罪のないストーカー



水野紗耶は探偵。
個人で、細々と探偵事務所を開いている。
探偵業なんて素行調査や浮気調査がほとんどだ。
あとは捜し物・探し人。
これらでほぼ100%だ。
テレビの探偵物のように殺人事件の調査なんてあり得ないのが現実だ。
それでもときには面白い事件に出会うことがある。
紗耶が持っている特殊な能力を活かすことができる事件に。
紗耶には身体の一部あるいは全部を交換できる能力があった。
どうしてそんな能力があるのかって?
そんなことは誰にも分からない。
とにかく時にはそんな特殊能力を活かして依頼をこなしている。
今日もそんな紗耶に依頼がやってきた…。

『ストーカーに苦しんでいます。助けてください』
そんな依頼が書かれた手紙が紗耶のもとに届いた。
(ストーカーか…。面倒な相手じゃなきゃいいんだけどなぁ…)

紗耶は早速依頼人に会うことにした。
場所は依頼人の勤め先の近くの喫茶店だ。
事前に依頼人に連絡しておいたように紗耶は目印としてパソコンをテーブルに置いておいた。

「探偵さん…ですか?」
紗耶の目の前に女性が現れた。
現れた依頼人は背が高くスラッとしたショートヘアの美人だった。
「はい。真壁さんですか?」
紗耶は女性に聞いた。
「はい」
そう言って紗耶の前に座った。
紗耶は女性を観察した。
年齢は紗耶と同年代あるいは少し若いのかもしれない。
モデルと言われても信用しただろう。
気が強そうな目が印象的だ。
ストーカーに悩んでいるという印象はなかった。
もしそういう状況になっても一人で何とかしそうなタイプに見えた。

注文を聞きに来たウエートレスにアイスコーヒーを頼むと、早速女性は話を始めた。
「私、真壁詩帆って言います。あそこのビルの商事会社で経理事務をしています。よく分かんないんですけど、何か最近見張られているような気がするんです」
「見張られている?」
「はい」
「他には?例えば無言電話がかかってくるとかメールが届くとか」
「いえ、別に」
「後をつけられるとかは?」
「それは時々あります。マンションを見られてるような気がすることもあります」
「それ以外は?」
「それ以外は特には…」
「特にない?」
「はい」
紗耶は妙な違和感を感じた。
気の強そうに見えるこの女性がそんなことくらいでストーカーだと思うのだろうか?
「それがストーカーだと思ったのはどうして?」
紗耶は率直に聞いてみた。
「えっ、だってこういうことをする人のことをストーカーって言うんでしょ?でも警察に言っても全然相手にしてくれないの。もう少し深刻なことが起こってから来いって言うんだもん。だから探偵さんに頼んだの」

紗耶は詩帆の意識の低さを感じた。
友達に悩みを打ち明けるような感覚で、探偵に頼んでいるのかもしれない。
そこで費用のことを伝えることにした。
高額な費用を聞けば依頼することを止めるだろうと思ったのだ。
「ところで探偵に頼んだ場合の費用はご存知?」
「ええ、知ってるわ。調査の前金として20万円をお支払いすればいいんでしょ?」
紗耶は詩帆を見た。
事前に調べられることは調べてくるという手際の良さは最初の印象通りだ。
しかし悩みを聞いた今もあまり思い悩んでいるようには見えない。
そうは言っても詩帆の言うストーカー行為が詩帆にとって目障りであることは真実なんだろう。
緊急性はないが、解決できれば解決してあげたほうがいい。
そう考えて詩帆の依頼を受けることにした。

「さてそれじゃお金の振込みを確認すれば早速調査を開始することにするわ」
「今現金でお渡ししてもいいかしら」
詩帆は自分のバッグから何かを取り出した。
紗耶の目の前に銀行の名前の書かれた封筒が置かれた。
中を確認するとちょうど20万円入っていた。
「準備がいいのね。それじゃ領収書を書くわね」
紗耶は領収書を書き、詩帆に渡した。

そして早速調査を開始した。
まずは詩帆の部屋の調査だ。
隠しマイクや隠しカメラの類がないかを調べたのだ。
予想通り何も見つからなかった。
やはりそれほど深刻なストーカーではないようだ。

次に詩帆の身辺調査をしていくことにした。
詩帆には普段通りに生活するように頼んだ。
そんなことをわざわざ言われなくても詩帆は特別なことをするつもりはなかったようだが。

紗耶は詩帆の周りをさぐった。
しかし何も出てこなかった。
あっという間に3日の時間が過ぎていった。
相変わらず収穫ゼロだった。


金曜の夜のことだった。
紗耶が詩帆のマンション付近を見回っていると一人の男がマンションの周りをうろついていることに気がついた。
紗耶は詩帆に確認しようと写メを送ろうとした。
しかしシャッター音によって相手に気づかれてしまう可能性があることに気づいた。
そこで、直接詩帆に確かめてもらうことにした。

紗耶はすぐに詩帆の部屋を訪ねた。
「マンションの入り口のところに怪しい男がいるの。もしかするとあなたが知ってるんじゃないかと思うんだけど。私じゃ分からないから、真壁さんが見てきてくれない?」
「でもわたしが近づいたら相手は警戒して逃げたりしません?」
「だから真壁さんには私になってもらうわ。私の顔だったら相手も油断するんじゃなくて?」
「えっ、意味分かんないんですけど」
「百聞は一見にしかずよ。やってみましょう」
紗耶は詩帆の顔に触れた。
「はい、これでいいわ」
紗耶は詩帆の顔の前に鏡をかざした。
詩帆はその鏡に映った顔を見て驚いた。
そこには紗耶の顔が映っていた。
「うそ…。こんなことができるなんて…」
詩帆は驚いて身動きできずにいた。
「驚くのは後にしてとにかく外の男を見てきて」
紗耶の顔をした詩帆は早速マンションの外に向かった。

そこにいたのは詩帆の同僚の中村恵介だった。
「ねえ、中村くん」
恵介は見知らぬ女に声をかけられて驚いていた。
(誰だ、この女?どうして僕の名前を知ってるんだ?)
「あなた、私のことを狙ってるの?」
「誰だよ、アンタ。僕、アンタなんか知らないよ」
恵介は立ち去ろうとした。
「ちょっと待って。私と一緒に来て」
詩帆は恵介の手を引っ張り、自分の部屋に連れていった。

連れて行かれた部屋には詩帆がいた。
正確には詩帆の顔をした紗耶だったのだが、恵介には詩帆にしか見えなかった。
「僕、帰ります」
紗耶の姿を見ると恵介は慌てて出て行こうとした。
「待って、中村くんはどうして私のことを追い回すの?」
詩帆は恵介に対して問いただした。
しかし、恵介は怪訝な顔をしている。
当然だ。
知りもしない女なのだ。
「顔を元に戻しましょう。中村さんが不思議がってるわ」
紗耶は詩帆の顔に手をかざした。
詩帆と紗耶の顔が入れ替わった。
恵介は二人の顔を交互に見比べて恐怖の表情を浮かべた。
「何だ…どうなってるんだ……」
「まあいいじゃない。それよりどうして私を追い回すの?」
「別に追い回してなんかいないじゃないか」
恵介は消え入るような小さな声で言い返した。
「だってさっきだって私のマンションを見てたじゃない」
「それは…」
「それは…って何よ?」
「僕…真壁さんのこと…好きなんだ……」
「好きだからってストーカーなんてしないでよ」
「ストーカー?僕が?ちょっと真壁さんのマンションを見てただけじゃないか」
「それがストーカーだって言うのよ。警察に突き出してやるんだから」
「警察?よしてくれよ。どうして警察なんかに行かなきゃいけないんだよ」
「だ・か・ら、私のことをストーカーしたからよ」
「ストーカー、ストーカーって僕は真壁さんのことを見てただけだろ」
「見てただけって…。中村くんは追い回される女の子がどんなに恐い思いをするのか知らないのよ」
「好きな女の子を見てるだけで恐がられるなんて心外だな」
「だったら私の立場になってみれば分かるわよね?」
「真壁さんの立場?いったいどういうことなんだ…?」
詩帆は紗耶のほうに向き直った。
「さっき顔を入れ替えた方法で、私と中村くんの全身を入れ替えることってできるんでしょ?」
「ええ、まあ、できるけど…。本当に入れ替えるの?」
紗耶は二人の顔を見つめた。
「はい、お願いします。で、これは追加の依頼になるの?」
「いえ、まだ最初にいただいた20万円分も働いていないし、何だったら残金での対応ということにさせてもらってもいいわ…」
「へえ、探偵さんって良心的なのね。それでいいわ。すぐにお願い」

紗耶はまず詩帆と全身を入れ替えた。
そして詩帆の身体を恵介と入れ替え、最後に恵介の身体を詩帆に与えた。

服はそのままなので、見た目には違和感があった。
それでも、それぞれ出るところは出て、ついているものはついていた。
入れ替えられた二人は自分の姿を触って確認した。
詩帆は鏡を見て恵介になった自分の顔を見た。
「私が中村くんになるなんて…。すごい、すごいわ。私、一回男の子になってみたかったんだ」
「どうして僕が真壁さんに…」
「細かいことはいいじゃない。とにかくこの状態で女の子の立場を理解することね。それが分かれば元に戻してあげるから」
「僕が真壁さんになれるなんて…。信じられない」
恵介は小さな声で呟いた。
その表情にはいやらしい笑いが浮かんでいた。

「それじゃ、私は中村くんの家に戻るわね。その前にこの服を取り替えましょう」
そう言って詩帆は服を脱ぎ始めた。
詩帆自身、女性としてはそれなりの身長があったが、それでもたかが165センチだ。
恵介の身長は180センチはある。
詩帆の服が身体を締めつけるように張り付いていた。
無理に脱ごうとすると引き裂きそうになった。
それでも何とか全ての服を脱いだ。

「さあ早く中村くんも脱いでよ」
恵介は脱ぎ出せずにモジモジしていた。
「どうしたの?どうせ見てるのはその身体の持ち主と探偵さんだけなのよ」
「でも…」
「仕方ないわね。それじゃこっちに来なさいよ」
詩帆は自分が今脱いだ服を持って、恵介を引っ張って洗面所に連れて行った。
「ここで服を脱いで。脱いだ服は私にちょうだい。いつまでもこんなものをブラブラさせていたくないから」
詩帆はつい今まで来ていた服を置いて、洗面所から出た。

洗面所に残された恵介はゆっくりと服を脱ぎ始めた。
今の自分の身体にはブカブカになった服を脱ぐのにボタンすら外す必要がなかった。
すぐに全裸になった。
そして脱いだ服をドアの向こうに投げ出した。
ドアの向こうで詩帆が服を着ている音がする。
恵介も詩帆から渡された服を着ようとした。
そのとき鏡に映った今の自分の姿が目に入った。
改めて鏡の真正面に立って、今の姿を凝視した。
(本当に真壁さんになったんだ)
目の前に自分の大好きな詩帆の顔があった。
頬を触ると鏡の中の詩帆も頬に触れた。
ウインクをすると鏡の中の詩帆もウインクした。
(すごい。こんなことが現実に起こるなんて)

恵介は胸に目を移した。
やや大きめの丸い乳房だ。
手で優しく掴むと柔らかい感触が手のひらを通じて脳に伝わってきた。
同時に胸を掴まれた軽い痛みが胸から脳に伝わってきた。

そのときドアが開いた。
「私の身体をおもちゃにしてないでさっさと服を着なさいよ」
そこには恵介の姿をした詩帆がいた。

恵介は慌ててショーツを穿いた。
そしてブラジャーをつけようとしたが、初めてのブラジャーのせいかうまくつけることができなかった。
「もう何してるのよ。こっちに来なさいよ」
詩帆は恵介の手からブラジャーを取り上げ、恵介の胸にブラジャーをつけた。
「あと服とスカートくらいは自分で着れるでしょ」
恵介はゆっくりとした動作で服とスカートを穿いた。

「やっとちゃんと私の姿になれたわね。それじゃ私は中村くんの部屋に戻ることにするわ」
詩帆は紗耶のほうに向かって言った。
「来週の日曜にまたここに来てもらえるかしら?1週間立場を入れ替えて生活することにするから」
「分かったわ。それじゃまた1週間後にね」
そう言って紗耶は出て行った。
そして詩帆もすぐに出て行った。

部屋に一人取り残された恵介はしばらく立ち尽くしていた。
(それにしてもただちょっと見てただけなのにストーカーだなんて…。相変わらず思い込みの激しい奴だよな。それにしてもそのせいで真壁になれるなんて。1週間後には戻れるんだから楽しまないと損だよな)
そう思い、恵介はすぐに服を脱ぎ捨てた。
そして鏡に全身を映した。
(これが真壁さんの身体なんだ…)
決して胸は巨乳というほどではないが、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいて、素晴らしいプロポーションと言えるだろう。
お尻も丸くて大きい。
恵介は全身を見ながら身体を触わりまくった。
「すごい…僕が真壁さんなんだ……」
恵介はタンスから下着を全て出して、全ての下着を身につけた。
タンスの全ての服を着た。
そしていつの間にか眠ってしまった。



『ピンポーンピンポーンピンポーン』
インターホンの音で目が覚めた。
「はーい」
恵介は自分の発した声で寝惚けていた意識が一気にはっきりした。
(そうか、俺、真壁さんになったんだっけ)
部屋中に服や下着が散乱していた。

「あらすごいわね。ファッションショーでもやってたわけ?」
部屋にはすでに詩帆が入っていた。

恵介になった詩帆は、何となく垢抜けて見えた。
元の自分には見えなかった。
髪を染め、服装も決まっていたのだ。

「どうやって入ってきたんだ?」
「あら?鍵はかかってなかったわよ。昨日私が出ていった後、ちゃんと鍵かけた?」
恵介には鍵をかけた記憶が全くなかった。
(昨夜は一人になると、すぐに詩帆の身体の観察を始めたんだっけ?)
間違いなく鍵をかけ忘れたようだ。

「私になれて嬉しくって鍵も掛け忘れたの?変な男に襲われたらどうするつもりだったの?」
そう言われて、今自分が下着だけの姿だったことを思い出した。
「どうするって…そんなこと考えたこともないよ」
恵介は身体を捩って乳房を隠すようにした。
「だって私ってすごく魅力的なのよ。そうでしょ?」
(自分でそこまで言うかよ)
恵介は詩帆の自画自賛とも言うべき話に半ば呆れていた。
「あら?今中村くんが着てるのって勝負下着なのよ。私だって一回も着ていないのに」
「べ…別にいいだろ?そっちだって僕に断りもなしに髪の毛を染めて…」
「いいでしょ?結構いい男になったと思わない?」
そう言って恵介の頬にキスをした。
「な…何するんだよ?」
「ふふふ…私って可愛い」
そう言って少し恰好良くなったとは言え、見慣れた自分の顔を近づけてきた。
あっと思う間もなく唇に軽くキスされた。
「やめてくれよ」
「だって私が可愛いからいけないのよ」
いやらしい笑いを浮かべて覆い被さってきた。
「やめろって」
恵介が必死に詩帆から逃れようとした。
しかし、詩帆の身体になっているため女の力しかなく、所詮詩帆には力ではかなわなかった。
両手首を握られお腹の辺りに跨られると身動きができなくなった。
「本当にやめて欲しかったらもっと真剣に拒絶すれば?そうしないということは抱かれてもいいと思ってるってこと。正直なところ、中村くんも女の子の感じ方に興味があるんでしょ?」
確かにその通りだ。
恵介は頷いた。
「それじゃ変に抵抗しないでくれる?私の身体なんだし怪我なんてさせたくないから」
恵介はその言葉に身体に入れていた力を抜いた。

詩帆の手がブラジャーを捲り上げるようにすべりこんできた。
目の前に白い乳房が現れた。
詩帆の手が優しく撫でるように恵介の乳房に触れた。
「…んんん……」
「中村くん、気持ちいい?」
恵介は頷いた。
「わたしって感じてるときこんな顔してるんだ。確かに魅力的ね」
指先で乳頭の先を擦った。
「…ぁぁ……」
恵介は甘い吐息を発した。
(胸の先にチンポがついてるみたいだ)
恵介は目を閉じてそんなことを考えていた。

恵介が胸からの快感を楽しんでいると、乳頭から伝わってくる感じが変わった。
詩帆が口で乳房を舐め始めたのだ。
舌のざらついた感覚がより刺激的だった。
「…あああ……すごい……マジでやめてくれぇ……」
恵介は苦しいくらい感じていた。
苦しみから逃れるために詩帆の頭を乳房から引き離そうとしたが、詩帆は全く動じず乳頭を含んだり噛んだりした。
恵介は何度か意識が飛びそうになった。
無意識のうちに大きな声で喘いでいた。

恵介の乳頭を舌で転がしながら、ショーツの上から手で恵介の女性器をまさぐっていた。
そのことに気がついた恵介は恥ずかしさを覚えた。
詩帆の手の動きを止めようと、恵介はその手を押さえつけようとした。
しかし力は全く入らず手を重ねたにすぎなかった。
詩帆が素早くショーツを下げた。
そして恵介の女性器を覆うように手のひらを重ねた。
「や…やめ……」
詩帆の手が恵介の谷間に滑り込んだ。
グチョグチョに濡れた股間の液体を指先につけ、その指でクリトリスに触れた。
「…ああああ…んん……」
一瞬で全身で電気が走った。
恵介の意識は完全に飛んだ。

恵介の意識が戻ると、詩帆が恵介の両脚を持ち上げていた。
すでに下半身は何も身につけていなかった。
膣口にペニスを当てた。
「中村くんって私をストーカーして、こんなことすることばかり考えてたんでしょ?」
詩帆がゆっくりと腰を前に突き出した。

詩帆のペニスが入ってきた。
恵介にとっては初めて受け入れるペニスだったが、何の抵抗もなく受け入れた。
詩帆は処女ではなかったようだ。
「へぇ、こんな感じなんだ。何か不思議な感じね。でも動かなくちゃいけないのよね」
詩帆が腰を動かし始めた。
「ああああ、気持ちいい……。このまま出したら妊娠しちゃうかも」
詩帆が意味ありげな笑いを浮かべた。
「妊娠してる身体になんかに戻りたくないから、妊娠したら永遠にこのままだからね」
女の快感を楽しんでいた状態の恵介だったが、その言葉で一気に恐怖に襲われた。
「やめろ…やめてくれぇ……」
言葉では拒否している恵介だが、無意識のうちに腰を振っていた。

詩帆の動きが速くなった。
「あああ…出そう…」
「やめろ…中で出すな……出さないでくれぇ…」
恵介は快感でおかしくなりそうだったが、口先だけで抵抗した。
「今さら……無理……」
詩帆の動きのスピードがさらに増した。
そしてついに恵介の中で詩帆の熱いものが放たれた。
恵介の女性器は何度か詩帆のペニスを締め付け、精液をしっかりと搾り出した。
同時に身体を痙攣させ、意識が遠のいていった。

その後も何度も交わった。
恵介の身体がそんなに精力的に強いなんて恵介自身知らなかった。
何度も交わっているうちに妊娠への恐怖が徐々に薄れていった。
それよりも詩帆のペニスからもたらされる快感だけを欲しかった。
快感だけを追い求めていた。
恵介はセックスの快感だけを求める淫乱な女になっていた。

「明日もまた来るわね」
恵介が快感で意識朦朧となっているうちに、詩帆が着替えたようだ。
すでにやって来た時の服装になっていた。
詩帆は恵介の頬に軽くキスをして、出て行った。

窓の外を見ると、すっかり真っ暗になっていた。
すっかり夜になったようだ。
部屋には雄と雌の交わりの後の独特の匂いがこもっていた。

恵介は魂が抜けているかのようにフラフラと立ち上がった。
そして裸のまま浴室に入って、シャワーを浴びた。
女性器からは詩帆が放った精液が逆行して流れ出してきた。
(こんなに出しやがって。本当に妊娠したらどうするんだ?)
恵介は念入りに女性器の辺りを綺麗にした。
今さらどんなに洗っても受精していたらどうしようもないことは頭では分かっていた。
しかし、そうせずにはいられなかったのだ。
(本当に妊娠してたら元に戻れないのかな?)
そんなことを考えてもあまり恐怖を感じることはなかった。
それよりもセックスの快感に心を奪われている状態だった。
このまま詩帆でいてもいいとすら考えていた。



「今日は昨日と趣向を変えてみようと思ってね」
翌日の朝になると、すでに詩帆が部屋に入っていた。
昨夜は絶対鍵を締めたはずだ。
そんなことを考え不思議そうな顔をしている恵介に対し詩帆はポケットから鍵を取り出した。
「鍵ならちゃんともらっていったんだよ」
それにしても詩帆の様子が昨日と違う。
中身が詩帆ではないようなのだ。
男そのものである恵介が目の前にいるような感じなのだ。
「今日は俺はちゃんと男を演じる。だから君は詩帆として女らしく振舞ってくれ」
詩帆は男を演じているのだ。
そして恵介に女を演じることを要求してきた。
「そ…そんなこと…無理だ……」
「うるさい。言うことを聞け!」
詩帆は恵介の頬を思い切り叩いた。
「……」
詩帆の急な暴力に恵介は声が出なかった。
驚いて詩帆の顔を見つめた。
「反抗は許さん。俺の言うことを聞けばいいんだ」
目の前の男が昨日の詩帆と同一人物には思えなかった。
言い知れぬ恐怖心が襲った。
「分かったか?」
「……わ…分かった…」
恵介は何とか声を絞り出した。
「もう少し女らしく言ってもらえるかな?」
詩帆は不気味な笑いを浮かべながら恵介の頬を軽く叩いた。
「わ…分かった…わ……」
「そう、その調子だ。それじゃ今日は詩帆が俺を慰めてくれよ。もう昨日でクタクタなんだよ。女は身を任せればいいが、男は何かと大変なんでな」
「どうすれば…」
「分かってるだろ?詩帆の可愛い口で俺のものを銜えてくれればいいんだ」
「いや…だ…。絶対に…できない……」
「まだ自分の立場が分かってないようだな」
詩帆は恵介の髪を引っ張った。
「お前には選択権はないんだ。言われた通りにしろ」
恵介は恐ろしくなって、何度も首を縦に振った。
「それじゃさっさと始めろ」
恵介は詩帆の前に跪き、ベルトに手をかけた。
そしてベルトを外しジーパンを少しずらした。
異臭が鼻をついた。
「臭いか?だろうな。昨日から全然洗ってないからな」
確かに昨日のセックスの後も洗わずにそのまましていただろう臭さだった。
鼻が曲がりそうな匂いとはこういう臭さを言うのだろう。
「綺麗に洗ってもらえませんか?」
恵介は詩帆にお願いした。
次の瞬間、恵介の頬に痛みが走った。
「つべこべ言わずに早く銜えりゃいいんだ」
恵介の髪を引っ張り、股間に恵介の頭をつけた。
恵介は息を止めて詩帆のペニスを銜えた。
嫌な生臭さが口の中に広がった。
恵介は吐きそうになりながら一生懸命舐めた。
嫌な臭さはだんだんなくなってきた。
恵介はフェラチオすることに集中していた。

詩帆は恵介の口からペニスを抜き取った。
気持ちのどこかで最後までいかせてやろうとむきになっているところがあったので、抜き取られたことが不満だった。
口の中でペニスが動くのも面白く思えてきたのだった。
おそらくそんな気持ちが顔に表れていたのだろう。
「何だ?何か文句あるのか?」
詩帆は恵介の顔を見て、そんなことを言いながらニヤニヤ笑っていた。
「そんなにフェラチオが好きだなんて全然知らなかったな。女の口に出すのは俺の趣味じゃないから、この辺にしとこう。それじゃ次は詩帆が俺の上に乗ってくれよ」

詩帆は仰向けになった。
恵介が詩帆の上に跨り、腰の辺りに腰を落とした。
詩帆のペニスは二人の間に挟まれただけだった。
「そんなんじゃ入らないだろう」
恵介は腰を少し上げ詩帆のペニスを握り、自分の女性器に当てた。
そして腰を少し動かしてペニスの先で女性器を擦った。
「…ぁぁぁん………んん……」
恵介は気持ち良さで声を出した。
十分に湿り気を帯びると膣口にペニスを当て、ゆっくりと腰を落とした。
「…あああ…いい……」
恵介は思わず言った。
「いいぞ。女っぽいじゃないか。それじゃ自分で胸を揉みながら身体を上下させろ」
恵介は詩帆に命じられるまま自分の乳房を掴んで、腰を上下させた。
恵介は快感のせいであまりうまく腰を動かすことができなかった。
すると詩帆が下から突き上げるように腰を動かした。
詩帆の動きに助けられ、恵介は腰を振り続けた。

恵介の単調な動きが長い時間続いた。
恵介がやや疲れから動きが鈍くなってきた頃、詩帆の両手が恵介のウエストを掴んだ。
そして激しく恵介の腰を上下させた。
恵介はあまりの激しい感覚におかしくなりそうだった。
身体は下から突き上げられ、すぐにでもどこかに飛んでいくような気がした。
恵介は身体を仰け反らせながらも、詩帆の膝の辺りを必死に掴んだ。
「…出…出すぞ……」
「……んんんん…来てぇぇぇ……」
詩帆のペニスが恵介の中で爆発した。
恵介はビクビクッと痙攣させて、そのまま詩帆の胸の倒れ込んだ。
その途端、ペニスが抜け出た。

詩帆は倒れ込んだ恵介を受け止め、髪を優しく撫でた。
「どうだった?中村くんだったらこういうプレイのほうが感じたんじゃない?」
詩帆の口調が昨日のように優しいものに戻った。
恵介は詩帆の態度がプレイによるものだと分かりホッとした。
しかし一方で昨日以上に興奮したことは否定しようのない事実だった。
「こういうふうに髪に触れられていると安心するでしょ?」
「うん、とても心地いいわ」」
恵介はまだ女性の口調で話した。
詩帆は「ふふふ」と笑った。
「中村くんってすっかり女らしくなっちゃったわね。ずっと私でいたほうがいいんじゃない?」
恵介はどう答えていいか分からなかった。
積極的には否定することはできなかった。
恵介は詩帆の胸に顔を埋めて目を閉じた。



朝になった。
枕元で携帯電話が鳴っている。
(誰だ?こんな朝っぱらから)
恵介は携帯を取った。
「もしもし」
『もしもし。いつまで寝てるの?』
電話の向こうから詩帆の声が聞こえてきた。
実際は恵介の声のためおかまが話しているように聞こえて気持ちが悪い。
「いつまでって…」
恵介は壁にかかっている時計を見た。
時刻は6時を過ぎたところだった。
「…まだ6時過ぎじゃないか」
『何を言ってるの。まだじゃなくて、もう6時なのよ。中村くんは今日から私として会社に行かなくちゃいけないのよ。女性が外出するためには時間がかかるんだから、ね』
「そんな…。今日は休むよ」
『だったら1週間も休むっていうの?そんなことされたら私の信用問題になるわ。絶対に出勤してちょうだい』
「…そんな……」
『分かった?』
「分かったよ」
『分かってくれたんなら、それでいいわ。それじゃ後でね』
電話が切れた。

(出勤するって言ってもなあ…)
恵介は途方に暮れた。
詩帆の姿になって部屋の中でファッションショー擬きをしていたとは言え、女性として外出した経験もなくどういう恰好をすればいいのか分からなかった。
正確には分かるのだが、自分がその服装で外出することが想像できなかった。

恵介はタンスの服を開けて中から服を取り出した。
通勤に着ていけるような服は全てスカートだった。
しかし恵介にはいきなりスカートを着て外に出て行く勇気はなかった。
ズボンを探したが、ジーンズくらいしかなかった。
(ジーンズ穿いて会社に行ったらダメなのかな?)
恵介は少し迷ったが、ジーンズを穿いていくことにした。

(化粧もしないといけないんだよな)
そう思ったが、化粧なんかしたことはない。
考えたあげく、口紅だけつけて出勤することにした。

恵介が外に出ると、そこに詩帆が立っていた。
「何、その恰好は?それにお化粧も全然できてないじゃない」
恵介は詩帆に部屋に戻され、化粧を施された。
「今日だけだからね。明日からは一人でできるようにしてよ」
恵介は鏡の中で美しい顔になっていく自分に見とれていた。
その顔はまさに恵介が見慣れている詩帆自身だった。

「それじゃ次は服も着替えましょう」
そう言って詩帆が準備した服は花柄のワンピースだった。
太腿の半分が出てしまうスカートの丈だった。
「こんな短いスカート、絶対無理だよ」
「大丈夫よ。だって中村くんは今、私なのよ。私が大好きなこの服、絶対に似合うから」

恵介は渋々出されたワンピースを着た。
鏡に映った自分は魅力的な女性だった。
「ねっ、可愛いでしょ?自信を持ちなさいって」

恵介は詩帆に背中を押され外に出た。
スカートなんて何も穿いていないようだ。
恵介は恥ずかしくて、詩帆の腕を取りずっと下を見ながら歩いた。


駅に着いた。
見慣れたラッシュアワーだ。
唯一違うのは今日の自分が女性であるということだった。
人の流れに押されるように混雑した電車の車両に押し込まれた。
恵介は詩帆の腕を離さないように必死についていった。
車両の中で恵介と詩帆は向かい合うような形で密着し身動きがとれなかった。
吊革をつかむこともできず、詩帆の腕にしがみついていた。
慣れないハイヒールだったため、足元も不安定で倒れないように踏ん張るのに必死だった。

ふと気がつくとお尻の辺りがムズムズする。
誰かの手が当たっているようだ。
(誰なんだ?どけてくれないかな)
そう思っているとその手が動いた。
スカートの中に手が入ってきてお尻を撫で上げた。
直感的に詩帆の悪戯だと思った。
「やめてよ」
恵介は周りの目を気にして今の自分に相応しい言葉遣いで詩帆に注意した。
「何のことだよ」
詩帆はしらばくれている。
「お尻触らないでよ」
「触ってないよ、ほらっ」
詩帆が恵介に両手を見せた。
恵介の目の前に詩帆の手があるが、恵介のお尻には別の手が今もモゾモゾと動いている。
「痴漢か?」
詩帆が少し驚いた顔をした。
「そうみたい」
そんな会話をしている間も痴漢の手は恵介のお尻を掴むように揉んでいる。
「…ん…」
「痴漢に感じてるのか?」
詩帆がニヤニヤして恵介を見つめていた。
お腹の辺りに当たっている詩帆のペニスが硬くなってきた。
(なんてやつだ。元の自分の身体が痴漢に遭っているのに興奮してやがる)
恵介は詩帆に対してそして痴漢に対して腹を立てた。
しかし情けないことに身体は確実に感じている。
ショーツの中が濡れてきたのだ。
感じやすい女の身体に絶望する思いだった。
「やめさせてよ」
恵介は詩帆に懇願した。
「どうしようかなぁ」
詩帆は面白そうに楽しんでいるようだった。
「…んんん……」
痴漢の手が股の間に入ってきて何度か往復した。
恵介は立っているのがつらくなってきた。
そんな恵介の様子が分かったのだろう。
「もう限界かもね」
詩帆はそう言って「誰だぁ、俺の彼女を痴漢してる奴は?」と周りに聞こえるような声で言った。
すると恵介のお尻を触っていた手がどこかに消えた。
「…あ…ありがと…」
「どういたしまして」
詩帆は恵介を抱きしめるようにしてスカートの中に手を入れた。
「もうグチョグチョになってるじゃない。もしかしていっちゃってた?」
詩帆の言葉を無視した。
それでも詩帆に頼らないわけにはいかず電車が目的駅に着くまで詩帆の腕の中でじっとしていた。


恵介はまた痴漢に襲われるんじゃないかと不安だった。
詩帆に密着することでその不安から逃れようとしていた。
やっとのことで降りるべき駅に着いた。
十数分のことだったが、随分長い時間に感じられた。
(女が満員電車に乗るのって大変なんだな)
電車が完全に停止すると恵介は少しホッとした。

ドアが開くと詩帆が人込みを掻き分けてドアに向かった。
恵介も詩帆から離れないように後を必死についていった。
ホームに出ると詩帆が恵介のほうに振り返り言った。
「それじゃここからは別々に行動しましょう。じゃあね」
「えっ!?」
恵介が言葉を返す間もなく詩帆が人込みの中に消えていった。
(後は歩くだけだし、まあいいか)

その考えは甘かった。
詩帆の腕を掴むことで何とか歩いていたのだが、一人だけでハイヒールで歩くのは意外と難しかった。
しかも改札を出るためにはホームから階段を昇らないといけない。
ただでさえ歩くのに苦労するのに階段を昇るときには男たち全員にスカートを覗かれているような感覚に襲われるのだ。
明らかに覗くようなことはしないまでも男たちは見るとはなしに見ているものだ。
自分の経験から考えてもそれは明らかだった。
恵介はバッグでお尻を押さえ、手摺りに掴まりながら階段を昇った。
改札を通るときには一日分の神経を使い果たしたくらい疲れた思いだった。

会社に到着すると、すでに詩帆が恵介の席に座って仕事を始めていた。
「おはよう、詩帆」
声をかけてきたのは詩帆と同僚の平山佳子だった。
「あっ、おはよう」
恵介は少し戸惑いながら返事を返した。
「どうしたの?何となく雰囲気が違うんだけど」
恵介は女の勘の鋭さに驚いた。
「ううん、別に。何でもないから」
「そうなの?もしかしたらあの日?あんまりひどいようなら休んじゃえば?」
男である恵介にでも"あの日"の意味はすぐに分かった。
朝からそういうことを平気で話す佳子に呆れる思いだった。
「ありがとう。大丈夫だから」
恵介は詩帆の席についた。

近くの女性たちがヒソヒソ声で話をしているのが耳に入ってきた。
「どうしたのかしら、中村の奴?髪なんか染めて恰好つけちゃって」
「でもなんか雰囲気違うと思わない。ちょっといいかも」
「あなたもそう思う?実はわたしもいいなって思ってたんだ」
「何だ、非難っぽいこと言ったくせに。じゃあさ、あとで二人で話に行かない?」
「うん、そうしよっ」
どうやら自分になっている詩帆の噂をしているようだ。
(僕なんてもてたことないのに)
そんなことを思っていた。

恵介は女子社員として率先してコピーやお茶汲みをこなした。
詩帆本来の仕事が何か分かっておらず、雑用をこなすことで本来の仕事をせずにすまそうと考えているためでもあった。
ところが、日頃の詩帆はあまり雑用はやらなかったため、周りは不審者でも見るような扱いだった。
恵介は女性らしく振舞うことに気を配っていたので、周りの視線を気にしている余裕はなかった。

そんな姿を見て、恵介自身も周りの男性社員から噂されていた。
「どうしたんだろう、真壁のやつ。今日は進んで雑用をしてくれてるけど」
「ああ、何かいい感じだよな。いつもより可愛いと思わないか?」
「いつもあんなふうだったらもっともてるのにな」
「俺、ちょっと誘ってみようかな」
「そんなことしたら馬鹿にされるだけだぞ。やめとけ、やめとか」
そんな話が交わされていたことは当の恵介は知らなかった。

無事に一日が終わった。
最初は怪しまれていた恵介の行動だが、その日の夕方には恵介の人気も上がっていた。


仕事が終わった恵介は帰る準備をしながら詩帆を見た。
詩帆は同じ部署の女子社員と話し込んでいる様子だった。
(まだ帰らないのかな?)
少しの間詩帆を見ていたが恵介のほうを見もしなかった。
(今は無視してるけど、きっと今晩も来るんだろうな)
恵介は昨日の詩帆とのセックスを思い出しながら、そう思った。
恵介は詩帆に抱かれることが気に入っていたのだ。
とにかく先に帰って待っていようと恵介は考えた。

「ねえ、真壁さん。俺たちこれから飲みに行くんだけど一緒にどうかな?」
帰ろうとしていた恵介に声をかけてきたのは詩帆と同僚の男性3人だった。
恵介にとってほとんど面識がない男性だった。
こんなメンバーで飲みに行くと詩帆として女性らしく振舞わなければいけない状況が続くことになる。
恵介はこれ以上女性らしくしないといけないのはつらかったし、楽しみな詩帆とのセックスが待っているので断ることにした。
「ごめんなさい、今日はどうしても帰らなくちゃいけないの。また今度誘ってくださいね」
にこやかに笑いながら会社をあとにした。


恵介は駅から一人で詩帆のマンションへ帰る途中のことだった。
帰り道、人通りの少ない道があった。
恵介は後ろから誰かにつけられているような気がした。
後ろから同じ距離を保って誰かがついてきているようだった。
早足で歩くと後ろの足音も早まった。
(やばい)
恵介は走った。
ハイヒールで走りにくいなんて言ってられない。
恵介は必死に走った。
何とか無事に部屋に辿り着いた。
息を切らしながら、後ろ手に鍵をかけた。
(女って本当に大変だぁ)
ホッとしてベッドにそのまま倒れ込んだ。

その状態でしばらく眠ってしまったようだ。
気がつくと30分ほどが経っていた。
(まだ詩帆は来てないのか)
恵介は帰りに買ってきたコンビニ弁当を食べ、シャワーを浴びて詩帆を待った。
約束をしていたわけではなかったが、詩帆が来るという確信があった。
これからの詩帆と過ごす時間を考えると気持ちがワクワクしてきた。


気がつくと10時を過ぎていた。
しかし詩帆が来る様子はなかった。
(今日は来ないみたいだな)
そして恵介は昨日のことを思い出しながら自分の身体を触った。
乳房に触れ、女性器をいたぶった。
気分が高まり、股間が湿っていた。
女性器に指を入れて出したり入れたりすると感じるのだが、何となく物足らない。
(あああ…もっと太いのが欲しい…)
恵介は詩帆のペニスを思い浮かべながらオナニーをして寂しさを紛らわせた。



次の日の朝、自力で起きて、そして自分のできる範囲で化粧をした。
鏡に映る自分の姿をチェックした。
詩帆に何か言われないようにスカートを穿いた。
ただし膝より少し短い程度の清楚なスカートだ。
(こんなものでいいのかな?)
恵介は自分の仕上がりに納得して、部屋の外に出ると、そこには詩帆がきていた。

「へえ、綺麗じゃない。今日は自分で化粧できたんだ、感心感心」
「何だ、来たんだ。昨夜は来なかったくせに」
「来て欲しかった?」
「…そんなこと…ないけど……」
「そんなにセックスが気に入ったの?実は昨日は総務課の香川さんとデートだったんだ」
「デートって食事だけ?」
「そんなわけないでしょ?おとなの男と女だもん。もちろんセックスまで行ったわよ」
恵介の心に複雑な思いが生じた。
「あ、もしかして妬いてるの?」
「そんなことないよ」
「そりゃそうよね?自分に対してやきもち妬くなんておかしいもんね。それにしても男の人がいろんな女性を抱きたがるのが分かるような気がするわ。今日は違う子とデートしようかな?」
詩帆は意味ありげな笑いを恵介に向けた。
「どうぞ、ご勝手に。僕も誰かを誘うから」
恵介はそう言ったときに昨日の足音のことを思い出した。
「ところで僕以外にも誰かに狙われていたとかないの?」
「さあ?中村くんだけだと思うけど。どうしたの?」
「昨日の帰り誰かにつけられたみたいなんだけど」
「ご近所さんじゃないの?」
「そうかな?そうならいいんだけど」
もうひとつ腑に落ちなかったが、詩帆に心当たりがなさそうなのでこれ以上追及することはやめた。

二人は昨日と同じように一緒に駅に向かった。
「今日は女性専用車両に乗りたいんだけど」
「俺とはここで離れたいっていうのか?」
人通りがあるところでは外見に合った話し方をするようにしていた。
したがって詩帆は男っぽい話し方をするのだ。
「だって昨日みたいに痴漢に遭うかもしれないでしょ?」
「大丈夫。そのときは昨日みたいに守ってやるさ」
「でも知らない男に触られること自体が嫌なの、分かるでしょ?」
「まあ分からなくはないけど。でもせっかくマンションまで迎えに行ったんだからもう少し一緒に行こうよ」

結局詩帆に押し切られて同じ車両に乗り込んだ。
昨日と同じ体勢になった。
向かい合って詩帆に抱かれるような状態だ。
恵介は誰かの手がスカートに滑り込んでくるのを感じた。
「やめてよ」
直感的に詩帆だと思った。
「いいじゃん。さっき知らない男に触られるのが嫌だって言っただろ?」
思った通り詩帆の仕業だった。
「やめてったら。大声出すわよ」
恵介は詩帆を睨みつけた。
「こわぁい。やめりゃいいんだろ、やめりゃ」
詩帆はにやけた顔をして手を引っ込めた。
そしてそのまま何事もなく目的地に着いた。


恵介はその日も無難に詩帆として一日を過ごした。
もうすぐ定時を迎えようとするタイミングで、詩帆の上司の金田功一からメールが届いた。
そこには「7時にいつものところで」と書かれていた。
恵介はすぐに詩帆につかまえて聞いた。
「こんなのが金田課長から届いたんだけど、何これ?」
「あああ、これね。…実は金田さんと不倫してるんだ」
「不倫!?」
「しぃ、声が大きいって」
「どうするんだよ?」
「どうするって言っても今のあなたは私なんだからとにかく会ってよ。ちょっと食事して、あとはうまく逃げてくれていいから」
「食事だけで済むのか?」
「というより食事なんかもなくって直行かもしれない」
「だとしたら?」
「とにかくうまくやってよ。もう処女じゃないんだから、ね」
「そんなこと言われても、なあ。で、どこで待ってりゃいいんだよ?」

恵介はホテルのロビーで待っていた。
ほどなく金田がやってきた。
「それじゃ行こうか?」
「行くってどこに?」
「久しぶりなんだからすぐに二人っきりになりたいんだよ」
金田は恵介の肩を抱き、ホテルのルームキーを見せた。
恵介は逃げる隙もなく金田と部屋に入ることになった。

部屋にはダブルベッドがあった。
恵介は金田に抱きすくめられダブルベッドに絡み合うように倒れた。
「課長、シャワーを…」
「俺が詩帆の汗の匂いを好きなのは知ってるだろ?それに課長じゃなくっていつものように名前で呼んでくれよ」
金田は恵介の首筋に舌を這わせながら、服の上から激しく乳房を揉んだ。
「…あああ……功一さん……」
恵介は首を舐められることがくすぐったくて逃げるように身体を捩った。
金田は恵介の動きに合わせるように身体を動かし、執拗に首筋を舐めた。
恵介はくすぐったいのを耐えているうちに金田に抱かれることを受け入れていた。

金田の舌が耳の中を舐めた。
その瞬間背筋に電流が流れるような感覚に襲われた。
「わああああああ」
思わず声をあげ、顔を回して逃れようとした。
しかし金田にしっかりと顔をつかまれ動かすことはできなかった。
耳の中が金田の唾液でびじょびじょになっていた。
恵介は耳だけでおかしくなってしまいそうだった。

恵介は気がつくとうつぶせで背中を舐められていた。
上半身は裸で、ショーツだけはまだ穿かされているようだった。
金田は身体を舐めるのが好きならしい。
汗の匂いが好きだというのも分かるような気がする。

背中から徐々に下に降りていき、太腿、膝の裏、アキレス、足の裏を舐められた。
足の指を一本ずつ舐められたときはくすぐったくて笑いが出そうだった。

恵介は身体を反転させられ、太腿を両手で抱えられるように持ち上げられた。
そして股に鼻を近づけ、クンクン匂い出した。
「…相変わらず詩帆のここはいい匂いだ…」
「やめてよ、恥ずかしい」
恵介は恥ずかしくて両手で顔を隠した。
「どうしたんだ?いつもだったら『そうでしょ』みたいな言い方するのに。今日みたいな反応のほうが好きだけどな」
金田は恵介の反応を楽しむように思い切り深呼吸するように匂いを嗅いだ。
恵介は顔を手で覆いながらイヤイヤするように首を振った。
そしてショーツの上から恥ずかしい部分を舐めだした。
「…ぃゃ……やめて……」
恵介は意識がなくなりそうなくらい感じていた。
金田の唾液のせいで、ショーツがぐしょぐしょに濡れていた。
もちろん恵介が分泌する液のせいで内側もぐしょぐしょに濡れていた。

金田の手がショーツにかかった。
恵介はボーっとしながら腰を浮かせて脱がせるのをサポートした。
そして右脚を曲げて右脚だけをショーツから抜いた。
金田が身体を離してゴソゴソしていた。
その間に恵介の意識も平静に戻ってきた。
金田はコンドームをつけていたのだ。
やっとペニスが入ってきた。
金田の動きは単調でもうひとつだった。
恵介はいくことはできなかったが、金田ひとりで最後までいった。
(どうして金田なんかとつき合っているんだろう?)
ひとりで最後までいった金田の顔を見ながら、恵介はそんなことを思った。



翌日の朝には詩帆は来なかった。
(もう任せておいて大丈夫ってことなのかな?)
ホッとしたようなところもあったが、それ以上に寂しさを感じた。
複雑な心境を心に秘めながら、仕方なく恵介は一人出勤した。
電車は女性専用車両に乗ることを忘れなかった。
おかげで痴漢にも遭わず無事に出勤することができた。
女性としての振る舞いもほぼ問題ない状態だった。


その日も金田に誘われた。
昨日と違い、いきなりセックスをすることはなかった。
まずは食事に連れて行かれたのだ。
そこでは恵介が食べたことのない料理ばかりだった。
(真壁さんが別れないのはこんな美味しいものを食べさせてくれるせいなのかな?)
そう思えるくらい美味しい料理だった。
そのあとは昨日と同様あまり快適でないセックスだった。
(僕はあまり気持ちよくないけど真壁さんは気に入ってるのかな?)
もしかすると愛情がないせいなのかもしれないとも思った。
愛することができればこんなセックスでも気持ちがいいのかもしれない。
しかし恵介はそもそも金田のことが嫌いだった。
仕事ができるわけではなく派閥の力学だけで課長になったようなやつだ。
少なくとも恵介はそう思っていた。
そんな金田とのセックスに感じるなんてことは難しいのかもしれない。
女は気持ちに関係なくいけるなんてことは男の勝手な思い込みなのだろう。

セックスが終わると金田はさっさと帰って行った。
恵介は金田の唾液まみれになった身体をシャワーで洗い流した。
(真壁さんっていつもこんなことしてたのかな?)
恵介は時々詩帆のことを見ていたが、こんな姿は想像もできなかった。

恵介は服装をチェックして部屋を出た。
そしてホテルを出ようとしたところで、詩帆が見たことのない女性と入ってくるのに遭遇した。
「よぉ」
詩帆は恵介を見てニヤッと笑った。
一緒の女もこれ見よがしに詩帆の身体に密着して恵介のほうをチラッと見た。
「誰、あの人?」
女が小声で詩帆に聞いていた。
「嫁さん」
「うっそだぁ」
二人がじゃれ合ってホテルに入っていった。

「あれ?真壁さん?」
ホテルから数歩歩いたところで声をかけられた。
見ると恵介の数少ない友達のひとりである岡田達人が立っていた。
少しアルコールが入っているようで顔が赤かった。
「えっ、岡田くん?」
恵介は詩帆の姿で達人と話すことが何となく恥ずかしかった。
「こんなところで真壁さんに会うなんて…。中村のやつが知ったら泣くよ」
「えっ?」
「あっ、しまった。中村が真壁さんのことを好きなこと、あいつに口止めされてたんだ。僕がこんなこと言ったこと、絶対あいつには黙っててくれよな」
口の軽いやつだなと思いながらも恵介は達人のことを憎む気にはなれなかった。
「中村くんならさっき綺麗な女の人とそこのホテルに入っていったわよ」
「そんなはずはないだろう。あいつ真壁さんのことメッチャ好きなんだから」
どこまで話すんだよと心の中で突っ込みながら「そうでもなさそうだけど」と言い返した。
「最近のあいつ、何か変なんだよな。変に自信があるというか。あいつ、あんなやつじゃなかったんだけどな」
「それじゃ」
恵介は話を切って達人から離れた。
「えっ…あ…」
背後からまだ話をしたそうな達人の声が聞こえたが、無視して家路を急いだ。



次の日会社では何もなかった。
一日無事に仕事をしていただけだった。
金田からの誘いもなかった。
(今日はおとなしく帰ろう)
そう思って会社を後にしたときだった。
「真壁さん」
後ろから誰かが走って追いかけてきた。
振り返ると達人だった。
恵介が立ち止まって待っていると達人が走り寄ってきた。
「良かった、間に合って」
「何か用…なの?」
「走ってきたら喉渇いちゃって…。ちょっとそこで一杯、いいですか?」
達人は恵介の返事を待たずに、半ば強引に恵介の背中を押して駅近くの居酒屋に入った。
(まあいいか。別に用があるわけじゃないし)
そう思って恵介は達人とテーブルについた。
「それで何か用なの?」
「いや別に…」
そこでは他愛もない話をしていただけだった。
(何のために呼び止めたんだろう?)
そんなことを思っていると恵介は急に眠気に襲われた。
(あれ?どうしたんだ…)
「真壁さん、真壁さん、どうしたんだ?大丈夫?」
達人の呼びかける声を聞きながら恵介の意識は遠のいていった。

気がつくとどこかのホテルの一室だった。
覆い被さる何かを感じた。
どうやらすでに恵介は全裸にされているようだった。
「…ぁぁぁ………」
恵介は胸を舐められているような感覚を感じ声を出していた。
「あ、詩帆、気がついたんだ」
達人が顔を恵介に近づけてきた。
達人も全裸になっていた。
(どうして岡田がこんなことを…。それに名前を呼び捨てにしやがって)
恵介は達人をはね除けようとしたが、身体が思ったように動かなかった。
口も自由に動かせなかった。
「うまく動けないだろ?ちょっと薬を飲んでもらったからな。それに…」
乳首に軽く触れた。
「あっ!」
強い快感を感じた。
「いつもより感じやすくなってるだろ?催淫効果もあるらしいぜ」
達人が恵介の胸と股間を中心に触ってきた。
触られることに嫌悪感を感じているのに身体が感じる快感はどうしようもなかった。
「詩帆ってすごい感じてるんだな」
達人が恵介の股間を触って、手についた液を舐めていた。
「それじゃそろそろ…」
達人がペニスを挿入してきた。
達人は恵介の表情を見ながらゆっくり腰を動かした。
「……ああああああんんん………」
ものすごい快感でおかしくなりそうだった。
「中村に真壁さんのことを聞いたんだよ。そしたらもうそれほど好きでもないって言いやがったんだ。僕が抱くって言っても鼻で笑いやがったんだ。僕なんかは真壁さんに相手にしてもらえるはずがないって感じで。だから…だから……」
達人はそんなことを言いながら腰を動かした。
恵介は快感で意識朦朧としてほとんど聞いていなかった。
達人の腰の動きが速くなった。
「ああ…出そうだ。もしも詩帆が妊娠しても僕がちゃんと責任取るから」
意識がはっきりしていない恵介だったが『妊娠』という言葉だけは理解した。
「……んんんんんんん……」
抵抗しようとしたが快感の前では何もできなかった。
(やめろ…中で出すなぁ…)
心の中で抵抗したが、心の中の叫びは当然無視された。
達人は恵介の中で大量の精液を出した。
「…ああ……あああ………」
恵介の意識は完全に飛んでしまった。



次の日は会社を休んだ。
あんなことをした達人が休むことでどう接してくるか気にはなったが、達人の顔を見るのも嫌だったのだ。
男そのものが恐ろしく思えた。
恵介が出歩くとろくでもないことが起こるようにも思えた。

恵介は部屋から出ずに一日過ごした。
(もう一度自分の姿をした詩帆に抱かれたいな)
男に対しては恐ろしく感じていたが、恵介の姿を詩帆に対しては特別な思いがあった。
だから詩帆のことを考えながら自らを慰めていた。



ようやく元に戻る日がきた。
恵介が紗耶の事務所に行くと、すでに紗耶と詩帆が待っていた。
「どうだった?真壁さんになってみて?」
そんな質問を紗耶が恵介に投げた。
「女性の立場になって女性の大変さが分かったような気がします。男の欲望の対象になっていることがとても恐かったです。だから僕が真壁さんのことを見てるだけでもストーカーって言ったんですよね?僕としては何てことないと思ってたけど。僕は自分の気持ちというか欲望を前面に出すのは当たり前って思ってましたが、それって女性から見ると恐いものになるってことがよく分かりました。元に戻ったらそういうところに気をつけて女性に接したいと思います」
恵介は一気に話した。
「そう。でも元に戻れると思うの?」
紗耶が意味ありげな顔をした。
紗耶の言葉に恵介は意味が分からないという表情をした。
「実は真壁さんに頼まれてあなたの1週間の行動を見張っていたの。あなたと真壁さんの行為は当該者の了解があるからいいとしても、真壁さん以外に2人の男性と関係を持ったでしょ」
紗耶はそう言いながら恵介の目の前に数枚の写真を置いた。
上司の金田とホテルに入るところ、友達の岡田とホテルから出て行くところがしっかりと撮られていた。
「こ…これは……」
「中村くん、わたし、言ったわよね?妊娠したら元に戻らないって」
「だって、金田課長とは別れないでって言われたから」
「それじゃ岡田くんは?」
「それは…」
「中村くんってわたしになって何回もセックスしたんでしょ?もしかしたら誰の子か分からない子供がお腹にいる可能性があるんじゃない?そうでしょ?そんな状態でわたし、戻るなんていやだから」
「……」
恵介は何も言い返せなかった。
「これで妊娠してるか調べてくれる?」
詩帆は恵介に妊娠検査薬を手渡した。
「先のほうにおしっこをかけてきて」
恵介はトイレに入り言われた通り妊娠検査薬の先の棒状のところにおしっこをかけた。
「これでいいの?」
「そう。それじゃこれで1分待てばいいのよ」
1分後判定窓に陽性を示すラインが表示された。
「中村くん、あなた、妊娠してるわよ」
「…うそ……」
恵介は自分の顔から血の気が失せていくのが分かった。

恵介は紗耶のほうに向き直った。
「探偵さん、僕からの依頼です。元の身体に戻らせてください」
「でも妊娠したら元に戻らないって真壁さんに言われてたでしょう?それなのに毎日のように男の人と…。あんなことしてたんならしょうがないんじゃない?」
「そんな…」
恵介はその場に座り込んだ。
「もしかしたらお腹の子の父親は真壁さんかもしれないじゃないですか?」
「だから何よ。もしそうなら自分で自分の子供を身籠もったことになるじゃない?」
「そんな…」
恵介はしばらく何も言わずそこに座り込んでいた。
「戻れない…戻れないんだ……」
ブツブツ言っていたかと思うと、フラッと立ち上がり、そして部屋を出て行った。


「真壁さん、うまく狙い通りにいったわね?」
恵介が出ていくと紗耶は詩帆と向かい合った。
「何のこと?妊娠したら元に戻れないって警告してやったのに、誰彼構わずにセックスする中村くんが悪いんでしょ?」
「だって妊娠検査薬なんて受精してすぐなんて何も出てこないはずでしょ?なのに陽性反応があったってことは入れ替わる前から真壁さんの身体は妊娠してたってことじゃないの?」
「なんだ、探偵さん、分かってたんだ。だったらどうしてそのことをさっき言わなかったの?言ってあげれば彼も救われたかもしれないのに」
「あなたと入れ替わって、おとなしくしていれば教えてあげたかもしれないけど。あんなに複数の男性とセックスするからちょっと懲らしめてやりたくなったの。それに真壁さんは中村さんの身体のままでいたそうだったし」
「そんな…。男なんてお洒落もできないしつまらないものよ」
「そう?でもあなたもいろんな女性と楽しんだようだけど」
「調べたの?」
「少しね」
「やっぱり探偵さんを騙しきるのは無理だったのね。別に中村くんになりたかったってわけじゃないけど、何となく女性って損な役回りだと思ってたし、男性の立場が羨ましかったことは確かよ。私が妊娠していることが分かって悩んでたときに、自分が好きだって気持ちだけで私につきまとう男が出てきちゃうでしょ?ストーカーってほどじゃないって分かっても、なぜかそいつが憎らしかった。だから探偵さんに頼んだんだ。でも、あの顔を入れ替えられたときは本当に驚いた。あんなことができるなんて信じられなかったもの。でも顔だけでも探偵さんになったときに自分の持ってる悩みもどこかに消えていったような気がしたの。そのときよ、中村くんと入れ替わることを思いついたのは。1週間だけという条件をつければ、いやらしい男のことだもの、絶対に私の身体でセックスすると思ったの。それでもおとなしい中村くんだからオナニーをするだけで何もしない可能性もあると思った。だから念のため私が彼を抱いて無理矢理にでも女性の快感を教えてあげれば、きっとはまると思った。結果は期待通り中村くんは私の身体でのセックスにはまってくれたわ。妊娠を自分のせいだと思わせれば、彼のおとなしい性格からして私のままでいることを受け入れると思ったの」
「彼が受け入れなかったらどうしてたの?」
「そのときはそのときよ。元に戻るのが自然なんだから戻ってもいいと思っていたわ。別に男になりたいわけじゃないんだから」
「結局あなたは戻りたいの?そのままがいいの?」
「……分からない…」
「そう。それなら戻りたくなったら、また連絡ちょうだい。二人が入れ替わっているのは私のせいなんだから、アフターフォローとして無料で元に戻してあげるから」
「ありがとう。ならそうさせてもらいます」


結局二人が紗耶のところにやってくることはなかった。


自殺することすら考えた恵介だったが、結局詩帆の姿のままで生きることにした。
そして子供を産むことを決心した。
詩帆の姿になった今なら、少しは強く生きられるような気がしたのだ。

しかし、妊娠していることが分かると、会社側から暗に辞職を勧められた。
少しの間抵抗したが、結局圧力に屈して会社を辞めることになってしまった。
それでも子供が産まれるとすぐに父親探しを始めた。
はたして金田の子であることが分かった。
恵介はDNA鑑定によって金田の子であることを証明した。
その結果を受けて金田から慰謝料・養育費を手に入れた。

しかし金田と結婚することはなかった。
もちろん達人なんかは相手にさえしなかった。
好きでもない金田や達人と一緒になることよりシングルマザーであることを選んだのだ。
恵介は予想通り女性として強くなっていたのだ。

一方金田は恵介との関係が表沙汰になり、会社では閑職に追いやられてしまった。
私生活では離婚されてしまった。
特に楽しみもなくわずかな給料のために毎日出勤するだけの毎日だった。
金田には生きる目的など存在しなかった。

また、恵介になった詩帆は女性を活用して新たな事業の立ち上げに成功し、重要なポストに就いた。
女性との噂は事欠かなかったが、結婚することはなかった。
紗耶には男になりたいわけではないと言っていたが、曲がりなりにも男として成功したと言えるだろう。



二人が入れ替わって3年後のある日、詩帆は恵介のところを訪ねた。
「あら、久しぶりね」
すっかり母親になっていた恵介は詩帆をあたたかく迎えてくれた。
「おお、久しぶり」
すっかり男としての行動パターンが身についた詩帆は言葉少なに答えた。
恵介は入れ替わったころより美しくなったように見えた。
すぐそばでは小さな男の子が走り回っている。
「今日はどうしたの?」
「まずは部屋に入っていいかな?」
「あ、どうぞ」
詩帆は靴を脱ぎ、部屋に入った。
1DKの綺麗に整理された部屋だった。
部屋の隅には子供のベッドが置かれていた。
詩帆は小さなテーブルの椅子に腰掛けた。
詩帆の前にお茶が出てきた。
お茶を出すと、そのまま正面の椅子に恵介が座った。
ニコニコと笑っている。
その姿は詩帆の言葉を待っているようだった。
「…いろいろと考えてきたんだけど、ここに来たらもうどうでもよくなってきた。言いたいことをズバリ言う。プロポーズしにきたんだ。俺と結婚しないか?」
「何よ、いきなり。それにどうして?」
恵介はあまり驚いた様子はなかった。
むしろ恵介は余裕の笑みを浮かべているようにさえ見えた。
「やっぱり元の自分だし、元の真壁詩帆より今のお前のほうが絶対に可愛いもんな」
「そう?」
恵介は嬉しそうだった。
「でもいきなり父親なんてできるの?」
「大丈夫だよ、俺は。すっかり男が板についたはずだ」
「ふふふ、確かにそうかもしれないわね。でも男と父親とは違うわよ」
「父親にはなれるはずだ。実際、半分母親みたいなものだしな」
「それもそうね。だったらお受けします。健太には父親が必要だもの」
「子供のためだけなのか?」
「わたしも中村恵介になった真壁さんのことが大好きだったの。だから金田なんかと結婚しなかったんだ。もちろん岡田なんか相手にもしなかったけど…。わたしの気持ちは最初から分かってたんでしょ?」
「詩帆…」
詩帆は恵介の手を握りしめて、優しい視線を恵介に送ってきた。

恵介は健太を寝かしつけて、詩帆のもとに歩み寄った。
詩帆は優しく恵介を抱き締めてくれた。
そして甘いくちづけ。
恵介は押し入れから布団を出した。
久しぶりの詩帆とのセックス。
男性に抱かれたこと自体、久しぶりだった。
恵介は詩帆に抱かれ、何度も絶頂を迎えた。

(あの日、詩帆にストーカーに間違われて結局良かったのかもしれないわ)
恵介は詩帆の腕の中で幸せを噛み締めていた。


《完》

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