婚活



「圭、代わりに行ってきてよ」
両親が勝手に申し込んだお見合いパーティのことだ。
「そんなの無理だよ、姉ちゃんが行けばいいじゃんか」
圭は即座に玲に答えた。
「そんなことしたら、また長々と小言を言われるだけだって、あんただって知ってるでしょ?」
「そんなの俺には関係ないし」
「そんなこと言ってたら、あんたが困ったときに助けてやんないぞ」
「今までだって助けてもらったことなんてないじゃん」
「ぁ…そりゃそうか。ギブアンドテイクはあんたとは成り立たないってわけね…」
「そう。だから諦めてさっさと行ってきなよ」
「うちの家はそれほど裕福じゃないのにね。こんなのに申し込むくらいだったら美味しい物食べに連れてってくれたらいいのに」
「早く姉ちゃんに出てって欲しいんじゃねえの?」
「もう、憎らしいこと言って。…だったらさあ、バイトってのはどう?最近金欠なんでしょ?」
「どうしてそれを?」
「1万出すわよ。どう行ってくれない?」
「1万かぁ。ちょっと安いかなぁ」
「もう人の足もと見て。それじゃ1万5千出すから」
「もう一声」
「しょうがないなあ、それじゃ2万。これ以上は絶対無理だからね」
「それじゃそれでいいや」
「よし、商談成立」
圭と玲の間でこんな馬鹿なやりとりがあったのだった。

圭と玲は双子だった。
双子と言っても顔は瓜二つというわけではなかった。
玲はやや派手目の美人だった。
圭は玲に比べれば地味な日本人的な顔だった。
ただ顔のつくりは基本的に同じだった。
だから写真の写り方によってはどちらか分からないような写真もあった。
それに背格好は似ていたので、全身写真を撮られても服装が中性的なものであればどちらか分からないこともあった。

「それじゃ早速だけど、これ着てみてよ。圭ならたぶん着れると思うわ」
玲が出したのは黒のシフォン素材のワンピースだった。
胸元にフリルがついている女性らしいものだ。
「こんなの着れるかよ」
「そんなこと言ったって曲がりなりにもパーティなんですからね。私の名前で参加する限りはそれなりにおめかししてもらいますからね」
「そんなこと言うんなら自分で行けばいいじゃん」
「あんた、男でしょ?男に二言はないって知ってるでしょ?」
「何だよ、女になれって言ってるんだから男らしくなくったっていいんだろ?」
「ええ!そんな屁理屈言わないでよ。ねっ、機嫌直して、これを着て、ねっ?」
「バイト代、上乗せしてくれるか?」
「そんなの無理だって。私だって今お金ないんですからね。可愛い姉のために一肌脱ごうって思わないの?」
「そんなの思うわけないじゃん」
「もう本当に可愛げがないんだから。とにかく着てみてよ」
玲は圭を上目遣いに見た。
この表情にいつもやられるんだよな。
圭は分かっているのだが、やはり今回も負けた。
「しゃあない。着てやるよ」
圭は立ち上がって着ている物を脱ぎ出した。

「へえ、圭って意外と筋肉質なのね」
ブリーフだけになった圭を見つめていた。
「曲がりなりにも俺は男だぜ。最近はちょっとたるんできたけど、高校のときは3年間陸上やってきたしな」
「ちょっとその筋肉質はきついかもね」
「何だよ、それ。やたら文句が多いな。とにかくこれを着ればいいんだな」
「うん」
圭はワンピースを頭から被った。

玲は圭の着たワンピースを整えた。
「何かちょっとおかしいわね」
玲は圭の周りを何度か周って圭の服装をチェックした。
「そのがに股何とかならない?それに脛毛も気になるわねぇ」
「そんなこと言っても絶対に剃らないからな」
「何も剃ってくれって言ってるわけじゃないじゃない」
「じゃ、どうしろって言うんだよ?」
「ちょっと待って」
玲はタンスから黒いパンストを取り出した。
「幸いそれほど濃いわけじゃないからこれで大丈夫だと思うんだけど…」

圭は手渡されたストッキングに脚を通した。
「それが私の持ってる中で一番濃いんだけど、ちょっとダメみたいね」
「そうかなあ…。何とかいけるんじゃないのか?」
圭は自分の脚を見ながら言った。
「それじゃちょっとこっちに来て」
玲は圭を全身が映る鏡の前に連れて行った。
「圭の目の前にこんな脚の女性が立ったらどう思う?」
圭は鏡に映った自分の脚を見た。
だらしなく膝の間が開き、脛毛がストッキングの下に見え隠れしている。
こんな脚の女なんて願い下げだ。
「……確かにこれじゃ話にならないみたいだな」
「でしょ?」
「ああ」
圭はそう言ってストッキングを脱いだ。
そしてシェーバーで脛毛を剃り、さらに腋毛も剃った。
「圭、いいの?」
「だって脛毛以上に腋毛が気になっただろう?」
「そりゃまあ…」
「毒を食らわば皿まで、さ。やると決めたら徹底的にやんなきゃあな」
「圭、あんたって子は…」
玲は嬉しそうに圭を見た。
「ちょっと待って。髪型が変われば印象もかなり変わってくると思うから」
そう言って、タンスの上に置いてあったウィッグを取り出した。
「これでも被るとかなりいけるんじゃないかな?」
玲は圭にそのウィッグを被せた。
肩より少し長めでゆるいカールのついたダークブラウンのウィッグだった。
そのウィッグは圭の印象を変えた。
優しい日本的な女性らしくなった。
「これなら何とかなりそうね」
「…あ…ああ……」
圭自身自分の変身に少しとまどっていた。
確かに何とかなりそうだ。
「それじゃもう少し変身してみようか。ちょっと来て」
圭は玲に一生懸命化粧をした。
ドレッサーの鏡の中で驚くほどの美女に変わっていく自分を見て、圭は股間の物を固くしていた。
「それじゃ立ってみて」
玲は圭を立たせようとした。
腰を浮かせたときにスカートの前を押し上げている存在が分かった。
「圭、あんた、何自分を見て興奮してんのよ、この変態っ」
「そんなこと言ったって仕方ないだろ、生理現象なんだから」
「でもそんな恰好でそんな状態になったとしたら本当に変態って呼ばれちゃうよ。これでも着て抑える?」
玲は下着を出してきた。
「何だよ、これ?」
「ガードルよ、知らないの?」
「女の下着なんて知るわけないだろ」
「とにかくそれを穿いてみてよ」
圭はパンストの上からそのガードルを穿こうとした。
「これ、かなりきついよ」
「大丈夫だって。何とか穿けるから」
圭は無理やり引き上げた。
硬くなったペニスを抑えつけてスカートを持ち上げることがなくなった。
鏡にははにかんだ少し筋肉質の美女が映っていた。


お見合いパーティの日になった。

「玲、今日はお見合いパーティなのよ。早く起きて準備なさいよ。父さんと母さんは仕事に行ってくるからね」
階下で母の由美が叫んでいる。
「分かってるって。もう起きてるから大丈夫だって」
玲はうんざりしたように返事した。
「はあ〜。相変わらずよね、うちの母親は」
「こんなことがばれたらこれぐらいじゃ済まないぞ」
玲と圭は顔を見合わせてため息をついた。

「もうあの娘ったら本当に大丈夫かしら。父さんからも厳しく言ってくださいよ。父さんが甘いから、あの娘たちはなかなか独り立ちできないんですからね」
「ああ、わかった。そのうち言っとくよ」
「いつもそのうちそのうちって。そのうちっていつですか?いつも私が憎まれ役になって、父さんが優しい父親面するんだから。本当にもう…」
相変わらずの母親の愚痴が始まったようだ。
玲と圭は両親が出て行くのを自分たちの部屋で声を潜めて待っていた。
数分するとドアが閉まる音がし、母親の愚痴が聞こえなくなった。

「圭だったら母さんにばれずにうまくやってくれるって信じてるから」
「別に俺のことを信じてるわけじゃなくって自分が行きたくないだけだろ?」
「ははははは、ばれてた?そりゃそうよね、私が考えてることって大抵あんたには分かるんだもんね。まあとにかくそろそろ準備に入ろうか」
圭の前にこの前着た服が置かれた。
ただしこの前にはなかった女性の下着が服の上に置かれていた。
「何だよ、これ?」
「ショーツとブラよ、女性には必要なものでしょ?」
「俺は男だ」
「だって今日圭は私になるのよ。女性がブリーフ穿いてるなんて興ざめでしょ?」
「どうせガードルで隠れるだろ?」
「やると決めたら徹底的にやんなきゃ、でしょ?自分で言ってたじゃない?」
「確かに言ったけど、さ」
「それにそれ、わざわざ買ってきたのよ。もしかして私の穿いたもののほうがよかったりして」
「な…何言ってんだよ。頭おかしいんじゃないのか?」
「とか言っちゃって。顔真っ赤だよ、図星なんでしょ?何なら私が穿いたショーツ出してあげようか?」
「うるさいな、これでいいよ。これ穿くよ、穿けばいいんだろ」
圭は黒いショーツを手に取った。
目の前の玲の視線が気になる。
「穿くから後ろ向いててくれよ」
「はいはい」
「いいか、絶対見るなよ。見たら行かないからな」
「大丈夫だって。あんたのおチンチン見るほど私は男に飢えてないって」
玲が後ろを向いたのを確認して、圭は急いで服を脱いだ。
(どうしてこんなものを穿かなきゃいけないんだ)
圭は少しの間手にしたショーツを見つめていたが、意を決してショーツを穿いた。
意外に伸びるが、どうしてもペニスの先が出てしまう。
自分が女性下着を穿こうとしていることで、ペニスが興奮状態にあることも原因のひとつだ。
圭は少し考えてペニスを股間に挟んでから、ショーツをあげた。
少し痛かったが、うまく押さえることができた。
そしてその上からガードルを穿いた。
股間には何もないように見える。
これだと何とかなりそうだ。

「姉ちゃん、穿いたぜ」
「どれどれ」
玲が振り返るとガードルだけを穿いた圭が立っていた。
股間には何もないように見える。
この前は曲がりなりにも押さえ込んでいるものの存在はわかった。
今日はその存在そのものがないように見えた。
「どうなってるの?触っていい?」
「何言ってんだよ」
しかし嫌がる圭を無視して玲は圭の下腹部に触れた。
「本当に何もない。どうなってんの?」
圭はジェスチャーで股間に挟む様子をした。
「ふーん、そんなことしたんだ。うまいこと考えたものね。それじゃこっち来て。ブラつけてあげるから」
「ブラジャー!そんなのいいよ」
「何言ってるの?いくらペチャパイでもちょっとくらいバストがないと、服のラインが綺麗にならないわよ。早くこっちに来なさいって」
圭は玲に近寄った。
「それじゃストラップに腕を通して」
圭は言われるままブラジャーのストラップに腕を通した。
「ちょっと小さいみたいね」
玲は少しずつ長さを調整して何とか留めてくれた。
「はい、これ。これをカップに詰めて」
渡されたのは2つのパンストだった。
圭はそのパンストを1つずつカップに詰めた。
すると形だけだがバストのある女性になった。
「何とかいいみたいね。じゃ服を着てみて」
圭はパンストを履き、昨日着た黒のワンピースを着た。
昨日よりバストが出た分、女性の身体のラインになっているように感じた。
「お化粧するから、ここに座って」
圭は鏡の中で美しく変身していく自分に酔っていた。
ウィッグを被ると美女への変身が完了した。

「それじゃ、これバッグね。女性が手ぶらで出掛けるなんてことはないでしょ」
圭はバッグを受け取った。
中を見ると、ハンカチや化粧品が入っていた。

玲は玄関で圭のためにサンダルを出してくれた。
圭はそのサンダルを履いた。
「それじゃ、よろしくね」
玲は当然のように圭ひとりを送り出そうとしていた。
「姉ちゃん、ついてきてくれないのか?」
「私と一緒に歩いたら、あんたが圭だってばれるかもしれないわよ」
「…そうか…そうかもな……。分かった、一人で行くよ」
圭は意を決して一人で外に出た。
がに股にならないように気をつけながら歩いた。
なれないサンダルであったことで、必要以上に歩幅をとれないことは圭にとってよかった。
それなりに女性らしく歩けているように思えた。
それでも歩いていると周りの者がみんな自分を見ているように思えた。
女装した男だと後ろ指さされているように感じたのだ。
だからいたたまれずたまたま通りかかったタクシーを止めた。
そしてそのタクシーに飛び乗って、会場に向かった。


お見合いパーティが開かれるホテルに到着した。
タクシーの運転手にお金を支払い、スカートが捲れないように気をつけながらタクシーを降りた。
(ふぅ〜、これはかなり大変だ…)
まだ会場にも到着していないのに圭は相当疲れていた。

圭は案内されている看板にしたがい、パーティ会場まで迷わず行くことができた。
圭は受付でパーティの案内状を差し出した。
「飯塚玲さまですね」
名簿で名前をチェックし、何も書かれていないピンクの名札を渡された。
「ご自分の名前と年齢を書いて胸のところに付けておいてください」
「あ…はい…」
圭は『玲(21)』と書いて胸につけた。

パーティ会場に入った。
会場の中は男女が会場の右側と左側に綺麗に分かれていた。
男たちはほとんど会話がなかったが、女たちは初めて会ったにもかかわらずやかましいくらいペチャペチャ話していた。
圭は男の中に入っていくことができず、かと言って女性の中にも入っていくことができなかった。
その結果、両方から離れたところに一人だけで座る羽目になった。

パーティが始まると圭を含めた女性10人が部屋の壁際に置かれた椅子に座らされた。
目の前には椅子が置かれている。
司会者の合図で目の前の椅子に男性が座った。
5分ほどお互い簡単な自己紹介と取るに足らない会話を交わした。
そして男性は次々と席を替わっていった。
圭はできるだけ口を開かないように、できるだけ言葉少なに応対した。
自己紹介だけで1時間ほどが経った。
次はフリータイムだ。
フリータイムになるとあちこちでグループができた。
圭はできるだけ一人でいるようにした。
それでも話しかけてくる男性はいた。

「お話してもよろしいですか?」
圭に近づいてきた男の胸には『憲之(32) 医者』と書かれていた。
「えっ?ええ…」
「玲さんっておっしゃるんですか」
「はい」
男は自分のことを話し出した。
圭はニコニコしながら男の話の聞き役に徹した。

フリータイムが終わった。
それぞれのメンバーが気に入った異性の名前を書いて係りの者に手渡した。
圭も手渡した。
もちろん白紙でだ。
しばらくするとカップルの発表になった。
当然圭は無事無罪放免となった。
(ああ、やっと終わったぁ…。疲れたなぁ……)

圭はすぐに会場から離れた。
パーティの途中から尿意を感じていたのだ。
(やっぱりこの恰好じゃ女性トイレだよな)
圭は女性用のトイレに入った。
幸い誰もいなかった。
一番奥の個室に入った。
スカートを捲りあげ、パンスト、ガードル、ショーツと下げて、ようやく腰を下ろすことができた。
(女って大変だなあ。おしっこするだけのためにこんなに脱がないといけないんだもんなぁ)
しかもガードルのせいで股を広げることができず、窮屈な思いで用を足した。

何とかおしっこをして、再び下半身を締め付ける下着をつけた。
手を洗うときに前の鏡に映った自分の姿が目に入った。
まだ自分の女装に見慣れてないため、鏡の自分の顔にドキッとした。
我ながら見れば見るほど美人だと思う。
よく見ると口紅が少し落ちていた。
圭はそのことが気になった。
バッグから口紅を取り出し、口紅を塗り直した。
美しさが蘇ったように思えた。
気持ちがなぜか明るくなった。

パーティの疲れも忘れて、足取りも軽くトイレを出た。
ちょうどそのとき高校時代の同級生の市ノ瀬優二とすれ違った。
圭の明るくなった気持ちは一気に冷えてしまった。
ばれたらどうしよう?
優二のほうも圭の顔を見て何か言いたそうに思えた。

圭は急いで家に帰った。

「姉ちゃん、無事に終わったぞ」
圭は家に帰ると、女装のままベッドに身体を投げ出した。
「何よ、その恰好。年頃の女の子のくせにはしたないぞ」
「何が『年頃の女の子のくせに』だよ。もうこんなことはこりごりだからな」
「分かってるわよ。で、どうなったの?まさか誰かとおつき合いするってことにはなってないでしょうね」
「もちろんだよ。言い寄られた男はいたけどね」
「さすが我が弟、それじゃ約束の2万円ね」
圭はベッドに座り直し、玲から2万円を受け取った。
「なんか苦労したわりには安い気がするなあ」
「私だって精一杯の額なんだから無理言わないでよ」
まあ仕方ないかと思い、圭は受け取った2万円を財布に入れた。


それから3日ほどしたときにお見合いパーティを主催した会社から封書が届いた。
それによると、お見合いは成立しなかったが、あなたを気に入った男性が3名いたので、興味があれば会社まで来て欲しいとのことだった。
男性の詳細な情報は書かれていなかったが、年齢と職業が書かれていた。
43歳医者、38歳パイロット、34歳会社社長の3人だった。
そこには言い寄ってきたあの医者は書かれていなかった。

その手紙を見た玲は手紙の内容に興味を持ったようだった。
「へえ、圭。やるじゃない」
「当然だろ?あんだけの美女だからな」
「ね?どんな人か興味ない?」
「そんなもん、ないよ」
「でも興味あるじゃん。聞いてみようか?」

玲はすぐに電話を入れた。
「もしもし飯塚玲と申します。いただいたお手紙のことでお聞きしたいんですが」
「あ、先日のお見合いパーティに参加された方ですね。どういったことでしょうか?」
「電話でどの方なのかを教えていただくことは無理なんでしょうか?」
「個人情報にあたりますので、お顔を確認していただいて、お教えすることになっております。大変お手数ですが、弊社まで来ていただけないでしょうか?」
「分かりました。明日でもよろしいですか?」
「ええ、明日でも結構ですよ。お待ちしております」

電話を切った玲は圭のほうを見てニヤリと笑った。
「な…何だよ。絶対無理だからな。そんなに知りたいんだったら姉ちゃんだけで行けばいいだろ?俺には関係ないんだから」
「でも向こうだってあんたのことは分かってるんでしょ?あんたじゃないと教えてくれないんじゃない?」
「でもそもそも申し込みのときにつけた写真は姉ちゃんの写真なんだから姉ちゃんが行けば教えてくれるって」
「そうかもしれないけど……」
「そんなにお見合い相手のことが気になるんだったら、最初から自分で行けば良かったじゃないか」
「そんなこと今さら言ったって遅いわよ。あんただってバイト代が入ったんだから良かったでしょ?」
「そりゃまあそうだけどさ。とにかく俺が見に行くのは絶対にあり得ないからな」

最初は抵抗していた圭だったが、結局いつものように玲に押し切られる形で会社に行くことになった。

「絶対に今日が最後の最後だからな」
「分かってるわよ。それに今日は私も一緒に行くんだし、あんたも安心でしょ?」
「はいはい、とにかくさっさと終わらしてしまおうぜ」
圭は躊躇することなく玲の準備した服を着た。
先日とは違って、カジュアルな感じの服装だった。
白いキャミソールとピンクの花柄の膝丈のスカート、それにピンクのカーディガンを羽織った。
鏡に映った圭は女子大生のように見えた。
「それじゃ参りましょうか、お姉さま」
「今日はあんたが玲だからね。私は付添いの親戚ということでいいわね」
「はいはい、それでいいわよ」
圭は女装をしても堂に入ったものだった。
声こそ低いが、普通の女子大生のようだった。

圭と玲は会社に行った。
「あのぉ昨日お電話しました飯塚と申しますが」
「はい、伺っております。こちらへどうぞ」
圭と玲はひとつの部屋に通された。
すぐにお茶が出てきた。
しかし出されたお茶にも手をつけずに待っているとお見合いパーティにいたスタッフの一人が部屋に入ってきた。
「先日はどうも」
男は圭のほうを見てにこやかに笑って、そして玲を一瞥した。
「こちらは?」
「私、玲のいとこにあたる瑠衣と申します。この娘の結婚にあたってはいろいろと相談を受けてまして、今日はご一緒させていただきました」
一気に玲がまくし立てた。
「そうですか、本来ですと、メンバー以外の方にはお見せできないんですが、ここで見ていただくだけということでよろしいでしょうか?もし飯塚様がお気に召した方がいらっしゃれば後日ご自宅へ郵送させていただきます」
「はい、それで結構です」
と圭が言うと、圭と玲の前に3人のプロフィールと写真が広げられた。
3人ともパーティ会場で会った記憶のある男性だった。
43歳の医者はいかにもおじさんと言った感じで、男の圭から見てもあり得ないと思える男性だった。
しかし、38歳パイロット、34歳会社社長の2人はそれなりに恰好いい男性だった。
(そう言えばあの医者も見た目はそれなりに良かったかも…)
圭はそんなことを考えていた。

それがスタッフからは考えているように見えたのだろう。
圭が考えている間何も言わずに待っていた。
ふと圭はそんな空気に気がついて、スタッフの男の顔を見た。
それをきっかけにスタッフの男が口を開いた。
「でどうなさいますか?」
「あ…ちょっと考えさせていただいてよろしいでしょうか?」
「分かりました。それではもしどなたか気になる方がいらっしゃいましたら、ご連絡いただけますか?そのときに今ご覧いただいている資料をお送りいたしますので」
「今日はいただけないんですか?」
横から玲が口を挟んだ。
「はい、先ほども申し上げましたように、申し訳ございませんが、個人情報保護の観点で無闇にお渡しできないことになっておりますので、ご了承ください」
「そうなんですか…、分かりました。それではこの子と相談して後日ご連絡することにします」
玲は残念そうに席を立った。

玲と圭はその会社から出て、目の前のドトールコーヒーに入った。
「ねぇねぇ、パイロットの人なんかちょっと良かったんじゃない?」
玲は目を輝かせていた。
自分のことを気に入ってもらえたと勘違いしているような気がする。
「そう?わたしは興味ないけどな」
圭は周りの目を気にして女性っぽい話し方をした。
「へえ、あんた、本当に違和感ないわね。とても男に見えないわよ」
「やめてよ。こういうところだからこうしてるだけなんだからね」
「うまいものね。あんた結構素質あるんじゃない?」
「だからこそ3人の男性に愛されたんでしょ?」
「あんた、本当にそっちの道に入ったりしない?大丈夫?」
「大丈夫よ。私が好きなのは異性だけよ」
「本当に大丈夫かなぁ」
玲はそんなことを言いながら携帯を見ていた。
「そんなことよりパイロットの人に連絡していいかな?」
「それじゃ会社の人にそう電話しようか?」
「その必要はないわ。携帯の番号、覚えたから、私から電話してみる」
「そんなことしてもいいわけ?」
「どうせお見合いパーティですら身代わりをたてたんだから、携帯くらいどうでもいいんじゃない?」
「いいのかなあ。どうせ怒られるとすると飯塚玲だからわたしには関係ないか」
「それじゃ善は急げね」
圭の目の前で玲は電話を掛け出した。
「もしもし、内村さんですか?あの、私、先日のお見合いパーティでお会いしました飯塚玲と申します。…あ、はい…今主催会社に内村さんの連絡先を教えていただいてご連絡いたしました。…それで一度お会いできたらと……あ…今からですか?もちろん、いいですよ。今主催会社の近くのドトールにいます。…迎えに来ていただけるんですか?分かりました。待ってます。それじゃ」
玲は嬉しそうに電話を切った。
「はい、それじゃあんたがいると話がややこしくなるからもう帰っていいわよ。もしうまくいったら特別ボーナスを弾むわ。期待して待っててね」
「何よ、それ。期待しないで待ってるから。それじゃね」
圭は席を立った。
お見合いパーティで会った人と違うと言われたらどうするつもりなんだろう?
圭は半ば呆れ、半ば後先を考えない玲の行動力に感心して店を後にした。

圭は駅に向かって歩き出した。
(結局俺は撒き餌かよ)
ひとり歩きながらそんなことを考えていると何となく玲にうまく利用されたように思えてきた。
(かと言ってあんなところでの出会いが運命の相手なんてのもなあ)
そんなことを考えていると、後ろから車が近づいてきた。
そして圭の横で停まった。
(ん?)
車に乗っている人を見ると、あのお見合いパーティで話しかけてきた憲之とかいう医者だった。

「玲さんじゃないですか?こんなところで会うなんて奇遇だなあ。駅まで送りましょうか?」
相変わらず馴れ馴れしく話しかけてきた。
「あ…でも……」
「遠慮しなくていいですよ。さあどうぞ」
圭は少し迷ったが、慣れないハイヒールを履いていることもあり、憲之の車に乗せてもらうことにした。
「あのお見合いパーティでは僕のこと気に入ってもらえなかったみたいですね」
圭が助手席に乗って走り出すと、いきなりお見合いパーティの話になった。
圭はかなり焦った。
「え…あ…でも……」
「でも?」
「今さっきご紹介してもらった人の中には入ってませんでしたけど…」
「ああ、そのことでお見合いの会社に行かれてたんですね。『今日ダメなら後日の連絡は不要』って書いておいたんですよ。正直いけそうな気がしてたんですけどね。結果はNGでしたけど」
憲之は明るく笑った。
圭もつられて笑った。
笑うことで気持ちが緩んだのだろう。
圭のお腹が鳴った。
「そう言えばそろそろ昼時ですね。少し早いですけど、ご一緒に昼食いかがですか?少し行ったところにうまい中華料理を食べさせる店があるんですよ」
圭は憲之と一緒にいる危険性より空腹の前に屈し、憲之の誘いに乗った。
憲之に連れて行かれた店は確かに美味しかった。
あまりガツガツしないように気をつけながら食べていたが、それでも十分堪能した。
(やっぱり医者は儲かるんだなあ。俺が女だったら玉の輿のチャンスなんだろうけど…)
圭はそんなことを考えていた。


圭は自宅から少し離れたマンションの前まで送ってもらった。
「今日はご馳走様でした」
「またご一緒していただけるようでしたらお電話ください」
憲之は圭に電話番号が書かれた紙切れを渡した。
特に断る理由も見あたらず、圭はその紙切れを受け取ることにした。
「はい、ありがとうございます」
「それじゃ」
圭はマンションのエントランスに入り、振り返ると憲之が手を振っていた。
圭が軽く会釈すると、憲之は車を発進させた。
圭は念のため一旦マンションの中に入り、しばらくしてからマンションを出た。
そして家に帰った。

家にはまだ誰も帰ってなかった。
(姉ちゃん、うまいことやってるのかな)
そんなことを考えているうちに眠ってしまった。

気がつくと、玲が帰ってきていた。
何となく怒っている感じだ。
「どうだった?」
「どうもこうもないわよ。『今日の玲さんはあの日の玲さんと印象が違う。申し訳ないが今回の話はなかったことにして欲しい』だって。失礼しちゃうわ。私のどこが圭に負けてるって言うのよ、ねえ」
その性格のせいだろ、と突っ込みたい気持ちを抑えて、圭は「姉ちゃんのほうがずっと綺麗だしな」と相槌を打ってやった。
玲はひとしきり愚痴をこぼすと、すっきりしたのか清々した顔をして自分の部屋に戻っていった。

その日の晩、玲は今日あったことを両親に報告した。
実態は単に愚痴をこぼしていただけだが。
「もうあんたって娘にお見合いパーティは無理だったのかねぇ」
母の由美はそんなことを言って笑っていた。
父の宗は安心したような表情を見せていた。
やはり姉が出て行くことは寂しかったようだ。
これでお見合いパーティの話は終わった…はずだった。

「ねえ、君。この辺に尾上さんって家があるはずなんだけど、知らないかな?」
ある日、圭が自宅から駅に向かって歩いていると、そんな声をかけられた。
声のする方向を見ると、それは憲之だった。
圭は驚いた。
お見合いパーティでの相手が自分だと分かって声をかけてるんだろうか、と。
(今は男の恰好をしてるからばれてる訳はないよな)
そう思うが、それでも圭の心はかなり動揺していた。
しかしそれを憲之に知られないように応対した。
「尾上さんですか。それならここをこう行って…」
動揺する心を抑えながら憲之の差し出す地図を使って道順を説明した。
「意外と複雑な道なんだな」
圭の説明では道順が分かりづらかったようだ。
確かにこの辺りは一方通行が多く、曲がるところを間違えるとすごく遠回りになる場合だってあるのだ。
説明以上に複雑だろう。
「すまないが、助手席に乗って案内してくれれば助かるんだけどな」
圭はこの前ご馳走になったこともあり、何となく断りにくい心理状態になっていた。
(ばれない。絶対にばれない)
そう自分に言い聞かせた。
「いいですよ。迷わずに行けば10分もかかりませんから」
「ありがとう。助かるよ」
圭は助手席に乗ろうとした。
すると助手席に缶コーヒーが3本置かれていた。
「あ、そのコーヒーは適当なところに置いといてもらえばいいから」
圭は3本を手に持ち、まずは助手席に座った。
そして1本を空いている缶ホルダーに入れ、残る2本をフロントコンソールボックスに入れた。
「コーヒーは自由に飲んでくれていいよ」
憲之に聞こえるんじゃないかと思うほど、心臓が早打ちしている。
それを誤魔化すために、また、何も会話しないでいいようにするため、コーヒーを飲むことにした。
「あ、はい。いただきます」
圭は缶ホルダーに入れたコーヒーを再び取り、リングプルを引いてコーヒーを飲んだ。
缶に口をつけたときに少し苦い味がした。
「君はこの辺の人?」
「あ…はい…」
「君と以前どこかで会ったことないかな?」
「え…いえ…別に…」
「何か僕が君を口説いてるみたいだな。君って意外と可愛いタイプみたいだから、女性からもてるだろう?もしかしたら今日の僕みたいに男からも口説かれたことあるんじゃないか?」
「そんなこと…ない……です……けど………」
圭は急に眠気に襲われた。
「おい、君。寝られると道案内してもらえないじゃないか」
「あ…すいません…でも…なんか…すごく眠くなっちゃって…」
圭は静かに眠りに入っていた。
「しっかりしてくれよ、玲ちゃん」という憲之の言葉が最後に聞こえたような気がした。


気がつくとどこかの部屋にいた。
どうやらそれはマンションの一室のようだった。
動こうとしたが手足が縛られているようで身動きが取れなかった。
「やっと気がついたか」
憲之の声がした。
圭は言い返そうとしたが、口に何か詰められていて話すことができなかった。
「何だ?何か言いたいのか?」
動けない圭の前に憲之が顔を出した。
「なぜこんな目に合ってるのか知りたいのか?」
圭は大きく頷いた。
「お前が男だってことはあのパーティで分かってたさ。確かにうまく化けてたが、喉仏までは気が回らなかったようだな。俺は美容外科をやってる。言ってなかったか?とにかく俺はそういうところは自然と目がいくんだよ。男のくせにあんなところに女として出席しているお前に俺は興味を持った。名前を飯塚玲と名乗っているということは飯塚玲という女性は存在するはずだ。あんな会社でもそれなりに確認しているはずだからな」
憲之はそこで一息ついて、なぜか圭の口の詰め物を取ってくれた。
おかげで圭は少し落ち着くことができた。
「なぜ飯塚だってことが分かった?あそこでは苗字はなく名前だけだったはずだろ」
「そんなもの、入り口の受付リストを見れば簡単に分かるさ。詳しい個人情報には敏感でも出席者リスト程度の情報ならスタッフも油断してるからな。フルネームさえ分かっていれば何とかなる。俺はこの前中華料理を食べてから車で送ったときにお前を降ろしたマンションで飯塚という部屋を探した。しかしそれらしき部屋はなかった。調べる範囲を少しずつ広げてみるとマンションから少し離れたところに飯塚という表札のかかった家を見つけた。ご丁寧に家族全員の名前が書かれていて、玲と圭も書かれていた。おそらくこの圭がこの前の玲だと思った。だから今日お前の家の前でお前が出てくるのを待っていたってわけだ」
「それで、俺をどうするつもりだ?」
「どうするって、俺の恋人に育ててやるのさ」
「恋人?何言ってるんだ!変態か、お前は?」
「変態?お前がそう思うならそう思えばいいさ。俺は完全に女に性転換した男が好きなんだよ。女って生き物は感情で生きてやがる。でも男はそうじゃない。男の立場や理屈を理解できる。俺はそんな女が好きなんだ。しかし生まれつきの女にはそんな奴はいない。どんな奴が俺の理想の女になれるかお前には分かるか?」
「い…いや……」
「だから男を女にするんだ。お前は俺の理想的な女になれる素質がある。この俺ならお前をそんな女にしてやれるんだ。つき合いで参加したパーティでお前のような奴に出逢えて幸運だったよ」
そのとき圭は鏡に映った自分の姿を見て驚いた。
「何だ、何を驚いてるんだ?お前に合った姿に変えてやっただけじゃないか?」
鏡に映った圭はあの日のような黒いドレスを着せられていた。
頭にはウィッグが被せられ、顔には綺麗に化粧が施されていた。
「お前を俺の理想の女にしてやるって言ってるだろ?まずは女の嗜みと喜びを教えてやろう。それから女の身体にするってのはどうだ?」
「いやだ」
「お前には選択権はないんだ。恨むんだったら、男のくせにあんな恰好でお見合いパーティに参加した自分を恨むんだな。俺は女だと思ってたのに騙されたと会社とお前を訴えることだってできるんだからな。そうなるとお前はどうなる?世間から変態と責められるだろう。家族だって迫害を受ける。そうなってもいいのか?」
圭は何も言えなかった。
「俺だってお前を脅してまで女にしたいわけじゃないんだ。分かってくれよ、な」
憲之が一転優しい笑みを浮かべて圭の顔を覗き込んだ。
「…分かりました」
そう言うしかなかった。
憲之は満足気に頷いた。
「そうだ。女は素直が一番だ」
そして圭は憲之にキスされた。
圭は強く拒絶しなかったが、唇を強く閉じたままにして抵抗を見せた。

「どうした?唇を閉じたままなんてキスできないぞ。俺を優しく受け入れてくれよ」
憲之は圭の唇を指でなぞった。
背中に虫酸が走るというのがピッタリの感覚だった。
仕方なく圭はうっすらと唇を開いた。
「なかなか素直でいいぞ」
男は再び唇を重ねてきた。
今度は強引に舌で圭の口をこじ開け、圭の口の中に舌を入れてきた。
圭は憲之の舌に応えるように舌を動かした。

シャッター音がした。
どうやらリモコンで写真をとられているらしい。
キスされながら部屋を見ているとビデオカメラが三脚に設置されていることに気づいた。
どうやらビデオでも録られているようだ。

突然尻に違和感を覚えた。
憲之の手がスカートの上から尻をまさぐった。
圭は感じるわけではなかった。
むしろ男から尻を触られることに対する嫌悪感があった。
だから身を捩って、その手から逃れようとした。
「やめろ…よ……」
憲之は圭の言葉を無視してスカートの中に手を入れてきた。
「やめろって……」
「どうせならもう少し色っぽく言ってくれないと」
憲之はキスを中断して、厭らしい笑いを浮かべて言った。
圭はお尻を触られている恥ずかしさといろっぽく話さないといけないことで顔が真っ赤になった。
「や…やめて……」
「おっ、なかなかいいじゃないか」
憲之の手が下着に入ってきて、直接尻を撫で回した。
圭はたまらなくなって、憲之の手を握って止めた。
「あれぇ?こんなことしたら、また手を縛らないといけないみたいだなぁ」
憲之は圭の腕を捻りあげた。
そして後ろ手に縛られ、俯せにされた。
男の手が厭らしく圭の下半身を這いずり回った。
ついにスカートを捲られ、ショーツをずらされた。
「なかなか綺麗な尻をしてるじゃないか」
お尻に冷たいものが塗られた。
「やめろ…頼む…やめてくれ……」
圭は憲之に頼んだ。
「うるさいぞ」
憲之は圭にギャグボールを銜えさせた。
「それじゃどんな具合なのか見てやろう」
何かが尻に入ってくるのを感じた。
憲之の指だった。
「んんんんん(やめろぉぉ)」
うまく言葉にならなかったが、圭は必死に抵抗した。
しかしそれも憲之の前では無力だった。

尻に突っ込まれた指が動いている。
何とも言えない感覚だった。
痛いことは痛い。
気持ち悪くもある。
圭は声もあげることができず耐えた。

しかしあるタイミングで別の感覚を覚えた。
奇妙な快感が湧き上がってきたのだ。
そんな感覚に圭は戸惑っていた。
圭は自分が感じていることを憲之に気づかれないようにしようとした。
しかし無駄だった。

「おや、感じてるのか?立ってきたぞ」
快感とともに圭のペニスが大きくなり、憲之はそんな変化を目敏く見つけたのだ。
憲之は圭の様子をうかがいながら指を動かしていた。

「それじゃ2本にしてみようか」
最初少し痛みがあったが、それも最初のことだった。
すぐに快感に戻った。
圭は尻からもたらされる快感にはまりそうな予感がして恐怖を覚えた。

「指でするのも疲れたし、次はこれを入れてやろう」
憲之はディルドを手にしていた。
それほど長くはない。
「指より太いから痛いかもしれんぞ。力を抜いてろよ」
「んんん………」
指より太い物が入ってきたため新たな痛みがあった。
だがすぐに慣れた。
慣れてしまうと、ディルドの絶え間ない微妙な振動は圭に絶え間ない快感を与えた。
やがて圭はたまらず射精した。
しかし尻に突っ込まれたディルドの動きは止まらなかった。
憲之はそばでニヤニヤしながら見ている。
圭はギャグボールのせいで口が半開きになり、涎が止まらなかった。
目の前は涎でビショビショになっていた。
「すごい涎だな。一度ギャグボールを取ってやろう」
圭の口の拘束は解かれたが、次々と襲ってくる快感のせいで圭は何も言えなかった。

目の前でフラッシュが光った。
憲之が圭の顔を写真に撮っているのだ。
「や…やめろ……」
「いい顔してるぜ。バイブによがる処女ってところか」
文句を言おうにもそんな気力はなかった。
圭は何度か射精したが、ついには出なくなった。
それでもディルドは動いている。
意識朦朧としてきた。
圭は無意識の中で喘いでいた。

「それじゃ今日はこれくらいにしておこう」
圭の尻からディルドが引き抜かれた。
ようやく解放されるという安心感から気を失った。

圭はラブホテルの一室で目を覚ました。
女装したままだった。
部屋には誰もいなかった。
床には紙袋が置いてあった。
そこには圭が着ていた男物の服が入っていた。
圭は急いで元の服に着替えて、家に帰った。
着せられていた女物の服は紙袋に入れて持って帰った。


次の日にすぐデートの誘いのメールが来た。
気が進まなかったが、憲之の手元には昨日の写真やビデオがある。
圭は仕方なく出掛けた。
ただし女装はしなかった。
昨日着せられた服は手元にあったが、そんなものは着たくなかった。
それに今さら玲に頼めないし、そんなことを頼みたくもなかった。

圭は指定されたところで憲之を待った。
すると目の前に車が停まり、憲之が顔を出した。
「おい、何だ、その恰好は?」
「とりあえず車に乗っていいですか?」
「ああ」
憲之は急いで助手席に座った。
「どういうことだ?」
「家でなんて女装できませんから」
「しかしお見合いパーティのときは家から来たんだろう?」
「それは両親が留守だったし、あのときは姉が手伝ってくれたから」
「ということはお前の親はお前の女装趣味は知らないのか?」
「女装趣味なんかじゃない」
「趣味じゃない…。確かにな。お前は女になって俺の妻になるんだから、趣味レベルじゃないな」
「そんなこと無理だ」
圭は憲之に聞こえないくらいの小声で反論した。
そんな話をしているうちにも車はどこかに向かって走っている。

連れて行かれたのは昨日の部屋だった。
昨日はあまり気づかなかったが、3LDKで充分広い。
「今日からこの部屋の鍵をお前に預ける。この部屋で女になってから俺とデートするんだ」
「服は?」
「何着かはここにある」
開けられたクローゼットの中には女性の服が数十着あった。
「この部屋は俺の女のために借りていた部屋なんだ。前の女が残したものだが、昨日の様子だとお前は着ることができそうだからな。とりあえず今日はここから適当な服を着ろ。足りない分は買ってやる」

圭はクローゼットからできるだけ丈の長いスカートを選んだ。
白いブラウスにそのスカートを合わせた。
「なかなか女装センスがいいじゃないか。それじゃ次は化粧だ」
そんなことを言われても化粧なんてできるわけがなかった。
困っていると男が怒鳴った。
「口紅だけでいいから早くしろ。後できっちり練習しとくんだぞ」
圭は急いで口紅を塗った。
「それじゃこのウィッグをつけろ」
男の手にはストレートでロングのウィッグがあった。
圭はもつれないようにきをつけながらそのウィッグを被った。
「ほとんどスッピンでも美人だな」
「……」
「だんまりか。お前がそういうつもりならそれでもいいんだぜ」
「あ…いや…どう言えばいいのか分からなかったんで」
「女は美人と言われりゃありがとうでいいんだよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「それでいい。それじゃ出ようか」
圭は憲之に腕を捕まれて外に出た。

憲之は圭を車に乗せて走り出した。
「ここが私の経営してる病院だ」
ビルの窓に『北澤美容クリニック』と書かれている。
「近いうちにお前を女にしてやるからな」
憲之は本気とも冗談とも言えない顔をしている。
圭は何も言えなかった。
(俺はこれからどうなるんだろう?)
適当に嫌われて憲之から誘われないようにするしかなさそうだ。

憲之はビルの近くの駐車場に車を停めた。
「それじゃ歩こうか」
憲之が車を降りて歩き出した。
圭はそのまま車に留まっていた。
「何してるんだ、早く来い」
圭は腕を捕まれ無理矢理車から引っ張り出された。
「キスしてくれよ」
「無理…だ…」
「何だ、その言い方は?ちゃんと女らしくしろ」
「…そんなこと言ったって……」
「女らしくしないと大声出すぞ。ここにオカマがいるって」
駐車場の前の通りには多くの人が行き来している。
圭はそんな人々の姿を見つめた。
「わ…分かった…わ」
圭は憲之の首に両手を回し唇を重ねた。

その日はそれから街を2時間以上歩かされた。
最初はできるだけ憲之から離れようとしたが、そのうち自然な感じで憲之と歩いていた。
簡単な食事を取り、その日は別れた。

その後も最低でも2日に1回は誘いがあった。
始めのときにやられたようなことは全く強要されなかった。
だからそれほど拒否感を持たずに憲之に会うことができた。
憲之に会うために女装することが当たり前のことになってしまったのだ。
その結果、圭は望むと望まざるにかかわらず女らしく振舞えるようになっていた。
圭は確実に女としてならされていた。


その日も圭は憲之と会っていた。
美味しい物を食べ、新しい服を買ってもらった。
そんな何の変哲もないデートが終わり、着替えるため憲之に与えられた部屋に向かっていた。

そのときお見合いパーティの後にもすれ違った同級生の市ノ瀬優二に会った。
「あ…あのぉ……」
優二は何か言いたそうだった。
無視するのは悪いと思ったが、それ以上にばれるのは嫌だった。
圭は聞こえない振りをして通り過ぎようとした。
「圭…じゃないのか?」
優二のそんな言葉に思わず立ち止まってしまった。
「圭なんだろう?どうしてそんな恰好してるんだ?」
圭は周りに聞かれるのを恐れて優二に向き直り口に指を当てて黙るように頼んだ。
「ああ、そうか。こんなところじゃまずいか。どこか二人で話せるところはないかな」
「近くに部屋があるけど、そこでいい?」
圭は女性の声で言った。
その頃には女性の声が出せるようになっていたのだ。
優二はそんな圭を驚いた表情で見ていた。
そんな優二の驚いた顔が面白かった。
「ああ、もちろん」
圭は優二を女装のために与えられた部屋に優二を案内した。
「何だ、この部屋は?」
「ここで女の子になってるの」
「どうしてそんなことに?」
圭はこれまでの経緯を簡単に優二に説明した。
優二は黙って圭の話を聞いてくれた。
圭はそんな優二の優しさが嬉しかった。

「それにしても圭って綺麗だな」
優二は圭を見て照れたように言った。
「そう?」
圭は優二のそんな言葉が決して嫌じゃなかった。
突然優二が圭を抱きしめた。
その様子がカーテンの閉じていない窓ガラスに映っていた。
一組の男女が抱き締めあっている。
圭は窓ガラスに映る男女が自分たちだという実感がなかった。
しかし確実に優二の体温が圭に伝わってくる。
優二の体温によって、少しずつ窓ガラスに映る女性が自分だという実感が湧いてきた。

優二にキスされた。
不思議なことに圭は何の抵抗もなく優二のキスを受け入れていた。
優二のことを逞しい男性だと思い、自分のことはか弱い女性のように感じていた。
圭は自分自身のことを女性視していたのだった。

優二のペニスが硬くなっていることに気づいた。
自分に興奮してくれていることを知り嬉しかった。
圭は優二のペニスをアナルに迎え入れた。
アナルに入れられたのは憲之にディルドを入れられて以来だった。
痛みはなかった。
圭は優二のペニスそのものに、そしてペニスの動きに感じた。
圭は幸せだった。
優二に突かれることで幸福感は増幅された。
優二が圭の中で弾けると圭は女性としての喜びに達した。


圭は優二の腕枕に抱かれていた。
「それにしてもどうしてわたしだと分かったの?普通はなかなか分かんないと思うんだけど」
圭はあえて女性の声で女らしく話した。
優二の前では女性でいたかったのだ。
圭の言葉に優二が口を噤んだ。
「そう言えばこの前に会ったときにも何か言いたそうだったわね。もしかしてあのときにすでに気づいていたの?」
「……ああ…」
「どうして?」
「俺……実は…ホモなんだ。それで…高校のときからお前のことが……」
「好きだったの?」
「ああ…」
「そうなの…。優二くんがそんな趣味だったなんて知らなかったわ。でもそのおかげでこうして結ばれたのね」
圭と優二は強く抱き合った。
「わたしの初めてをもらってくれてありがとう」
「圭…初めてだったのか?」
「うん」
圭はさらに強い力で抱き締められた。
圭も優二も最高に幸せだった。


その日から優二との関係が始まった。
憲之と会う前後に、憲之の目を盗んでデートした。
最初は憲之から与えられたマンションで抱き合っていただけだった。
しかしそのうち堂々と外で会うようになった。
優二の家にも遊びに行った。
優二の母親や兄貴は男の圭を知っているのでばれるか少し不安だったが、そんなスリルも楽しんでいた。
「優二がこんなきれいなお嬢さんを連れてくるようになるなんてねぇ」
優二の母親には圭であることはばれずに好印象で受け入れられたようだった。
優二の兄・秀一には冷やかされた。
圭の女っぷりはさらに磨きがかかっていた。


その日はひどい雨が降っていた。
憲之とのデートのためマンションで女性の服を着終わって、いよいよ出掛けようとしていたときだった。
憲之から電話がかかってきた。
「もしもし」
『もしもし玲か?俺だ。今日のデートだがちょっとヤボ用ができたのでキャンセルしてくれ』
「せっかく着替えたのに……」
『何だったら服でも買いに行ってくればいい』
「でもこんな雨だし」
『とにかく今日は中止だ。また電話する』
それだけ言って電話は切れた。

圭は急いで優二に電話した。
「今日あいつとのデートがなくなったの。できるだけ早くいつものマンションに来て」
30分ほどすると優二がやってきた。
「圭、どこに行こうか?」
「こんな雨だし、この部屋で愛し合いましょうよ」

そして圭と優二はお互いの身体を求めあった。
優二は圭の全身に舌を這わせた。
くすぐったいような快感を感じながら、いつものようにアナルに優二のペニスを迎え入れた。
優二が自分の性をぶつけるように圭を攻め立てた。
圭は優二のペニスに感じていた。
そんなとき部屋のドアの鍵を開ける音がした。
優二は気がつかないようだ。
圭は感じて喘ぎながらもドアのほうを見た。
入ってきたのは憲之だった。
「あっ!」
圭は慌てて腰をひこうとした。
そのとき優二が射精した。
圭も頂点に達して身体を震わせた。

「お前、俺の女に何してんだ」
憲之は優二を殴り飛ばした。
優二はセックスが終わったばかりで抵抗する気力がなかった。
全裸で無抵抗の優二に憲之は殴る蹴るの暴行を加えた。

「二度と浮気できないようにしてやる」
圭も憲之に殴られ、二人とも気を失った。


気がつくと憲之の姿も優二の姿もなかった。
ひどく身体が重かった。
圭は着替えて家に戻った。


その日から優二からの連絡が途絶えた。
圭が電話しても電話番号は使用されていない案内が流れるだけだった。
圭はそれも仕方がないことだと思った。
これ以上彼をこんな状況に引き止めることはできない、と。

圭はあの日以来女性ホルモンを注射された。
優二との関係がばれた時にひどく身体が重かったのは初めて女性ホルモンを打たれたせいだったのだ。
1〜2週間に1度注射された。
そのときはもう憲之から逃げる気持ちはなくなっていた。
少しでも綺麗になりたい。
そんな気持ちさえ芽生えていたのだ。

1ヶ月ほどすると肌質が変わってきた。
化粧ののりが良くなってきたのだ。
化粧が決まるとやはり嬉しい。
圭は女性ホルモンの影響をプラスととらえるようになっていた。

さらに乳首の辺りにしこりのようなものができてきた。
日が経つにつれそれが少しずつ大きくなり、わずかだが胸に膨らみと呼べるものができてきた。
まだAカップにも満たないとは言え、わずかでもブラジャーのカップに入るものができたことが幸せだった。
圭はこのまま女になるのも悪くないかなと思い始めていた。



それから3ヶ月以上経った。
その間にかなりの量の女性ホルモンを打たれた。
そしてその打たれた女性ホルモンは圭の身体に少なくない影響を与えていた。
髭はほとんど生えなくなった。
髪質が柔らかくなった。
脛毛は薄くなった。
皮下脂肪がつき、全体的に丸みのある身体になった。
一番目立った変化は、胸がAカップくらいまで育ったことだった。
それでも地声はほとんど変化がなかった。

そんなある日、圭は憲之に連れられてクラブに行った。
どうしてこんなところに来るんだろう。
クラブなんて今まで来たことはない。
圭は不思議に感じていた。
一方では何かあるような予感もしていた。

憲之はその店の常連のようだった。
「あら先生、いらっしゃい。女の子を連れてお店に来るなんて珍しいわね」
「こういう店で女性の嗜みをこの娘に教えてもらおうと思ってね」
「そんなこと言って、こちらの女性の怒りを買うことになっても知りませんからね」
「ははは、こいつはそんな度量の小さい女じゃないさ、なあ」
憲之は圭に同意を求めるように顔を見た。
圭は答える言葉が見つからずあいまいに笑顔を返すだけだった。
「ほら先生、お嬢さんが困ってらっしゃるじゃありませんか」
「あまりこんなところに来たことがないから緊張してるのかもしれんな。それじゃ、ママ、優子を頼む」
「優子ちゃん、北澤先生がいらしたわよ」
『優子ちゃん』と呼ばれた女が近づいてきた。
白いドレスを来た長身の女性だった。
「いらっしゃいませ」
圭は何気なく声の来たほうを見た。
圭は声を失くした。
それは優二だった。
優二も驚いた顔で圭を見ていた。
「どうだ、美人だろ?玲といい勝負だな」
優二は圭を無視した。
圭がその場にいないように憲之の相手をした。
圭は一人寂しくそこに座っていた。


その店から出るときに優二から紙切れを渡された。
それはいつものマンションで会いたいと書かれていた。

圭がマンションで待っているとタンクトップにジーンズのミニを穿いた優二がやってきた。
「どうしてこんなことに…」
「あのときあいつに殴られて気絶しただろ?」
口調は以前の優二と同じだが、声帯をいじっているせいか可愛い女の声だった。
「手術台のようなところに寝かされたときに一瞬気がついたんだが、結局気がついたのは身体をいじられたあとだったんだ。手術の傷が癒えたら借金を返すためとか言ってあそこの店に連れて行かれたんだ」
「もう戻せないの?」
「もう無理だよ。形だけのペニスを作っても何の役にも立たないしね。それに俺って美人だろょ?結構もてるんだよ」
優二は笑っていた。
しかし、その頬には涙が流れていた。

「優二…」
圭の呟きに優二は反応した。
圭の胸に飛び込んできたのだ。
圭は優二を抱きしめた。
しかし体格は優二のほうが10センチ程度高い。
そのため、優二のほうが圭を抱きしめたような形になった。
「優二…ごめんな…」
圭は言葉を続けることができなかった。
優二の唇が圭の言葉を遮ったのだ。
舌と舌を絡め合いながら二人はベッドに倒れこんだ。

服を着たままだと女同士が抱き合ったように見える。
女同士が抱き合い、優二が圭の身体をまさぐっていた。
女の身体になった優二が男の身体のままの圭をリードした。
圭は優二の愛撫に感じていた。
特に思春期の少女のような胸を舐められると恥ずかしいくらいの声をあげて感じた。
それでも圭のペニスは女性ホルモンの影響からか全く大きくならなかった。
「大きくならないわね」
優二が圭のペニスを手に取った。
「私のフェラで大きくしてあげるわ」
優二が圭のペニスを銜えて、ゆっくり時間をかけて舌と唇で刺激を与えた。
そのおかげでわずかだが圭のペニスに変化が見られた。
そして女性ホルモンを打たれる前ほどではないが、それなりに大きく硬くなった。

優二は銜えていたペニスを放した。
「来て」
優二が仰向けに寝て、圭を誘った。
圭は優二の脚の間に入り、それほど硬くなっていないペニスを股間に当てた。
「ここよ」
優二の手で圭のペニスは優二の中に導かれた。
圭はゆっくりと腰を突き出した。
「ん…んんん……」
圭のペニスが優二の中に入った。
「この前と立場が違っちゃったね」
圭の下で優二が笑っている。
その笑顔を見ると優二が愛おしく思えた。
「優二……」
「今は女よ。優子って呼んで」
「優子…」
「圭、私、綺麗?」
「うん、綺麗だ」
「ありがとう。圭、思い切り突いて」
圭は優二の言葉に後押しされるように懸命に腰を振った。
優二の女性器からクチュクチュと音がした。
優二は圭に突かれて喘いでいる。
しかし圭はなかなかいけそうにない。
長い時間圭は腰を振った。
ついに圭のペニスからわずかだが精液が出た。
急速にペニスが萎んだ。
圭は優二から離れようとした。
しかしそれを優二が制した。
「このままでいて」
優二が圭を強く抱き締めた。
「本物の女と比べてどうだった?」
優二が囁くように圭に聞いた。
「…ごめん。俺、そういうの分かんないんだ」
「へぇ、意外と奥手なのね」
「い…いや、そのぉ……初めて…なんだ」
「もしかして私が初めてだったりして?」
「ああ」
「嬉しい」
優二がさらに強く圭を抱き締めた。

「もう一回やれる?」
優二が圭のペニスを銜えて刺激を与えた。
わずかに硬くなると、圭の腰に跨り自分の中に迎え入れた。
優二が圭の上で腰を上下させ始めた。


憲之が部屋に入ってきた。
圭も優二もセックスに夢中でそのことに気がつかなかった。
憲之は優二の背後から近づいた。
「は…は…は…は…は…は……」
「ん…ん…ん…ん…ん…ん……」
二人のリズミカルな声だけが部屋に響いていた。
憲之は何も言わずいきなり優二の背中を蹴った。
蹴られた優二の身体は圭から離れて飛んでいった。
しかしそのとき圭のペニスに痛みが走った。
圭は股間を押さえた。
「まさか女性ホルモンをこれほど打っても男として機能するとはな」
憲之はペニスを押さえて痛がっている圭を見た。
「もしかしたら陰茎折症か。悪いことしたな。しかしもう二度とこんな悪さをしないようにするにはいいきっかけかもしれんな」

憲之は優二に向かって叫んだ。
「優子、もう二度と玲には近づくな。今度近づいたらお前を二度とは見れない醜い顔にしてやるからな」
優子は慌てて身支度を整えて逃げるように出て行った。

「さてそれじゃ次は玲の番だ。まずはこの服を着ろ」
圭はお嬢様風の清楚なワンピースを着せられた。
その間もペニスが痛みがあった。
「さあ、一緒に来い」
圭はペニスの痛みに耐えながら憲之の車に乗り込んだ。
(どこに行くんだろう?それより早くこの痛みを何とかして欲しい)
そんなことを考えていると、車が停まった。
「降りろ」
そこは圭の家だった。
「どうして?」
「いいから降りるんだ」
圭は憲之の迫力に怯えて車を降りた。
状況を把握できず、軽いパニックに陥っていた。
おかげでペニスの痛みは少しの間忘れることができた。

憲之がインターホンを押した。
「はーい」
家の中から母の声がした。
そして玄関の扉が開いて、母が出てきた。
「あのぉ、どちら様?」
母は憲之と圭を見ながら尋ねた。
「私、北澤と言います。お嬢さんとの結婚の許可をいただきたくて来ました」
「お嬢さんって誰のことを言ってるんですか?」
母が後方を振り返って玲の姿を見た。
そして憲之の隣に立っている圭を見た。
母の表情が何か恐ろしいものを見るかのように変化した。
気づいたようだ。
「あ…あなたは…圭……圭……なの?」
圭は静かに頷いた。
「圭、どうしてそんな恰好を…」
母の言葉を聞いて玲が外に出てきた。
「圭、あんた、何してるか自分で分かってんの?」
玲の叫びにも似たそんな声を聞いて、家にいた父も玄関から顔を出した。
「どうしたんだ?」
「あ…あなた…、圭が……」
母はそれ以上言葉を継げなかった。
それでも父には状況が分かったようだ。
「お前は圭なのか?」
圭は父の顔を見ることはできなかった。
「お前は圭なのかと聞いてるんだ!」
圭は父の顔を見ずに頷いた。
「いつからだ?いつからそんなふうになってしまったんだ?」
圭は何も言えなかった。
そんな圭に父は怒りを爆発させた。
「お前なんか俺の子供じゃない。出て行け」
そんな父に憲之が言った。
「それじゃ私がお嬢さんと結婚してもよろしいんですね?」
「そんな奴は俺と何の関係もない。結婚したけりゃ勝手に結婚すればいい」
父は吐き捨てるように言った。
そんな父に母が意味不明のことを叫んでいる。
「とにかくお許しをいただいたということで、今日は帰ります」
憲之は圭の腕を掴んで車に押し込んだ。
母が何か叫んでいた。
憲之は黙って車を走らせた。

憲之が車を走らせるとすぐに玲から電話があった。
「もしもし」
『圭、あんた、何やってるか分かってんの?』
「うん…」
『そんな馬鹿やってないで帰っておいでよ』
「でも…」
圭はちらっと憲之のほうを見た。
憲之は何も言わず真っ直ぐ前を見て車を走らせていた。
あまり憲之の機嫌を損なうようなことを言うのは得策でない気がした。
だから圭はお見合いパーティで出逢ってお互い愛し合っていると嘘を言った。
『圭、あんた、私に無理矢理女装させられただけで、全然そんな気はなかったじゃない。もしかしたら何かで脅されてるとかじゃない?』
「そ…そんなことないよ…」
『どっちにしたって私が無理矢理あんなことを頼んだことが原因なんでしょ?なら私が何とかしないとね。私が相手の男と話をつけてやるわ』
「いいよ、姉ちゃん」
圭は優二が性転換されたことが頭をよぎった。
玲まで巻き込んではいけない。
玲まで何かあれば生きていけない。
そう考えたのだ。
『とにかく私が文句言ってやるから』
これ以上話していると玲を本当に巻き込んでしまうような気がした。
「もうほっといてくれよ」
そう叫んで電話を切った。
しかしすぐに電話が鳴った。
玲からだった。
圭は電話に出ず、携帯の電源を切った。
「どうした?お姉さんからの電話なんだろ?二人っきりの姉妹なんだから大事にしないとな」
憲之は『姉妹』を強調するように話した。
「もういいんです」
圭は小さな声で答えた。

車は憲之の病院に着いた。
「とりあえず玲の股間の痛みを何とかしてやらないとな」
憲之のそんな言葉に圭は股間の痛みを思い出した。
玲や両親とのことが気になって、痛みすら忘れていたのだ。
「ちょっとここに寝て」
圭は言われるままに横になった。
憲之はワンピースをまくり上げ、ショーツを下ろした。
「やっぱり陰茎折症のようだな。腰椎麻酔でいいだろう。ちょっとチクッとするが我慢してろよ」
背中の腰辺りに針が刺さったような痛みがあった。
しばらくすると下半身の感覚がなくなった。
「どうだ?痛いか?」
お尻をつねったりしているのかもしれないが、圭には何も感じなかった。
「どうやら麻酔が効いてきたみたいだな。それじゃ始めようか」
股間の辺りにカチャカチャ金属があたっているような音がする。
おそらく手術道具の音なのだろう。
ときどきペニスがひっぱられたような感覚を覚えるが、痛みは全くなかった。
「よしこれで大丈夫だ。今日は念のため入院しておけ」
圭は点滴を打たれた状態で病室に運ばれた。

次の日になっても、痛みはほとんど感じなかった。
それでも下半身に若干の違和感を覚えた。
圭はペニスの状態を確かめるために手で触ってみた。
包帯を巻かれているようだが、変に曲がったりはしていないみたいだ。
(よかった、おちんちん、大丈夫みたいだ)
ペニスには何か管のようなものがついていた。
どうやら尿道に管が通され尿がベッドの下に置かれた入れ物に溜まっているようだった。

ふと何気なく袋も触ってみた。
感覚が違った。
もう一度確かめるように触ってみた。
陰嚢の中にあるはずのものがなかった。
「ない!ない!ない!ない!ない!」
圭が起き上がって騒いでいると、そこへ憲之が入ってきた。
「何、騒いでるんだ?痛みがあるのか?」
「金玉をどうしたんだ?」
圭は憲之を睨みつけた。
「何だ、そんなことか。お前は俺の妻になるんだろ?もうすぐ女の身体になるんだからそんなものなくなったって別にいいだろ」
確かに圭は玲を巻き込みたくなかったし、自分が女になることも仕方がないと思っていた。
しかし現実に自分の大切なものがなくなると強い拒絶感が湧き上がってきた。
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!」
圭は周りのことを気にすることもなく叫んだ。
「男のモノを入れられてよがってるお前に相応しい身体にしてやるんだ。感謝されこそすれ、拒絶されるなんて思いもよらなかったな」
憲之の言葉に圭は固まった。
これまで憲之にはいつも性具で責められただけで、抱かれたことはなかった。
圭の相手は優二だけだった。
圭はふとある考えが頭に浮かんだ。
「まさか優二もグルだったのか?」
「なるほど、そういう考え方もあるんだ。それじゃ俺は仲間を女にしちまったことになるな」
「それじゃどうして?……ぁ…あの部屋には監視カメラがついていたのか?」
「ようやく気がついたのか?俺があの部屋で起こっていることを何も知らないとでも思っていたのか?計画では俺が教育してやるつもりだったが、お前と優二が仲良くやってるんで俺は遠慮したんだ。本音を言うとあまり男のケツに入れるのは好きでないんでね。お前と優子の今までの情事は全てDVDに録画してあるぞ。欲しいんだったらダビングしてやろうか」
圭は憲之を睨んだ。
「そんな怖い顔するなよ。そのうち俺が完全な女にしてやるからな。ただ今はまだそのタイミングでないのでな」
タイミングでない?
どういう意味なんだろう?
昨日一気にやってしまえたのにあえてやらなかったのはそういうことなのか?
圭は憲之の言っている意味が理解できなかった。
しかし親にも見限られ、男性として不完全な状態になった今、圭の運命は憲之に委ねられている。
諦めにも似た気持ちが圭の心を占めていた。
圭は憲之から逃げ出そうという気持ちは全く湧いてこなかった。
でも死ぬなんて発想は浮かばなかった。
どんな姿になっても生きていたかった。


それから3日ほどしたときのことだった。
憲之が息を切らして圭の部屋にやってきた。
「今から手術するぞ」
あまりにも唐突だった。
それでも手際よく手術の準備を進めた。
圭は全身麻酔され、性転換手術を施された。

それからしばらくは下半身の激しい痛みで死ぬ思いだった。
あまり痛み止めはしないほうがいいとのことで耐えるしかなかった。
3日ほどで痛みが軽くなった。



手術から一週間ほどすると自分でトイレに行くように言われた。
トイレでペニスのなくなった股間を確かめると涙が出た。
本当に女になってしまった。
覚悟したはずなのにやはり実際なくなるのはショックだった。
胸もわずかだが大きくなったような気がした。
入院の間ずっと女性ホルモンを打たれていたのかもしれない。
プロポーションはよくなったのかもしれない。
しかし圭にとっては何の喜びにもつながらなかった。

「それじゃ退院していいぞ」
女性器の腫れが治まり、ほとんど痛みも感じなくなったころに憲之が言った。
「退院?」
退院してどこに行けというのだ。
女にされて放り出されるのか?
恐怖を覚えた。
「退院してどこに行けばいいの?」
「何言ってるんだ、お前は今日から北澤玲になるんだ。俺の妻として生きていってもらう」
そんな憲之の言葉になぜかホッとした。
女になっても生きていくことはできるのだ。

「退院にはこの服を着ろ」
憲之が準備したのはやはりワンピースだった。
憲之はかなりのワンピース好きのようだ。
しかも膝上20センチの超ミニのものだった。
「玲は脚が綺麗だから、それを活かさないとな」
憲之はいやらしく笑った。

圭は憲之の見ている前で入院着からそのワンピースに着替えた。
「素晴らしいプロポーションだ。とても元男には見えないな」
憲之のいやらしい視線がなぜかそれほどいやだと思わなかった。
むしろ見られることに気持ちが踊るような気がした。
(いったいどうしたのかしら?)

圭は服を着ると、病室についている鏡に向かって化粧した。
長い女装生活のせいもあり、化粧はもう手慣れたものだった。
10分ほどで簡単な化粧を終えた。
髪にブラシをあてた。
髪の長さはすでに肩にかかるくらいになっていた。
ブラッシングしていると、髪が傷んでいることが少し気になった。

「女の身体になったせいか玲は一段と綺麗になったな」
憲之は圭のお尻に手をあて、病室を出るように促した。
「あ、まだ荷物が…」
まだ病室には入院中の小物がそのままになっていた。
「お前のものは家にすでに用意してある。ここにある物は全部捨ててしまおう」
そう言って圭は憲之にエスコートされる形で病院を後にした。
「どこに行くの?」
「私の家だ」
「その前に髪の毛をセットしたいんだけど」
圭はさっきから自分の髪の毛が気になっていたのだ。
「玲もすっかり女だな。とりあえずマンションに戻る。すぐ近くに美容院があるから、そこに行けばいい」
「分かったわ」
病院から20分ほど走ったところにマンションはあった。
マンションから見えるところに「ブロウ」と書かれた美容院があった。
「あそこでいいだろう。終われば部屋に戻ってこい。部屋は3201。これが鍵だ」
憲之は圭に白いポーチを投げた。
「これは?」
圭が憲之に聞いた。
「鍵と当座の生活費を入れてある。お金がなきゃ困るだろう」
「ありがとう」
圭は口先だけの礼を言った。


圭はひとり美容院に行った。
「いらっしゃいませ」
店は年配の店長らしい女と若い女性2人がいた。
近づいてきたのは店長らしい女だった。
「ご予約は?」
「ごめんなさい。予約は入れてないの。今日越してきたばかりなんだけど、髪の傷みが気になって」
「そうなんですか、それじゃこちらのカードにお名前とご住所、お電話番号をご記入いただけますか」
圭はカードを受け取った。
名前の欄に無意識に『飯塚』と書いてしまった。
「ごめんなさい、書き間違えたんだけど」
「二本線で消していただければいいですよ」
今度は落ち着いて『北澤玲』と書いた。
自分の本名でない名前を書いたため、圭は自分ではなくなったように感じた。
そんな考えは表に出さず、続いて携帯番号を書いた。
「ごめんなさい、まだ住所が分からなくて。あそこのマンションなんですけど」
「ああ、プライムオークですね、お部屋番号はお分かりになりますか?」
「3201です」
店長らしい女はカードに『プライムオーク3201』と書いた。
「それじゃ紀美子ちゃん、お願いね」

圭は椅子をこちらに向けて待っている女性のところに近づいた。
「今日はどのようにいたしましょうか?」
「任せるわ」
細かい注文なんて分からない。
圭はそう言うしかなかった。
紀美子は雑誌のようなものをパラパラとめくると、あるところを開いて圭に見せた。
「こんな感じはいかがでしょう?」
「いいわね、これでお願いするわ」
「少し髪が傷んでおられるようですので、トリートメントもいたしましょうか。あとカラーリングもよろしいですか?」
圭は少し面倒になってきた。
「あなたはセンス良さそうだから、お任せするわ」
紀美子は嬉しそうな顔をして、手際良くシャンプーを始めた。
「お客さんってもしかして新婚さんなんですか?」
「えっ?どうして?」
「だってお名前を間違えられたし、住所もお分かりにならなかったでしょ?結婚して初めて彼のマンションに来たって感じなのかなって思って」
「鋭いわね、さすが客商売ね」
紀美子はまた嬉しそうな顔をした。
本当に楽しそうな女性だ。
そして紀美子は自分の結婚観を話し出した。
圭は適当に相槌を打って紀美子に話の主導権を与え続けた。
圭は自分が話さなくてもよくなったことで、鏡に映る自分の顔を見ることに集中できた。
鏡の自分は確実に美しくなっていった。
自分が美しくなっていく姿を見るのがこれほどワクワクするものだと知らなかった。
圭は女になれたことがよかったような気がしてきた。

「これでいかがですか?」
圭は満足気に鏡を見ていた。
見惚れていたと言ってもいいくらいだった。
そんな圭を見て、傍で紀美子がやはり満足気に頷いていた。
「ありがとう。紀美子さんっておっしゃったわね。これからもお願いするわ」
「はい、ありがとうございます」
圭は支払いを済ませ、店を出た。
足取りは軽かった。
女は綺麗になれると嬉しいものなのだ。
圭は身も心も女になっていた。


エレベータで32階まで上がった。
32階はこのマンションの最上階だった。
しかも北澤の部屋一戸があるだけだった。

「すごい…」
部屋に入った圭は声を失った。
それはマンションとは思えない広さだったことと、高層マンションならではの素晴らしい眺望だったためだ。
「お、なかなか綺麗になったな」
憲之は圭を見て言った。
「ありがとう」
単なるお世辞なのかもしれない。
しかし圭には憲之の言葉が嬉しかった。
圭は憲之にはにかんだ笑顔を見せた。


圭はその日から憲之の身の回りの世話をするようになった。
妻としての務めを果たしていると言ったところだが、圭には単なる家政婦のようにしか扱われていないように感じていた。
それは一緒に生活するようになっても憲之と過ごす時間が少なかったせいかもしれない。

それでも憲之の身の回りの世話をすることは苦ではなかった。
女として、妻として振舞うことは嬉しく感じていた。
今の圭にとって自分が美しいと思えることが圭は何よりも大切なことだった。

別に男に愛されることを求めてるわけではなかった。
手術から間もないため抱かれないのだろうが、圭自身抱かれることは望んでなかった。
できればずっと避けていたかった。

しかしそんな思いは叶わなかった。


手術をしてからちょうど1カ月後に憲之が迫ってきた。
「そろそろいいだろう」
「いいって何が?」
圭はこうなることをずっと避けていたため、憲之が何を言っているのかはすぐに分かった。
それでもしらばくれた。
「今日が俺たちの初夜になるんだ」
「え…でも…まだ心の準備が……」
「何言ってんだ。夫婦になってだいぶ時間が経ってるだろう」

憲之とのセックスはあまりいいイメージがなかったが、その夜の憲之は優しかった。
甘いキス、優しい愛撫。
手がショーツに忍び込んできたとき圭は身体を緊張させた。
それでも憲之の好きに任せた。
指が割れ目にそって動いているのを感じた。
「あれ?濡れてないなぁ」
憲之の手が何度か割れ目にそって動いた。
「まだそれほど時間が経ってないせいかもな。そのうち濡れるようになるさ」
憲之はベッドのわきに置いてあったゼリーを圭の股間に塗った。
「それじゃ玲の処女をいただこう」
憲之のペニスが入ってきた。
「ううう……痛い……」
圭は痛みに顔を歪めた。
「そうか、痛いか?何てったって処女だからな、そのうち気持ち良くなるさ」
憲之はそれなりに圭に気を使って、それほど激しくならないように圭を突いた。
それでも痛みはひかなかった。
憲之は圭にかまわず射精まで抽送を続けた。

その日から毎晩憲之に抱かれた。
少しずつだが確実に、痛いだけのセックスから感じるセックスになっていった。
そうなると性的な快感によって湿り気を帯びるようになった。
しかしそれを憲之に知られたくなかった。
圭は抱かれる前に自らゼリーを塗るようにしていた。
しかしそれもやがて知られるときが来てしまうのだった。


その日はなぜか一日身体が重かった。
そのせいもあって夜ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。
憲之が圭のベッドに潜り込んできたことにも気がつかないほどだった。

圭は胸を揉まれる感触で、意識が少しずつ戻ってきた。
憲之がネグリジェに手を入れて胸を揉んでいたのだ。
「あ…あなた…今日は疲れてるからやめて…」
圭はすでに股間が湿っていることにすぐに気がついた。

このままだと気づかれてしまう。
圭は背を向けようとしたが、すでに遅かった。
「玲は何もしなくていいから」
そう言って憲之は半ば強引に手をショーツの中に入れてきた。
「おやっ、玲、濡れてるじゃないか」
「……」
圭は顔が真っ赤になっているのを感じた。

「やっと濡れるようになったか」
憲之は圭のショーツを下げ、ゆっくりと圭の女性器に顔を近づけた。
「ものすごく濡れてるぞ。これで玲も一人前の女に近づいたわけだな」
「いや…恥ずかしいから見ないで……」
圭は股間に感じる憲之の鼻息を感じた。
「あああ…」
股間が舐められた。
憲之が圭の両脚を力ずくで広げた。
羞恥がさらに大きくなった。
「やめて…お願い……」
憲之はわざと大きな音を立てて圭の女性器を舐めた。
羞恥と快感で気も狂わんばかりだった。
口では「やめて」と言いながら圭は快感の波に飲み込まれていた。
心ではさらに強い快感を求めていた。

急に憲之の舌が離れた。
「玲の愛液の具合はどうかな?」
そんなことを呟きながら憲之はペニスを圭の膣口に当て一気に押し込んだ。
「うっ」
勢いよく入れられたため反射的に呻いたが、痛みは全くなかった。
憲之はゆっくりしたリズムで圭を突いた。
「もう少しだ。もう少しで玲は完全な女になるんだ」
憲之は圭を貫きながら、そんなことを呟いていた。
(完全な女ってどういうこと?)
憲之の腰の動きが速くなった。
(ぁぁ……何、これ?…何か…違う……いくぅぅぅぅ………)
圭は何も考えられなくなった。
憲之が圭の中で弾けたときと同時に圭は激しく痙攣して意識を失った。

「玲…大丈夫か?」
圭の目の前に憲之の顔があった。
「気がついたか。驚いたぞ、痙攣して意識がなくなるんだから。どうやらイっただけみたいだな」
「イったの、わたし?」
「ああ、女としてイけるようになったみたいだな」
圭はこれが完全な女だと思った。
「わたし、本当に女になったのね」
圭のそんな言葉に憲之は優しく頭を撫でてくれた。
圭は安心し切って憲之の腕に抱きついて眠りについた。


次の日から毎晩イけるようになった。
感じていることを隠さず表現することで際限ない性的快感を得ることができたのだ。
性的な快感を得られるようになったためか、憲之に対しても愛情を感じるようになった。
圭はようやく幸せを手に入れることができたと感じていた。

しかし、そんな幸せは続かなかった。

圭が憲之の妻になって半年ほどが過ぎたころだった。
憲之が殺されてしまったのだ。

どうやら憲之は嫌がる男を性転換することに喜びを見出す性癖があったようだ。
年に数人程度、そういう手術をしていたらしい。
ある意味、優二や圭もその犠牲者だったのかもしれない。
さらに優二や圭以外にも何人もの男が憲之によって女にされたのということだ。

憲之には潜在的に女になりたいと思っている者を見抜く才能があったらしい。
そのため、憲之が無断で男を女に性転換してもそれほど大事にはならなかった。
一時的にはショックを感じても、女になったことを受け入れると、無料で完全な性転換をしてもらったことに感謝すらする者がいるほどだった。
今回憲之を刺した少年は性転換しようと憲之が狙いをつけた少年だった。
その少年は女性になりたい欲求と同時に、男が女になるなんて許されることではないという考えも同時に持っていたのだ。
憲之の目的を何となく感じ取り、何かあれば抵抗できるようナイフを常に忍ばせていたらしい。
いよいよ麻酔されそうになったときに、ナイフを振り回しそれが憲之の頚動脈を傷つけることになったのだ。



圭には憲之の少なくない遺産が残った。
そのときになって初めて圭は戸籍上でも『玲』という名前になっていることを知った。
飯塚圭は死んだことになっていた。
(どういうこと?)
圭は訳が分からなかった。
玲というのはニックネームのようなものだと思っていた。
戸籍では圭のままで養子にでもなっていたのだと思っていた。
それが玲として憲之の妻になっていたとは。
全く理解できなかった。

いずれにせよ圭はひとりぼっちになった。
ひとりぼっちになった圭は自分の帰るべきところに帰ることにした。
実家に戻ることにしたのだ。
もしかすると真実を知ることができるかもしれない。
実家に向かいながら、何度引っ返そうと思ったかしれなかった。
それでも今行かなかったら二度と実家には戻れないと感じた。
だから自分の心に鞭打って実家へ歩を進めた。

実家の前まで来た。
インターホンを押そうとする指が震えた。
それでも目を固くつぶってインターホンを押した。

しばらくして、出てきたのは年老いた母だった。
あれからそれほどの時間が経っているわけではない。
しかし目の前の母は以前にも増して年を取っていた。
「はい、どちら様ですか?」
母の由美はゆっくりと玄関にやってきた。
「…あ…あのぉ……」
圭は何て切り出せばいいのか分からなかった。
言葉を発すると涙がこぼれそうな気がした。

言い淀んでいると由美のほうから言葉を発した。
「圭…なの?」
最後に会ったときに女装をしていたとは言え、何も言わずに分かるとはさすが母親というべきだろうか。
「うん…」
圭はやっと頷いた。
「本当に圭なの?」
「うん、そう」
「そうなの。でも…」
(でもってどういう意味なのかしら?)
圭がそんな疑問を感じていると、由美が圭を手招きした。
「ちょっと来て」
由美は圭を家に入れ、そのままある部屋に連れて行った。
そこには圭の写真が祭られた仏壇があった。

「これはどういうこと?」
「ちょっと前あんたがあの男と出て行ったでしょ?」
圭が質問を言い終わらないうちに由美が説明を始めた。
圭は黙って聞くことにした。
「玲は自分のせいだって言うの。理由を聞いてもちゃんと教えてくれなかったけど。何日かしたら玲があんたを連れ戻してくると言って出て行ったの。結局玲もそれから戻ってこなかった。それからあんたも玲も行方が分からなくなってしまって…。あんたたちがいなくなって2週間ほど経ったときに警察から電話があったの。『飛び降り自殺を図って病院に搬送されたがすぐに息を引き取った遺体がある。どうもお宅のお子さんみたいだから確認に来て欲しい』って。飛び降りたときに怪我したせいかかなりの傷があったけど、確かに圭だった」
「…そう……」
「でもあんたがこうして生きてるんだったら、あのときの遺体はきっと玲だったんだろうね。何だかんだ言ったってあんたたちは双子だから、ちょっとした表情のときはよく似てたもんね」
それにしても男と女を間違えることはないだろう。
圭は話のウラを考えてみた。

おそらく玲は圭を取り戻すために憲之のところにやってきたのだろう。
だが玲は憲之に殺されてしまう。
そして玲を圭として葬るために性転換した圭の男性器を玲に移植したのだろう。
もしかしたら顔も整形して圭に似させたのかもしれない。
そしてその玲を圭として自殺に見せかけて殺したのだ。
それで圭に玲の戸籍を使わせることができたのだろう。

圭は細部は違っているかもしれないが大筋は正しいような気がした。

「母さん、実はわたし、姉さんの名前を使ってるの」
「え、どうして?」
圭は性転換させられ、『玲』として北澤と結婚したことを話した。
「圭の戸籍がなくなっちゃったから、そうせざるをえなかったのだろうね。女の子になったんだから、そのほうが都合がよかったのね」
あまり人を疑うことを知らない母だった。

「それじゃ玲としてあんたと接すればいいのね?」
「うん、よろしくお願いします」
「それであんたのご主人は?」
「……死んじゃったの」
「…そう。だから戻ってきたのね。あんたもひとりぼっちだと寂しいもんね」
「父さんは?」
「あの人は頑固だからね…。でも可愛い娘が帰ってきたんだから、そのうち許してくれるでしょ。ともかくあんたをすぐに追い出そうとしたら、私が離婚してやるから」

圭は『飯塚玲』として両親の元に戻った。
母の由美にとっては圭が戻ってきたことは嬉しかったようだ。
すぐに圭のことを『玲』と呼んで、一緒に買い物に行ったりした。
しかし、父の宗は全く歓迎していなかった。
戻ってきたその日もすぐに追い出そうとした。
そのときは由美からものすごい反撃を受けて渋々認めるという状況だった。
だから家にいても圭とは口をきかなかった。
圭の存在そのものを否定しているような扱いだった。
悲しいことだけど、それでもいずれ心を開いてくれるだろうと圭は期待していた。


圭はいつものように母と二人で朝食の支度をしていた。
「父さん、ご飯よ」
そう言ってテーブルにご飯を置いたときだった。
急にお腹のものを吐きそうな感覚に襲われた。
圭は急いでトイレに駆け込んだ。
そして便器に顔を埋めていた。
しかし胃の中に何もなかったので、えずくばかりで何も吐けなかった。
「どうしたの?玲、大丈夫?」
母が心配して見に来てくれた。
「あ…うん、大丈夫。急に吐き気がして」
圭の言葉に由美の顔色が変わった。
「あんた、まさか」
「ん?まさかって?」
母が何を驚いているのか分からなかった。
「赤ちゃんがいるとか?」
母の突拍子もない言葉に今度は圭が驚いた。
「何言ってるのよ。いくら身体が女になったって妊娠できるわけないでしょ?」
「そりゃそうよね。あんたってすっかり女だから、最近じゃ生まれたときから女のように感じるのよね」
「それだけわたしの女が板についてるってことよね?」
圭はにこやかに笑った。
「でも本当に大丈夫なの?お医者様に行ってみる?」
「いいわよ、どうせ風邪のひき始めかなにかでしょ」
「ならいいんだけど」
そうは言ったが、その日は一日中何かにつけて吐き気に襲われた。

2日ほどそんな状態が続いた。
「あんたは笑うだろうけど、一度これを試してみない?」
母は圭に箱を手渡した。
「何これ?」
「妊娠検査薬よ」
「もう母さんったら。絶対ありえないって」
「そんなこと言ったって最近のあんたの様子はどう見ても悪阻よ。違ってれば妊娠じゃないってことがはっきりしていいじゃない?そうでしょ?」
「母さんがそれで納得してくれるならやってみるわ」
圭は母から渡された妊娠検査薬を持ってトイレに行った。
結果は陽性だった。
「ね、やっぱりそうでしょ?あんたたちを産んだ私が言うんだから間違いないはずよ」
由美は喜んでいたが、圭は狐に摘ままれたような気分だった。
「父さん、父さん、玲ったらお腹に赤ちゃんがいるみたいよ」
「何言ってるんだ、そんなわけがないだろう」
「だってホラ、妊娠検査薬の陽性反応よ」
「そんなものあてにならん」
「そう言われるとねえ。…そうだ、お医者様で診てもらいましょう」
圭は由美に手をひかれて産婦人科につれて行かれた。
そこでお腹にゼリーのようなものを塗られてお腹に器具を当てられた。
「ほら分かりますか?ここが頭でこの辺りが身体ですよ」
「えっ、どういうことですか?」
「おめでとうございます。妊娠されています」
そこで見せられた赤ちゃんの写真をもらって診察室を後にした。
「どうだった?」
由美が目を輝かせて聞いてきた。
「妊娠してるって…」
そしてもらった写真を由美に渡した。
「それじゃ今日はお赤飯にしなくちゃね」
由美だけが喜んでいた。
圭は未だに信じられなかった。

「父さん、父さん、やっぱりこの子、妊娠してるそうですよ」
「まさか!?そんなわけないだろう」
当然のように父の宗は言下に否定した。
「ほら、お医者様でもらった写真よ。ちゃんと赤ちゃんが写ってるでしょう?」
由美が宗に写真を渡した。
宗は手渡された写真を驚いて見ている。
驚きすぎて声を発することもできないでいた。
「それにしても最近の性転換手術って外見だけでなく妊娠できるようになるなんてすごいわね」
由美は喜んでいるが、性転換した男が妊娠できるわけがない。
もし妊娠できるようにするためにはかなり難しい手術が必要なんだろう。
現実的な可能性となると、誰かの子宮を移植された可能性が高い。
いったい誰の?
そう考えて、思い当たった。
それは玲の子宮のような気がした。
理由は特にないが、そのような気がしたのだ。
あの日、急に性転換しようと言ったのは、あのタイミングに玲が憲之の手の内に落ちたからだろう。
そして、圭の男性器を玲に、玲の女性器を圭に交換移植したのだ。
移植した男性器を機能させることは難しくても形だけペニスをつけることはできるはずだ。
男の身体に変えられた玲は飛び降り自殺に見せかけて殺されたのだろう。

もしその考えが正しければ、圭は名前だけでなく身体も玲の部分を引き継いでいたことになる。
圭は理屈ではなく、その仮説が真実だと感じた。
しかし子供の父親は間違いなく憲之のはずだ。
最後には憲之のことを愛したような気がしたが、圭を女にし、玲を殺した男なのだ。
本来憎むべき男なのだ。
そんな男の子供を身籠もっているのだ。
だがそんなことよりも玲の子供だということが何よりも重要なことのように思えた。
さらに純粋に自分のお腹に宿っている生命を愛おしく思えた。
圭は日に日に大きくなるお腹を誇らしげに感じていた。

女の子が産まれた。
圭は子供に恵(ケイ)と名づけた。

恵が生まれて3ヶ月が経ったときに検診のために病院へ行った帰りだった。
圭が恵を抱いて家に向かっているときに、優二の家の前を通った。
ちょうどそのとき優二が家から顔を出した。
「圭でしょ?」
「優二なの?」
それは普通の女性のように見えた。
しかし声に聞き覚えがあったのだ。
「今は24時間優子って名乗ってるの。ところでその子、誰の子?」
「わたしの子よ」
「圭の?どういうこと?あっ、ここじゃなんだから入らない?」
「いいの?でかけるところだったんじゃない?」
「いいの。どうぞどうぞ」
圭は優二の家に寄ることにした。
「ところでわたしは今、玲と呼ばれてるの。だから優子もわたしのこと玲って呼んでくれない?」
「玲ってお姉さんじゃないの?」
「そうだけど、まあいろいろあってね」
「ふ〜ん、分かったわ。それじゃ玲って呼べばいいのね」
優二は玄関の扉を開けてくれた。
「それじゃ玲、入って」
圭は優二の家に入った。

「あら、あなたは?」
優二の母が玄関にいた。
「お久しぶりです」
優二の母が圭の顔をマジマジと見た。
「やっぱりあのとき優二が連れてきた子ね。抱っこしてる赤ちゃんはあなたのお子さん?」
「はい」
「そうなの…。優二があなたを連れてきたときはあの子も普通の結婚をしてくれるかと期待したんだけどね」
何となく寂しそうな顔をした。
「ママは私がホモだってことを昔から知ってるの。だからあなたを連れてきたときは孫の顔が見れるかもしれないって喜んだらしいわ」
優二は小声で教えてくれた。

「ママ、私の部屋に行ってるから、お茶お願いね」
優二は母親にそう告げて圭を部屋に連れて行った。

「それじゃその赤ちゃんが玲の子供ってどういう意味なの?」
「文字通りわたしが産んだ子供ってことよ」
「あなた圭よね?」
「そうよ。ちょっと前までは男だった圭よ」
「その圭が子供を産んだの?」
「だからそう言ってるでしょ?」
「どういうこと?」
圭は自分が想像していることを話した。
「ということはあなたは圭だけど玲さんでもあるわけね」
「そういうことになるかもね。それで優子のほうはあれからどうなの?」
優二は相変わらずあのクラブに勤めているらしい。
意外と水が合っているとのことだ。
そこでのホステス同士の争いやお客のエピソードなんかを聞いた。
ほとんど優二の独演会状態だった。
話が途切れたとき、圭の姿をじっと見て優二がもらした。
「私もできたら子供を産める完全な女になりたいな…」

完全な女性…。
それはあのとき憲之が言った言葉だった。
憲之が今の圭を見たらもっと愛してくれるだろうか?
そう思うと涙が出そうになった。
圭が思っていた以上に憲之のことを愛していたのだろうか?
自分でもよく分からなかった。

ちょうどそのとき恵が泣き出した。
圭の心情に呼応したのだろうか?
時間は6時になろうとしていた。
「随分長居しちゃったわね。そろそろ失礼するわ」
圭は玄関に向かった。
そこに優二の母親がやってきた。
「あら、もう少しゆっくりしていらっしゃればいいのに」
「いえ、母も心配してると思いますので。今日はお邪魔しました。失礼します」
そう言って圭が出ようとすると、ちょうど優二の兄の秀一が帰ってきた。
「ただいま」
秀一は圭に気づき「いらっしゃい」と言った。
「ちょうどいいわ。秀一、帰ってきたところで悪いけど、玲さんを送ってくれない?」
「あ、そんな、結構です」
「赤ちゃんもいらっしゃるんだから遠慮しないで」
「そうですか。それじゃ遠慮なく」
圭は秀一の車に乗った。


「以前優二と遊びに来たことありましたよね?」
「ええ」
秀一の質問に答えるが、なかなか会話が続かなかった。
少しの沈黙のあとに、秀一から「結婚されたんですか?」と聞かれた。
「はい、でもバツ1のシングルマザーになったんですけど」
「そうなんですか」
やはり会話はすぐに途切れてしまう。
微妙に嫌な空気が車の中に充満していた。

やがて圭の家に着いた。
「ありがとうございました。お茶でもいかがですか?」
圭は社交辞令で誘った。
「いえすぐに戻らないと母に叱られますので」
「そうですか…」
「もしお礼していただけるなら、今度にお食事につき合っていただけませんか?」
「はい、ぜひ」
そんな会話でその日は別れた。

圭は社交辞令だったと分かりながらも少し期待していた。
しかし予想通り、秀一からの連絡はなかった。
何となく優二に似た雰囲気で優しそうなところが気になっていたのに。
秀一の言葉は100%純粋に社交辞令だったのだ。


それでも家がそれほど離れていないため何度となく顔を合わせる機会があった。
何となく顔を合わせているうちに、何となく秀一との交際が始まった。
特別に告白されたわけではなかった。
まさに『何となく』だった。

秀一と会うときは恵は由美に預けるようにしていた。
圭はひと時の独身を楽しんでいた。
そしてぎこちない交際も半年が過ぎようとしていた。
しかし秀一はキスどころか手さえ握ろうとしなかった。
自分のことを元男と知って避けているんだろうか?
最初は小さな不安だった。
しかし時間の経過とともに、それはものすごく大きな不安になっていった。

あるとき圭は思い切って秀一に聞いてみた。
「どうしてわたしの手も握ってくれないの?」
「ごめん、俺、こういう経験なくって」
「うそっ?本当に今まで女の子とつき合ったこと全然ないの?」
「ああ、恥ずかしいんだけど初めてなんだ」
圭は今時こんな男性がいるなんて信じられなかった。
27歳で交際経験がないなんて。
それほど顔は悪くないし優しいし。
考えてみればこの優しさが問題なような気がした。
良く言えば『優しい』のだが、言い換えれば『優柔不断』なのだ。
圭は思い切って秀一をホテルに誘った。
このままではいくら時間が経っても全く進展しないように思えたのだ。

案の定、部屋を決めたのは圭のほうだった。
部屋まで先を歩いていたのも圭だった。
部屋に入っても圭に手を出そうとしない。

「キスして」
圭は目を閉じて言った。
目の前で唾を飲み込む音が聞こえた。
震える手が圭の肩を掴んだ。
秀一の緊張が圭にも伝染してきた。
圭も身を固くした。
急に顔が近づいてきた。
「痛っ」
歯がぶつかったのだ。
「ごめん」
秀一がすまなさそうに頭を掻いた。
「女からこんなことをされるのは嫌い?」
「いや、そんなことないけど…」
「わたしのこと愛してる?」
女からこんなことを聞かれたら男の答えは決まっていることは分かっていた。
しかし聞かないではいられなかった。
圭は自分を抑えることができなくなっていた。
「愛してるよ」
予想されたつまらない答えだった。
「それじゃ抱いて」
圭は秀一に抱きついた。
秀一が恐るおそるといった感じで圭の背中に腕を回した。

圭はその態勢のまま強引にベッドの傍まで行き、背中からベッドに倒れこんだ。
その結果、秀一が圭を押し倒したような態勢になった。
圭は秀一の手をとり、自分の胸の上に置いた。
すると秀一は恐るおそる胸を揉み始めた。
すごく優しく、というよりは圭が怒り出さないかを確かめるように弱々しい感じだった。
圭が何も言わないことが分かると少し力を入れて揉み出した。
ブラウスの上から乳首を指で挟んだりした。
「…ぁ…ん……」
圭の口から喘ぎ声が漏れた。
それが秀一に火をつけたようだった。
圭のブラウスのボタンを慌てて外そうとした。
しかし焦っているせいか、うまく外せなかった。
「わたしが自分で脱ぐわ」
圭はブラジャーとショーツだけになった。
その様子を秀一はボォーっと見ていた。
「秀一さんも脱いで」
圭の言葉に慌てて秀一は服を脱いでボクサーパンツだけになった。
パンツの前部は大きく張り出していた。

「秀一さん」
「玲」
二人はもつれるようにベッドに倒れこんだ。
今度は秀一に迷いはなかった。
右手で身体のいたるところに触れ、舌も首筋、肩、腋などを嘗め回した。
背中に手を回しブラジャーのフォックを軽々と外した。
「秀一さん、なれてるみたいね」
「何言ってるんだ、たまたまうまく外せただけだよ」
「そんなに慌てて。可愛い」
圭は秀一のことを心から可愛いと思えた。
秀一は照れを隠すように圭の乳房に顔を隠した。
そして激しく乳首に舌を這わせた。
「…ぁ…ぃゃ……痛っ……ん……」
圭は秀一の頭を抱き締めた。
「もっと優しくして」
「だって玲がからかうから」
「だって秀一さんが可愛いんだもん」
「可愛いって言うなよ。これでも必死なんだから」
「うん」
圭は本当に秀一を可愛いと思った。

圭は秀一の固くなったペニスを手に取った。
「ねぇ、来て」
秀一がぎこちなくペニスを持ちながらペニスの先を圭の股間にあてて場所を探っているようだった。
「そこじゃない」
秀一はアナルにペニスをあてたのだ。
仕方なく圭が膣口の位置にペニスをあててやった。
「ここよ」
秀一の緊張が一気に高まったようだ。
そのせいか今までの雄々しい勢いはなくなり、急に萎んでしまった。
「ごめん、こんなこと初めてで緊張してるんだ」
秀一は泣きそうな顔になった。
そんな顔までも可愛いと思えた。
「いいの、気にしないで」
圭は手で握ったり指で先端を刺激したりしたが、秀一のペニスは全然硬くならなかった。
「もういいよ、今日はダメなんだろう」
「もうちょっとやらせて」
圭は態勢を入れ替え、秀一を仰向けに寝させた。
秀一の脚の間に座り、ペニスに顔を近づけた。
こんな間近でペニスを見るのは初めてだった。
これまでフェラチオをしたことがなかったのだ。
それにしてもこんなに迫力のあるものだなんて全然知らなかった。
さらに顔を近づけると独特のオスの匂いが鼻をついた。

圭は柔らかくなったペニスを口に銜えた。
少し大きくて味のないグミのようだった。
秀一のペニスはなかなか固くならなかった。
圭からフェラチオされていることに緊張しているのかもしれない。

圭は手を伸ばして秀一の乳首に触れた。
秀一の感じている声がした。
男だって乳首は感じるのだ。
圭自身がそうだった。
秀一のペニスが圭の口の中で少し固くなった。

そう感じた途端に一気に大きくなった。
急に大きくなったことで圭は喉を突かれて少しむせた。
少し苦しくなった。
それでも圭はフェラチオを続けた。
何か楽しいのだ。
口の中でビクンビクンと動くペニスが愛おしい。
圭は何かに取り憑かれたようにフェラチオを続けていた。

「玲、もういいよ」
秀一が自分のペニスを無理やり引っこ抜くと圭は恨めしそうな目で秀一を見た。
もっと続けたかったのに…という思いを込めた視線だった。

「玲、今度は大丈夫みたいだ」
秀一は圭を仰向けにした。
圭は自分で大きく股を広げた。
受け入れる準備は十分すぎるほどできていた。

秀一のペニスが入ってきた。
久しぶりのせいか少し痛みがあった。
圭は意識的にペニスを締めてみた。
「ぅ…すごい…玲の中って気持ちいいよ」
秀一が嬉しそうにキスしてくれた。
「それじゃゆっくり動いて」
圭の言葉に秀一はゆっくり動いた。
「…ぁ…ぃぃ………」
圭は静かに押し寄せる快感を感じていた。
しかしそれは短い時間だった。
秀一のほうがすぐに果てたのだ。
「ごめん」
「いいのよ、気にしなくて」
圭の中で秀一のペニスは小さくなっていた。
だから秀一は圭から離れようとした。
「秀一さん、少しジッとしていて」
圭は秀一を抱きしめた。
そのままつながっていたかった。
圭がそんな気持ちになったのは初めてだった。
今までは一方的に抱かれる立場だったせいもあるのかもしれない。
今は秀一とずっとつながっていたいと心から思った。

一瞬元男だと告白しようかとも考えた。
隠し事をしていることはフェアではないように思えたのだ。
しかし考えてみると今の圭には膣もあるし子宮もあるのだ。
出産だって経験している。
圭は今や一人前の女なのだ。
元男だなんて瑣末なことを伝えて秀一を苦しめる必要はないと考え直した。


それからは秀一とは会えばセックスするようになった。
回を重ねることで秀一はだんだんセックスがうまくなってきた。
圭は圭でフェラチオが大好きになっていった。
しかし貫かれても憲之から与えられたような絶頂感はなかった。
それでも圭はなぜか不満はなかった。
秀一に抱かれると暖かい気持ちになれた。
今の圭にとっては、愛されている実感を感じられることが何にも代えがたいことなのだ。


そんなふうに秀一とつき合っていると、ある日優二から呼び出された。
指定された場所に行くとすでに優二の姿があった。
優二にはただならぬ雰囲気があった。
(何なのかしら?)
圭は何も言い出すことができなかった。
優二の言葉を待つだけだった。

やっと優二が言葉をしぼり出した。
「こんな姿になっちゃったけど、私まだあなたのことが好きなの。それに戸籍は男のままなの。だから圭さえその気なら結婚できるんだから」
何らかの覚悟を秘めている様子だった。
あえて圭のことを意図的に『圭』と呼んだような気がした。
圭は曖昧な回答はしてはいけないと思った。

「ごめんなさい。わたし、今はお兄さんのことを愛してるの。プロポーズしてもらえるかどうかは分からないけど」
素直に、そして端的に自分の気持ちを伝えた。

沈黙が訪れた。
呼吸する音さえ相手に聞こえそうな沈黙だった。
沈黙を破ったのは優二だった。
「これで踏ん切りがついたわ」
圭が顔をあげると優二の目からは涙が流れていた。
「踏ん切りって?」
「ずっと戸籍の性別を変えるかどうか迷ってたの。でも圭の気持ちを聞いて迷いはなくなったわ。私は戸籍上も女になるわ」
優二は涙を流しながら、晴れやかな顔をしていた。


それから半年ほどして、やっと秀一がプロポーズしてくれた。
圭は喜んでプロポーズを受けた。

身内だけで簡単な式を挙げた。
圭はウエディングドレスを着た。
圭は感激していた。
やはり女にとっては憧れのドレスなのだ。
ウエディングドレスを着た自分は誰よりも綺麗だった。
誰もそんなことを言ってくれないけど圭自身は強く信じていた。
隣には優しいけどちょっと頼りない秀一がいる。
前の結婚は無理矢理だったけど、今度の結婚は圭自らが望んだ結婚だった。
圭には世界中の幸せが自分たちの周りだけに集まってきたように思えた。

圭が初婚でないことは皆が知っていたが、初婚以上に初々しさを感じる花嫁だった。
圭は皆から祝福を受けた。
その中に真っ赤なミニのドレスを着飾った優二の姿もあった。
優二は心から二人のことを祝福してくれた。

結婚式が終わり、教会の中庭でブーケトスを行うことになった。
ブーケトスを受け取ったのは優二だった。
「優子、今度はあなたが幸せになってね」
明るく笑う優子を見て、圭は自分の幸せが優子にも分かち合えますようにと願わずにはいられなかった。


《完》

次の作品へ | top | 前の作品へ
inserted by FC2 system