおっちょこちょいで甘えん坊の紗恵。
そんな二人だからどうしても和彦がイニシアティブを取らざるをえなかった。
まさに兄妹のような関係だった。
そんな和彦だからこそ紗恵の馬鹿な申し出にもつき合ってやることにしたのだ。

勉強ができルックスもそれなりの和彦は何度かの交際経験はあった。
今でも山田千穂というガールフレンドがいた。
それに対し恋愛に奥手な紗恵はまだ恋愛には興味がないようだった。
男の子と話するより女の子同士でキャッキャッ話しているほうが良さそうだった。

和彦は紗恵に連れられて彼女の家にきた。
「さあ入って入って」
「お邪魔します」
「そんなのいいからいいから」
「そんなのって一応マナーだろうが。親しき仲にも礼儀ありってお前知らないのか?」
紗恵の両親は共働きで家には紗恵以外いないことは知っていたが、やはり他人の家にきたときには一言いわなければいけないという意識が和彦にはあった。
そんな和彦の性格は紗恵には理解できないのだろう。

和彦は2階の紗恵の部屋に入った。
「相変わらずお前の部屋ってちらかってるなあ」
実際はそれほどちらかっているわけではないのだが、漫画が読んだままであろう位置に放置されていたり、起きたまま捲り上がっているベッドの布団に紗恵のだらしなさが表れているような気がしたのだ。
「どうせあたしは山田さんほど女らしくないですよーっだ」
紗恵はあっかんべえした。
確かに紗恵は千穂ほど女らしいとは言い難かった。
千穂は美人で成績も優秀だった。
才色兼備とはまさに彼女のためにある言葉だった。
髪はストレートで背中の真ん中くらいまであり、制服の下に隠れたボディラインも見事なものだった。
和彦も千穂もクラス委員でいつも一緒にいた。
そんな時間が二人の距離を縮めることになり交際がスタートしたのだ。
高2のときからだから1年半ほどになる。
キスまでの仲でなかなかその先に踏み込めずにいた。

紗恵が水の入ったコップを2つ持ってきた。
「利き手の人差し指を出して」
和彦が右の手のひらを上にして前に差し出した。
「軽く刺すけど我慢してね」
紗恵は持っていた針で和彦の人差し指の先を軽く刺した。
「じゃ血を目の前のコップに入れて」
「ふたつともか?」
「ううん、ひとつだけでいい」
和彦が人差し指から出た血をコップの水に垂らした。
血はゆっくりと水に広がっていった。
紗恵も同じように人差し指を針で刺し、出てきた血を別のコップに垂らした。
そして2つのコップを魔方陣のような模様が書かれたところに置いた。
「それじゃ自分の血が入ったコップを持って一緒にこの呪文2回を言うのよ」
紗恵が差し出した紙には『ナサニラムハヤ』と書かれていた。
「分かったよ」
紗恵と和彦は「ナサニラムハヤ ナサニラムハヤ」と唱えた。
「それじゃあたしは和ちゃんの血の入った水を飲むから、和ちゃんはあたしの血が入ったのを飲んでね。一気によ」
「分かったって」
二人は一気に血の混ざったコップの水を飲んだ。
しかし何も起こらなかった。
「あれぇ?おかしいなあ」
「だから言っただろ?そんなことはありえないって。大体自分の追試を他人に受けてもらおうっていうのが甘いんだよ」
「そりゃまあそんなんだけど…。しゃあない、自分で頑張るとするか」
「って言っても明日なんだぜ。大丈夫か?」
「…大丈夫…じゃない……」
紗恵は半泣きだった。
「試験に出そうなとこ教えてやっから教科書出せ」
「うん!」
その日は夜遅くまで和彦は紗恵に数学を教えた。
「じゃあ明日、頑張れよ」
「うん、ありがとう」
和彦は自分の家に戻った。
時計は11時を過ぎていた。
いつもはまだ起きている時間だったが、なぜか異様に眠かった。
和彦はパジャマに着替えずにそのままベッドに倒れこむように眠った。


次の日和彦は変な違和感とともに目が覚めた。
まず部屋が違う。
知っている部屋ではあったが、和彦の部屋ではなかった。
まだ半分以上寝惚けている和彦は考えることができなかった。
いつもは起きてすぐ頭が働くのに今日はなぜか全く働かなかった。

そのとき枕元の携帯が鳴った。
和彦の携帯ではなかったが、今の和彦はそんなことに気がつく状態ではなかった。
「もしもし…」
『やったね。おまじないが効いて入れ替わることができたじゃん』
電話の向こうから嬉しそうな男の声が聞こえてきた。
「もしもし、番号間違ってませんか?」
『だって和ちゃんでしょ?もしかしてまだ寝てたの?』
どうやら電話の相手はオカマらしい。
(和ちゃんって馴れ馴れしく呼びやがって。誰なんだよ?和ちゃんって呼ぶのは家族と紗恵くらいしかいないのに)
しかし電話の声には聞き覚えがなかった。
和彦には電話の主とはあまりかかわらないほうがいいように思えた。
「電話切りますよ」
そう言ってさっさと和彦は電話を切った。

(せっかくのテスト休みなんだからもう少し寝よう)
和彦はもう一度眠りなおそうと布団に潜り込んだ。
すると再び電話が鳴った。

『もしもし、和ちゃん』
受話器からさっきと同じ声が聞こえてきた。
(またさっきのオカマだ)
和彦は黙って電話を切ろうとした。
電話の向こうでもそのことを感じたのだろう。
大きな声が聞こえてきた。
『もしもし!もしもし!ちょっと待って。騙されたと思って自分の胸を触ってみて』
和彦は寝惚けていたせいもあって、無意識に言われるままに自分の胸に手をあてた。
《ムニュ!》
自分の身体にあるはずもない柔らかい膨らみを感じた。
(何だ、これ?)
和彦は少し力を入れた。
「痛いっ!」
感じたことのない痛みを胸に感じた。
『和ちゃんったら強く握っちゃったのね?女の子の胸は優しくしなくちゃいけないわよ』
「女の子の胸?」
和彦には全く意味が分からなかった。
『まだ分からないの?あたしと和ちゃんと入れ替わったのよ』
「ええ!」
やっと和彦の意識がはっきりした。
部屋の中を見渡して、机の上に鏡を見つけた。
和彦は急いで鏡を覗き込んだ。
鏡に映っていたのは紗恵の顔だった。
頬を叩いた。
鏡の中でも同じように頬を叩いている。
痛みも確かに伝わってくる。
和彦はようやく自分が紗恵になっていることが分かった。
ということは電話から聞こえてくるオカマは和彦になった紗恵ということだ。
「紗恵?紗恵なのか?」
『そうだよ、やっと分かった?』
「何だよ、これ?どうなってるんだ?もしかしたら昨日のおまじないのせいなのか?」
『そうに決まってるでしょ』
「まさか本当に入れ替わるなんて」
『だから言ったでしょ?約束なんだからあたしとして追試受けてね』
「それどころじゃないだろ?」
『でもそのために入れ替わりのおまじないしたんでしょ?』
「ああ、まあそうなんだけど。でもこれって元に戻れるのか?」
『うん、3日で元に戻れるって書いてあったよ。それよりも追試は9時からだから遅れないでよ』
「元に戻れるかどうかより追試のほうが大事なのかよ」
『そりゃそうじゃん。そのために入れ替わったんだから。それより早く学校に行く準備してね』
そう言って紗恵は電話を切った。

しばらくの間、和彦は携帯を持ったまま突っ立っていた。
何がどうなったのか頭の中での整理ができないのだ。
いつもの和彦では考えられないことだった。

どれくらいの時間が経ったのだろう。
気づくと時計は8時を差していた。
(そろそろ行かなくちゃな)
学校まで歩いて15分しかかからないとは言え追試で遅刻はまずいと思ったのだ。

和彦は服を着替えるためパジャマを脱いだ。
パジャマを脱ぐと決して小さくはない乳房が現れた。
(へぇ、紗恵って意外とでかいんだな)
和彦は紗恵に対し妹のように思っていた。
しかし自分が紗恵の身体を体感することによって、紗恵の女性としての魅力を感じざるをえなかった。
和彦は両手の上に乳房を乗せゆっくりと持ち上げるようにした。
(意外と重いんだ)
軽くピョンピョンと飛んでみた。
胸についているものが揺れるのはとても奇妙に感じた。
(やっぱりブラジャーをつけないとダメなんだろうな)
和彦は整理タンスを開けた。
下着が入っているところはすぐに見つかった。
いろんな色の下着が入っていた。
黒や紫など紗恵が絶対着なさそうな物も交じっていた。
(紗恵のやつはこんなに下着を持ってるのか)
和彦はベージュのブラジャーを取り出した。
カップに乳房をあてて背中のフォックを留めようとしたが、なかなかうまくいかない。
何度かのチャレンジの末、腕がつりそうになりながらやっとの思いでブラジャーを留めることができた。
ブラジャーをすると何だか落ち着いたような気持ちになった。
(やっぱり女の子にとってブラジャーって必需品なんだ)
和彦はパジャマのズボンを脱いだ。
すると薄いブルーのショーツが現れた。
ブルーのショーツとベージュのブラジャー。
何となく不似合いなような気がしてもう一度タンスを見た。
タンスを見ると同じような色合いのブラジャーがあったので、それをつけることにした。
ベージュのブラジャーを外し、ブルーのブラジャーをつけた。
今後は奇跡的に一回で留めることができた。
下着の上にブラウスを着るのは寒いような気がするが何を着ていいのか分からない。
和彦は少し考えて体操服を着ることにした。
体操服がどこにあるのかはさっきブラジャーを探したときに分かっていた。
和彦は体操服を取り出して、体操服を着た。
そして、その上からブラウスとスカートを履いた。
スカートの丈はすごく短かった。
普段見慣れている長さではあるのだが、いざ自分が履くとほとんど何も履いていないような感じを受けた。
とりあえず気を取り直して襟元にリボンをつけ、ブレザーを羽織った。
全身が映る鏡に映った自分の姿は見慣れた紗恵の姿だった。
しかしそれは今の自分の姿だ。
和彦はハイソックスを履き、再度確認した。
おかしなところはないことを確認しながらも、下半身の頼りなさは拭えなかった。

和彦が外に出ると和彦の姿になった紗恵がニコニコして立っていた。
「何だよ、わざわざ来て。俺が約束を守らないとでも思ったのか?」
「そんなことないわよ、和ちゃんのこと信用してるもん。でも女の子なんだから髪くらいはといてくれたかなとか思うとどうしても確認したくなっちゃって」
「それくらいちゃんとやってるよ」
そう言って紗恵は和彦の頭から足までを何度も往復して見た。
「うん、そうみたいね。ありがと」
紗恵は和彦をジッと見た。
「何だよ?」
「でもあたしって本当に可愛いわね」
「何だよ、それ?お前ってナルシストなのか?」
「女の子は誰でもナルシストなのよ」
そう言って急にスカートを捲った。
「あっ!」
紗恵は突然大きな声で叫んだ。
「和ちゃん、ブルマーなんか履かないでよ。格好悪いじゃない」
「だってパンツが見えそうで落ち着かないじゃないか。それに寒いし」
「いいから脱いできてよ」
「そんなことしたらテストに遅れるぞ」
「…いいよ、だったら。絶対に他の人にばれないようにしてよ」
和彦はどうしてそんなことまで言われるのか理解できなかった。
(追試を受けてやらないぞ)
そう言いたいのをこらえていた。

学校に着くと、紗恵は校舎の中まで一緒に入ろうとした。
「もういいからお前は帰っとけ」
「別に一緒に行ったっていいじゃない」
「追試に付き添いなんておかしいだろ?」
「そっか…。試験はA組の教室だからね。間違えないでよ」
「分かってるって」
和彦がA組の教室に入ると知らない顔ばかり4人がいた。
追試が始まる時間になっても紗恵が来てから新しい者は入ってこなかった。
つまり追試を受けたのはたったの5名だけだった。

数学が得意な和彦にとっては何てことはない問題だった。
しかし満点を取るのもまずいような気がして7割程度の正解にとどめた。
時間も大幅に余ったのだが、何もしないのはまずいと思い、問題を解いているふりをして過ごした。
無事に追試は終わった。
教室を出ると紗恵が待っていた。

「ねっ、どうだった?」
「うん、ばっちり」
「ありがとう」
「こんなところで礼なんていうと怪しまれるぞ」
「あっ、そうか」
紗恵は和彦のおかげで追試を無事に乗り切れたせいか足取り軽く校門を出た。
校門を出てからも和彦の周りをチョロチョロとついて回った。
「おいあんまり周りをウロウロするなよ。千穂の友達にでも見られたらどうすんだよ?」
「だって…心配なんだもん」
「何が心配なんだよ。もう追試も終わっただろ?」
「だって和ちゃんがあたしの姿で変なことしないか…とかさ……」
紗恵は拗ねたように口を突き出した。
「男のくせにそんな顔しても可愛くない」
「ひっどーい、どうせあたしは可愛くないですよ」
「だってお前は今俺の顔してるんだぜ。気持ち悪いだけだぜ」

紗恵は和彦について、紗恵自身の家に入ろうとした。
「お前の振りしてテストを受けて疲れてるんだ。ちょっとくらい眠らせてくれよ」
和彦は紗恵の行く手をさえぎった。
「そんなこと言ってイヤらしいことするんじゃないでしょうね?」
「そんなことしないよ。とにかくちょっとだけ寝させてくれ、頼むからさ」
そう言って紗恵を外に残し、和彦は二階に上がった。

和彦は紗恵の部屋に入るとそのままベッドに身体を投げ出した。
「あぁ、疲れた…」
そのままの眠りにはいろうとした瞬間だった。
和彦の携帯(正確には紗恵の携帯だが)が鳴った。
番号が表示されているということは登録されたものではないということだ。
しかし和彦にはその番号に見覚えがあった。
「もしもし」
『高本さん、あなた、どういうつもりよ!?』
「どういうって?」
『和彦は私の彼氏なんだからね。幼馴染かなんだか知らないけど和彦とイチャイチャしないでよ』
電話は千穂からだった。
どうやら誰かから和彦と紗恵が一緒に学校に行ったことが耳に入ったらしい。
『和彦も和彦よ。いつも高本さんには甘いんだから。私っていう彼女がいるのにどういうつもりなのかしら』
「今日数学の追試があって心配してついてきてくれただけだから」
『追試くらいあなた一人で行けるじゃない。どうしてわざわざ和彦が行かなくちゃならないの?理解できない』
「…ごめんなさい」
『あなたに謝ってもらっても仕方ないんだけど。でもあなたも一人でできることは和彦を当てにしないでね』
「はい」
和彦は紗恵に成り代わって千穂に謝った。
「千穂って恐いんだな」
和彦がそう呟いて、そのまま眠ってしまった。

和彦は電話の音で起こされた。
時計を見ると、あれから1時間経ったようだ。
「もしもし…」
『あっ、和ちゃん。ホントに寝てたの?』
「なんだ、紗恵か。何だよ、せっかく寝てたのに」
『今さっき山田さんから電話があったわよ』
「ああこっちにもあった」
和彦はふと嫌な予感がした。
「お前、余計なこと言わなかっただろうな」
『…余計なことって何よ?』
和彦の勘はあたっていたようだ、紗恵の言葉から感じるものがあった。
「お前何か言っただろ?」
『ど…どうしてそんなこと言うの?』
「お前とどれだけつき合ってきたと思ってるんだ。お前の声の調子ですぐ分かるさ。怒らないから言ってみな」
『…お前なんかより紗恵のほうがずっと素直で可愛いって……』
「ふっ…やっぱりな?それだけじゃないんだろ?」
『…お前と別れて紗恵とつき合うって言った……』
「な…なんてことを……」
『だってあたしのほうがずっと前から和ちゃんのことが好きだったのに…なのに和ちゃんは山田さんとなんかつきあって…。あたしの気も知らないで……』
電話の向こうで自分の泣き声を聞くのはあまり気持ちいいものではなかった。

正直なところ紗恵の気持ちを知らないわけでもなかった。
しかし家が隣同士で、小さい頃から兄妹のように一緒の時間を過ごしていたのだ。
和彦にとって紗恵はまさに妹みたいな存在であり、それ以上の感情を抱くことはできなかった。
しかし自分が紗恵の身体になったことで、いやでも紗恵に、というより紗恵の身体に女性を感じてしまっていた。
まだ一日も経っていないのにすでに紗恵のことを妹以上に見るようになっていたのだった。
身体が入れ替わった状態の告白とは言え和彦の心変わりには十分なきっかけだった。
「分かったよ、いいよ、つき合ってやるよ」
『ホントに?』
紗恵の声のトーンが変わった。
「ああ」
『じゃあさ、早速今からデートしよっ!』
「俺は紗恵のままじゃないか。そんなの嫌だよ」
『そんなのいいからいいから。じゃあすぐに迎えに行くからね』
言うだけ言うと紗恵は電話を切った。
「デートったって俺は紗恵の姿でデートするのか」
そう言いながらも和彦は何となく心躍る感じがしてるのが不思議だった。

すぐに紗恵はやってきた。
「なんだ、まだ制服のままじゃん。そんなんじゃデートにならないじゃん」
「うるさいな。着替えればいいんだろ?」
和彦は制服を脱いで体操服姿になった。
「もう制服の下にそんなの着てたの。これからはそんなの絶対に着ないでね」
「でももう俺が紗恵として学校行くことないじゃん」
「あっ、そうか」
そう言いながら紗恵は和彦が体操服を脱ぐのを待っていた。
「何見てんだよ?」
「自分の身体なんだからいいじゃない。あっ、もしかして恥ずかしいとか…」
「…ああ、そうだよ」
和彦には紗恵の姿で下着姿を見られることになぜか恥ずかしさを感じていた。
「変な和ちゃん」
紗恵はそう言っておとなしく部屋の外に出て行った。
和彦は体操服を脱いで、タンスからTシャツとトレーナーとジーンズを出して、急いで着た。
「おい、着たぞ」
すぐにドアが開いて紗恵が入ってきた。
「何、その格好…」
「いいじゃん、別に」
「せっかくのデートなんだからもっと可愛い格好してよ」
「やだよ、絶対。そんなんだったら絶対外に出ないからな」
「…うーん、可愛い服着て欲しいのにな…」
和彦は紗恵の言葉を無視した。
「ほら、行くんだったらさっさと行こうぜ」
紗恵としてデートすることに何となく興味を抱いていた和彦は紗恵の手を取って外に出た。

和彦は紗恵と遊園地に向かった。
紗恵は和彦の姿になっているのにも関わらず女の子のようにはしゃぎまくった。
その姿は傍目からオカマのように映った。
クールな女の子とオカマの男の子のデートはそれでも楽しい時間が過ぎていった。
和彦も紗恵もその日は疲れて家に戻るとすぐにぐっすり眠りについた。


次の日の朝早くから紗恵は和彦のところにやってきた。
「今日は絶対に可愛い服を着てもらうからね」
そう言って、和彦を着せ替え人形のように次から次に様々な服を着せた。
1時間近い格闘の末、和彦のデートの服装が決まった。
白のモヘアのセーター。
膝上20センチはあるチェックのミニスカート。
ピンクのダウンジャケット。
ヒールが10センチほどある白いロングブーツが今日の和彦のファッションだ。
やれやれと考えつつも内心どこか楽しいと感じている自分に驚いていた。
(紗恵のままでいると精神的に変態になっちまう)
そう考えても一方ではあと一日しかないことを残念に思う気持ちもあった。

二人は外に出た。
慣れないヒールに紗恵の腕をつかんで何とか歩いていた。
和彦としては必死だったが、傍目から見ると仲のいいカップルに映るだけだった。

「あら?お二人でデートなの?」
和彦が転ばないように足元ばかり見ていると前方から声がした。
千穂だった。
「高本さんって綺麗な脚してるのね?その脚で和彦の気を惹いたのね」
「なっ…」
千穂の言葉に紗恵は悔しさからか声を詰まらせた。
和彦は千穂の言葉に切れた。
「何を言ってるんだ。そんな人を貶めるようなことばっかり言うなんて。紗恵はそんな女じゃない。千穂がそんな厭らしい女だなんて知らなかったよ。紗恵は千穂なんかよりよっぽど可愛くて女らしいよ」
「な…何よ。自分のほうが和彦とをわたしから奪ったくせに。そんな言い方しなくてもいいじゃない」
和彦は千穂の言葉に今自分が紗恵の姿をしていることを思い出した。
「あ…そうか…ごめん……」
「何よ。急に怒鳴ったり、急に謝ったりして。…分かってたわよ、和彦の気持ちにはいつも高本さんがいてることくらい。いつかはこうなると思ってた。思ってたけど…」
千穂は踵を返して走り去った。
あとに残された和彦は紗恵はしばらく呆然と突っ立っていた。
「あたし、山田さんに悪いことしちゃったね」
「しゃあないさ」
「しゃあないって?」
「俺がもて過ぎるのが悪いんだろ?」
「馬鹿…」
紗恵は微かに笑って言った。

「で、どこに行く?千穂に遠慮して家でおとなしくしてるか?」
「いやよ。今日も遊園地っ!」
「ええ、今日も?」
「だって昨日から決めてたんだもん♪」

紗恵は昨日にも増してはしゃいでいた。
しかし和彦はスカートが気になって遊ぶことに集中できなかった。
一頻り遊んで二人は家路に向かった。
「明日もデートしようね」
「遊園地はいやだぞ」
結局次の日も遊園地で一日中遊ぶことになった。

その夜、和彦はパジャマを着てベッドに潜り込んだ。
(やっと紗恵の身体とも今晩でお別れか)
そう思うと3日とは言え自分の身体だった紗恵の身体が愛おしく思えてきた。
(最後だからいいよな)
これまで意識してできるだけ触らないようにしてきたのだった。
今晩が最後だと思うと、最後に少しだけ見てみたくなったのだ。
(それに後学のためにもなるしな)
言い訳だということは自分でも分かっていた。
純粋に男として女性の身体に興味があるだけだった。

和彦はベッドから出てパジャマを脱ぎ捨てた。
鏡に全裸になった紗恵の姿を映して観察した。

肌はきめ細かく色白だ。
腰にはしっかりと括れがある。
お尻は大きい。
乳房も大きい。
しかも乳頭が少し上を向いて形もいい。

(紗恵って本当に艶っぽい身体してるよな)
和彦は乳房を持ち上げた。
これは紗恵になったときにやった行為だ。
今日は最後だ。
もう少しくらいは許されるだろうと思っていた。

和彦は指で乳首に触れてみた。
「んっ…」
気持ちいい!
思わず出そうになる声を和彦は押し殺した。
隣の家では紗恵がこちらを見ているかもしれない。
見ていなくてもいつ紗恵がこっちの様子に感づくか分からない。
こんなことをしていることがバレたらきっと怒られる。
いや泣き叫ばれてしまうかもしれない。
和彦は慌てて部屋の電気を消して全裸のままベッドに潜り込んだ。

ベッドの中で乳房と乳首への刺激を続けた。
「…紗恵……」
頭で思い浮かべるのは和彦の姿になった紗恵の姿だった。
男を思い浮かべてオナニーするなんて自分がホモになったような気がした。
だから女としての紗恵を思い浮かべようとした。
しかしどうしても頭に浮かんでくるのは和彦の姿になった紗恵の姿だった。
今は女の身体なんだからこの方が自然かも…と思い直し和彦は自分を納得させた。
それからは何の迷いもなく和彦の姿になった紗恵を思い浮かべながら和彦はオナニーにふけった。

そのうち胸だけでは飽き足らず、右手を股間に移動させた。
股間は少し湿っていた。
(俺…感じてるんだ…)
和彦は紗恵の身体で女性の快感を感じていることに少しだけ罪悪感を覚えた。
しかしそんな罪悪感でもオナニーを止めることはできなかった。
人差し指と中指に自分の身体が出した分泌液をつけた。
そして二本の指を割れ目にそって移動させた。
小さな突起物にあたった。
「痛い」
乱暴に触れるとそれは痛みしか与えてくれなかった。
だからゆっくり優しくそれに触れた。
「…はぁ……」
初めて感じる感覚が全身を駆け巡った。
(…女の快感って…すごい…)
いくら触っても快感は衰えなかった。
しかし男のようになかなか到達点には達しなかった。
長い時間和彦はその部分を触りながら……眠りに落ちていった。



和彦は朝早く目が覚めた。
まず股間に力強いものを感じた。
和彦は手をパンツの中に入れた。
(よしっ、元に戻ってる)
いきり立っている物を握り和彦は元に戻っていることを確認した。

和彦はゴミ箱の中に捨てられたティシュの量に驚いた。
明らかにマスターベーションのあとだ。
「紗恵のやつ、どんだけマスかいたんだよ」
和彦はここでマスをかいている紗恵の姿を思い浮かべた。

そのとき携帯が鳴った。
「もしもし」
『もしもし、和ちゃん。昨夜あたしの身体にいやらしいことしたでしょ?』
「何言ってんだよ。紗恵こそマスかきすぎだっちゅうの」
和彦はゴミ箱のティシュの山を見ながら言った。
『……』
電話の向こうで紗恵が息を飲む様子が伝わってくるようだ。
ほんの少しの間、沈黙が流れた。
『…だって…あたしになった和ちゃんって可愛いんだもん…。和ちゃんのこと考えるとあそこが元気になっちゃうんだもん…』
「まあ、それはお互い様ということで仕方ないんじゃないか?」
『ねえ…あたしのこと…好き?』
紗恵は急に話題を変えた。
「うん、好きだよ」
和彦は少し戸惑いながら返事した。
『じゃ、すぐあたしの部屋に来て』
紗恵はそう言って電話を切った。

和彦は訳が分からない状態で、それでも急いで紗恵の部屋に行った。
紗恵はまだベッドの中にいた。
「何だよ、人を呼びつけといてまだ着替えてないのかよ?」
「ねえ、和ちゃん」
紗恵には和彦の言葉が聞こえていないようだった。
自分だけのペースで話しているようにしか聞こえなかった。
「男の人って好きな女の子に対してあんなふうに感じるなんて、あたしが和ちゃんになるまで全然知らなかった。もし和ちゃんがあたしのこと本当に好きなら抱いていいのよ」
紗恵はベッドの布団を捲った。
紗恵は全裸だった。
昨夜和彦がオナニーをして眠ってしまったままだったのだ。
「何やってんだ、早く服着ろよ」
和彦は紗恵から目を逸らせた。
「和ちゃん、あたしを見て。あたし、綺麗?」
和彦はゆっくりと紗恵を見た。
「ああ。すごく綺麗だ」
「すぐにあたしを和ちゃんのものにして」
和彦は紗恵の言葉に命じられるまま紗恵に近づいていった。
「もうこんなになってる」
紗恵の手が和彦の股間の膨らみに当てられた。
和彦の理性が飛んだ。
和彦はやや乱暴に紗恵を抱きしめ、荒々しいキスをした。
「紗恵…紗恵…紗恵…」
「和ちゃん……」
初めての結合はあっという間に果てた。
前夜紗恵があれだけマスをかいたにもかかわらず、若い和彦の身体は元気だった。
そのことをきっかけに盛りのついた犬猫のように和彦と紗恵は毎日紗恵の部屋でセックスに明け暮れていた。

最初の1週間は痛いだけだった結合も少しずつ快感を感じるようになっていた。
和彦も勢いだけでなく紗恵の様子を見ながら緩急をつけたり射精を少しはコントロールすることを覚えてきた。
初めてから10日目のことだった。
「…ぁ…ぁ…ぁ…何か…何かいつもと違う……あああああ……いきそう……」
紗恵は絶叫を残し、痙攣し、わずかな時間だけだが意識を失った。
「紗恵、紗恵、大丈夫か?」
「あ…和ちゃん……あたし…いっちゃったみたい…和ちゃん……すごかった……」
「いくってセックスでか?」
「もちろんじゃない。あんまり凄すぎて、まだボゥーッとしてる…」

和彦は興味があった。
女性の感じ方に。
それを実行できる方法も知っている。
しかし自分からそれを言うのは憚られた。

和彦はじっと紗恵を見ていた。
相変わらず心ここにあらずの状態のようだ。
「どうしたの?」
「いや、別に。そんなに気持ちいいのかなって思って」
「うん、すごかった。どう言えばいいのかな?…あっ、和ちゃんがあたしになれば分かるじゃない。また入れ替わる?」
「いいよ、そこまでしなくても」
「あたしも男の人の感じ方って興味あるし、そうしない?しようよ、ねっ?」
和彦は紗恵の提案に応じる形で入れ替わりのおまじないをした。
次の日、和彦は紗恵になっていた。

早速二人は全裸で向かい合っていた。
「和ちゃん、心の準備はいい?」
「ちょっ…ちょっと待ってくれよ…」
「…やっぱりあたしになった和ちゃんって可愛い」
そう言って紗恵は和彦を抱きしめた。
お腹の辺りに硬くなったものを感じるとなぜか興奮してきた。
紗恵はキスで和彦の唇を塞いだ。
長い長いキスだった。
次第にボゥーッとしてくるのを感じる。
「あたしって長くキスされると感じちゃうの。でしょ?」
紗恵が耳元で囁いた。
和彦はほとんど無意識で肯いた。
「でねっ」
そう言ったかと思うと、耳たぶを優しく噛んだ。
「ぁんっ…」
和彦は不覚にも甘えたような声を出してしまった。
「耳たぶが弱いの」
和彦は自分の股間が湿ってきたのを感じた。
「でもね耳の中は舐めないでね、くすぐったいだけだから」
そう言って耳の中を舐めた。
くすぐったかった。
これはこれで気持ちよかった。
「首筋も感じるの」
紗恵の舌が耳から首筋へ移動した。
「…あ……」
「感じるでしょ?気持ちよかったら声出していいのよ」
その後も上半身のありとあらゆるところに舌を這わせた。
全てが性感帯のようだった。
背中がこれほど感じるのも知らなかった。

「それじゃ和ちゃんの準備は完璧のようだし、あたしも我慢できないから、入れるね」
そう言って紗恵はペニスを挿入しようとした。
「あれっ…どこ…?」
うまくいかなかった。
膣の場所が分からないようだった。
「あ…あった」
紗恵は挿入を試みようとした。
「ち…違う……。そこはケツだよ。ここ」
和彦はペニスを持ち、自分の膣口に導いた。
「それじゃ改めて入れるね」
紗恵のペニスが入ってくるのが分かった。
何とも言えない不思議な感覚だった。
決して気持ちのいいものではなかった。
違和感。
まさに違和感だけだった。
「どう?」
「そんなに気持ちいいもんじゃないんだな」
「まだね。でもこうすると…」
紗恵がゆっくりと腰を動かした。
「あああ…」
「どう?感じるでしょ?」
「あああ…すごい…何だ…これ……」
「男の人の感覚も面白いね。それほどペニスの感覚ってそれほど強くないんだ。でも和ちゃんが感じてるのを見るとすごく興奮してくる」
紗恵は和彦を見ながら腰を動かした。
「あああああああ……すごい……もう……もう…やめろ……おかしくなる……」
和彦は快感に飲み込まれておかしくなりそうな自分が恐かった。
このまま紗恵の身体に飲み込まれてしまうような不安を感じていた。

紗恵が動きを止めた。
「…えっ……」
急に快感を止められた和彦には不満だった。
(口ではやめろとは言ったけど本当にやめるか)
そんな不満を感じていた。

「バックでやってみない?」
紗恵は和彦を四つん這いにさせた。
「こういうのもやってみたかったんだ。動物的で興奮するじゃない」
今度はすぐに入ってきた。
ペニスが奥まで達しているのを感じた。
紗恵は和彦の腰を持ち、和彦の腰を前後させた。
ペニスは確実に奥を刺激する。
和彦はどんどん高みに昇っていった。
「こっちのほうが楽ね。和ちゃんもこっちのほうが気持ちいいでしょ?」
和彦は返事をする余裕すらなかった。
「返事しないの?それなら…」
そう言って紗恵は指をクリトリスのところに当てた。
動きによって少し触れるところという絶妙のところだ。
「あ…ダメだ……やめろ……」
和彦は一気に昇りつめた。
一瞬身体の動きが止まったかと思うと、背中を反らせ痙攣した。
そして腕で上半身を支えられないようにそのまま突っ伏した。
「和ちゃん?いっちゃった?」
「……うん…そうみたい…」
和彦は息を切らせていた。
ものすごい感覚だった。
女の快感を男が感じるとおかしくなるという話を聞いたことがある。
あながち嘘ではないような気がした。

「あたしはまだ終わってないから続きしていい?」
紗恵はまだ大きな状態のペニスを握りながら聞いた。
「………」
「和ちゃんはそのままでいいから」
和彦が仰向けでいると紗恵が入ってきた。
そして紗恵は抽送を始めた。
和彦はもう十分だと思っていたのにもかかわらず、身体はすぐに新たな快感を求めた。
和彦は紗恵に合わせて腰を振っていた。

「和ちゃん…何か出そう……」
そう叫んで紗恵は腰の動きを速めた。
「…あっ…あっ…あっ…あっ…あぁぁぁ…」
紗恵は一気に和彦の中に精子を放った。
それは和彦にも分かった。
温かいものが身体の中に放出されたのを感じた。
(あああ…気持ちいい……)
和彦は眠りに落ちていった。
気がついたのは朝だった。
横ではニコニコした和彦の顔をした紗恵が見ていた。
「やっと起きたんだ。あたしの寝顔って可愛い」
「何だよ。ずっと見てたのか?」
「うん」
「自分の寝顔を見るなんて悪趣味だな」
「だって自分の寝顔なんて普通見れないんだよ。これってすごいことなんだよ」
(それもそうか)
和彦は内心納得しながら上半身を起こした。
股間のあたりがパリパリになっていた。
「気持ちわりぃ…。シャワー浴びていいか?」
「うん、一緒に浴びよ♪」
和彦は一瞬断ろうかと思ったが、どうせまたなし崩しに一緒に浴びることになるような気がして何も言わなかった。
「それじゃ」
和彦がそう言って立ち上がると太腿に流れる液体を感じた。
それは逆流して出てきた精液だった。
和彦はティシュでそれを拭った。
いくらでも出てくるようだった。
「すごい出したんだな。妊娠でもしたらどうするんだよ?」
「大丈夫。ちゃんとピル飲んでるから。あたしだって未婚の母になんかなりたくないもん。それくらい考えてるよ。和ちゃんもあとで飲んでおいてね」
「ああ、分かったよ」
和彦は紗恵がピルなんて物を用意周到に準備していることに驚いた。

シャワーで身体を洗ってすぐに、再びセックスに明け暮れた。
前回入れ替わったときは遊園地三昧だったが、今度はセックス三昧だった。
和彦はこのまま紗恵でいてもいいと思うくらい女としてのセックスにはまった。
しかし3日後には元の身体に戻った。



春になると、和彦は東京の大学へ行った。
紗恵は地元の女子大へ進学した。
紗恵は和彦が東京に向かうときに大きな瞳から信じられないくらいの涙を流した。
「どうせすぐに会えるから」
「本当?」
「ああ。電話もするし、メールもするから」
「うん」
紗恵は必死に涙をこらえていた。
和彦はそんな紗恵を可愛く感じ、おでこにキスをした。

長距離恋愛も兄妹のような強い愛のふたりにはさほどの障害にはならなかった。
大学を卒業し、社会人になって3年目にはいった春に二人は結婚した。
そしてまもなく紗恵の妊娠が判明した。

「悪阻って大変そうだな」
ちょっとした匂いや食べ物のたびにトイレに吐きに行く紗恵の姿を見て、和彦が言った。
「そう思うなら代わってよ」
「なら紗恵が会社に行ってくれるのか?」
「それは無理」
「だろ?GWまで待てよ。代わってやるから」

GW前には5ヶ月目に突入し紗恵の悪阻は治まっていた。
それでも約束通り和彦は紗恵と入れ替わった。
「これがお腹に赤ちゃんがいる感じか」
「そうよ、大変でしょ?」
「いや、大変さより感動のほうが大きい」
和彦はお腹に手をあてて自分の身体にもうひとつの生命がいる感慨にふけっていた。

「久しぶりにセックスする?」
「お腹は大丈夫なのか?」
「うん、もう安定期だから。あたしも男として和ちゃんを苛めてみたいしね」
和彦になった紗恵はどうもSの気が強くなるようだ。
和彦も紗恵になるとMが強くなるようだが。

久しぶりに紗恵としてセックスした。
お腹に子供がいることを忘れてしまうくらいセックスに没頭してしまった。
セックスに関する限り入れ替わったときのほうが相性がいいように思えるくらいだ。
実際和彦は自分の身体のときより紗恵として抱かれているほうが好きだった。
いつもの営みが終わり二人でまどろんでいると紗恵が急に言い出した。
「赤ちゃんってもう見えるのかな?」
「どこから?」
「どこからって出てくるところからに決まってるじゃない」
「そんなもの臨月のギリギリになってからだろ?」
「でも一回見てみたいな。ねえ、見せて」
「やだよ」
「別にいいじゃない。病院に行ったらお医者さんに見てもらってるんだから、自分で見る権利はあるはずよ」
「何の権利だよ、それって」
「いいからいいから。和ちゃんは股をちょっと広げるだけでいいからさ」
そう言って紗恵は和彦の脚の間に身体を入れ、和彦の股を広げさせた。
「あたしのあそこってこんなふうになってるんだ、初めて見た。何かすごくグロテスクだね」
「そんなにジッと見るなよ、恥ずかしい」
「だって自分のだからいいじゃない」
「でも…」
和彦は本当に見られる恥ずかしさを感じていた。
(どうしてこんなに恥ずかしいんだろう?)
和彦はそんな自分の気持ちが自分でも理解できずにいた。
「あたしになった和ちゃんって本当に可愛いね」
恥ずかしがる和彦を見て、紗恵は可愛いと言う。
そのことが和彦を余計に恥ずかしくさせた。

急に訳の分からない感触が股間を襲った。
紗恵がクンニを始めたのだ。
これまで二人のセックスにはオーラルセックスは全くなかったため、これは和彦にとって想定外だった。
「…んんんんんんんんんんんんんんんんん……」
和彦は恥ずかしさと快感で気が狂いそうだった。
自分の指を噛み、絶叫しそうになるのを必死に抑えていた。

「どう?気持ちいい?ヒクヒクしてるよ、ここ。へぇ、こんなふうになるんだ。すっごく不思議」
そんなことを言いながら紗恵は何分間もクンニを続けた。
《ペチャペチャペチャペチャペチャ…》
嫌らしい音が部屋に響く。

和彦は何度か意識が飛んだ。
しかし数度の絶頂を迎えながらも何か物足りなさを感じていた。
(入れて欲しい)
和彦の女の身体がペニスを求めていた。
和彦の気持ち自体も求めていた。
だが和彦には恥ずかしくそれを言うことはてできなかった。

「やっぱり見えないね。刺激を与えたら見えるかなと思ったのに」
紗恵は和彦の横に寝転んだ。
(この状態で寝てしまうの?)
どうやら紗恵はそのつもりのようだった。
和彦は紗恵の股間に手をあてた。
「何?」
「なあ…頼む…」
「何を?」
「何をって……分かってるだろ?」
「分かんなーい。ちゃんと言ってくんなきゃ」
紗恵はニヤニヤしている。
分かっているくせに和彦を苛めているのだ。
それが分かっていてもこの疼きを沈めることができるのは紗恵だけだ。
おとなしく紗恵にお願いするしかないのだ。
「抱いて……」
「こう?」
紗恵は和彦は抱きしめた。
「そうじゃない」
「だって抱いてるじゃない」
分かってるくせに…と言いたいのを和彦は飲み込んだ。
「そうじゃなくって……入れてほしい……」
「どうしようかな?もっと可愛く言ってくれないと」
紗恵はふざけて言った。
そんな紗恵に対して和彦は本気で怒りかけた。
「ウソウソ。そんな本気で怒らないでよ」
そう言いながら紗恵は起き出し、身体を和彦に重ねた。
和彦は股を大きく広げ紗恵の挿入を待った。
「和ちゃんも好きね」
そんな恥ずかしいことを言いながら、紗恵は和彦の中にペニスを挿入した。
「これでいい?」
当然それでいいわけがない。
「ん…動いて…」
紗恵は腰をゆっくり動かした。
「…もっと…もっと強く……」
紗恵が激しく強く腰を動かした。
「…ああああああ……紗恵……来てぇ……」
和彦の絶叫とともに紗恵が射精した。
和彦はようやく満足感を得ることができた。


「今日は俺がフェラしてやる」
和彦は今日もクンニして欲しかった。
しかし恥ずかしくてそれを言い出せなかった。
そのために仕返しのような振りをしてフェラチオを申し出たのだ。
自分がまだされたことのないフェラチオするのだ。
そんな行為をしようとしていることにすごく興奮していた。
それにしても男の自分がフェラチオをしようと思ったのか自分でも不思議だった。
フェラチオに対して嫌悪感を持っていないことも不思議だった。
一度やってみたい。
なぜかそういう思いに囚われていた。

和彦は大切なものを扱うかのように両手でペニスを優しく持った。
和彦の目の前で見るペニスは自分がいつも見ているものより大きく見えた。
(こんなの口に入るかな)
とりあえずペニスの先を舐めた。
小便の匂いと塩辛さを感じた。
「…ん……」
紗恵も感じてくれているようだった。
和彦は嬉しくなって亀頭の部分を丁寧に舐め上げた。
シャフトの部分も陰嚢の部分も舐めた。
汗やそれが発酵したような不思議な匂いがした。
それでも和彦は自分の行為が変なものだと思わなかった。
紗恵が気持ちよくなってくれれば。
そういう一心だった。

ついに和彦はペニス全体を口の中に入れた。
さすがに喉の奥までペニスが達すると、吐きそうになった。
それをじっと耐えているとだんだんとその状態も平気になってきた。
和彦は口をすぼめるようにして頭を前後させた。
「…ああ…和ちゃん…気持ちいい……」
和彦は紗恵のそんな言葉に後押しされるように何度も頭を前後させた。
口が疲れてきた。
「…ああ…出そう…」
紗恵がそう言ったときに和彦の中に悪戯心が生まれた。
ペニスの根元を右手でギュッと閉めたのだ。
「和ちゃん…何するの?いかせてよ」
「昨日、俺を苛めた仕返しだ。どうだ、つらいだろ?」
「分かった。昨日は悪かったわ。だからいかせて」
「じゃあ許してあげる」
和彦が右手を離すと、すぐに精液が飛び出してきた。
それは和彦の顔を襲い、一部は口の中に入った。
「…ううう……気持ち悪い……」
そう言いながらも口に入った精液を和彦は飲み込んだ。
自分でもなぜそんなことができるのか分からなかった。
愛する人が出したものだから…と何となく考えていた。
また「許してあげる」という言い方が女性の言い方だったと二人とも気づいていなかった。

「悪戯した罰よ。それじゃ、お返しね」
紗恵は和彦の目論見通りにクンニしてくれた。
和彦は快感と喜びで何度もいった。
「入れて欲しい?」
「…うん……」
和彦はトロンとした目で答えた。
「それじゃ女の子らしく可愛くお願いしてみて」
和彦には紗恵の意図は分かっていた。
しかし今日はなぜか反抗的な気持ちはなく従順な気持ちになっていた。
従順というより、紗恵から命じられることになぜか喜びを感じるようになっていた。
「紗恵のペニスが欲しいの」
「欲しいってどこに?」
「わたしのここに」
和彦は股を広げた状態で指を指した。
「ここじゃわからないわ。ちゃんと言わなきゃ」
「わたしのオマンコにいれてほしい…」
「いいけど、今日は疲れてるから和ちゃんが自分で入れてくれる?」
紗恵はそう言って仰向けに横になった。
ペニスは雄々しく天井を向いていた。

和彦は紗恵のペニスにキスをした。
「どうしたの?」
紗恵は驚いて和彦に聞いた。
「もう少しフェラしていい?」
和彦はすでにペニスに舌を這わせていた。
「いいけど…どうして?」
和彦は紗恵の言葉に返事せずペニスを舐めていた。
大好きなアイスクリームを舐めるように優しく舐めていた。
ペニスのことが本当に愛おしいようだった。
そんな和彦の姿はペニスが大好きなメスそのものだった。

和彦は紗恵の腰辺りに立ち、ゆっくりと腰を落とした。
ペニスの先をオマンコに当てて和彦は腰を前後させた。
「…んっ……」
紗恵はペニスの先に与えられた刺激で声を出した。
「…ぁん……」
和彦はペニスの先がオマンコを刺激することで声を出した。
何度か和彦はその行為を楽しんだ。
「それじゃ入れるね」
和彦はペニスの位置を膣口に固定して、ゆっくりと腰を沈めた。
「…ああああ…ぃい……」
ペニスが奥まで達するのがよく分かった。
「和ちゃん、おっぱいを揉みながら動いてみて」
紗恵が命じた。
「こう?」
和彦は言われるままに乳房を揉みながら腰を動かした。
下から紗恵が嬉しそうに見ている。
それが和彦には嬉しかった。
(どうしちゃったのかしら?)
和彦は心の片隅では不安に思いながら、自分の演技をとめることはできなかった。
また女の言葉で考えていることに自分でも気がついていなかった。

和彦は腰を動かしながらペニスのカリの部分を一番感じるような動きを探り当てた。
和彦は自分で微調整できるこの体位が気に入った。
やがて紗恵が射精した。
しかし紗恵が中で放っているときも和彦は腰を動かすことをやめなかった。
「…もっと…もっと………」
何かに憑かれたように紗恵のペニスを銜えたまま放さなかった。
「和ちゃん、もうやめて」
紗恵が力ずくで止めさせるまで和彦は腰を振り続けた。
紗恵に無理やり止められた和彦は恨めしそうな視線を紗恵に浴びせながら、眠ってしまった。


次の日はさすがに和彦も恐くなってセックスは求めなかった。
明日には元の身体に戻る。
その前に紗恵の身体に飲み込まれそうになっている自分が恐かったのだ。
それは紗恵も同じだった。
昨日のセックスに何となく尋常ではないものを感じていたのだ。
その結果、二人して今日はおとなしくしてようということになった。

夫婦二人で静かな午後を送っているときだった。
「あっ、動いた」
和彦はお腹の胎児の動きを感じた。
「えっ?」
「今、お腹の赤ちゃんが動いたの。自分の身体にもうひとつ別の生命が宿ってるってこんな感覚なのね。すごいわ」
和彦は自分の話し方が女の言葉になっていることに気づいていなかった。
「ずるいなあ。和ちゃんが先に胎動を感じるなんて」
紗恵も和彦の変化を当然のものとして受け入れ違和感を感じていなかった。
それは紗恵自身にも変化が起きていたからかもしれない。

外は暗くなってきた。
紗恵でいられるのもあと5時間ほどだ。
(入れ替わるのは今回を最後にしたほうがいいかもね)
和彦は何となくそう考えていた。
だから何か記念となることをしたかった。
「久しぶりにちょっといいところで外食でもしない?」
和彦が紗恵に提案した。
「うん、いいよ」
紗恵は短い返事を返した。

和彦と紗恵は外に出た。
紗恵ははしゃいでいた。
「どうしたの?」
「だって和ちゃんってとっても優しくてあたしって幸せなんだなあって思って」
「馬鹿…」
和彦は本気で照れていた。
「それに明日はきっと元に戻って胎動を感じることができるんだろ?こんなに幸せでいいのかなあって」
そんなことを言ってじゃれあっているときだった。

暴走車が二人に向かって突っ込んできた。
暴走車は和彦になった紗恵にぶつかった。
和彦自身の身体が宙をゆっくりと飛んで道路に叩きつけられた。
「紗恵、紗恵」
和彦は血まみれで横たわる自分の身体に駆け寄った。
「誰か…救急車を呼んで」

和彦の身体は病院に運ばれ緊急手術が行われた。
そのままICUに入れられた。
今夜がヤマだそうだ。

(紗恵、頑張って。頑張って生きていて)
和彦はICUの前の長椅子に座り、必死に祈った。

和彦は何となく感じていた。
自分の精神が女の肉体に侵食されていることを。
だから男として紗恵を守りたかった。


午前0時が過ぎた。
紗恵は病院の廊下の長椅子に座っていた。
「あっ、元に戻ってる…。和ちゃん……和ちゃんは?」

和彦はICUに入れられていた。
医療器械の音が響いている。
外部の音は聞こえない。
しかし聞こえるはずがない紗恵の声が聞こえたような気がした。
(良かった、紗恵は助かったみたいね)
和彦はそう考えながら息を引き取った。
顔には静かな笑みが浮かんでいた。


《完》

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