シンクロ



(石田課長ってカッコイイなあ)
相原徹雄にそんな声が聞こえるようになったのは1週間ほど前からだ。
正確には"聞こえる"というのは間違いだ。
頭の中に響いてくるだけで、現実の"声"でないのは明らかだったからだ。
最初は空耳か何かだと思った。
しかし、その頻度は次第に増えてきた。
注意して周りを見ていると、その声が聞こえてくるときには堀江梨紗が石田課長をジッと見つめているときだった。
どうやら梨紗が石田課長のことを考えているときにその"声"が聞こえるようなのだ。
きっと梨紗が考えている内容なのだろう。

徹雄には自分の身に起きていることが理解できなかった。
梨紗のせいだと思えたが、確たる証拠はない。
原因も分からないし、梨紗のせいだなんて言うと馬鹿にされそうな気がして誰にも言えなかった。
聞こえてきても自分だけが我慢すればいい。
そう考えてひたすら無視するように努めた。

しかし、そんな我慢することすらつらくなる現象が起こった。

(な…なんだ……)
胸に奇妙な感覚を感じて目が覚めた。
(…課長……)
例の声が頭に響いた。
どうやら梨紗が課長を思い浮かべながらオナニーしてるようだ。
胸に乳房があり、その乳房が揉まれているような感覚に襲われた。
徹雄は驚いて自分の胸を見た。
いつも見慣れている自分の胸だ。
膨らみがあるわけではない。
(何だ、別におっぱいができてるわけじゃないのか。驚かせやがって)
安心したものの揉まれている感覚がなくなるわけではない。
「…んっ……」
乳首が摘まれたような感覚を感じ、思わず声を出してしまった。
(な…なんだ、この感じ…。乳首ってこんなに感じるのか…)
乳首を摘んで、その力を強めたり弱めたりしているようだった。
「…ぁ…すご…い……。すご……すぎる……」
乳房と乳首への感覚でおかしくなりそうだった。
しかし、それだけでは終わらなかった。

(…課長…ぁ…課長……ダメ……)
そんな声とともに痛みにも似た感覚が股間から感じられた。
全身に電気が走ったようだった。
「…やめ…ろぉ……」
そんな叫び声なんかどこへも届くはずがなく、空しく部屋に響いた。
徹雄は訳の分からない感覚にただただ喘ぎ声をあげるだけだった。
頭の中は真っ白になり、何も考えることができなかった。

どれくらいそんな状態が続いたのか分からない。
強い快感を感じ、徹雄はブリッジするように仰け反った。
同時に徹雄のペニスから精液が飛び出した。
そしてようやくその感覚は消えた。

(声だけじゃなく、性的な感覚も感じるようになってきたのか?)

徹雄のその考えは正しかった。
その日から連日連夜梨紗は夜になるとオナニーし、徹雄はその感覚を共有せざるをえなかった。


堀江梨紗は徹雄より2歳年下の同期入社だった。
初めて会ったときは好印象だった。
徹雄は男としては決して高いとは言えない168センチしかなかった。
だから女性の身長にはこだわりがあった。
絶対に160センチ未満でないといけないというのが必須条件だったのだ。
梨紗の身長は155センチ程度しかなかった。
しかも顔が徹雄好みだった。
美人というより可愛いといったほうがいい感じの顔だった。
はっきり言って愛くるしい童顔だった。

さらに奇跡的なことがあった。
それは新入社員の飲み会のことだった。
新入社員が全員それぞれの自己紹介したときに梨紗が言った誕生日を聞いて驚いた。
何と徹雄と同じ誕生日だったのだ。
これは運命の出会いだと信じた。
というよりも信じたかったと言ったほうが正解かもしれない。
それをネタに梨紗に話しかけた。
アルコールの力も手伝ってそれなりに盛り上がった。
おかげで二人の距離がぐっと近づいたように思えた。

しかし、それは勘違いだった。

飲み会のあったすぐの頃は普通以上に仲良く話してくれた。
しかし、それほど話題を持っていない徹雄にとっては話をうまく展開させていくことができなかった。
また着ている物にもあまりこだわらないので、あまり梨紗の好みと言えなかったようだ。
面白くなく、センスもなくとびっきりの平凡な男だと分かるとほとんど口を利いてくれなくなった。
ついには挨拶すらしてくれなくなったのだ。

それとなく女性社員の話を聞いていると、梨紗は女性には人気がないようだった。

それは梨紗が相手により態度を変えるためだった。
同性には厳しく早口でまくしたてるのに対して、異性にはいやらしいほど甘えたように話しているらしかった。
そう言えば徹雄に対しても最初の頃は可愛い声で話しかけていた。
「相原くんってすごぉい」とか「あたしにも教えて♪」とか聞いていて心地よい言葉を連発していた。
そういったことがあったため、勘違いしたことは否めない。。
しかし今では一瞥するだけで「フンッ」というような感じですぐに視線を外すのだ。

梨紗のそんな正体が分かってくるにつれ、好きというよりどちらかというと嫌いな女になってしまった。
"嫌い"というよりも"可愛さ余って…"と言ったほうが正しいのかもしれない。
好きにしろ嫌いにしろ、ある意味特別な感情を持っていた。
そんな鬱屈した感情のためにこんな現象が現れたんだろうか。

とにかく徹雄は毎晩感じる梨紗のオナニーの快感を楽しむよりは鬱陶しいと感じていた。
どうしてあんな女のオナニーのせいで寝不足にならないといけないのかと憤りさえ感じていた。



(よし!今日こそ課長に告白するんだから)
そんな声が聞こえたのは部の飲み会が計画されている日の朝だった。
どうやら部の宴会のどさくさに紛れて石田課長に告白するつもりらしい。

オナニーくらいなら個人の趣味なので特に文句を言う必要もないだろう。
しかし、奥さんがいる課長への告白は止めたほうがいいはずだ。
徹雄は行動に移した。

「堀江さん」
席を立った梨紗のあとを追って、声をかけた。
「何?」
何とも鬱陶しそうに徹雄のほうを見た。
「堀江さんって課長のこと好きなんだろ?」
徹雄は梨紗の返事を待ったが、何も言ってこなかった。
仕方なく言葉を続けた。
「でも課長には奥さんがいるんだぜ。そんな人を誘惑するなんてダメだよ」
言い終わるか終わらないタイミングで梨紗が言い返してきた。
「何言ってるの?あたしが誰のことを好きだって別にいいじゃない。恋愛なんて自由なんだからあなたにとやかく言われる筋合いはないわよ」
以前の可愛らしかった梨紗の話し方からは想像もできないくらい早口だった。
「もしかして相原くんってあたしのこと好きなの?あたしのことずっと見てたんでしょ?だからあたしが課長のことを見ていたことを知ってるのね。いやらしい!」
まるでストーカーでも見るような蔑んだ目で徹雄のことを見た。
「そんなにあたしのことを好きならたまにはお食事につき合ってあげてもいいわよ。ただしあたしの口に合うものじゃないとダメだけどね」
梨紗は馬鹿にしたように笑ってトイレに向かっていった。
(あの馬鹿女には何を言っても無駄か)
徹雄は梨紗の企みがうまくいった場合の対策を考えておくしかなかった。

部の宴会では予想通り、梨紗は石田課長の隣に座り、ホステスのようにべったりと寄りそってお酌していた。
わざとらしく身体に触れたり触れさせたりしていた。
事情を知らない者でさえ梨紗が石田を狙っているのは明らかだった。
梨紗と石田の周りには少し白けた空気が漂っていた。
当事者の二人だけが盛り上がっていただけだった。

宴が終わり、出席者は三々五々散っていった。
すぐに帰る者たち、二次会に行く者たち、通行人の邪魔になりながら話し込む者たち。
そんな皆から逃げるように消えていった二つの影を徹雄は見逃さなかった。
(堀江のやつ、うまく課長を誘えたみたいだな)
そうなると徹雄は急いで帰らなければいけない。
誰かと一緒にいるときに梨紗の性感覚に襲われたら目も当てられない事態になるのは明らかだった。
何としてでもそれは避けなければいけなかった。

万が一電車の中でそんな状態に襲われたら多数の人間に見られてしまう。
無駄な出費を伴うが、徹雄はタクシーで帰ることにした。


徹雄の判断は正しかった。
タクシーに乗っているときにキスされているような感覚に襲われたのだ。
すぐに胸に触れられた感覚がやってきた。
「んん……」
徹雄は声が出そうになるのを必死で抑えた。
「お客さん、大丈夫ですかい?」
運転手には体調が悪いように見えたのだろう。
「…ぁ……大丈夫…です」
「吐かないでくださいよ。急ぎますから頑張ってくださいね」
酔って吐きそうだと思ってくれているようだ。
変態と思われていないことに、少しは気が楽になった。
それでも性的な感覚は相変わらず押し寄せてくる。
徹雄は口に手を当てて吐きそうに装いながら、声を必死に抑えた。
(梨紗のせいでこんな目に遭うなんて)
梨紗に対して怒りを覚えた。

タクシーが急いでくれたおかげで、すぐに徹雄のアパートの前まで来た。
「…あ…ありがとう……ござ…いました…」
徹雄は身体中舐め回される感覚に襲われ、歩くこともままならなかった。
それは酔っぱらっているように見えているらしかった。
「お客さん、水でも飲んで一晩寝れば大丈夫ですよ。それじゃお大事に」
タクシーが走り去った。

這うようにして部屋に入ると、すぐに鍵をかけ床に寝転がった。
もう立ってはいられなかったのだ。
どうやら石田がクンニをしているようなのだ。
徹雄のペニスは硬くなり爆発したが、快感が去ることはなかった。

口に大きなものが入ってくるような感覚に襲われた。
梨紗が石田のペニスを銜えたのだろう。
徹雄には女性経験はなかった。
したがってフェラチオされた経験はなかった。
なのに今フェラチオの感覚を経験している。
すごく苦しかった。
ペニスの先が喉の奥まで達した。
苦しい。
吐きそうだ。
舌で一生懸命に何かを舐めている感じがする。
梨紗が石田のペニスに舌を這わせているのだろう。
口に中に塩辛いものが拡がってきた。
(なんかやばそうだ)
そう思った途端口の中に生臭いものが出たように感じた。
(口の中に出されたんだ)
反射的に胃の中から宴会で食べたものを吐いてしまった。
吐きながらも生暖かいものが喉を通過するのを感じる。
(梨紗のやつ、精子を飲んでやがる)

股間が大きく開いていることを感じた。
石田のペニスが入ってくるのを感じる。
実際はそんなものを受け入れる穴も何もないのに。
「あああああ……」
梨紗は予想通り処女ではないようだ。
スムーズに石田のペニスを銜え込んだ。

石田に抽送されて、どんどんどんどん昇り詰めていく。
「あああああああ……すごい………」
意識が一気に飛んでいった。
と同時に徹雄のペニスからも白いものが飛び散った。


何度かそんな経験が続いた。
少しずつだが確実に梨紗の感触を楽しみにするようになっていた。
自分でマスターベーションするよりよっぽど気持ちいい。
経験したくてもできない女としての快感は何物にも替え難いのだ。
徹雄は自分の楽しみとして梨紗の快感を受け入れていた。


そんなある日、寝ているとまた胸の辺りが揉まれているような感覚に襲われた。
(今日も始まったか…)
無意識に手を胸のところに移動した。
(!)
手に柔らかい膨らみを感じた。
自分の手でそれを握ってみた。
「痛いっ!」
思わず声を出してしまった。
徹雄は慌ててパジャマのボタンを外して自分の胸を見た。
そこには可愛らしい膨らみがあった。
「あっ…」
乳首が口に含まれ舌で転がされているような感じだ。
徹雄は強い快感のせいで胸を見続けることもできずぼんやりと天井を見ながら手を胸に置いた。
確かに自分の胸に乳房がある。
軽く揉んでみた。
柔らかかった。
(本物みたいだ…)
人差し指で乳首の先を触った。
乳首が硬くなっている。
(いったいどうなってるんだ…)
胸から伝わる感覚は前より強いように思えた。
それは徹雄自身が自分の指で乳首に刺激を与えているためだったが、無意識で行っていたためそんなことには気がつかなかった。

石田の手が股間に近づいてきた。
指でクリトリスに優しく触れた。
(あああ…気持ちいい…)
徹雄はふといやな予感がし、恐るおそる自分の股間に手を当てた。
……そこにペニスはなかった。
ブリーフを脱ぐと、そこにはわずかな陰毛があるだけだった。
徹雄は梨紗の快感を感じながらも、自分の指を陰毛の中に忍ばせた。
触った感じは女性の性器そのもののようだった。
しかし、恐くて見ることはできなかった。

小さな突起に触れたとき、強烈な痛みを感じた。
さっきの梨紗のクリトリスの感じ方よりも強かった。
(どうして僕が女になってるんだ)
石田のペニスが入ってきた。
「…あ…あああ……」
快感で頭が働かない状態で、それでも必死に考えようとした。
そして石田が抽送を始めると全く何も考えることができなくなった。
徹雄は自分の指で胸と女性器に刺激を与えていた。
「ああああああああ……」
これまでで最高に絶頂を迎えた。
今日の快感に較べるとこれまでの快感は大したものではなかった。
絶頂を迎えたあと、しばらく気を失っていたようだ。
少しずつ快感が引いていく。
それでも時々快感が強まって寄せてくる。
なかなか快感から解かれることはなかった。

どれくらい経ったのか分からない。
ようやく快感がほぼ去った。
すぐに身体を確認した。
身体は元に戻っていた。
胸も見慣れたものだったし、股間にもペニスがちゃんと存在していた。
「何だったんだろう、あれは?」
自分が幻を見たような気がした。
しかしそれは確かに現実だった。



次の日の仕事帰りに全身を映す鏡を購入した。
昨日のようなことがあったときすぐに自分の身体を見ようと思ったのだ。
男の顔のまま身体だけが女になっているのか?
それとも絶世の美女になっているのか?
正直なところものすごく楽しみにしていた。
そして購入した鏡を部屋の壁に立てかけておいて、そのときを待った。

その日は2日後にやってきた。
部屋でボゥーッとしていると、胸を揉まれたことを感じた。
徹雄はすぐに服の上から自分の胸を確認した。
やはり乳房ができていた。
強い快感のせいで身体を素早く動かせなかったが、這うようにして何とか鏡の前に座った。
鏡に映っていたのは堀江梨紗自身だった。
(どうして…?)
ついに身体までシンクロしたというのか。
徹雄は頑張って服を全部脱いだ。
鏡には全裸になった梨紗が映っていた。

全身を舐められている感じがする。
鏡の中の梨紗が舌がもたらす快感に顔が歪んだ。

徹雄は自分の胸に形成された乳房に手を当てた。
鏡の中の梨紗も同じように乳房に手を当てた。
軽く揉んだ。
柔らかい感触が手のひらを通じて伝わってきた。
自分の胸にできた乳房が揉まれた感触を感じた。
さらに視覚的に鏡に映った梨紗の艶かしい裸体に興奮した。
梨紗の身体に与えられた快感が伝わってくることにも興奮した。

徹雄は何重にも重なった快感に溺れていた。
自分の身に起こった不可思議なことを疑問に思いながらも、襲ってくる快感の前に頭は全く機能しなかった。

徹雄は鏡の前に座った。
膝を立て股間を大きく広げた。
鏡に映る梨紗の女性器はグロテスクだった。
内部からヌメヌメした液を出し、それがいやらしく光っていた。
女性器のビラビラは男を求めるように蠢いている。

徹雄は自分の身体に存在する女性器を見ながら、挿入されるのを想像していた。
(このオマンコがペニスを銜えるときってどんな動きするんだろう)
徹雄は自分の指でクリトリスに触れた。
石田に触れられる感覚と自分が触っている感覚が入り混じり、快感におかしくなりそうだった。

徹雄は乳房を揉んで、クリトリスを触りながら、石田に触られる感触をも楽しんでいた。
(入れて欲しい……)
自分が男だという意識はなくなっていた。
オスを求めるメスだった。

石田のペニスが入ってくるのを感じた。
「…ぁぁぁ……」
何重もの快感のせいで挿入されただけでいってしまった。

気がつくと石田の腰の動きを感じた。
徹雄は無意識に腰を動かしていた。
女性器から粘液が溢れ出ている。
まだ昇りつめない。
徹雄は石田の腰の動きに合わせるように腰を振った。
「…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ………」
腰の動きに合わせるように声が漏れた。
疲れを感じるくらい腰を動かしたとき、身体の中から熱いものが出てきているのを感じた。
そうすると一気に昇りつめて、徹雄の身体は何度か痙攣した。
自分が大声をあげていることにも気がつかなかった。
(……あああ……すごい…こんなの初めて……)
薄れゆく意識の中で徹雄は思った。


徹雄は梨紗になることが何よりも楽しみになった。
梨紗の身体は本当に綺麗だった。
男である自分が美しい女性になることができる。
それは誰もが持っている変身願望が実現しているためかもしれない。
変身しても確実に元の身体に戻ることができる。
そういう安心感があったため純粋に楽しみとして感じることができたのだろう。
しかし、何度も梨紗に変身する影響は少しずつ身体に現れてきた。

最初のころは元の身体に戻ると、完全に乳房がなくなっていたように思っていた。
しかしそれは間違いだった。
徹雄が梨紗になることが分かって5回目くらいのときだった。
元の身体に戻ってもわずかに胸に膨らみが残っていたのだ。
始めのうちは単なる肥満なのかもしれないと思った。
だが徹雄が梨紗に変身する度にその痕跡を残すようにわずかな膨らみが残るようになっているのは明らかだった。
胸の膨らみが残るようになってくると乳首が異常に敏感になっていった。
指で触れると強い快感を感じた。
それは梨紗の身体になっているときの快感に似ていた。
だがそのことは実生活に支障も出てきた。
乳首がシャツなんかに擦れると痛いのだ。
徹雄はバンドエイドを貼って、その痛みに耐えていた。

影響は胸だけではない。
脚のすね毛は少しずつ薄くなっていき、今では綺麗になくなっている。
髭を剃る必要もなくなっていた。
女の絶頂感を感じるせいで、女性ホルモンが大量に身体の内部で生成されているのかもしれない。

やがて影響は身体だけでなく精神的にも現れてきた。
男としての性器があることに少しずつ違和感を覚えるようにさえなった。
身体が女性に近づいていることが喜びに感じられるのだ。
最初は元の身体に戻ることが安心感につながっていたのだが、やがてそれは不満になっていった。

さらに別の影響が出てきた。
それは何となく石田課長のことを意識してしまうようになったことだ。
仕事中であっても気がつくと石田の姿を探してしまっている。
しかも石田の姿を認めると胸がキュンッとするのだ。
昔々に経験した初恋のような切なさだった。
石田のあの厚い胸板に触れてみたい。
石田に抱きしめられたい。
そんな妄想に囚われてしまうのだった。

梨紗が石田に抱かれると徹雄の身体が変身するため、石田が梨紗を抱いていることが分かってしまう。
そのことが徹雄の気持ちを複雑なものにしていた。
女性の身体になれる喜び。
しかし一方では愛する石田が自分以外の女性を抱いている嫉妬心。
二つの感情の間で徹雄は気も狂わんばかりだった。



「相原くん、今日仕事終わってから時間あるか?」
徹雄が会社でデスクワークをこなしていると石田課長から声をかけられた。
「はい、何ですか?」
徹雄は思わず聞き返してしまった。
言葉は聞こえていたのだが、うまく理解できなかったのだ。
「今日一緒に飲みに行かないかって言ったんだよ」
やはりさっき聞こえたのは間違っていなかったらしい。
「はい!」
徹雄は嬉しくて大きな声で返事していた。
「それじゃ夕方声をかけるからな」

石田に連れて行かれたのは居酒屋だった。
もう少しムードのある店を期待していた徹雄には少し不満だった。
しかし男同士で行く店としてはこんなものなんだと自分に言い聞かせた。
「最初はビールでいいかな?」
「はい」
石田は店員にビールといくつかの料理を注文した。
店員がテーブルから離れると、石田は徹雄をまっすぐ見て話し出した。
「単刀直入に聞くけど、相原くんって最近よく僕のこと見てるよね?」
石田への好意を感じるようになってから、石田の姿を追うようになっていた。
石田はそんな徹雄の視線に気がついていたのだ。
「あれはどうしてかな?まるで恋する乙女の目のようだけど」
石田が目の前で悪戯っぽく笑った。
徹雄は何も言えずに下を向いているだけだった。
「どうだろ、君さえ良ければここで腹ごしらえしてからもっとムードのあるとこに行くってのは?」
徹雄は思わず嬉しそうに顔を上げた。
「ははははは、その顔はOKって顔だな。それじゃこんなところに長居しないで次のところへ行こうか」
居酒屋でビール一杯と数種類の料理を食べて、すぐに次のところへ向かった。

石田に連れていかれたのは街で一流と言われているホテルだった。
そこのツインを取ると、二人で部屋に入った。

部屋に入ると抱きしめられキスされた。
ビールの味と煙草の匂いがした。
口に入れられた舌を一生懸命に追った。
ひとしきりキスを追え、向かい合った
「課長ってホモだったんですか?」
「何言ってるんだ。僕は相原くんの愛に応えてるだけじゃないか」
「でも、課長にはちゃんと奥さまがいらっしゃいますし、どうして僕なんかとこんなところに」
「そんなに自分のことを卑下しちゃいけないな。君は十分に魅力的だよ」
徹雄には石田の言葉が嬉しかった。

そんな徹雄の気持ちを表情から感じ取った石田は再び顔を近づけた。
今度は唇ではなく首筋を舐めた。
徹雄は自分の汗が気になった。
「あ…あのぉ……」
石田は行為を中断した。
「何だい?」
「あの……シャワーを浴びていいですか?」
「何だ、まるで女の子みたいだな。別にシャワーなんか浴びる必要ないよ」
「でも…」
「シャワーを浴びたいのなら浴びてくればいいよ」
石田は徹雄から離れてベッドに腰掛けた。
徹雄はシャワールームに入った。

徹雄はシャワーを浴びながら気持ちの高鳴りを抑えられなかった。
これから石田に抱かれることに対する期待と不安だ。
男のくせに男に抱かれるなんてという冷静な部分があるが、やはり喜びのほうが大きかった。
僅かに出ている胸が鏡に映っている。
石田はこの胸を見たらどう思うだろう。
可愛いと言ってくれるだろうか?
それとも変態扱いされるだろうか?
不思議なことにマイナスイメージはほとんどなく、石田は暖かく受け入れてくれそうな気がしていた。

ふと腋毛が気になった。
(絶対剃ったほうがいいよな)
洗面所に置いてあった女性用の安全カミソリを手に取り、腋毛を剃った。
しかし慣れないせいかなかなかうまく剃れなかった。
わずかに残った毛が気にはなったが、石田を待たせていることのほうが気になり、身体にへばりついた剃った毛を洗い流し、石田の待つベッドに戻ることにした。
いつものようにバスタオルを腰のところで巻いたが、思い直して胸のところで巻き直した。

石田は全裸になってベッドで待っていた。
「やっと来たか。もう出てこないのかと思ったよ」
そう言って徹雄の左手を握り、強く引き寄せた。
「きゃっ」
可愛く叫び、徹雄は石田の胸に抱き寄せられた。
「相原くんじゃ味気ないな。相原くんって名前は何だっけ?」
石田は徹雄の顔をじっと見つめて言った。
「徹雄です」
「テツオか…。テツコじゃあまり色っぽくないしな。…そうだ、さとみはどうかな?僕は聡史だし、僕の名前に合ってるだろ?それに僕は石原さとみが好きだしな」
「さとみ…ですか?」
「嫌か?」
「いえ、さとみでいいです」
石田は徹雄に優しくキスした。
「さとみの肌は女のように綺麗だな」
石田は徹雄の首筋に指先を走らせた。
「…ああ……」
くすぐったいような気持ち良さがあった。

石田は徹雄のバスタオルを剥ぎ取った。
徹雄の胸が僅かに膨らんでいることに気がついた。
「さとみは女性ホルモンを飲んでるのか?」
「いえ、そんなの飲んでません」
「それじゃこれは何だ?」
石田が小さな膨らみに手を重ねた。
「小さいけど、これはおっぱいだよな?」
「……」
「言いたくないんなら、まあいいさ。…それじゃ感度を調べてみよう」
石田の舌が徹雄の胸の先をつついた。
「…ぁん……」
「感度はいいようだな」
石田は徹雄の表情をうかがいながら、指の先で乳首に触れた。
徹雄は見られているので口から漏れそうな声を必死に耐えていた。

そのとき、胸と股間に強い快感を感じた。
この感じは梨紗の感じだ。
(やばっ。堀江のやつ、オナニー始めやがった)
徹雄は焦った。

徹雄が梨紗の感覚に耐えていたが、ふと気がつくと少し離れたところで驚いた顔の石田の姿があった。
「ど…どうして…相原くんが堀江くんなんだ?」
(見られた!)
自分が梨紗の姿になってしまうことを石田に見られてしまった。
徹雄は焦った。
しかし焦ってもどうしようもない。
徹雄は梨紗の感覚が過ぎ去るのを待った。
その間石田は化け物でも見るように徹雄を見ていた。
梨紗のオナニーによる快感と石田に見られている恥ずかしさで徹雄は今までになかったほど興奮を覚えていた。
徹雄の股間はこれまでで最高に濡れていたのだ。
石田のペニスが欲しいという衝動が湧き上がった。
もしかするとそれは梨紗の気持ちだったのかもしれない。
徹雄には判断できなかった。
徹雄は石田の身体に触れようと手を伸ばした。
しかし石田はその手を避けるように逃げた。
徹雄はなかなか石田に触れることができなかった。

やがて梨紗がオナニーを止めたようだ。
徹雄の身体は元に戻った。

「何がどうなってるんだ?」
徹雄はこれまでのことを石田に話した。
「そうすると堀江くんが性的な快感を感じると相原くんの身体が堀江くんになるって言うのか?」
「はい…原因は分かりませんが、そういうことです」
「なら堀江くんにもう一度オナニーをしてもらおうか」
「えっ、そんなこと、やめてください」
「まあいいから」
石田は携帯で電話した。
どうやら梨紗に電話しているらしい。
しかし梨紗は電話に出なかったようだ。
「残念ながら寝ちゃったみたいだ。もう一度相原くんの変身するところを見たかったのにな」

石田が徹雄を抱きしめた。
「とにかくさとみを愛してあげなくちゃな」
そう言って耳たぶを舐めた。
「この胸は堀江くんの身体に変身するせいで大きくなってるのかな?」
胸に触れながら、身体中に舌を這わせた。
徹雄は自分の身体がこれほど敏感だということを初めて知った。
石田の舌でものすごく感じていた。
「それじゃうつ伏せになってくれないか」
石田の言葉におとなしく従った。
何か冷たいものがお尻に塗られた。
(いよいよ入れられるんだ)
徹雄は不安が大きくなるのを感じた。

石田のペニスがアヌスに入ってきた。
(い…痛い……)
肛門が裂けるような痛みを感じた。
しかし痛がると石田に悪いと思い、徹雄は必死に耐えた。
「すごい締め付けだ。千切られてしまいそうだ」
石田はゆっくりと腰を動かした。
強い痛みが襲ってきた。
徹雄は枕を噛んで声が出るのを抑えた。

石田が徹雄の中で精子を放出した。
(やっとこれで終わってくれる…)
徹雄の予想は裏切られた。
石田はやや柔らかくなったペニスを出すことなく、再び腰を動かし始めた。
石田のペニスが自分の中で大きく硬くなってくるのを感じた。
するとさっきは感じなかった快感が身体の中から湧き上がってくるのを感じた。
(あああ……すごい…。これ…いいかも……)
徹雄は石田にはまりそうな予感がしていた。



次の日、徹雄は朝から肛門を中心に違和感を覚えた。
股の辺りに何かが挟まっているような感じがして歩くことさえ不自由さを感じていた。
しかし昨夜の石田との交わりのためにそう感じることだと思うと幸福感を感じるのだった。

その日、仕事をしていると石田からメールが送られてきた。
今日はいきなりホテルに来てほしいということだった。
時間の指定は10時だった。
仕事が終わってからでも十分な時間があったので、徹雄は一旦帰宅して身支度を整えることにした。
汗を洗い流すのはもちろん、除毛剤で腋毛を綺麗にすることも忘れなかった。

シャワーを浴びて、全身を拭いていると携帯がメールの着信を知らせた。
それは石田からのメールだった。
『昨日のホテルの703号室に来てほしい』
徹雄は幸せな気持ちでその短いメールを読んだ。

そして、着ていく服を悩んだ。
わざわざ再度スーツを着るのも堅苦しい気がした。
そこで、ポロシャツにジーンズという姿で行くことにした。
30分もあればホテルに着く。
徹雄は余裕を持って9時過ぎにホテルに向かった。

703号室の前に来た。
徹雄は一度深呼吸をしてからドアをノックした。
部屋の中から石田の返事が聞こえて、鍵を開ける音がした。
「待ってたよ。さあ入って」
徹雄は石田に促されて部屋に入った。
徹雄が部屋に入ると鍵をかける音がした。

「どうしてそんなやつを呼んだのよ」
前方から女の声がした。
梨紗だった。

その瞬間徹雄はそこにいてはいけないように感じた。
咄嗟に踵を返して部屋から出て行こうとした。
しかしドアのところにいた石田に捕まれた。
「せっかく来たんだからゆっくりしていけよ」
徹雄の手首に何かをつけられた。
手錠だった。
片方を徹雄の手首に、もう片方をベッドの脚につけられた。
「外してください」
「まあそう焦るなって」
石田は徹雄にそう言って、梨紗を引き寄せ抱き締めた。
「やめてよ。あたしは人に見られて興奮するような趣味はないわよ」
「そう言うなって。今、面白いものを見せてやるから」
「やめて…」
石田は梨紗にキスして言葉を切った。
「…んぐ…」
最初のうち梨紗は嫌がるような仕草をしていたが、やがて両腕を石田の首に絡めて石田のキスに応えた。
石田の手が梨紗の胸に移動した。

徹雄は乳房が揉まれるように感じた。

石田は梨紗とのキスを中断した。
しかし胸への愛撫は続いていた。
「相原のほうを見てみろよ」
梨紗に小さな声で言った。
梨紗は乳房の愛撫に感じながら少しだけ目を徹雄のほうにやった。

そこには徹雄の姿はなく、女性の姿があった。
しかもそれは自分自身なのだ。
梨紗の顔に驚きの表情が浮かんでいた。

「何、これ?どうなってるの?」
驚いた梨紗は石田の腕の中から抜け出た。
すると梨紗だった女性の姿は徹雄に戻った。

「何、どうなってるの?手品か何かなの?」
梨紗は徹雄の顔を穴が開くほど覗き込んだ。
「知らないよ。少し前からこんなふうになるようになったんだ」
「でも今戻ったわ。どうしたらあたしになるの?」
石田が梨紗の背後に近づいた。
「それはこうすればいいみたいだ」
石田が梨紗の胸に手を滑り込ませた。
「何するの、こんなときに」
「まあ見てなって」
石田はブラジャーの中に手を入れ、乳首を摘まんだ。
「…んっ…やめてよ…」
「ほら、見てみろよ。始まったみたいだぞ」
目の前の徹雄が梨紗の姿に変わった。
「君が性的快感を感じると相原くんは君の姿になるんだ」
「うそ…」
「それじゃ胸を触るのをやめてみるぞ」
石田は梨紗の胸元から手を抜いた。
徹雄は元に戻った。
「へえ、本当みたいね。本当に不思議だわ。でもどうしてあたしなの?」
梨紗は顔を徹雄の顔に近づけた。
徹雄からは何の返事もない。
「あ…そう言えば昔そういう映画があったわね。アイドルが大好きでその人になっちゃうって映画が。もしかしたらあんたもそうじゃない?あたしのことが大好きなんでしょ?そりゃそうよね、あたし美人だもん」
意味ありげな笑いを浮かべた。
「こういう状態なら普通できないひとりエッチができるってことよね?」
梨紗は石田のほうに振り向いた。
「聡史さん、相原くんの手錠を外してよ」
「逃げられても知らないぜ」
「大丈夫よ。急に誰かの前であたしの姿になってもよければ勝手に逃げてもいいわよ」
徹雄は梨紗から逃れられそうもなかった。
石田が手錠を外してもその場でおとなしくしていた。
「はい、それじゃ相原くん、裸になって」
徹雄は動こうとしなかった。
「一人じゃ恥ずかしいの?だったらあたしも裸になってあげるから」
梨紗はさっさと服を全部脱ぎ全裸になって、ベッドに横たわった。
その姿を見て、徹雄がゆっくりと服を脱いで裸になった。
「はい、それじゃこっちにいらっしゃい」
徹雄は梨紗のベッドの前に立った。

そんな二人の様子を石田はソファに座って観察していた。

「あたしの胸を触って」
徹雄が言われるまま梨紗の胸の上に手を置いた。
「どうしたの?置いてるだけじゃ何も感じないじゃない」
徹雄はゆっくりと梨紗の胸を揉んだ。
「もっと優しく…。そうそう……いい感じよ…」
徹雄は自分の胸が揉まれている感触があった。
気がつくと徹雄の身体は梨紗に変わっていた。
「あたしがあたしに抱かれるなんて何て倒錯的なの!」
梨紗は梨紗の姿になった徹雄を抱きしめた。

梨紗は徹雄に覆い被さるようにして体勢を入れ替えた。
弾みで梨紗の胸に触れていた徹雄の手が外れた。
徹雄は梨紗が性的な刺激を感じていないことをすぐに感じた。
それでも徹雄は梨紗のままだった。

「本当にあたしにそっくりね。すごくワクワクするわ」
梨紗の目は欲望にギラギラしていた。
梨紗の性的欲求の高まりのせいで徹雄の変身が解けないのかもしれない。
徹雄はそう思った。

梨紗の手が徹雄の乳房に重なった。
「やっぱりあたしのおっぱいって柔らかーい」
梨紗はニコニコしながら執拗に徹雄の乳房を揉んだ。
徹雄は梨紗の心理的な興奮を感じながらも、それ以上に直接刺激される乳房の感覚に戸惑っていた。
時々梨紗の手のひらが徹雄の乳首を転がすようにした。
その度に徹雄は口からこぼれる甘い声を抑えきれなかった。
まるでペニスが胸の先についているような感じだった。
「あたしって感じてるときはこんな顔してるのね。とてもいろっぽいんだ…」
梨紗は徹雄の表情を見ながら愛撫を続けた。

やがて梨紗は徹雄を強く抱きしめた。
そして梨紗の柔らかい唇が徹雄の唇を塞いだ。
「……んんん……」
徹雄は息苦しく何かを言おうとした。
それは梨紗の力が意外に強く離れることはできなかった。

二人の柔らかい乳房が二人の身体にはさまれて潰れたようになった。
心地いい快感が徹雄を包んだ。

「ねえ、あたしのあそこ見せてくれる?」
梨紗は徹雄の股間に顔を埋めた。
「やめろって」
徹雄の抵抗は言葉だけだった。
しかし本心では見られることへの興奮を覚えていた。
股間の湿り気が高まっていくのを感じた。
「へぇ、あたしのってこうなってるんだ」
徹雄の女性の部分に梨紗の息がかかった。
「こんなふうにヌラヌラ動いてるのって初めて見たわ。意外とグロテスクなのね」
じっと見られているようだ。
「もうやめてくれよ」
そのとき身体中に衝撃が走った。
「…ぅゎ……」
「どう?すごいでしょ?今のがクリトリスよ」
梨紗が徹雄のクリトリスに触れたようだ。
「ふぅん…。こういう味か」
梨紗が徹雄のクリトリスに触れた指を舐めて徹雄の粘液の味を確かめたのだ。
徹雄はもっと触って欲しかった。
しかしそれを口に出すのは恥ずかしかった。

「…あっ……」
急に梨紗が声をあげた。
「二人だけで楽しんでないで、僕も参加させてくれよ」
石田が梨紗の身体を撫で回していた。
梨紗の声をあげる度に梨紗の熱い息が徹雄の女性器にかかった。
徹雄は異常に興奮していた。
おしっこをもらしたようにグッショリと股間が濡れていた。

徹雄の女性器に指が触れた。
「…あああ…やめ…ろ……」
クリトリスを刺激された徹雄は大きな声をあげた。
「あたしの声でそんな乱暴な言い方しないでよ」
いつの間にか梨紗の顔が目の前にあった。
クリトリスへの刺激はなおも続けられている。
「…あああああああ………」
徹雄の喘ぎ声を抑えるように梨紗の唇が重なった。
「…んんんんん……」
徹雄は口を塞がれて声を思うように出せない。
必死に梨紗から逃れようとするが、クリトリスへの刺激が強くうまく身体を動かすことができなかった。
梨紗の両手が徹雄の顔を押さえた。
ますます顔を動かせなくなった。
長時間の梨紗のキスのせいで徹雄は相当息苦しくなってきた。
それでもクリトリスへの刺激は続いていた。

ようやくクリトリスを触っているのは梨紗ではなく石田だということに気がついた。

「なかなか感度いいじゃないか、さとみは」
石田の言葉に梨紗が口を挟んだ。
「さとみ?さとみって相原くんのこと?へえ、さとみって言うんだ。気持ちいい?さとみちゃん」
「…あああ……やめろ……おかしくなりそうだ……」
「だからぁ…あたしの声なんだからもっと可愛く言ってよ、さとみちゃん」
梨紗が徹雄の乳首を指で弾いた。
「…あ…いた…」

そのとき徹雄の脚が持ち上げられて、股間に硬いものがあてられた。
「それじゃさとみの処女をいただくことにしよう」
石田のそんな言葉と同時に強い痛みを感じた。
股間に杭を打たれたようだ。
「痛い!」
徹雄のそんな言葉を無視して、その硬いものはどんどん中に入ってきた。
「さすがに初めてだな。むちゃくちゃ締めつけるぜ」
ついに徹雄の女性器は石田のペニスを全て受け入れた。

徹雄は股間の痛みに耐えられない思いだった。
少しでも動くと股間が引き裂かれそうに感じた。
「石田さん…もう出してください…」
徹雄は懇願した。
「何言ってんだよ。男がこうなったらあとはフィニッシュを迎えないと終わらないだろ?さとみだったら、そんな男のことはよく分かってるだろ?」
「でも…今動いたら裂かれてしまいます…」
「女の初めてはそんなものよ。でもみんな好きな男性のために我慢するの」
「そ…そんなの…無理だ……」
「まあいいから」
石田がそう言って腰を振り始めた。
「痛い…痛い…痛い…痛い…痛い…」
女性のセックスが気持ちいいなんて全くの嘘だ。
痛いばかりで少しも気持ちよくない。
徹雄は早く終わってもらうことだけを考えていた。
しかし石田は徹雄の身体を楽しむようにゆっくりと腰を振って、なかなか終わらなかった。
あまりの痛みに意識が遠のく思いだった。
そうなると徹雄の口から喘ぎ声のような声が漏れてきた。
「…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ…ぁ……」
徹雄は感じ始めているように見えた。

石田の腰の動きが早まった。
もうすぐ終わりそうだ。
徹雄はそう感じた。
しかしなかなか終わらなかった。
その頃には痛みよりも快感を感じるようになっていた。
徹雄は自分から腰を振った。
(なんか…おかしくなりそう……)
徹雄は意識が朦朧としているようだった。

石田は腰をドンッドンッドンッドンッドンッと5回強く打ちつけた。
(中に出される!)
徹雄は腰をひこうとした。
しかし快感を求める状態に陥っていた身体が腰をひくことはなかった。

5回目打ちつけたときに石田のペニスから熱いものが徹雄の中に放たれた。
徹雄の女性器が石田のペニスを抜けださせないように強く締めつけた。
それは石田のペニスから最後の一滴まで精液を搾り取ろうとするかのようだった。

ベッドの隣では石田と梨紗が絡み合っている。
徹雄はそんな様子を半分朦朧とした意識で眺めていた。
梨紗が石田に貫かれて激しくよがっていた。
そんな梨紗を見て、ついさっきの自分の身に起こったことを思い返した。
(痛かったけど、何か妙な充実感があるんだなあ、女のセックスって)
梨紗が感じている姿を見て、ふと違和感を覚えた。
梨紗の感覚が伝わってこないのだ。
(まだ今の堀江の感覚が伝わり続けたらおかしくなっちゃうだろうなあ)
そんなことを考えて、身体を二人のほうに向けた。
胸に乳房の重みを感じた。
(梨紗の感覚は伝わってこないけど、僕はまだ梨紗の身体のままなんだ)
徹雄は二人の達するまでの様子をボォーッと眺めていた。
やがて二人は絶頂を迎えたようだ。
これであと少しすると元の身体に戻るだろう。
徹雄は目を閉じた。

「ねえ、相原くん、起きて」
強い調子で起こされた。
「何だよ」
口から出た声は高い声だった。
(!)
慌てて自分の身体を見た。
そこには女の身体があった。
「元に戻ってない!」
焦っている徹雄を梨紗は鏡の前に連れて行った。
そこには梨紗と似てはいるが、少し感じの違う女性が映っていた。
「どうして……」
「僕が君の処女を奪ったせいかもしれないな」
横から石田が口を挟んだ。
石田は悪いことをしたかのようにやや俯きがちだった。
「そんな…」
徹雄はショックでそれ以上言葉が続かなかった。

そんな徹雄の精神状態にもお構いなしに梨紗は自分との違いを見つけるのに一生懸命だった。
「さっきはあんなにあたしに似てたのに、今は少し似てる程度ね。あたしと相原くんを足して2で割ったって感じなのかな?そう思わない?」
確かに身長が梨紗より少し高かった。
胸が少し小くなっていた。
顔は梨紗の童顔に較べて大人の女性の美しさを感じられるものになっていた。
可愛さでは梨紗だが美しさでは今の徹雄のほうが上だろう。
「土台があたしだから相原くんテーストが入っても十分美人で通用するわ。よかったじゃない」
梨紗は一つひとつの部品について比較し、最後にこんなことを言った。
どうやら梨紗にとっては徹雄の身体の変化なんか単なる他人事でしかないようだった。
事態の重さを認識しているとはとても思えなかった。

梨紗はある程度自分との比較を終えると、服を着て帰り支度を始めた。
「それじゃあたしは帰るわね。あんまり厄介なことには関わりたくないし」
そして実際「じゃあね」という言葉を残し、さっさと部屋を出ていった。


徹雄は鏡に映った今の自分の姿を見つめていた。
(このまま元の身体に戻れないんだろうか?)
そんなことを考えてもそれほど深刻さはなかった。
すでにさっき感じたショックがかなりなくなっていることに徹雄自身が驚いた。

鏡に石田の姿が映った。
徹雄の背後に石田がやってきたのだ。
石田は徹雄の肩に手を置いた。
「すまない。僕が面白がって君を抱いたせいでこんなことになってしまって」
徹雄は何も言わずに石田の手の上に自分の手を重ねた。
石田を責める気持ちはなかった。
むしろ石田を愛するのに相応しい姿になれたことが嬉しいような気さえした。

ふと自分の内股に赤いものがついていることに気がついた。
破瓜の血だ。
(さっき石田さんに処女を捧げたんだ…)
何か嬉しいような照れ臭いような感情が浮かんだ。
同時にさっきよりも優しく抱いてほしいという欲求を抑えられなくなっていた。

徹雄は振り返り石田の首に両腕を絡めた。
キスを求めるように目を閉じた。
石田は少し戸惑っているようだった。
しかし結局は徹雄を抱きしめて唇を重ねた。
下腹部付近に当たる石田のペニスが硬くなっているのが感じられる。
徹雄はその硬くなったペニスを握り、先を指で触った。
「…んんん……」
石田が感じているようだった。
徹雄に対抗するように石田も徹雄の乳首を摘んだ。
「…んんんんん……」
唇をしっかり重ねられて声を出すことができなかった。

徹雄が唇を離そうと藻掻いていると、石田に抱き上げられた。
いわゆるお姫さま抱っこというものだった。
「それじゃ、さとみ、ベッドにいこうか」
徹雄は軽々と抱き上げられる自分の軽さが嬉しかった。

ベッドに横たえられた徹雄は全身に石田の愛を感じた。
徹雄自身これほど感じやすいとは知らなかった。
まさに全身性感帯だった。
石田の手が、指が、口が、舌が、徹雄の身体に触れる度、徹雄は歓喜の声をあげた。

石田のペニスが入ってきた。
2度目の挿入のためかやや痛みがあったものの少しずつ快感を感じることができた。
自分の腰の位置を調整して感じやすい動きというものも分かるようになってきた。
徹雄は石田によってまさに『女』になった。

石田の腰の動きが速くなっていき、やがてペニスが何度か収縮したように感じた。
石田が徹雄の中で射精したのだ。
石田の射精を感じると徹雄は強い快感を感じた。
そして石田に強くしがみつくように抱きついた。

全てが終わり、石田が徹雄の横に寝転んだ。
徹雄は石田の腕の中に潜り込んだ。
石田の胸に手を置いていると何とも落ち着いた気持ちになった。
二人は一緒に眠りに落ちていった。



徹雄が目覚めると、目の前に石田の寝顔があった。
(あぁ…そうか…)
昨夜の出来事が思い出された。

石田に抱かれるのに相応しい姿になれて、石田に抱かれた。
そう思うとくすぐったいような気持ちになった。
石田の頬に軽くキスをすると、石田が寝返りを打った。
何か恋人みたいだなと考えると幸せな気持ちになれた。

徹雄は昨夜の情事の痕跡を洗い流すことにした。
ユニットバスのカーテンをひき、シャワーを浴びた。
シャワーを打つ皮膚は白くなめらかなものだった。
シャワーを浴びている自分の姿は十分大人の色香を漂わせたものだった。
それでも徹雄はそれほど興奮することはなかった。
自分の身体だからなのか?
慣れない女性の身体に戸惑っているせいなのか?
それとも精神的にも女性になってしまっているのか?
(ああ、これから僕はどうなっちゃうんだろう)
あまり悲壮感はないのだが、そんなことを考えてしまう…。

徹雄はバスタオルで身体全体を拭いて、バスタオルを胸元に巻いた。
(やっぱり今の姿にはこっちのほうが似合ってるよな)
徹雄は今の状況を結構楽しんでいた。
もしかすると梨紗の性格が少し入っているのかもしれなかった。

時間は6時を過ぎている。
徹雄は石田を起こすことにした。
「石田さん、起きて」
意識して女性の言い方をしたのだが、恥ずかしくて顔が赤くなるのを感じた。
石田が布団を頭から被った。
「加代、もう少し寝させてくれよ」
(加代って誰だろう?奥さんかな?)
徹雄は誰かと間違えられたことが寂しく、そして腹立たしかった。

徹雄は布団を剥ぎ取った。
「石田さん、起きてください!」
今度こそ石田は完全に目を覚ました。
「あ…おはよう……。……そうか…君と泊まったんだったな…」
(頭の中では奥さんへの言い訳を考えてるんだろうな)
石田の様子を観察しながら、徹雄はそんなことを考えていた。

石田は慌ててスーツを着た。
「とりあえず僕は会社に出るよ。君は今日は休んだほうがいい」
石田は徹雄にも急いで服を着るように促した。
徹雄は着てきたポロシャツとジーンズを着た。
身体が少し小柄になっているせいで基本的に大きめだった。
とくにジーンズのウエストはブカブカでベルトを思い切り締めないと落ちてきそうだ。
そのくせヒップはきつかった。
服を着ることで明らかに女性の体型になっていることを思い知らされた。

徹雄がそんなことを感じていることすら気がつかない石田は急いで部屋をでた。
そしてチェックアウトし、ホテルの前に停まっているタクシーに乗り込んだ。

タクシーで徹雄をアパートまで送ってくれた。
「今日は有給休暇ということで手続きしておくから、さとみはゆっくり休んでくれ。また夜にでも顔を出すから」
咄嗟に「さとみ」と呼ばれたことが嬉しかった。
徹雄はタクシーが見えなくなるまで見送り、自分の部屋に入った。



夕方になると石田がやって来た。
石田の目の前にはジャージ姿の徹雄の姿があった。
ジャージ姿とは言え、女のままであることははっきりと分かった。
色気のないジャージ姿であることが女になった徹雄の色気と可愛さを逆に強調しているようだった。

「どうだ、元に戻れそうな感じはあるか?」
石田の問いかけに徹雄は何も言わずに首を横に振った。
「そうか」
石田は次に続く言葉がないようで黙り込んでしまった。
「始まったんです」
小さな声で徹雄が言った。
「えっ、何が?」
「生理が始まったんです」
「生理?」
何となく人為的な性転換と同じように考えていた部分があった。
しかし、生理があったということは本当に女になったということだ。
生殖能力がある本当の女に。
この事実の前には石田は衝撃を覚えるしかなかった。
それは徹雄にとっても同じだった。
石田とつき合うのに相応しい姿になれたことを嬉しいと考えていたのだが、生理という現実を経験することによって改めてショックを感じていたのだ。

しかし、目の前の石田のうろたえた様子が少しおかしくて、徹雄はクスッと笑ってしまった。
「何だよ、人が心配してるのに」
ムキになった石田の様子を見ているとそれまでの精神的な落ち込みが嘘のようになくなった。
なぜか冷静になることができたのだ。
「僕のためにそんなに心配してくれて、石田さんって本当に優しいですね」
「そりゃそうだろ。僕があんなことをしたせいでこんな事態になったんだから」
「そんなに気にしてもらわなくてもいいですよ、こんな美人になれたんだから。それにしても生理痛はちょっとつらいですけどね」
徹雄は冗談っぽくお腹を押さえた。

そんな様子に石田も笑顔を浮かべた。
「それにしても生理用品とかどうしたんだ?」
「コンビニで買ってきましたよ」
「その格好でか?」
「そうですよ。変ですか?」
「いや、べつに変じゃないけど」
「ついでにですね…」
徹雄は立ち上がり、ジャージのズボンを少しずらした。
スカイブルーのショーツが見えた。
「ほら、見てください。女性の下着も買ったんですよ、色っぽいでしょ?」
「馬鹿っ。そんなもの見せるんじゃない」
石田は顔を赤くして視線を逸らした。

「なあ…僕が言えた義理じゃないかもしれないけど、会社に来いよ」
石田は急に話題を変えた。
「やっぱりそうしたほうがいいですよね?」
「いいのか?」
石田の予想に反して徹雄の声は明るかった。
だから逆に石田が確認する形になってしまった。
「だって悩んで元に戻るんだったらいくらでも悩むんですけど、石田さんの姿を見ると何か悩むのも馬鹿らしくなっちゃって。生理のせいで自分が女なんだって思わざるをえなくなったせいかいい意味で開き直っちゃったって感じですね。女の人が逆境に強いのが分かるような気がします」
徹雄の顔は強がっているのではなく自然な明るさがあった。
「それじゃいつまでもグズグズしてないで相原さとみとしての生活基盤を整えなきゃ、ですよね?石田さんのせいでわたしが女になったんだから、手伝ってください、ね?」
徹雄はあえて自分のことを『わたし』と言った。
しかも女の子らしく小首を傾けてウインクした。
すると石田は照れ隠しのためか咳払いした。
そんな石田を徹雄は可愛いと思った。
「別に責めてませんよ。でも僕一人じゃ心細いから買い物つき合ってくださいね」
徹雄はいつもの口調に戻した。
石田は少しホッとした表情を浮かべた。
「別にいいぞ。いつ行く?」
「明日、と言いたいけど、明日じゃ奥さまに嘘ついて出てこないといけませんよね。今からでもいいですか?」
「明日でもいいよ。土曜だしゆっくりできるしな。妻には仕事とでも言っておけばいいさ。仕事で土日に出るのは日常茶飯事だから大丈夫さ」
「でも…」
「今からよりも明日のほうが開いている店も多いだろう。それじゃ今日は帰るからな」
「あっ…」
徹雄はもう少し石田と一緒にいたかった。
できれば一晩中抱きしめていて欲しいと思っていた。
そんな徹雄の気持ちに気づかないのか石田は引き留める隙も与えずさっさと帰って行った。
(あーあ、石田さん、帰っちゃった)
石田は生理痛で痛むお腹を押さえつつ相当早い眠りについた。



次の日の朝、生理痛はかなり軽くなっていた。
徹雄はTシャツとジーンズを着て、石田を待った。
程なく石田がやってきた。
「それじゃすぐに出ます」
「その前にこれ」
徹雄は石田から小さな物を手渡された。
「これは?」
「口紅さ。女性なんだから口紅くらいは必要かなって思って」
「ありがとうございます。でも…」
徹雄は自分の唇を指差した。
「これでも口紅つけてるんですよ。昨日コンビニで買いましたから」
確かに徹雄の唇にはピンクの口紅がついていた。
「でも石田さんの好きな色のほうがいいですよね?ちょっと待ってください」
徹雄はピンクの口紅を落とし、石田の持ってきた真っ赤な口紅をつけた。
ちょっと口紅の色が浮いているような気がしたが、あまり気にしないことにした。
「これでいいですか?」
徹雄は唇を突き出すようにして、石田に近づいた。
「…ん……ああ……」
石田は近づいてくる徹雄の顔を注視できなかった。
徹雄は調子にのって石田の頬にキスをした。
石田の頬にキスの後が残った。
しかし石田はそれに気がつかないようだ。
徹雄は頬にキスマークがついた石田の腕を取り、外に出た。

徹雄は石田を近くのイオンに連れて行った。
「こんなところでいいのか?」
「贅沢したらキリがないでしょ。ここくらいが適当なんです」
徹雄は石田と腕を組んだまま下着売り場に向かった。
「僕はここで待ってるから一人で買ってこいよ」
石田はやや逃げ腰だったが、徹雄は決して石田を離さなかった。
「昨日約束したじゃないですか。ちゃんとつき合ってくださいよ」
嫌がる石田を下着売り場に行った。

下着売り場に着くとすぐに店員を捕まえた。
「しばらくちゃんと測ってないから、測ってもらってもいいですか?」
そんなことを言って店員とともに徹雄はカーテンの向こうに消えた。

カーテンから出てきた徹雄の表情は明るかった。
「わたしのサイズはいくらでしょう?」
「知らないよ、そんなの」
「いいからいいから、当ててみてくださいよ。まずバストは?」
「85くらいか?」
「ブー。80のCでぇす。意外とあるでしょ、この胸。じゃ次ウエストは?」
「60か?」
「残念。65。ちょっと絞らなくちゃいけませんよね。それじゃヒップは?」
「バストと同じ」
「何ですか、それ。当てる気あるんですか?83です。バスト80C、ウエスト65、ヒップ83。ねっ、まずまずだと思いません?」
そして徹雄は嬉々として下着を選び出した。
その姿を見てると昨日まで男だとはとても思えなかった。
そして約1時間の物色の結果、ショーツ、ブラジャー、キャミソールをいくつか買った。

さらに今の身体にフィットしたTシャツとジーンズを1着ずつ買うと、すぐにトイレで購入した服に着替えた。
それまで明らかに不似合いな大きさの服を着ていた感じだったが、身体にフィットしたものを着ることで徹雄はずっと綺麗になったように見えた。

「ちょっと休憩しませんか?ちょっと疲れたし」
自動販売機でコーヒーを買って、近くの長椅子に腰掛けた。

「なあ、ジーンズもいいけどスカートはいらないのか?」
石田は徹雄に可愛い服を着せたいようだ。
「スカートですか?そんなのいりませんよ。スカートを穿く勇気もありませんし」
「そうか。可愛いと思うんだけどな」
「石田さんがプレゼントしてくれるのなら別にいいですよ」
「よし、それじゃプレゼントしよう」
石田はさっさとコーヒーを飲み、立ち上がった。

徹雄はどうせならそんなに短くないものを買いたかったのだが、結局膝上10センチ程度のミニスカートを買うことになった。
プレゼントしてもらう立場なのであまり強気に出ることができなかったこともあるが、嫌がりながらもまあまあ似合ってると思ったからだ。

さらに仕事に来ていけるスーツを3着も買ってくれた。
1つはパンツスーツだったが、あとの2つはタイトのミニスカートのものだった。
「仕事に行ける服も必要だろ。女性の場合1着だけじゃなくっていくつか必要だろうしな」
タイトスカートを穿いた感じはとても窮屈に思えたが、鏡に映った姿がいかにも仕事ができる感じのカッコイイ女性という感じが気に入ったのだ。

最終的には両手にいっぱいの荷物を持って、アパートに帰った。


「石田さん、買ってきた服、着てみましょうか?」
部屋に戻ると徹雄はファッションショーのように買ってきた服を次々と着て石田に見せた。
そんな徹雄を石田は眩しそうに見ていた。

「さっきのスーツもう一回着てみてくれないか」
「パンツスーツ?」
徹雄は答えが分かっている質問をした。
「い…いや、こっちのほう」
指差したほうにはミニスカートのスーツが脱ぎ捨てられていた。
徹雄は予想通りの答えに微笑んだ。
「やっぱりこれが一番似合ってます?」
「あ…ああ」
徹雄はミニスカートのスーツを着た。
ヒップにビタッと密着し徹雄のヒップラインの美しさを強調するデザインだった。
スカートから伸びたストッキングをつけていない脚が魅力的だった。

石田はゆっくり徹雄を抱きしめた。
「さとみ…」
徹雄は自分のことを"さとみ"と呼ばれたことが嬉しかった。
「石田さん…」
徹雄は石田の唇を求めた。
石田はそれに応じた。
長い長いキスの後、二人は抱き合ったまま崩れるように倒れた。
「せっかくの服が皺になっちゃう……」
徹雄は無意識のうちに女性らしい言い方になってしまった。
そのことに徹雄自身気がついてなかった。
「そんなことくらい別にいいさ」
石田は服の上から徹雄の胸をまさぐった。
「ダメ…やめてください……」
石田はそんな言葉を無視して胸を揉み続けた。
「石田さん…生理だし……セックスできません…」
「生理だと妊娠の心配がないからいいじゃないか…」
「…そうなんですか?生理中はセックスできないんじゃないんですか?」
「そんなこと本気で言ってるのか?」
石田は胸を揉むのをやめて、呆れた顔で石田を見た。
「もちろんです」
「まさか今時そんなことを真顔で言う奴がいるとはな…」
「えっ…違うんですか?」
徹雄は石田の視線がつらかった。
徹雄は石田の腕から抜け出し、立ち上がった。

「セックスしても大丈夫なんだったら、自分で脱ぎます」
徹雄は自分の服を脱いで、石田の上に身を重ねた。

石田の股間の上に手を置き、ズボンの上から硬くなった部分を握った。
徹雄は自分の身体に興奮している石田のことが愛おしく思えた。
徹雄は石田のズボンのベルトを緩め、ズボンを下げてペニスを取り出した。
徹雄は石田の上にまたがり、ペニスを自分の膣口に当てた。
そしてゆっくりと腰を落とした。
(す…すごい……やっぱり感じる…)
「さとみ、生理中って感じやすいって言うが、お前はどうだ?感じるか?」
徹雄は何度も何度も首を縦に振り、同時に身体も上下させた。
やがて石田が徹雄の中で弾けた。



週が明けると、徹雄は相原さとみとして会社に行った。
(筆者注)以降は「さとみ(徹雄)」と表記します。

さとみ(徹雄)は朝一番課のメンバーの前で紹介されることになった。
「相原くんはご実家の都合で急遽退職することになった。その代わりと言ってはなんだが、今日から相原さとみさんが我々の仲間になってくれることになった。みんな、いろいろと教えてやってくれ。それじゃ相原さん、何か一言挨拶をお願いします」
さとみ(徹雄)はみんなの前に立った。
値踏みするような視線を感じた。
「相原さとみです。まだこちらの会社のやり方が分かってませんので、皆さんいろいろと教えてください。よろしくお願いします」
形だけの拍手が響いた。
「それじゃ堀江くん、相原さんと人事に行って制服をもらってきてくれないか」
「はい、分かりました。それじゃ相原さん一緒に行きましょうか」
さとみ(徹雄)は梨紗について人事に向かった。
「相原くん、結局元に戻れなかったんだ」
人事へ向かう途中で梨紗が小声でさとみ(徹雄)に話しかけてきた。
「うん」
「それにしてもすっかり女らしくなっちゃって…。まさか週末聡史さんに可愛がってもらってたんじゃないでしょうね。もし相原くんが聡史さんを奪うようなことがあれば、ただじゃおかないから。そうね……あなたの正体を会社中にばらすなんてのはどうかしら?」
「そんな…。石田さんは結婚してるんだし、僕なんて相手にされません」
「さあ、どうだか。まあいいわ。それにしても会社の中では『僕』なんて言わないほうがいいわよ。誰が聞いているか分かんないんだから」
「はい、分かりました」
「ま、とにかく、相原くんがおとなしくしてれば、別にあなたが困るようなことしないから」
そんなことを話していると人事課に到着した。
「着いたわよ。女らしく、ね」

人事課で制服をもらったさとみ(徹雄)は梨紗に連れられて、更衣室に行った。
「相原くんだと分かってて、女子更衣室に入れるのってちょっと抵抗あるわね」
「すみません」
「でも、その姿で男の更衣室なんか使えるわけないから仕方ないわ。それじゃこのロッカーを使って」
「はい」
「早く着替えて」
「分かりました」
そうは言ったものの梨紗の視線が気になって服を脱げずにいた。
「何してるの?女同士なんだから恥ずかしがることないじゃない。さあ早く」
梨紗の言葉に押されるようにさとみ(徹雄)は服を脱いだ。
「へえ、すっかり女性の下着をつけてるんだ。可愛いわよ」
さとみ(徹雄)は急いで制服を着た。
「それじゃ部屋に戻りましょうか」
「はい、分かりました」
さとみ(徹雄)はロッカーの鍵をポーチの中に入れた。
「あらっ、今ナプキン入ってなかった?」
梨紗が目ざとくポーチの中の生理用品の存在に気がついた。
「えっ…ええ。今、生理なんです」
「へえ、相原くんでも生理になるんだ。本当に女の子になったんだ。…そうか、だから女らしくなったのかもね」
梨紗は面白そうに笑った。

部屋に戻って仕事を始めるといつもの自分に戻ったような気がした。
おかげで肩の力を抜くことができた。
しかしその反面仕事に集中してしまうと、自分の姿が変わってることをうっかり忘れてしまいそうになってしまう。
「相原さん、お茶を入れて」
「相原さん、コピー頼むよ」
そんな言葉で自分が女になっていることを思い出すことができた。
新入りの女性ということで雑用を頼まれることが多い。
そのために、何とか今の自分の姿を思い出し、ボロを出さずに済んだ。

休憩室でお茶を飲んでいると同じ課の社員数人がやってきた。
「相原さんって辞めた相原さんと何か関係あるの?」
「妹さんとか?」
さとみ(徹雄)が答えられずにいると誰かが言った。
「本人だったりして。先週の金曜休んでたし整形してたのかも」
おそらく徹雄がいなくなって相原さとみがやってきたということで、『徹雄=さとみ』という疑いを誰もが持っていたのだろう。
それをゆっくり聞き出そうとしているときに空気を読めない者が直接的な聞き方をしてしまったのだ。

微妙な空気が流れた。
誰も口を開かなかった。

沈黙を破ったのは梨紗だった。
「何言ってるの。プチ整形ならともかく、ここまで整形したら内出血なんかがひどくって1週間は見られたものじゃないわ。人前に出れるようになるのは、2週間くらいかかるんだから。それに身長が違うでしょ?いくら整形しても身長までは変えられないわよ」
梨紗の言葉に張り詰めた空気が消えた。
「そりゃそうよね」
「何となく相原さんに似てるって言ってもそんなはずないわよね」
そこにいたメンバーはさっさと部屋に戻っていった。
『徹雄=さとみ』でなければどんな関係なのかは特に興味はないようだった。

「堀江さん、ありがとう」
さとみ(徹雄)は梨紗に小声で礼を言った。
「だって友達でしょ?」
意味ありげな笑いを浮かべ梨紗も部屋に戻っていった。


その日、さとみ(徹雄)は石田から誘いを受けた。
しかし梨紗の言葉もあり、さとみ(徹雄)はその誘いを断った。

石田からの誘いはそれからも何度かあった。
その度にさとみ(徹雄)は断った。
石田の誘いを断り続けているうちに、石田への想いがどんどん薄れていった。
おそらく梨紗とのシンクロのせいで梨紗の石田への想いがさとみ(徹雄)の心理へ影響したのだろう。
身体の完全変化によってシンクロ現象がなくなり、心理的な影響部分が時間とともに薄れていったのかもしれない。

石田への想いが消えたからと言って、あえて誰かと交際しようとは思わなかった。
もちろん、美人のさとみ(徹雄)だから会社の内外から男性の誘惑はあった。
その全てをさとみ(徹雄)は断っていた。

その分、さとみ(徹雄)は仕事に集中した。
ある程度時間が経つと自分が女性であることも完全に受け入れて、男であったことすら嘘のようにさえ思えるようになった。
さとみ(徹雄)は相原さとみとして誰からも認められていた。
しかも戸籍の上でもきちんと女性として認められ、戸籍上の名前も『さとみ』となった。
さとみ(徹雄)は『相原さとみ』としての生活基盤を手に入れた。



1年ほどすると石田が離婚したという話が伝わってきた。
どうやら石田と梨紗の関係が奥さんにばれたようだ。
しかしそんなことはさとみ(徹雄)にとってはどうでもいいことだった。


そんな折、久しぶりに梨紗から呼び出しを受けた。
(なんだろう?)
しばらくの間、さとみ(徹雄)と梨紗の間には仕事上の会話以外、ほとんど何も関わりがなかった。
それなのに、休日の呼び出しだ。
さとみ(徹雄)に警戒心が浮かぶのは当然のことだった。

約束の喫茶店に行ったが、梨紗の姿はまだなかった。
注文を聞きに来たウエイトレスにミルクティを頼んだ。
窓にうっすら映る自分の顔を見て、変わらぬ美しさを確認した。
女性が美を求めるのは男性のためではないことを自分が女性になることで知った。
単純に女性は美しいものが好きなのだ。
だから異性のためではなく自分のために美しくありたいという欲求が強いのだ。
強いて言うなら身近な同性がライバルだった。
短いスカートを穿くことも好きになっていた。
それはやはり自分の美しい脚を誇示したいだけだ。
男を誘うことは決して目的ではなかった。
実際今日もミニスカートだ。
さとみ(徹雄)は自分の脚に自信を持っていた。

そんなことを考えながら窓ガラスに映る自分を見ていると、向こうからやってくる梨紗の姿に気づいた。
隣には男を連れていた。

梨紗は男と二人で喫茶店に入ると、さとみ(徹雄)の姿には目もくれず少し離れた席に座った。
そして男に一言二言話して、さとみ(徹雄)のところにやってきた。
「今つき合ってる彼なの。広告代理店に勤めてるんだって。恰好いいでしょ?」
「それで何?わたしに彼自慢するために呼び出したわけじゃないでしょ?」
「実は相原くんにお願いがあるのよ」
梨紗の目が悪戯っぽく笑った。
梨紗がこういう目をするときは碌なことがない。
しかしさとみ(徹雄)の正体を知られているから邪険にすることができない。
「石田を何とかしてくれない?こっちは遊びのつもりだったのにマジになっちゃってさ。離婚までしてあたしと結婚してくれなんて言うのよ。うざいったらありゃしない。そう思わない?」
「だってあれは堀江さんから誘ったのが始まりでしょ?」
「そんなこと忘れたわよ。それよりこんなこと頼めるの相原くんしかいないのよ。あたしだって相原くんの正体を言いふらしたくないんだからさ…。分かるでしょ」
梨紗は不要になった石田の相手になれと強要しているのだ。
「相原くんはホモにまでなって抱かれてたんでしょ?せっかく女になったんだから、処女を捧げた人と結婚できるなんて最高じゃない」
「でもわたしと石田さんの間にはもう何もないわよ」
「そんなことはどうでもいいの。あたしの前からあの鬱陶しい石田をどうにかしてくれればいいだけだから」
「そんなことを言われても…」
「とにかくどんな方法を使ってもいいからあたしの前から石田を消してくれればいいの。それじゃよろしくね。頼んだわよ」
梨紗は男のところに戻っていった。

さとみ(徹雄)は石田に電話した。
「もしもし」
石田の声が聞こえた。
「もしもし、さとみです。今いいですか?」
「ああ、いいよ。ゴホッゴホッゴホッ」
「風邪ですか?」
「ああ、昨夜から熱があってね。せっかくの週末なのについてないよ」
「お医者さまには行かれました?」
「こんなもの寝てりゃ治るよ」
「何も食べてらっしゃらないんでしょ?」
「ああ、女房に捨てられて僕の世話を焼いてくれる者なんかいやしないからな」
「わたし、今から行きますから」
さとみ(徹雄)は風邪薬とスポーツドリンクを買って石田の家に行った。

インターホンを押すと中から「開いてるよ」という声が聞こえた。
ドアを開けるとコンビニ弁当の空き箱やペットボトルなんかが散らかっている様子が目にとまった。
石田の姿を探すと、LDKの奥の部屋に石田は寝ていた。

「ありがとう、君に迷惑をかけた僕なんかのためにわざわざ来てくれて」
そう言って石田は起き上がろうとした。
「病人は寝ててください。風邪薬を買って来たので、これを飲んでください」
さとみ(徹雄)は風邪薬を2錠取り、水とともに石田に手渡した。
「ありがとう」
石田はおとなしくさとみ(徹雄)の言葉にしたがって薬を飲んだ。
しばらくとりとめのない話をしているうちに、薬が効いたのか石田が寝息を立て始めた。

さとみ(徹雄)は部屋を片付ようとしたが、ゴミ袋が見当たらなかった。
テーブルの上に置いてあった部屋の鍵らしきものを取って外へ出た。
その鍵はやはり部屋の鍵だった。
さとみ(徹雄)は戸締りをして、近くのコンビニに買いに行った。
戻ってきても石田は眠っていた。
さとみ(徹雄)は音を立てずに部屋の掃除にかかった。
資源ごみや不燃ごみを分けてまとめると大小7個のごみになった。

まだ眠っている石田のために雑炊を作っておいた。
『雑炊を作っておきました。少しでもいいから食べて薬を飲んでください。
しっかり休んでくださいね。明日もまた来ます。さとみ』
置手紙を残して帰った。

次の日、さとみ(徹雄)が訪ねると、すっかり元気になった石田の姿があった。
「昨日はありがとう。掃除までしてくれて、悪かったな」
「元気になられたなら、今日はもういいですね。それじゃ帰ります」
「昨日電話くれたのって看病に来てくれるためじゃないんだろ?何だったの?」
「あっ、そうですね。それを言うのを忘れてました」
梨紗に頼まれたことを何も飾らずにそのまま伝えた。
「そうか。僕は女房に逃げられ、堀江くんにも捨てられたってわけだ。惨めなもんだな」

石田の落胆の大きさはさとみ(徹雄)にも伝わってきた。
「そんなこと言っても課長は仕事ができるんだからすごいじゃないですか」
「仕事にかこつけて女房を省みなかったせいで離婚されても、か?」
石田がさとみ(徹雄)の手を握って、声を殺して泣き始めた。
(可哀そう。こんなに傷ついて)
そう考えると胸がキュンとした。

さとみ(徹雄)は石田を抱きしめた。
石田はさとみ(徹雄)の胸に顔を押しつけて泣いていた。

さとみ(徹雄)は石田に求められるまま、身体を開いた。
決して恋愛感情ではなかった。
強いて言うなら母性だった。

石田の性を身体の中に受けたときさとみ(徹雄)は暖かい気持ちになれたのだった。


情に絆されたセックスの代償はそれからしばらくして明らかになった。
仕事中に急に気持ち悪くなったのだ。
慌ててトイレに行き、胃の中にあるものを吐き出した。
さとみ(徹雄)が苦しんでいると、そこへ梨紗がやってきた。
「あら、相原くん、どうしたの?」
梨紗は二人きりだと相変わらずさとみ(徹雄)のことを『相原くん』と呼ぶのだ。
それは言葉によるいじめなのだ。
さとみ(徹雄)はできるだけ気にしないようにしていたが、それでも誰かに聞かれたらと思うと気が気でなかった。

さとみ(徹雄)が吐いている隣で梨紗が口紅を塗り直していた。
苦しんでいるさとみ(徹雄)を横目で見ながらニヤッと笑った。
「もしかしたら課長の赤ちゃんでも身籠っちゃった?何もそこまでしてもらわなくても良かったんだけど、一応お礼を言っておくわね。あ・り・が・と。ははははは……」
さとみ(徹雄)は吐きながら梨紗の去っていく足音を聞いていた。

その日のうちに女子社員の中に『さとみが妊娠した。相手は石田課長らしい』という噂が広がった。
さとみ(徹雄)に直接聞くものはいなかったが、そんな噂は何となく伝わってきた。
それに対し、さとみ(徹雄)は肯定も否定もしなかった。

さとみ(徹雄)は念のために医者に行った。
「最近生理はあったかね?」
「先々月の終わりにあったきりです」
「女性なんだから注意しなくちゃいかんよ。分かっていると思うけど、君は妊娠している。もうすぐ3ヶ月というところだ」
「そうですか…」
「どうやら君は独身らしいから、あまりめでたいことではないようだな。相手の男性はこのことを知っているのか?とにかく父親と今後のことをよく話し合いなさい。くれぐれも子供の将来のことを考えて結論を出すようにな」
「はい、分かりました」
さとみ(徹雄)は医者を後にした。

アパートに戻ったさとみ(徹雄)はひとりで悩んだ。
女性が一人で子供を産んで育てることはまだまだ厳しい。
それでも自分の中に宿った生命を抹殺するなんてことはしたくなかった。
何とか産んで育てていくことを選びたかった。
妊娠を材料に石田に結婚を迫って、妻となるのがいいのだろうか。
しかし、そんなことは絶対にしたくなかった。
それはさとみ(徹雄)のささやかなプライドだった。

決して石田のことが嫌いという訳ではなかった。
むしろお腹に石田の子供がいるせいか以前感じたような感情が復活していた。
それでもさとみ(徹雄)は石田に知らせないことにした。
石田に黙って産むことに決めたのだ。

それでも、いずれ石田の耳にも入るだろう。
そんなとき石田はどういう態度を取るのだろう。
あえて無視されるのはやはりつらい。
さとみ(徹雄)は漠然とした不安を感じざるをえなかった。

やがてさとみ(徹雄)の妊娠のことは石田の耳にも入った。
石田は会議室にさとみ(徹雄)を呼んだ。
「どうして僕に黙ってるんだ」
「何をですか?」
「妊娠だよ。さとみは妊娠してるらしいじゃないか」
「課長に言う必要はありませんから」
「どうしてだ?僕の子なんだろう?」
「知りません」
「どうして僕をそんなに邪険にするんだ。さとみが女になったのも僕のせいだし、お腹に子供を宿したのも僕のせいなんだろう?」
「だから何なんですか?」
「僕に責任を取らせてくれ」
「責任って何ですか?」
「結婚しよう」
「同情で結婚するなんて嫌なんです!そんなことで一緒になったってわたしが惨めじゃないですか!結婚って愛し合ってするもんじゃないんですか!」
さとみ(徹雄)は大粒の涙を流して叫んだ。
さとみ(徹雄)は自分で自分の感情が制御できないでいた。
そしてそのことに戸惑っていた。

石田は石田でさとみ(徹雄)の剣幕に押されていた。
「悪かった」
「いいんです。そっとしといてください」
さとみ(徹雄)は石田に背を向け、その場を離れようとした。
すると「さとみ!」と呼び止められた。
「言い直させてくれ。僕はさとみのことを愛してるんだ。だから結婚しよう」
「…嘘……」
さとみ(徹雄)は石田の言葉が嬉しかった。
「嘘じゃない。さとみはどんな女よりも女らしいし、誰よりも優しい心を持っている。僕はそんなさとみのことが好きなんだ」
「元々男だった私が女らしいって褒められてるの?」
大きな涙を流しながらさとみ(徹雄)は石田のほうを見ていた。
「ああ、僕にとってさとみはお姫さまさ」
「何、その歯の浮くような台詞は?」
相変わらず大粒の涙を流しながら、それでも笑ったような顔して、さとみ(徹雄)は石田の胸に飛び込んだ。
「すっごく不安だったんだから……」
さとみ(徹雄)は声を上げて泣いた。
さとみ(徹雄)自身、自分の感情の制御機能が壊れてしまったんじゃないかと思うくらい、涙を抑えられなかった。
石田は何も言わずにそんなさとみ(徹雄)の頭を撫でた。

結局さとみ(徹雄)は寿退社することにした。

石田はさとみ(徹雄)という伴侶を得て、仕事に打ち込むことができた。
その甲斐あってか石田は順調に出世していった。
もちろん家庭も大事にする良き夫だった。


一方、同時期に退社した梨紗はあのときのイケメンと結婚したらしい。
しかし不況の煽りを受けてリストラになったそうだ。
どうせ梨紗のことだ。
さっさと見捨てて、次の男を探しているのだろう。


原因不明のシンクロ現象のせいで大きく人生を狂わされた徹雄だったが、今は石田の妻として幸せに暮らしている。
良き夫だけでなく、男女一人ずつの子供に恵まれた。

シンクロは神様の気紛れで起こったのかもしれない。
でも、そんな気紛れに感謝したい気持ちだった。


《完》

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