ニューハーフの逆襲



「お前ら、男の癖に何て恰好してるんだ!」
部田楓(とりたかえで)は路上でチラシを配っている、明らかにニューハーフの女(?)たちに罵声を浴びせた。
「社長、飲み過ぎですって。やめといたほうがいいっすよ」
そんな楓を仲間たちが必死に取り押さえていた。


楓は幼いころから自分の名前が嫌いだった。
たいてい苗字が珍しいということで注目を浴びた。
読みとしては「ぶた」と読めるから、幼いころはそれがいじめのもとになった。
「やぁい、ぶた。ブーブー」
そういった具合にいじめられるのだ。

そして中学生になると、苗字とともに名前で注目されるようになった。
「女みたいな名前だな」
たいていそんなふうに言われるのだった。
幸か不幸か楓は可愛い系の顔立ちだった。
しかも身長が同級生よりも低く、華奢な身体つきだった。
名前とそんな体格のせいで「おかま、おかま」といじめられてばかりだった。

そんなイジメを跳ね返す意味もあって楓は勉強に打ち込んだ。
中学のうちは学年で常に上位5位以内に入っていた。
その結果県内でも有数の進学校に進むことができた。

そんなふうに進学校に進んでも、名前をいじめの材料に使うつまらない奴はいた。
楓は高校でもいじめを撥ね退ける意味もあり、勉強に打ち込んだ。
成績は常に上位に位置し、そんな努力のおかげで一流大学に入学できた。
大学では経営について研究し、卒業後は小さいながらも経営コンサルタント会社を立ち上げた。
立ち上げた会社はそれなりに業績を伸ばすことができ、社員も50人程度まで規模を広げることができた。
社長と社員と言ってもそれほど上下関係が明確ではなかった。
この日も楓と社員5人ほどで飲みに来ていたのだ。


「いやあねえ、酔っ払いって」
おかまの一人のそんな言葉に楓はカチンときた。
「何だよ。だいたいお前たちっていうのは…」
そこまで言ったときに後頭部に軽い痛みを感じた。
そしてゆっくりと倒れていった。
楓は意識を失った。


気がつくとどこかに眠らされていた。
明らかに病院の手術室のようだ。
「やっと気がついたのね」
そばにいたのはさっきのおかまたちだった。
いや違う。
さっきのおかまたちとは違う。
直感でそう思った。
しかしどこが違うのかはよく分からない。
それでも違うことだけは感じた。
分かるのは明らかに女装した男たちだってことだ。
「何だ、これは。縄を解け」
楓は朦朧とした意識で必死に抵抗した。
「縄?縄でなんか縛ってないわよ。ちょっと麻酔が効いているせいで身体の自由が利かないだけよ」
「麻酔?俺をどうするつもりだ?」
「あんな往来であたしたちを大声で馬鹿にした罰に凝らしめてあげようと思ってね」
「何をする気だ」
「ちょん切るの」
おかまの一人が手を股間に持って行き、鋏で切るような仕草をした。
そんなおかまたちの顔には不気味な笑みが浮かんでいた。

「やめろぉ、やめてくれぇ」
楓は必死に逃げようとした。
しかし手足がうまく動かない。
そんな楓の口に何かをあてられた。
楓はゆっくりと意識が遠のいていった。


頭が痛い。
麻酔のせいか…。
意識が全然はっきりしない。
目が覚めているのになかなか起きることができない。
やがて濃い霧が晴れていくように少しずつ意識が戻ってきた。
そうすると「ちょん切るの」という言葉が脳裏をよぎった。
慌てて上半身を起こした。

自分の部屋だった。
特に変わった様子はない。
(何だったんだろう?夢だったのか?いや、あれは確かに現実に起こったことだったはずだ)

とにかく楓は会社に出た。
「おはようございます」
秘書の美佐子が声をかけた。
「ああ、おはよう」
「もうお身体はもう大丈夫なんですか?」
「身体?」
「ええ、だって1週間もお休みされることなんて今までなかったじゃないですか?」
「1週間?」
楓は訳が分からなかった。
あれから1週間も経っていたなんて思ってもいなかった。
いったいどういうことなんだ。
何が起こったのだ?

それから一見何事もなく時間が過ぎていった。
しかし楓の身体は少しずつ変調を来たしていた。

妙にだるく、気持ちがイライラすることが多くなった。
元々髭は薄いほうだが、それでも以前は毎日かかさず剃っていた。
しかしあの日から一度も髭は剃ってなかった。
剃らなくても髭は生えてこなかった。
(女性ホルモンを飲まされているのか?)
そんな疑いを持ったため、楓は飲み物も自らコンビニで水やお茶を買って飲んだ。
誰かが用意した弁当は絶対に口にせず、コンビニで買ったおむすびやパンを食べた。
外食するときは調理場の見える小さな店で食べるようにした。

それでも楓の変調は終わらなかった。
ついには胸にしこりができ始めた。
(俺はこのまま女になってしまうのか?)
楓は言いようのない恐怖に襲われた。


楓の変調は周りの人間も気がつき始めた。
楓自身は胸の膨らみくらいしか認識していなかった。
だからさらしを巻いてそれを隠しさえすれば周りには気づかれないと思っていた。
しかし、楓の身体の変化は胸の膨らみだけではなかった。
肌がきめ細かくなり、身体全体が脂肪で柔らかな印象になっていたのだ。
「ねえねえ、社長って女性ホルモン飲んでるらしいわよ」
「自分が女になりたいから、中途半端に女装してる人たちを許せなくって、前みたいに狂ったように怒り出すんだって」
「もう少ししたら海外で性転換手術するかもってみんな言ってるわよ」
こんなふうに噂されていた。

そんな陰口は否応なしに楓の耳にも届いていた。
畜生!俺が女になりたいわけないだろう!
楓はみんなの前でそう叫びたかった。
しかしそんな勇気はなかった。
ただただ自分の身体の変調に怯えているだけだった。
楓はそんな現実に対して抗うことすらできなかった。


そんな楓が再び拉致される日がやってきた。
仕事を終えて帰るために、会社の入っているビルから出た。
ビルの前の路上に車が止まっている。
なんてことない日常的な風景だ。
楓は特に気に留めることなく、車の横を通り過ぎようとしたときだった。
車の陰から黒い影が2つ現れ、楓の行く手を遮った。
「何だ、お前たちは!」
楓はそれ以上何も言えなかった。
すぐに口に何かを当てられ気を失ったのだ。

気がついたところはどこかの部屋のようだった。
外の様子が見えるような窓はない。
今が昼か夜なのかすら分からなかった。
わずかな間接照明がその部屋がホテルの一室かのような雰囲気を感じさせた。

手探りで枕元のスイッチをつけた。
すると部屋が明るくなった。
ベッドの横の壁には大きな鏡がつけられていた。
そこに映ったのは髪が肩くらいまで伸びた楓だった。
しかもベビードールを着せられている。
楓はそれが自分のように思えなかった。
最初その姿を見て「美人だ」と感じた。
しかし程なくその女が自分だと気づいた。
(な…何だ…。どうして俺がこんな恰好をしてるんだ…)
楓は鏡に映った自分を観察した。
顔は全くいじられていない。
化粧すらされていなかった。
しかしその姿は全く男には見えなかった。
ベビードールからわずかに膨らんだ胸が垣間見えることが女を感じさせた。
肌のきめ細かさも女を感じさせた。
髪型のせいか顔も女として違和感がなかった。

(畜生。誰がこんなことを…)
そう言って髪に手をやると髪の毛が簡単に動いた。
ウィッグだったのだ。
ウィッグを取った顔は楓のままだった。
ふと思い立って、自分の股間に手をやった。
(よかった…。あった……)

「あら、竿が残っていて良かったって顔してるわね」
いつの間におかまが部屋に入り込んでいた。
「誰だ、お前は?どうしてこんなことをするんだ!」
楓はおかまに飛びかかろうとした。
しかし楓は簡単におかまに抑えられた。
「もうあんたは女並みの力しかないんだからね」
「畜生、俺をどうするつもりだ?」
「そりゃ、おかまを馬鹿にした罰にあんたもおかまになってもらうわ」
「何言ってるんだ。そんなことできるわけないだろ!」
「"何言ってるんだ"ってなあに?もうあんたは半分以上女なんだから。残った竿も切ってあげるつもりよ」
「え?何だ?今…残った竿…って言ったか?」
「そうよ」

楓は再び股間に手をあてた。
睾丸の感触も手に伝わってきた。
「金玉はまだあるぞ」
「それじゃこれなぁんだ?」
おかまの手にある便には白い球状のものが2つ入っていた。
「えっ…まさか…」
「分かったようね。そう、これがあんたの金玉よ」
「それじゃ俺の身体についてるのは?」
「女性ホルモンを十分に滲みこませた疑似睾丸よ。それを入れておけば半年程度は女性ホルモンを注射しなくていいのよ。その成果があんたの身体に表れているでしょ?」
おかまはニヤっと笑った。

前回拉致されたときにそんな手術を施されていたのだ。
だから1週間の記憶がないのか?
楓は絶望的な気持ちになった。

「それじゃあんたにおかまの喜びを教えてあげるわね」
おかまが見た方を見ると、そこに筋肉ムキムキのマッチョな男がいた。
ビキニパンツだけしか身につけていない。
そのビキニパンツの前は大きくテントを張っていた。
「あの男は男のことが大好きなの。あんたのように女になりかけの男のことがね」
そう言っておかまが楓を突き飛ばした。
楓は後ろに後ずさり、そのままベッドに仰向けに倒れた。

すると男が楓に覆い被さってきた。
そしてすぐにキスされた。
楓は男の唇を噛んで反撃した。
すると頬に鋭い痛みを感じた。
男に思い切り頬を叩かれたのだ。
「痛ぇ」
男は口から血を流し、それを舌で舐め取って、ニヤッと笑った。
「なかなか気の強い女だな。それでこそ俺の好みだ」
男が楓を強く抱き締めた。
「やめろ。俺は女じゃない」
楓は必死に男から離れようとした。
しかし男の前では全く無力だった。
男の手がベビードールの上から胸を揉んだ。
「女じゃない?それにしてはなかなか可愛い胸だな」
男が楓の顔を覗き込んだ。
「くそっ」
楓は男から顔を逸らした。
その視線の先にはまだおかまがいた。
「いいざまね。男に胸を揉まれてよがってるなんて」
「よがってなんかいない」
男がベビードールを捲り上げて、楓の右の小さな乳房に顔を近づけた。
そして乳首を舐めた。
「…ぅ……」
男は乳首を銜え、舌の先で乳首を転がすように舐めた。
「……んんん…あああああ……」
楓はこみ上げる声を抑えることができなかった。
男は自分の指に唾をつけて、楓の左の乳首を唾のついた指で弄んだ。
楓には両方の乳首を舐められているように感じた。
身体の芯から熱いものがこみ上げてくるように思えた。
それは男のときには感じたことのない快感だった。
いつの間にか大きな声で喘いでいた。

男が乳首への愛撫をやめて、少し身体を離した。
「可愛いショーツを穿いてるな。俺のための勝負下着ってわけか」
「…うるさい……」
楓は感じていて息も絶え絶えだった。
男はショーツの上から股間を撫でた。
「おや、少し濡れているようだが」
「そんなことは…ない……」
しかし楓は感じていた。
勃起すらしていないペニスの先から先走り汁が出ていることを。

男の手がショーツにかかった。
「…ゃめろ……」
楓はもはや弱々しい声しか出なかった。
この男の前では自分は女でしかないような気持ちになっていた。
男は楓の反応を見ながらゆっくりとショーツを下ろした。

「可愛いペニクリだ」
そう言って男は楓のペニスを掴んだ。
楓のペニスは女性ホルモンのせいか幾分小さくなっていた。
男の手で完全に隠されてしまった。

「全然硬くならないな」
確かに柔らかいままだった。
いくら男が刺激を与えても何の変化も見られなかった。
「こうすればどうかな?」
男が楓のペニスを銜えた。
女のフェラチオと違い、虫唾が走るような感覚に襲われた。
「やめろ、気持ち悪い」
男は手を伸ばし、楓の乳首を摘まんだ。
「痛いっ」
男はペニスを銜えながら、乳首に刺激を与えた。
楓は胸が弱点のようだった。
乳首を攻撃されると、気持ち良さが大きくなってきた。

「少しだが硬くなってきたぞ」
男は一瞬口を放し、それだけ言ってすぐにフェラに戻った。

やがて男の指が肛門の辺りを這った。
「やめろ」
当然男は楓の言葉は無視した。

「コンドームはつけなくていいんだよな?」
男はそばのおかまに聞いた。
「もちろんよ、こいつが気を失っている間に綺麗にしといたから」
男がニヤッと笑った。
そしてすぐに男の指が入ってきた。
「やめろ、やめてくれ」
わずかな痛みと言い知れない屈辱感を感じていた。

「指も千切れそうなくらい締め付けてくるぞ」
男が面白そうに笑った。

「それじゃうつ伏せになってケツをあげろ」
楓が動かずにいると、思い切り殴られた。
「お前は拒むことはできないんだ。俺に言われた通りにしろ」
楓はゆっくりとうつ伏せになり、腰をあげた。

男の手が股間に触れた。
何か冷たい感じがする。
何かゼリー状のものが塗られたようだ。

「それじゃ行くぜ!」
男のペニスがゆっくり入ってきた。
「痛いっ!」
肛門に無理やり異物を入れられる痛みに思わず叫んでしまった。
「力を抜いとけよ。そうでないと肛門が裂けてしまうぞ」
楓は男の言葉に驚いた。
こんなことで肛門が裂けてしまったらどうすればいいんだ。
医者に行くなんて恥ずかしい。
楓は懸命に力を抜こうとした。
しかし挿入される感触にうまく力を抜くことができなかった。
楓の焦りを無視して男のペニスは少しずつ確実に入ってきた。
そしてついにはペニスが全部楓の中に入った。
「なかなか締め付けが強いな。なかなかいいケツマンコだぜ」
楓は男の声が遠くに聞こえるような感じだった。
痛くて痛くてとてもそれどころではない。
「早く抜いてくれ」
楓は男に頼んだ。
「何?早く動いてくれだと?」
男はわざと聞き間違えた振りをしているのだろう。
楓に促されたように腰を動かし始めた。
「い…痛い……やめろ……動くなぁぁ……」
楓は痛みしか感じなかった。
男のお尻でも女のように感じるなんて嘘だ。
快感がやってくる感じは全くなかった。
(早く…終わってくれ……)
楓は祈るような思いで、歯を食いしばって痛みに耐えていた。
『パンッパンッパンッパンッパンッ……』
男が楓のお尻に腰をぶつけるたびに部屋中に音が響いた。

男のペニスが楓の中で大きくなった。
そして…男の熱い物が楓の中に注がれた。
いつの間にか楓の目から涙が流れていた。
もしかすると男に抱かれてすぐのことだったのかもしれないし、男に貫かれているときに涙が出たのかもしれない。
いずれにせよこのときになって初めて自分が泣いていることに気づいた。

「それじゃ処女ともおさらばしたし、次のステップに行きましょうね」
そばで見ていたおかまの声が聞こえた。
楓は口に何かをあてられ、再び気を失った。


カチャカチャカチャ…………

金属の器具がぶつかるような音がする。
下腹部に痛みはないが、何か違和感を覚えた。
(手術されてるんだ…)
楓ははっきりしない意識でそんなことを思った。




気がついたのはマンションの一室のようだった。
(ここはどこだ?誰もいないのかな?)
楓は身体を動かさず目だけで部屋の様子を探った。

すでに日は高いようで、部屋は明るく部屋の様子がよく分かった。
(誰もいないようだな)
楓はゆっくりと上半身を起こした。
軽い眩暈を覚えた。
(まだ麻酔が残ってるのかな?)
そう思って上半身を起こした状態でしばらく目を閉じじっとしていた。

(そろそろ大丈夫かな)
楓は静かに目を開けた。
そのときになってようやく自分がピンクのネグリジェを着せられていることに気づいた。

(まさか本当に…)
楓は慌てて股間に手をやった。
(…な…ない……)
そこには本来あるべきはずのものがなかった。
(本当に女にされてしまったんだ……)
楓は愕然とした。
(どうしてこんなことになったんだ)
何もする気がしなかった。
ベッドで上半身だけを起こした状態で身動きせずにいた。

部屋の様子を見た。
部屋は6畳ほどの広さだった。
ダブルベッドサイズのベッドとドレッサーがあるだけだ。
楓はそのベッドに寝かされていた。
窓から見える眺望が素晴らしい。
かなり上の階のようだ。

どれくらいの時間が経ったのだろう。
楓は尿意を覚えた。
(おしっこしたい…)
楓はトイレに行こうとベッドから降りて立ち上がろうとした。
しかしかなり弱っているらしく、立ち上がれなかった。
ベッドに手をつきながらドアのところまで何とか歩いた。

ドアの傍に置いてあるドレッサの鏡に楓の姿が映った。
豊かな乳房がピンクのネグリジェにすけて見えた。
そして可愛いビキニショーツを穿かされていた。
髪の毛は耳が隠れる程度まで伸びており、茶色に染められていた。
そして女性らしい髪型にカットされていた。
顔はそのままのようだが、男であるとは誰も思わないだろう。
(全く女だな)

楓はドアの向こうに行った。
そこは20畳のリビングだった。
やはり誰もいなかった。

楓は壁に手をつけながら別のドアまで行った。
そこは洗面所だった。
もうひとつのドアを開けるとトイレだった。
(ふぅー、何とか間に合った)
楓は便座を上げ、ネグリジェをたくし上げて、おしっこをしようとした。
(…ぁ…そうか……)
楓は便座を下ろし、ショーツを下ろした。
(やっぱりない…な……)
股間にはやはり何もなかった。


楓は自分の股間を目の当たりにして、さらに絶望感を深めた。
しかし目前の尿意には抗うことはできず、便座に座り、おしっこをしようとした。
女性としての初めてのおしっこはうまくいかなかった。
尿意はあるのだが、なかなか出すことはできなかったのだ。
ようやく出ても勢いよく出るだけで、方向は全く定まらず散水しているようだった。
座っているからトイレを汚すことはなかったが、楓の太腿の裏がおしっこの飛沫がかかった。

楓はトイレットペーパで股間を拭き、続いて太腿の後ろ側を拭いた。
(俺、どうなるんだろう…)
楓は立ち上がり、力なくショーツを上げた。

もう自殺するしかないと思った。
これ以上生きても生き恥をかくだけだと思ったのだ。

楓はキッチンに走った。
包丁かなにか自殺の道具を探すためだ。
しかしそれは想定の行動だったのだろう。
刃物類は全く見つからなかった。

『何探してるの?自殺する気なの?』

女の声がした。
楓は部屋の中を見渡した。
誰もいない。
人がいる気配すらない。

楓は気を取り直して、刃物以外に自殺できるものがないか探そうとした。
『死んじゃったらあなたをそんなふうにした奴は喜ぶでしょうね』
その言葉に楓は手を止めた。
「誰だ!」
楓は自分の発した声の高さに驚いた。
まるで女の声だ。
楓は驚いて自分の口を押さえた。
『あら?やっと自分の可愛い声に気づいたの?』
「うるさい。お前は誰だ!」
楓は声の出所を探ろうと部屋の中を見渡した。
『誰でもいいでしょ。それより自殺なんてしようと思っても無駄よ』
「こんな姿になってまで生きていたくないよ…」
『さっきも言ったけど、自殺したらあなたをそんなふうにした奴が喜ぶだけよ』
「俺をこんなふうにした奴って…」
『あなたは誰がそんなことをしたと思ってるの?』
「おかまをおかまだと言ったせいじゃないのか?」
『そんなことで男を性転換するくらいだったら、自分の身体に手を入れるわよ。整形にいくらお金がかかると思ってるの?』
楓は女の言葉に驚きながらも、もっともだと納得していた。
(てっきりおかまが懲らしめるためにやったんだと思ってたが、誰かが俺を陥れるためだとしたら……)
「誰が俺をこんな目に合わせたんだ」
『それは知らないわ。私はあなたを買っただけだから』
「買った?俺は誰かの所有物じゃないっ!」
『そんなこと言ったって私たちはあなたを買ったんだから仕方ないでしょ?』
「誰からだ?」
『それは言えないわ。きっとあなたをそんな目に合わせた奴なんでしょうね』

楓はリビングのソファに腰を落とした。
『ようやく自分の置かれた立場が少しは分かったかしら』
「俺をどうしようっていうんだ」
『投資は回収しないといけないでしょ?』
「…どういうことだ……」
楓には女の言葉の意味が分かっていたが、聞き返さずにはいられなかった。
『女が手っ取り早く稼ぐ方法…知らないわけないでしょ?』
予想通りだった。

「俺を解放しろ。お金ならすぐに払ってやる」
楓は声がするほうに向かって言った。
『どうやって?』
「会社に行けば金はある。だから俺を解放してくれ。絶対に金は持ってくる。約束する」
『あなたの会社はもうあなたのものじゃないわよ。知らなかった?』
女の声は笑っているように聞こえた。

急に部屋に置かれたPCが起動した。
ネットで調べてみろということなんだろう。
そう理解した楓はPCで自分の会社のサイトにアクセスした。
するとすぐに別のドメインへ転送された。
出てきたページは「サイバーカレント」という会社だった。
『当社は10月1日に部田コンサル株式会社から株式会社サイバーカレントに社名変更しました』と書かれていた。
社名が変更され、サイトのアドレスも変わっていたのだ。
新しい社長として杉野晃司の名前が書かれていた。
専務として営業部長だった森崎太一、もうひとりは従来のまま木下光彦になっていた。
楓を含めこの4人が創立当時のメンバーだ。
どちらかと言えば部田・木下 対 杉野・森崎という対立があった。
それでもそれほど根の深い対立ではなかった。
楓と木下は損して得取れという考え方だったが、杉野・森崎はひとつひとつの仕事で確実に利益を上げるべきだと主張するのだ。
単に意見の対立といった程度だと思っていた。

ふとPCの日付を見た。
すでに拉致されてから3ヶ月ほどが過ぎていた。
3ヶ月の間に女にされ、傷は完全に癒えたのだ。
それにしても、それほど大所帯でないとは言え、これだけ短期間に社名を変えるのは段取りが良すぎる。
楓はこの辺りに自分が性転換された秘密があるように思えた。
楓はその秘密を暴かないと死ねないと思った。

『もう自殺する心配はなさそうね』
楓の想いが顔に表れたのだろう。
そんなことを女が言った。
「ああ。俺をこんな目に合わせた奴に絶対復讐してやる。それまでは絶対死ねない」
『そんなこと言ったって生きてそこから出られる保証はないわよ』
「ああ、そうかもな。だが死んでしまえば復讐のチャンスすらなくなるわけだろ?」
『いいわね、その考え方。あなたが男のままだったなら好きになってしまいそうだわ』

楓は苦笑した。
男なら、か。
確かに今の俺は男ではなく女になってしまったかもな。
女なら女であることを利用して絶対に復讐してやる。
楓は姿の見えない犯人への復讐を誓った。

もしかしたら玄関から逃げ出せるかもしれない。
楓はそう思った。
すぐに玄関に向かったが、玄関の手前にはドアがあった。
そのドアは決して開かなかった。

リビングに戻り、ベランダの窓を開けようとした。
やはりベランダへの窓は全然開かなかった。
(軟禁されてるってわけか…)

『長生きしたければ逃げようとは考えないことね』
スピーカーの女が言った。
「どうやら今のところはその方が賢明みたいだな」
『なかなか物わかりが良さそうね。その物わかりの良さに期待して言うんだけど、あなたの仕事は殿方に抱かれることよ』
分かっていたが、改めて言われると嫌悪感しか感じなかった。
「…そんなこと、できるか!」

そのときインタホンが鳴った。
『あなたにとっての初めてのお客様が来たようね。処女のあなたを抱けるってことで普通の倍以上のお金をいただいているからくれぐれも失礼のないようにね』

部屋に入ってきた男の顔を見て驚いた。
それは杉野だった。

「お…お前……」
楓が杉野を睨んだ。
「何だ、この女は。客を捕まえてお前呼ばわりするのか」
杉野の話し方から考えると、もしかすると楓と知らずに女を買っただけなのかもしれない。
だとするとおとなしく抱かれる振りをして助け出してもらおう。
楓はそう考えた。

「ご…ごめんなさい。お客さんが昔騙された男に似てから」
楓は必死に女らしく話して、誤魔化そうとした。
「何だ、そうなんだ。きっとそいつもいい男だったんだろうな」
そう言って、楓を抱き寄せた。
「なかなか美人じゃないか。たっぷりサービスしてくれよ」
「ええ、いいわよ」
杉野は薄笑いを浮かべて、楓と唇を重ねた。
ここで抵抗してスピーカーの女に怪しまれてはいけない。
楓は仕方なく杉野のなすがままにされていた。
楓の口の中に杉野の舌が蠢いている。
楓は虫唾が走る思いだった。
それでも抵抗せずに杉野に委ねていた。

長い長いキスがやっと終わった。
口が離れ、楓が一瞬ホッとしたそのときだった。
「なかなかキスがうまいじゃないか、それにしても部田が女になりたいとは知らなかったな」
楓は驚いた。
楓の正体を知ってキスをしたというのか。
「お前…知ってたのか……」
「ははははは、お前は優男だと思っていたが、女になるとなかなかのもんだな」
杉野は楓を抱きしめた。
「何するんだ。放せ、気持ち悪い」
「女のくせに生意気な奴だ」
杉野は楓の頬を殴った。
楓は叩かれた弾みで床に転がった。
楓のネグリジェが捲りあがり、太腿があらわになった。

「ほほぉ、なかなか綺麗な脚をしてるじゃないか」
覆いかぶさろうとしてきた杉野から逃げてベランダの窓のところまで行った。
「そんなことしても所詮女の力じゃ俺からは逃げられないさ。諦めて俺に抱かれろ」
「誰がっ!」
楓は杉野に向かって唾を吐きかけた。
「何するんだ!」
杉野はさっきよりずっと強い力で思い切り頬を殴った。
楓は壁まで飛ばされ、壁で頭を打った。
そのせいで気を失ってしまった。

気がつくと両手両脚をどこかに縛られて、大の字の体勢で固定されていた。
目の前には杉野の顔があった。
「これは何だ?早く外せ」
「何を言ってるんだ。楽しみはこれからじゃないか」
「お前…変態かっ!」
「いつまでもへらず口を叩いてるんじゃねえ」
杉野が楓のネグリジェを引き裂いた。
楓の豊かな乳房が杉野の前にあらわになった。

「やめろ」
楓は身をよじって乳房を隠そうとした。
しかし手足を固定された状態ではそれはかなわなかった。
「なかなか立派なおっぱいじゃないか。とても元男には見えないぜ」
「やめろ。俺の身体に触るな」
「そうか、それじゃまずこれを使おうか」
杉野は手に持っている物を楓に見せた。
絵筆だった。
「や…やめろ」
杉野は楓の言葉を無視して、筆を楓の身体に這わせた。
そんなことをされていることに嫌悪感を感じつつも、くすぐったいような快感を覚えた。
そして筆が乳首に触れると身体がビクンと反応した。
「どうだ?気持ち良ければ声を出していいんだぞ」
「気持ちなんていいわけないだろ」
杉野は楓の顔を眺めながら筆を動かした。
楓は感じていることを必死に隠そうとしていた。
「そうか?そうでもないようだが」
杉野の顔には薄ら笑いが浮かんでいた。
楓は筆から与えられる快感でおかしくなりそうだった。
やがて声を抑えることができなくなった。
「…ん…んんん……ぁぁ……」
楓の口から喘ぎ声が漏れた。
「ははは…、そうだ、それでいい。女は素直が一番だ」
楓はいったん喘ぎ声を漏らすと声をあげることを止めることはできなかった。

杉野が楓に覆い被さってきた。
楓の乳首を銜え、口の中で転がすようにした。
「…あああああ…やめろ…やめてくれ……」
杉野は執拗に乳首を舐めた。
すごく気持ちいい。
男に舐められている嫌悪感以上に快感が勝っていた。
楓は何も考えられない状態だった。


急に杉野が身体を離した。
「何だ、その目は?もっとして欲しいのか?それならそうとお願いしてみろ」
楓は物欲しそうな眼をしていたのかもしれない。
しかし楓は何も言わなかった。
言えなかったといったほうが正確かもしれない。
胸の快感がまだ身体に残っていた。
うまく頭が回らなかったのだ。

杉野が目の前で服を脱ぎ全裸になった。
ペニスは大きく硬くなっていた。
楓は杉野のペニスを見つめていた。
こんな状況で男のペニスを見るなんて考えたこともなかった。
それにしても大きい。
あんなものが入るんだろうか?
楓は女としてペニスを受け入れることを前提に考えていた。
「どうした?早く入れて欲しいのか?」
「そんなこと…ない……。もう…勘弁して…くれ……」
「できればお前にフェラしてほしいが、今のお前じゃ噛みつかれるかもしれんからな。だから…」
杉野は楓のショーツを剥ぎ取った。
「代わりに俺がお前にクンニしてやろうと思ってな」
杉野が楓の股間に顔を近づけてきた。

「なかなか綺麗なオマンコだな」
楓はまだ自分の目で見たことがなかったが、綺麗と言われたことにホッとした。
そんなふうに自分が感じたことに驚いた。
「とても作り物には見えんな。全く女の持ち物だ」
杉野の鼻息を股間に感じる。
楓は恥ずかしい思いが自分の興奮の度合いを高めていることに気づかずにはいられなかった。

杉野の舌が楓の股間に触れてきた。
「やめろ…。やめてくれ…」
楓は弱々しく杉野にクンニをやめてもらうよう請うた。
杉野はまるで聞こえないように楓の女性器を舐め始めた。
丁寧に丁寧に舐めた。
楓は舐められていることを感じるだけだった。
それほど気持ちがいいわけではなかった。
「これがクリトリスだな」
そんな小さな声が聞こえたかと思うと、痺れるような痛みが走った。
「痛いっ」
「全然濡れてないからな。それじゃここはどうかな?」
杉野の指が膣に入ってきた。
「痛い!」
さっき舐められたよりも強い痛みが走った。
「やっぱり作り物だな。あれだけ感じてたのに全然濡れてやしない」
杉野は何かを楓の股間に塗りたくった。
「何をつけてるんだ」
「お前の処女をもらうときに少しでも痛みがないようにという俺の優しさだよ」
楓はそれが何か分かっていた。
「やめてくれ。本当にやめてくれ。俺が自由になったら何でも言うこと聞くから」
「お前が自由になることなんてないんだよ。お前は一生ここで娼婦として生きるしか選択肢はないんだからな。俺がまずお前を女にしてやるよ」
「やめろ。やめてくれぇぇぇ」
楓の叫びもむなしく杉野のペニスが楓の膣に入ってきた。
「痛い!」
楓はものすごい痛みに顔を歪めた。
さっきの指の痛みなんて比ではなかった。
桁外れの痛みだった。
股間に杭を打ち込まれたようだ。
「初めてのときは誰でも少し痛いんだよ。それに痛いということは本当に初めてなんだな」
杉野がとうとう楓の中にペニスを根元まで押し込んだ。
「ううう……」
楓は痛みに唸った。

「なかなか締まるぜ。結構楓の中は気持ちいいぜ」
楓は自分では締めているつもりはなかった。
実際本当に締まっているのかは分からない。
杉野はペニスを入れたり出したりした。
その度に激痛に顔を歪めた。
クチュクチュクチュクチュクチュクチュクチュ…。
塗られたゼリーが音を出した。

「そら行くぞ」
杉野の腰の動きが速くなった。
楓は痛みに気が遠くなる思いだった。
杉野の射精が近いことは楓にも感じ取れた。
もうほとんど意識が遠のいていった。
やがて杉野のペニスから熱い物が放出された。
楓も薄れゆく意識の中でそのことは感じることができた。

「なかなかよかったぜ。また買いに来てやるからな」
杉野が楓の中から抜け出た。
股間に杉野の熱い物がこぼれ出るのを感じた。

「…待て」
楓は杉野に確かめたいことがあった。
「なんだ?」
「お前か?俺をこんな目に合わせたのは」
「どうして俺がそんなことをする必要があるんだ?」
「俺の会社が欲しかったんだろ」
「まあ何とでも考えておけ。どうせお前は一生ここで娼婦として生きていくしか選択肢がないんだからな」
「やっぱりお前なんだな」
杉野は楓の顔を見ただけで何も言わなかった。
楓は今回の件は杉野の仕業だと確信した。
絶対に杉野に仕返ししてやる。
楓は心に誓った。

杉野が去った後に男がやってきた。
楓にまだ男の痕跡が残っているときに、楓を抱いた男だった。
また抱かれるのか。
楓は恐れた。
しかし予想に反して抱かれることはなかった。
拘束された手足を自由にしてくれたのだ。

よろよろと立ち上がった楓に男は言った。
「これでも食え」
テーブルに置かれていたのは重湯だった。
このときになって楓は自分が空腹だということに気づいた。

「これだけか?もっとボリュームのあるものはないのか?」
「何言ってんだ。お前、どれだけ眠っていたと思ってるんだ。ずっと食べなかった状態で、普通の食事なんて無理だろう?」
そう言われると確かに自分で食事したことなんて何日もなかったことだ。
楓は仕方なく重湯を食べた。
米粒は全く入っておらず飲んだだけだった。
それでも久しぶりの食べ物に胃腸が激しく反応しているらしくしばらくの間はお腹に痛みを感じた。
男はその間ずっと楓を見ていた。

やがて腹の痛みは治まってきた。
「ちょっとシャワーを浴びてくる」
痛みが去ると、楓は男にそう言って浴室に行った。
杉野の痕跡を消すためだった。
楓はシャワーを股間に当て、杉野が出したものを念入りに洗い流した。
同時に涙が止まらなかった。
(絶対に復讐してやる!)

風呂から出ると軽く身体を拭いて、そのままタオルを首にかけてリビングに戻った。
そこにはさっきの男がビキニパンツだけの状態になっていた。
やはり抱かれるのだ。
楓は予想通りの展開にさほどショックは感じなかった。

「せっかく綺麗な女になったのに、なんだ、その恰好は」
男はタオルを肩にかけている姿を非難しているんだろう。
男の視線は楓の胸元に注がれていた。
「うるさい。見るな」
楓は身を捩りながら両手で乳房を隠した。
「女らしい仕草もできるじゃないか」

男が楓の左腕を掴んだ。
「お前に客がつかないときは俺たちが相手してやる」
「俺たち?」
「ああ、俺を含めて何人かがお前の教育係に任命されたんだ」
「教育って何のことだ?」
「お前を女としてきっちり教育してやるからな」
「誰がそんなことさせるか!」
楓の言葉に怒ったのか男は思いっ切り楓を殴った。
楓は床に転がり口の中を切った。
「…そんなパンチなんか屁でもないよ」
楓は立ち上がった。
男はもう一度楓を殴った。
何度か同じことが繰り返された。
ついには楓は立ち上がることができなくなった。

「なかなか気の強い女だな。嫌いじゃないぜ、そんな女」
「…女じゃ…ない……」
楓は何とか言葉を振り絞った。
「男を受け入れるものがあってもか?」
男は楓の股間を撫で回した。
それは潤滑ゼリーを塗っていたのだ。

「それじゃ入れさせてもらうぜ。膣拡張の意味もあるんで、入れなきゃ俺が怒られるんでな」
男のペニスが入ってきた。
杉野のペニスを受け入れて間もないせいか、さっきほど痛くはなかった。
それでも痛みがないわけではなかった。
快感は何も感じなかった。
男が楓の中に放ったとき、少しホッとしただけだった。

楓は男に抱かれた状態のまま眠ってしまった。
全裸のままで。
膣からは男に出された精液を垂らして。
どれくらい経ったか分からなかった。
「おい、起きろ」
怒ったような男の声で楓は起こされた。
さっきと違った男が立っていた。
さっきよりも恐そうだと思った。
「男に抱かれたら必ず次の客までに身体を洗っておけ、分かったか!」
「……」
楓は眠さもあったが、抵抗感から返事をしなかった。
「返事は!」
「…はい……」
しかし、そんな抵抗感は男の勢いに負けてしまった。

「分かったらすぐに洗ってこい」
楓は力なく立ち上がり浴室に入った。
そこで表面だけ洗い、軽く身体を拭いて全裸のまま男のもとに戻った。
「何だ、その恰好は。女は胸元を隠すもんだ。そんな格好だと興醒めだろうが」
楓はダラダラと浴室に戻り、バスタオルを手に取った。
そして胸のところでバスタオルを留め男のところに戻った。
「いつもそれくらいのことはするように注意しとけ」
「……」
楓は返事しなかった。

男は楓の手首を掴むと、楓に手錠をかけた。
「何するんだ!」
「急に元気になったな。それくらい元気じゃないと調教し甲斐がないってもんだ」
男は楓の手錠にロープを回し、そのロープを天井のフックに回した。
そしてギリギリ爪先立ちできる程度の高さでロープを固定した。
「外せ」
楓は男を蹴り倒そうと必死に抵抗したが、天井で固定されたロープのせいで男には全く当たらなかった。
手錠が手首に食い込んで痛かった。
やがて楓は抵抗するのをやめた。

「それじゃこれをお前のオマタに入れてやるからな」
男はピンク色の棒状のものを楓に見せた。
バイブレータだった。
スイッチを入れると気持ち悪い動きをした。
『キュイ〜ンキュイ〜ンキュイ〜ン……』
淫らなモータ音が鳴っていた。

「やめろ、やめてくれ」
「お前みたいなじゃじゃ馬はこういうもんが好きなんだよ」
楓は男に左脚を捕まれた。
右脚だけで立っているのはものすごく不安定だった。
男を蹴ろうとしてもできなかった。
「それじゃ入れるぜ」
ゼリーを塗りたくったバイブレータが楓の股間に押し込まれた。
「痛い!」
男は楓の反応などお構いなしだった。

「この辺りかな…」
男がバイブの位置を探っていた。
あるところに当てられると、楓の身体がビクンと痙攣した。
「どうやらここのようだな」
バイブをその位置で固定して、男が楓から離れて近くの椅子に腰かけた。

楓は経験したことのない奇妙な快感に戸惑っていた。
その快感のせいで声をあげそうになった。
しかし声をあげれば負けだという意識から必死に声を抑えていた。

「おや、お前の太腿が何かで濡れてるぞ。おしっことも違うようだがな」
実際快感で愛液が分泌されていた。
女としての機能が働いているのだ。
「お前も感じれば濡れるようになってきたんだ。これで普通に男に抱いてもらえることができるぞ」
「…もう…やめろ…。…許してくれ……」
「女らしくするか」
「…分かった。…女らしく…するから…止めてく…れ……」
「そんな簡単に落ちちゃ面白くないだろう。もう少し頑張ってくれよ」
男はバイブの振動を強めた。
「わあああああ。やめろ、やめてくれぇ」
「ほら、女らしくないぜ。やっぱり口だけか?」
バイブがさらに強くなった。
「わああああああああ…。やめて…お願い…女らしくするから…。…止めてちょうだい……」
「もう少し様子をみないと信用できないな」
バイブでの調教は3時間に及んだ。
バイブごときに何度も何度もいかされてしまった。
楓の身体は女として機能するようになった。
同時に楓の男としてのプライドは粉砕されてしまった。


さらにまた違う男が食事を持ってきてくれた。
米粒が少し認識できる程度のものだった。
それでも楓は餓鬼のように貪り食った。
「すごい食欲だな。食事が終われば仕事の時間だ」
男が楓を抱き寄せた。
「今度は何をする…の…」
楓は意識して女らしく話した。
「なかなか可愛くなってきたじゃないか。俺はあいつほどSじゃない。お前を抱いてやるだけだ」
それでも楓は男のことを恐れていた。

男は恐れている楓を抱きかかえると寝室に運んで行った。
そこで楓に覆い被さりキスをし、時間をかけて前戯をした。
楓は男の優しい愛撫に無意識に声を出していた。
「…ぁ…ぃぃ……んんん……」
楓の女性器はすっかり受け入れ準備ができていた。
楓は男を受け入れるため自ら脚を広げた。
男のペニスがスムーズに入ってきた。
男の抽送の間おかしくなりそうな快感を感じていた。
楓は快感に喘ぎ声をあげていた。
男が楓の中に出したとき、楓は男にしがみついて快感に溺れていた。
「どうだ、気持ち良かったか?」
「ええ」
楓は素直に言った。

恐怖と優しさ、そんな中で楓の女性化教育は進んでいった。
教育係がメインだったが、それでも客が時々含まれていた。
楓はそんな数少ない客にもうまく対応できるようになった。
客がいなければ教育係の誰かが楓を抱いた。
楓は客よりも教育係に抱かれるほうが好きだった。
教育係のおかげで自然な女らしい言葉遣いはもちろん女らしい仕草も身についた。
いろいろな性技を覚えた。
嬉々として男のペニスを銜えるようにさえなった。

「あああ……いい……もっと突いて……わたしをめちゃめちゃにして……」
「楓…いくぞ……」
「ああ…きて…わたしも……あああああ……いく…いくぅ……」
そんな言葉も半分男を喜ばせる意味を込めて言えるようになっていた。


そうなると客も少しずつ増えていった。
そして客に抱かれれば確実に食事が与えられた。
客の数が増えていくにつれ、食事の質はあがっていった。
ほとんど教育係に抱かれることはなかった。
楓を買う男はそれなりに裕福な男たちのようだった。
それは楓にチップをくれることからも表れていた。
自由に外に出ることのできない楓にとって、お金をいくらもらっても仕方のないものだった。
それでもいつか訪れる解放の日のためにお金はタンスの奥に隠していた。


楓の日常は男に抱かれるだけだった。
男に抱かれているときは嫌な現実を忘れることができた。
楓は進んで男の性を求めるようになっていた。
杉野への復讐なんてとうの昔に忘れ去っていた。


『あなたのおかげでかなり儲けさせてもらったし、そろそろ自由にしてあげるわ』
女の声がスピーカーから流れた。
どういう状況の変化なのだろう。
楓は信じられなかった。
「また何か別のことをさせようって言うんでしょ?」
楓は心底そう思って聞いた。
『実はあなたを身請けしたいっていう人がいるのよ』
「誰?わたしのお客さん?」
『そうよ、岩清水さんよ』

楓にとって岩清水耕造は不思議な上得意客だった。
年齢は明らかに60歳を越えていた。
そんな年齢のせいか性的には決して強いほうではなかった。
胸を揉むだけで、あとは話を聞くだけということもあったくらいだ。
それでも定期的に来てくれる不思議なお客さんだった。
いったい何をしに来てるんだろうと思わないわけでもなかった。

正体も分からない老人に自分の人生を預けるには少し勇気がいった。
しかし今後楓が年齢を重ねるにつれ客が少なくなっていくだろう。
おそらく今の組織にとっても楓を高く売れるうちに売っておこうということなのかもしれない。
そう思うと岩清水の申し出を受けるほうが得策だという気がした。
ここにこのままいて、客がつかなくなったときにぼろきれのように捨てられるより、老人であっても愛人として生きるほうがずっとましなように思えた。


岩清水の申し出を受けることにしたことを伝えた翌朝にはドレスが届いた。
楓は届いたドレスを着た。
鮮やかなブルーのドレスだった。
それを着て身繕いを整えたタイミングに教育係の男が迎えにきた。
楓はタンスの片隅に置いてあったバッグにいくつかの化粧品を入れた。
もちろん男たちからもらったお金もバッグに入れた。

『それじゃお疲れ様。もうここには戻ってこないようにね』
スピーカーから女の声がした。
結局顔を見たことがなかった。
どんな女なのだろう。
いざ別れとなるとそんなことを考えていた。

「それじゃ行くぞ」
「部屋の掃除とかは?」
「どうせ専門の業者がやってくれる。この部屋を使う後釜も直に来るだろうよ」
楓の次の女性もすでに決まっているのかもしれない。


楓は玄関から外に出た。
女になって初めての外出だ。
何とも言えない気恥ずかしさを感じ、足がすくんだ。
「今さら何に戸惑ってるんだ。迎えの車が来てるんだ。急ぐぞ」
男が楓の腕を引っ張った。


車は特別仕様のロールスロイスだった。
運転手らしき男がおりて後ろの座席のドアを開けてくれた。
「それじゃ元気でな」
男が背中を軽く押した。
楓はなぜか急に悲しくなった。
男との別れに感傷的になってしまった。
これも女になったせいなのかもしれない。
「奥様、お乗りください」
運転手らしき男の言葉に楓は車に乗り込んだ。

連れて行かれたのはとても家とは言えないところだった。
お屋敷だ。
そのお屋敷には岩清水耕造が待っていた。

「わしの申し出をよく受けてくれた。感謝する」
「わたしこそあんなところから出していただきありがとうございます」
「早速だがこれにサインしてほしい」

秘書らしい男が楓の前に一枚の紙を置いた。
婚姻届だった。

「あ…あの…、岩清水さまはわたしのことを聞いてないんでしょうか?」
楓の質問に岩清水は表情ひとつ変えなかった。
「楓は男だったという件か。それなら知っている。これまでどういう人生を送ってきたかも大体のことは聞いている」
「それならどうしてわたしと結婚なんて…」
岩清水が椅子に座りなおした。

「おかしいか?わしはビジネスの世界だけで生きてきた。妻はいたが、あんなものは世間体だけの存在だ。女を抱きたければ金を出せばいい。そんな中でわしはお前と出逢い、安らぎというものを知った。お前といれば何も言わなくても癒されるのだ。乾いた心に水を撒いてくれる、それがお前だった。わしももう若くない。明日はもう死んでいるかもしれない。そんなわしだから、わしに安らぎをくれる楓がそばにいて欲しかったのじゃ」
「でも男どうしは結婚できないでしょ?」
「それなら心配ない。お前はその戸籍を使えばいい」
耕造が示したのは"中野美穂"という女性の戸籍だった。
両親はすでにおらず天涯孤独の身の上だった。
年齢は34歳。
楓は38歳だったから4歳若返ることになる。
しかしそのことは大きな問題になるとは思えなかった。
生来の童顔が功を奏して30歳前半に見られることが多かったのだ。
そのため、年齢が若返ったところで怪しむ者がいるとは思えなかった。
「わたしはこの中野美穂になるの?」
「そうだ。そうなればお前は生まれたときから女だったということになる。女だったらわしと結婚できるじゃろ」
「ええ、そういうことになりますね」
「どうだ、わしの妻になってくれるか?」

愛人になる覚悟でここに来た。
それなのに妻になれるというのだ。
『女の幸せ』という言葉が頭をよぎった。
訳の分からないまま性転換させられ、男に身体を預けるだけの生活に明け暮れた。
そんな地獄のような生活からひょんなことから抜け出すことができただけでも幸運だった。
それに加えて妻の立場を手に入れようとしている。
想像を越える運命の悪戯に不思議な気がした。

少しの沈黙の後、楓は静かに肯いた。
なぜか楓の目からは涙が零れていた。
(どうしちゃったんだろう?)
楓は婚姻届にサインをした。
楓は岩清水の妻となり、岩清水美穂となった。

岩清水は日本を代表する商社の会長らしかった。
そのためにいろんなパーティに連れ回された。
出席者は政治家や経営者といった社会的に地位のある者たちだった。
何人かは見覚えのある顔だった。
楓を抱いた男だったのだ。
しかし相手はそんな素振りは全く見せない。
初めて会ったかのように楓に接してきた。
楓も岩清水の妻として、妻の役割を果たしていた。

元男であり娼婦でもあったことで自ら前面に出るようなことはしなかった。
そんな姿はつつましやかで貞淑な妻のように見えた。
そのおかげで皆の評判はよかった。

しかしそんな上流社会に参加するようになっても治せないことがあった。
永年の娼婦生活のためか3日男に抱かれなければ鼻血が出るのだ。
しかし夫である岩清水は楓の性欲を満たすことはできなかった。
そのためエステに通い、若さに磨きをかけ、男を漁った。
娼婦経験で身につけた男に媚びる仕草は楓の武器だった。
面白いように男にもてた。
ほぼ毎日違う男との逢瀬を楽しんでいた。


そんなとき杉野からアプローチがあった。
手紙が届いたのだ。
封筒に書かれている住所は不完全だったが、岩清水ほどの有名人ならば町名程度まで書いておけば手紙が届くようだった。
実際番地は間違っていたが、こうして楓の手元に届いたのだ。

手紙の内容は脅迫だった。
あるパーティで楓を見かけたらしかった。
楓の正体を岩清水にばらす、ばらされたくなかったら5千万円出せという内容だった。

岩清水は楓の正体を知った上で結婚してくれたわけだから、ばらされても何も困ることはなかった。
だから楓は無視することに決めた。

しかし2週間ほどすると再び手紙が届いた。
内容はほとんど同じだった。
ただし、待つのは1週間だけだ、返事がなければマスコミにこのネタを売ると書いてあった。

仕方がないので楓は岩清水に相談した。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
「たぶん…なんだけど、わたしを女に変えたのは杉野だと思うの」
「ほぉ、昔はお前を女にし、わしの妻になれば今度は脅迫か。お前にとっては疫病神みたいな人間だな」
「今のわたしはあなたの妻になれて幸せだけど、それまでは本当につらかった。だから、杉野のやつにも同じ苦しみを味あわせてやりたい」
「それがお前の本心か?」
楓は黙っていた。
本心と言えば本心だが、もうひとつ杉野が犯人だという確信が持てない。
「本心だけど、杉野が犯人かどうか確証がないの。だから本当に杉野が犯人かどうか調べてみるわ。それからでも遅くはないでしょ」
「どっちにしても美穂にとってあまりいい人間でないようだからそれなりの対応をせんといかんようだな」
「とにかく3日ほど時間をちょうだい。ちょっと調べてみるから」
「わしのほうでも杉野というやつをどうするか考えておくとしよう」
岩清水は不気味な笑いを浮かべた。


楓は真相を調べるために記憶にあった木下の携帯に電話をかけた。
呼出し音は問題なく鳴っている。
まだ携帯は生きているようだ。
なかなか出なかった。
諦めて切ろうとした。
そのときに受話から懐かしい声が聞こえた。
「もしもし」
聞こえてきたのは確かに木下の声だった。
楓は慌てて返事した。
「もしもし、木下さんですか?私、岩清水って言います」
「岩清水…さん?」
木下は聞き覚えのない女の声に警戒しているようだ。
「あの少しご相談したい件がありまして、ぜひお会いしたいのですがよろしいかしら?」
「すみません、私も忙しいので、そのような約束はできかねます」
「そんなこと言わないでお願い。7時にニューオータニのロビーで待ってるわ。じゃあね、みつきち」
"みつきち"は楓と木下の間でだけが使っていた木下のニックネームだった。
「ちょっと待って…」
木下の叫び声にも似たそんな声が受話器から聞こえた。
それを聞いて、楓は電話を切った。
おそらく"みつきち"という呼び方が気になって木下は来てくれるはずだ。
楓はそう確信していた。


楓は約束の30分前に約束のホテルに行った。
そしてホテルの一室を取ってから、ロビーに行った。
そこにはすでに木下の姿があった。

「木下さんね?」
「はい。あなたは?」
「岩清水と言います」
「岩清水さんって岩清水会長と結婚なさった?その岩清水さんが私に何か?」
「こんなところではなんですから、お部屋に行きません?」
楓はルームキーを見せた。
木下は訝しげな顔をしながらも楓にしたがった。

二人は部屋に入った。
木下は楓の言葉を待っているようだった。
「とりあえず椅子に座りませんか?」
楓は木下に座るように促した。

「久しぶりだな、みつきち」
楓はあえて口調を変えた。
そんな楓に木下が驚いていた。
「俺だよ、部田だよ」
楓は木下に笑顔を向けた。
「トリタ…えっ、あの部田さんですか?」
「ああ、あの部田だ。部田楓だ」
「生きておられたんですか?…それにしてもその姿…どうしたんですか?」
楓は驚いている木下にこれまでの簡単に説明した。

「いったい誰がそんなことを…」
木下は怒りで身体が震えているようだった。
「分からない。分からないが、杉野が怪しいんじゃないかと思うんだ」
「そう言えば、部田さんがいなくなると、すぐ社名変更の準備を進め出しましたよ。秘密裏に部田さんとともに進めていたことだって言ってましたけど」
「杉野がやりたいようにするためには俺が邪魔だったんだ。だから俺を女にしてシャバにいられなくしたんだ」
「となるとやっぱり杉野さんが…」
「ああ、首謀者を杉野と考えるのがいいみたいだな」
楓は杉野が首謀者であるようにしか考えられなかった。

「ところで部田さん、本当に女の身体になってしまったんですか?」
「ああ、そうだ。お前の相手だってできるぞ。何なら相手してやろうか」
「いいんですか!?」
「本気にするやつがあるか。冗談、冗談だよ」
しかし木下の目はマジだった。
「おい、待て」
楓は木下を制止するしかなかった。
しかし木下はすでに制御不能だった。
「だって部田さんがそんな魅力的な女性になるなんて。そんな魅力的な女性になって僕の前に現れるなんて」
木下は楓を引き寄せ、強く抱き締めた。
「何するんだ。離せって」
楓は木下から離れようとしたが、木下の力には全然敵わなかった。
木下は楓にキスしてきた。
楓は驚いて目を見開いて、木下にキスされていた。
「どうしてキスなんかするんだ?」
「僕、部田さんのこと出逢ったころから好きだったんです」
「お前、ホモだったのか?」
「いいえ、部田さんだからです」

再び木下の唇が重なった。
木下は楓のことを女と見てくれている。
そう感じることができた。
楓は木下のことを愛おしく感じた。
木下の首に腕を回してそれに応えた。
「いいんですか?」
そんな楓に承諾を求めるように木下は聞いた。
「出逢ったころならともかく今は男と女なんだから問題ないだろ?」
「そうですね」
そう言いながらゆっくりと楓をベッドに横たえた。

「部田さん」
「何だ?」
「その話し方何とかなりませんか?」
「どうしてだ?……あ、そうか。これだとムードもへったくれもないもんな」
楓は木下とキスした。
「本当に元男で元上司のわたしとするの?」
「さっきも言った通り部田さんのことが好きなんです」
「部田さんじゃなくって美穂って呼んでいいわよ」
「いや…僕としては……」
「ん?」
楓は木下の顔を覗き込んだ。
木下は恥ずかしそうに視線を外した。
「楓さんって呼びたいんですけど、いいですか?」
「えっ?それはちょっと…」
楓は"岩清水"とか"美穂"と呼ばれることで自分ではない人間を演じているような感覚があった。
そのおかげで男に抱かれる違和感から逃れていたのかもしれない。
しかし"楓"と呼ばれると紛れもない自分自身が抱かれることになってしまう。
そのことにどうしようもない違和感と羞恥を覚えるのだ。
「楓さん」
そう言ってもう一度唇を重ねた。
木下の舌が口の中に入ってくる。
楓は木下の舌を追うように自分の舌を絡めた。
木下は「楓さん…楓さん…」と呟きながら、耳・頬・首を舐めた。
楓は気恥ずかしさを感じながらも、木下の愛情を感じるような気がした。

木下は不器用に楓の服を脱がせようとした。
何となくその不器用さが嬉しかった。
「待って、皺になっちゃう…」
楓は自ら服を脱いだ。
木下も全裸になった。
「楓さん、綺麗だ」
楓はこれまでも綺麗だと言われたことはあった。
しかし本当の自分自身のことを綺麗だと言われたように感じた。
なぜか物凄く興奮していた。
「みつきち、来て」
楓はかつての部下に身体を開いた。
木下の硬くなったペニスが入ってきた。
「…はぁ…ん……んん……」
これまで何人もの男のペニスを受け入れてきた。
そんな楓が入れられただけで絶頂を覚えた。
木下が動くと、本当に気が変になると思えるほど感じた。
何度も木下の腕の中で気を失った。
ついに木下が楓の中で弾けたとき楓は木下の腕の中で身体を痙攣させて完全に気を失った。

気がついたときは木下の腕枕で横になっていた。
木下がじっと楓の顔を見ていた。
「よかった。生きてた…」
楓は木下に覆い被さってキスをした。
「どうしたんですか?」
木下は驚いて楓から離れた。
そんな木下の態度で楓は我に返った。

「みつきち、お前ってセックスうまいんだな」
「そんな言い方しないでくださいよ」
「もう一回するか?」
楓にとってそれは単なる照れ隠しだった。
しかし本心でもあった。
もう一度木下に抱かれたい。
楓は短時間で女として木下のことを愛してしまっていた。

二度目の営みを終えて、楓は木下と裸のまま抱き合っていた。
「これからも会ってくれる?」
「ああ、楓が会ってくれるならな」
2回の交わりの結果『楓さん』という呼び方が『楓』になっていた。
楓はそんな呼ばれ方が心地良かった。
二人は時間が許す限りお互いを求めあった。



「それでどうなんだ?お前を女にした奴は分かったのか?」
あれから3日経ち、岩清水は楓に確認した。
「やっぱり杉野みたい」
楓は答えた。
「そうか。でどうする?あいつに復讐するのか?」
楓はゆっくり肯いた。
「杉野のやつもわたしのように女にしてやりたい」
「そうか。ならすぐに手配してやろう」
「でも…」
「なんだ?」
「もしかすると杉野の身に何かあれば、わたしの秘密をマスコミに流すかもしれない」
「お前が元男だったということか」
「…ええ…」
「それは大丈夫だ。わしが手を打つ」


杉野の処置はすぐに行われた。
杉野は捕えられ、有無を言わさずに性転換手術が施された。
その手術の現場には楓がいつも同席した。
「やめろ、やめてくれ。俺は何もしていない」
そんな杉野の叫び声が楓の耳にこびりついた。
杉野は女にさせられ、昔の楓のように男の性処理の相手をする身分になってしまった。

杉野がマスコミに楓のスキャンダルを漏らすことを恐れていたが、特に何も起こらなかった。
素早い岩清水の対応に杉野は何もできなかったのだろう。
あるいは岩清水がマスコミを黙らせたのかもしれない。
いずれにせよ楓に平穏な日々が戻ったようだ。


楓はそれからも木下と会った。
会えば必ず抱かれた。
かつての上司と部下が、今は女と男の関係になっていた。
しかも浮気などというレベルではなく、かなり本気の交際だった。


そんな楓の心変わりは当然岩清水が気づかないはずがなかった。
岩清水は楓の過去を徹底的に調査するよう部下に命じた。

岩清水の調査メンバーは優秀な者が多かった。
楓が女にさせられた事件の全容をほとんど明らかにした。

首謀者は杉野ではなかった。
森崎と木下の二人だったのだ。

二人はそれぞれ楓と杉野に取り入りながら社長の座を狙っていた。
そんな中、楓が酔っ払ってニューハーフたち罵詈雑言を浴びせるという事件が起こった。
そんなニューハーフたちが「あんな奴をおかまにしちゃえば意外とはまっちゃったりするんだよね」と話しているのが聞こえた。
そんな言葉がヒントになって今回の計画が浮かび上がったようだ。

杉野の仕業に見せかけて楓を女にするのだ。
そして、楓に杉野に対して復讐させようというのだ。
二人が失脚すれば会社は自ずと自分たちのものになる。
そういう計画だった。

おかまの仕業と思わせるために最初楓に仕掛けたときに森崎と木下が女装して楓に接した。
女装した二人が楓に性転換することを告げたのだ。
性転換手術が終わると、性転換女の売春を斡旋している組織に楓を売った。
そしてその最初の客として杉野を送り込んだのだ。
そもそも楓の存在を疎ましく思っていた杉野だ。
女になった楓の処女を奪えるという誘いのメールを送れば簡単に行動を起こすはずだ。
二人はそう思っていた。
そして杉野は二人の期待に応えた。
一方、杉野が最初の客になったことで楓には杉野の仕業という考えが生まれた。

それから楓は男に抱かれることで、どんどん娼婦に染まっていることを組織から聞いていた。
楓は二度とその組織から抜け出せないと二人は信じていた。
しかしそんなときに計画外に岩清水が法外な金額で楓を身請けしてしまったのだ。

そのことを知っても、岩清水は経済界では強大な力を持っているために迂闊には手を出せない。
二人が二の足を踏んでいる間に、杉野が行動を起こしていた。
不景気のため経営コンサルタントの依頼が減り、苦しくなった資金繰りを何とかしようと楓を脅したのだった。

岩清水は全容が分かっても、楓に話さなかった。
杉野に罰を与えて、木下のもとから楓の心が戻ってくれば不問にしようとの考えだった。



しかし、話は岩清水の期待した方向には向かわなかった。

ある日、楓は岩清水に木下に対する気持ちを打ち明けた。
最悪離婚されるかもしれない。
一方では離婚されてもいいと思った。
だから話したのだ。

「…そうか。それで、美穂、お前はどうなんだ?その木下とかいう男と結婚したいのか?」
「ええ、ごめんなさい」
「そうか。しかしわしはお前の浮気は許すが、本気は許さないからな」
岩清水は唸るように、調査で分かったことを楓に話した。
楓は息を詰めて聞いていた。
岩清水が全てを話し終えても、楓は何も言わなかった。

「信じられないかもしれんが、これがわしの部下が調べた事実だ」
岩清水は"事実"という言葉に力を入れた。

楓は思い出した。
あのときのおかま二人を。
そう言われるとあの二人は木下と森崎だった。
見たような気がしたのは前の日のおかまたちだからと思っていた。
しかし、実際見たことがある人間だったのだ。

「この二人も女にするか?」
「もういいわ」
岩清水に問われた楓は首を振った。
木下のことを愛してしまったこともあったが、復讐することに疲れたのだ。
「もう木下には会わない。だからこの二人には何もしないで」
「美穂がそれでいいと言うのならわしは何もせん。ただし、こいつらが美穂に何かしてくれば、そのときは美穂に相談せずに罰を与えるからな」
「ええ、それでいいわ」


結局その後も木下からのアプローチはなくならなかった。
楓が無視しても木下は楓のことを諦めなかった。
その姿はまるでストーカーだった。
木下もまた楓を本気で愛していたのだ。

しかしある日を境にそんな木下の姿は消えてしまった。
おそらく岩清水の仕業だろう。
楓はそう思うだけで岩清水に確認することはなかった。
念のために森崎についても調べたが、同じように行方が分からなかった。

もう二度と自分が男だったことを思い出すことはないだろう。
これからは岩清水の妻として生きていこう。
楓は改めてそう決心した。


《完》

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