沙亜矢の憂鬱


この作品は私の自叙伝風でお送りします。
ただし内容はほぼ100%フィクションです、悪しからず。


「あ〜あ、全然思いつかないや」
僕は愛用のMacBookを閉じて寝転んだ。

僕はいわゆるTSに関する小説をブログで書いてインターネットで発表している。
TS、すなわちtrans-sexual、性転換。
しかも MtF、Male to Female。
女から男へではなく、男から女への変身を題材とした小説を書いているのだ。

僕が社会人になって3年が経ち、会社では自分なりに仕事ができるようになっていた。
そのため会社ではそれなりに充実していた。
そして会社の外でも充実できる"何か"を探していた。

そのころ、世間ではブログというものが流行っていた。
そのブログを使えば何か充実したものを見つけられそうな気がする。
そこで、大好きなサッカーを題材にしたブログを開設した。
地上放送はもちろんBSデジタルやCS放送などのサッカーの放送予定を掲載したり、サッカー観戦記を載せたりした。
しかし思うようにアクセスは増えなかった。

(もっとターゲットを絞る必要があるな)
そこで思いついたのがMtFだった。

僕は中学生のころにたまたま「ボクの初体験」という漫画に出逢った。
脳移植で男子高校生の脳が女の身体に入れられるというギャグ漫画だ。
それを読んだときに異常な興奮を覚えた。
性同一性障害とは違う。
それほど深刻なものではない。
しかし僕は女の子になりたいと思った。
寝る前には女の子になった自分を妄想した。
気になる女の子と入れ替わったときのことを妄想した。
妄想だけではなく、親の目を盗んで姉の服を着たこともあった。
母の化粧品を使って、化粧の真似事をしたこともあったのだ。

ダイアルアップでインターネットへ接続できるようになったころ、24時間女性として生活している人のサイトを見つけた。
そしてそのサイトを興奮した思いで読んだ。
常時接続の環境を手に入れるとTSサイトを探しまくった。
とくに前橋梨乃さんのサイトを見つけたときは感動モノだった。
TSを材料にして、こんなにレベルの高い小説が存在するなんて信じられなかった。
インターネットにはこんなプロの方の作品だけでなく、様々な素人の人の作品が存在した。
そんな作品を僕は寝る時間を惜しんで読んだ。
しかし、僕はだんだんインターネットの作品に不満を覚えるようになった。
僕の求めているのとは少し違う。
そんな違和感を覚えたのだ。

そんな背景があったせいで、僕はブログを使ってMtFの作品を書こうと思いついたのだ。
しかし僕は小説なんか書いたことはない。
そんな僕が長く小説を載せるサイトを続けられるわけがないのだ。
どうせすぐにやめてしまうのがオチだ。
それでも僕はサイトの名前に凝った。

僕の名前は島津直也という。
「SIMAZU NAOYA」。
このアルファベットを入れ替えてペンネームにしよう。
そう考えた僕はかなりの時間考えに考え抜いた。
そしてできた名前が「MIZUNO SAAYA」。
漢字は僕のセンスで「水野沙亜矢」とした。
我ながらなかなかうまく名付けたじゃないか。
僕はひとり悦に入った。
そしてサイト名は「沙亜矢のMTFワールド」と名づけた。

最初は自分が書きたいものを書いた。
自分が読む立場になって考えると、定期的に更新されるサイトは確実に見に行く。
だからアクセスを増やすために1日おきに更新することを自分に課した。
そのおかげか少しずつアクセスが増えてきた。
『異性体のアンテナ』に載せてもらうといきなりアクセスが増えた。
さらにcheerkyさんのサイトからリンクを張ってもらうと、さらにアクセスが増えた。
アクセスが増えると書くことが楽しくなってきた。
しかしアイデアはだんだん枯渇してきた。
それでも何とか絞り出して書いた。
書くことで読んでくれる人とつながっていられるような気がしたからだ。

しかしついには何も浮かばなくなった。
僕は1日おきのサイト更新のルールを自ら放棄した。
自分の決めたことを実行しないなんて男の風上にもおけない。
そんな僕に神様は罰を下した。
翌朝目を覚ますと、僕の身体がとんでもないことになっていたのだ。



朝はいつもと同じように訪れた。
枕元に置いてある時計を見ると、そろそろ起きる時間になっていた。
(さあて、そろそろ起きるか)
僕は目を擦りながら上半身を起こした。
(?)
何かが違う。
でも何が違うのか分からない。
僕は首を傾げながらトイレに入った。
そしていつものように取り出そうとしたが、摘まみ出す物に触れることができない。
「えっ?」
僕は急いでトランクスを下ろした。
そして自分の股間を見ようとした。

その視界に僕の胸の奇妙な膨らみがはいってきた。
その膨らみの向こうには見慣れたものはなかった。
このときになってようやく頭に嫌な予感がよぎった。
いつも自分が面白おかしく小説に書いていること。
それが自分の身体に起こったんじゃないかということ。
「嘘だろ!」
僕は用も足さずに洗面所に走った。

パジャマ代わりに着ているTシャツを捲った。
するとそこにはある意味予想通りのモノがあった。
おっぱいだ。
白い可愛いおっぱいが僕の胸についていた。
いつも自分が小説で書いているのに比べてやや小ぶりなものだった。

僕は慌ててTシャツを完全に脱ぎ去った。
そして、トランクスも脱いで、全裸になった。
そこに映っているのは女の子の裸だった。

確かに僕の顔だった。
確かに僕の顔だったが、何となく印象が違う。
いつもの僕の顔に、微妙に優しい印象が加わったように思えた。
そのせいか女の身体に男の頭がついたような違和感はなかった。
可愛い女の子だった。

身体は完全に女だった。
小さいが確かに乳房が存在した。
ペニスはなく、逆三角形の陰毛が見えるだけだった。
この陰毛の中にはおそらく想像のものがあるんだろう。
お尻が大きくなったせいかウエストに見事な括れができていた。
身長は変化がないようで、長身のスレンダーな女性だ。
長身といっても僕の身長は168センチしかない。
男としては低めの身長も女の姿になると高い印象になる。
(ちょっと身長はあるが、なかなか可愛い女の子だな)
僕は無意識のうちに鏡に映った自分を自分ではないひとりの女性として値踏みしていた。
あり得ないことが自分の身に起こっているのだ。
まったくの他人のように考えたくなるのも仕方ないだろう。


次の瞬間、僕は我に返った。
(おいおい、何考えてんだ、僕は)
確かにいつも小説に書いていることだ。
夢にまで見た状況だ。
小躍りして喜ぶべき状況だ。
しかし、こんなことが実際自分の身体に起こってしまった今、その事実を簡単に受け入れることはできなかった。
頬をつねってみた。
「痛い…」
それでもやはり現実のようだ。
(いくら何でも本当にこんなことが起こるはずがないだろ)
そう思うが、鏡に映っていることは現実だ。
「どうすればいいんだよ……こんなことになっちゃって………」

時間は会社に行く時間が迫っていた。
(どうしよう……どうしよう……どうしよう………)

生きていくために働かないといけない。
女になったからと言ってそれは変わらない。
明日戻れる保障があるのなら今日は有給休暇使えばいいだろう。
僕は迷った。
迷いに迷った末、会社に行くことにした。


トランクスを穿き直し、下着のシャツを着た。
やはり胸の膨らみが気になる。
試しに軽くジャンプしてみた。
胸の先がシャツに擦れて妙な感じだ。
シャツを脱いで、タオルを巻いてみた。
何かブラジャーみたいだ。
でもそのおかげで少し落ち着いた。
再びシャツを着て、再度ジャンプした。
大丈夫みたいだ。
僕はワイシャツを着た。
そしてスラックスを穿いた。
お尻が大きくなったせいでお尻を通すのに一苦労した。
しかし逆にウエストがぶかぶかだった。
(何か変な感じだな)
自分の体形が変化していることを嫌でも意識させられる。
そんなことを感じながらネクタイを締めた。

そしてスーツを着て、鏡を見た。
そこに映っているのはいつもの僕ではなかった。
どう贔屓目に見ても男装している女性だった。
(こんなんで大丈夫かな?)
僕は不安に思いながらも、行くしかなかった。

「あっ」
僕は尿意を覚えた。
起きてからトイレに行っただけで、小用を済ませてなかったのだ。
(するしか…ないよな……)
僕はトイレに入り便座を下ろした。
そしてズボンとトランクスを下ろし、便座に腰かけた。
「やっぱり何もないんだ…」
僕は自分の股間を見つめた。
なぜか涙が一粒流れた。
(僕はどうなっちゃうんだろう)
僕は流れるおしっこを見つめていた。
おしっこをし終わるとトランクスを上げようとした。
(拭かないといけないのかな)
僕は座りなおして、トイレットペーパーを取った。
そしておしっこが出たらしいところを押さえるように拭いた。
これが初めて女になった陰部を触った瞬間だった。
触ってはいけないものに触れた気がして、僕は急いでトランクスとズボンを上げた。

僕はいつものようにズボンの後ろポケットに財布や定期入れを入れようとした。
しかしお尻が大きくなったせいかズボンのポケットには入らない。
無理して入れればSUICAが反ってしまいそうな気がした。
仕方なくズボンのポケットには何も入れず、全て鞄の中に入れた。

マンションを出るときに隣のおばさんに出会った。
隣のおばさんは僕を見ると挨拶してくれた。
「あら、島津さん、行ってらっしゃい」
僕を知っている人は僕として認めてくれるようだ。
そこで僕も「おはようございます。行ってきます」と返した。
このときになってようやく気がついた。
声も変わっていることに。
隣のおばさんは僕の挨拶に小首を傾げていた。
僕はおばさんから逃げるように表通りに急いだ。


道行く人全員が僕のことを見ているような気がした。
僕は全く顔を上げることができずに駅に向かった。
僕は駅に向かう途中、起きてから何も食べてなかったことを思い出した。
しかしこんな状態で食欲なんか湧くわけがない。
それよりも歯磨きすることを忘れたほうが気になった。
僕は口臭にはそれなりに気をつけているのだ。
そこで駅の売店でガムを買った。
お金を払うとき店の人が僕を見て怪訝な顔をした。
僕は急いで店を後にした。
「ねえ、今の人、女の人よね?どうしてあんな恰好してるのかしら?」
店の人のそんな会話が聞こえてきた。


会社に到着した。
「おはようございます」
誰かから声をかけられた。
しかし僕は声を発することができない。
挨拶の声のするほうに会釈して自分の席に座った。
僕の席の周りに何となくざわついた空気が流れている。
すでに周りの者は僕の異変に気づいているようだ。

「中山部長、ちょっといいですか」
僕は意を決して部長に事情を話すことにした。
「ん?どうした?」
部長は僕のほうに顔を向けた。
「えっ…と……島津くん…かな?」
「ちょっとこちらに来てもらえますか?」
僕は声の変化に気づかれないように声を押し殺して言った。

僕はPCを持って部長を誰も使っていない会議室に招き入れた。
「どうしたんだ?」
「中山部長、僕は島津直也に見えますか?」
「ああ、見えると言えば見えるが、何となく違うような…」
「どう違います?」
「そうだな、何となく女っぽいというか…」
「そうなんです。実は今朝起きたら女性の身体になってたんです」
「そんなことあるわけないだろう。手術でもしたのか」
「昨日は普通に出社してたことは部長もご存知ですよね。一晩で性転換手術なんかできるわけないでしょう。本当に朝起きたら女の身体になってたんです。何なら僕の胸と股間を触ってみてください」
部長は僕の胸に手をあてた。
「ん?よく分からないな」
僕はタオルのせいだと思い当たったが、なぜか自尊心が傷ついたような思いだった。
「よく見てください」
僕は少しむきになっていた。
スーツを脱ぎ、ネクタイを外し、カッターのボタンを外した。
目の前の部長が唾を飲み込んだような気がする。
僕は巻いていたタオルを取り、下着のシャツを捲りあげた。
「えっ!?」
驚いたような声をあげたが、一方では目が厭らしく笑ったような気がした。
僕は急に恥ずかしくなり、急いでカッターのボタンを留めた。
「どうですか?おっぱいがあったでしょ?」
「ああ、確かにあったな」
「もしかしたら島津くんのお姉さんか妹さんで、私をからかってるんじゃないのか」
「そう言われるかと思ってこれを持ってきました。ちょっと見てください」
僕は持ってきたPCを立ち上げた。
「うちの会社のPCって指紋認証ですよね?」
僕は立ち上げ時に指紋読取機に右手人差し指をあてた。
無事にPCが立ち上がり、ブラウザには「島津直也」と表示されていた。
「確かに島津くんのようだな。それにしても…」
「何ならサーバールームで虹彩認証してみましょうか」
僕は管理職以外で唯一サーバールームに入れる人間なのだ。
大学時代にサーバーやネットワークの管理をしていたため、入社してからも部門のコンピュータ関連の管理をさせられていたのだ。
「いや、もういい。君が島津くんだと信用しよう。それでこれからどうするかだが」
「どうするか…って?」
「島津くんが女になったということが皆に知れたら、どうしても好奇の目で見られるだろう。つらいだろうから少しの間自宅で様子を見るというのもアリだろう?」
「そうですね、確かに皆から変な目で見られるかもしれませんね」
「どうする?」
「いつ戻るか分かりませんし、部長のお許しさえいただけるのでしたら普通に働きたいと思います」
「そうか。ならそうしよう。それじゃすぐに皆に説明するぞ、いいか?」
「はい」

事務所に戻ると中山部長が皆に集合をかけた。
「ちょっと、みんな、集まってくれるか」
部のメンバーが部長の席の周りに集まってきた。
「島津くんなんだが、本人もよく分からないらしいが、身体が女性になったそうなんだ」
部長の言葉に呼応するかのように周りの者が囁いた。
「やっぱり…」
「昨日は普通だったよな?」
「一晩で性転換なんかできるのか?」
そんな囁きが聞こえてきた。
「皆も戸惑うと思うが、本人が一番戸惑っている。だから皆でうまくフォローしていって欲しい」
「原因はよく分かりませんが、なぜか女性になってしまいました。いろいろとご迷惑をおかけしますが、助けてください。よろしくお願いします」
僕は挨拶した。
「声も可愛くなってるんだ」
「本当に島津さんなのかしら?」
そんな声が聞こえてきた。

「今本当に島津くんか、という声が聞こえたが、指紋認証システムでは確かに島津くんだと言っていたぞ。疑う者はあとでサーバールームに一緒に行ってみればいい。あそこに入れるのは責任者以外では島津くんだけだからな」
部長が皆の顔を見渡した。
「それじゃそういうことでよろしく頼む。手塚さん、島津くんのフォローを頼むよ」
部長は僕と同期の手塚優子に声をかけた。
「分かりました」
「とりあえずその服装何とかしてやってくれるかな?」
「そうですよね。かなり変ですもんね…」
「人事から制服もらってきてよ。人事には電話しておくから」
やはり僕の恰好はかなり変みたいだ。
それにしても制服とは…。

「島津くん、ちょっとこっちに来て…」
部長の話から小1時間ほど経ったとき、優子が僕を手招きした。
「何だよ」
僕は優子の後ろにしたがった。

連れて行かれたのは女子更衣室だった。
優子は何の躊躇いもなく入っていった。
優子には当たり前のことでも、僕にとってはハードルは高い。
そんな気楽には入れない。
僕はドアの前で固まってしまった。
「何してんのよ、早く入りなさいよ」
「だって女子更衣室だろ?」
「そうよ。だから何だって言うのよ。島津くんは女性になっちゃったんでしょ?ならいいじゃない?それとも嘘なの?」
「嘘なんかじゃ…ないよ……」
「嘘じゃないってことは分かってるわよ。だから助けてあげたいの」
「あ…ありがとう…」
「今のあなたの姿、どう見てもおかしいもん。だからさっさと覚悟決めて入って来なさい。そんなところで立たれちゃ皆に迷惑でしょ」
「…分かったよ」
僕は覚悟を決めて女子更衣室に入った。

「ここがあなたのロッカーよ」
そのロッカーには『島津菜緒』と書かれていた。
「島津菜緒?」
「そう、私がつけたの。だって女性なのに"直也"はおかしいでしょ?」
一瞬頭に"沙亜矢"という名前が横切った。
せっかく女性になったのなら"沙亜矢"という名を名乗りたいという欲求があった。
しかしそんなことを言えるわけもなかった。
僕は"菜緒"という名前を受け入れるしかなかった。

「ロッカー開けてみて」
優子に言われるままにロッカーを開けた。
そこには女子の制服がかかっていた。
うちの会社は一応制服が決められているが、受付の女の子や洋服代をケチりたいおばさんなど一部の女性が着ているだけだ。
男も含め大部分は私服で仕事をしていた。
もちろん優子も私服で仕事をしている派だった。

「何だよ、これ」
「制服よ、知ってるでしょ?」
白いブラウスと紺のベストとジャケットとスカートだった。
それにエンジのリボンがついていた。
「こんなの着れないよ」
僕は口では嫌がってみたが、内心では着たくって仕方がなかった。
自分が制服を堂々と着られるなんて夢のようだった。
自分の身に起こった異常事態に戸惑っていたことも忘れて制服を着られることだけに気持ちが高ぶっていた。

「そう思ってほら」
優子が出してきたのはパンツ版の制服だった。
そんなものがあったなんて知らなかった。
確かに女初心者にはスカートよりパンツのほうがいいだろう。
しかし僕にとっては目の前に出されたご馳走が、貧相な定食になったような気分だった。
そんな気持ちが顔に出ていたらしい。

「なあに、その顔。あからさまに残念みたいな顔して。もしかしてスカート穿きたかった、とか?」
優子の言葉に「そうだ」と言えたら、どれだけ楽なんだろう。
でも僕はそう言えなかった。
何て言っていいのか分からなくなった。
「とにかく、今の恰好じゃあまりにおかしいから、すぐに制服に着替えて。女性なんだからって言う言い方は個人的に好きじゃないけど、スカートのほうが自然だと思うわ。このパンツはダサいし」
そんな僕の気持ちを感じてか優子がそう言ってくれた。
僕は優子に命じられた体を装って制服に手を伸ばした。
(これを着れるんだ)
僕は制服を持ちながら、心の中では微妙に揺れていた。
着たい。
でも恥ずかしい。
僕の心には喜びと戸惑いが混在していた。

「どうしたの?早く着たら?」
「あ…ああ…」
僕は着ているスーツとカッターシャツを脱いだ。
そして下着の上からブラウスを着ようとした。

「ねえ、ブラジャーってどうしてるの?」
優子がすぐ後ろに立っていた。
「え…いや…別に……」
僕がどう言えばいいのか戸惑っていると、優子が下着を捲り上げた。
「何、このタオル。こんなのダメだって。ちょっと待ってて」
僕の胸に巻いてあったタオルを優子が奪い取り、それを持って更衣室から出て行った。

しばらくすると、何人かの女子社員たちを連れて戻ってきた。
「わあ、島津くんだぁ」
女子社員たちは僕の周りを取り囲み、僕の下着を奪い取った。
「綺麗なバストね」
誰かがそんなことを言った。
僕は恥ずかしくなって、胸を隠してしゃがみ込んだ。

「私、もうひとつブラ持ってるけど合うかな」
僕の前にブラジャーを出したのは高井久美子だった。
「えっ、何、これ?」
「私のよ。念のためにもうひとつ鞄に入れていたの。サイズが合うかどうか分からないけど貸してあげるわ」
「これを僕がつけるの?」
驚いている僕に優子が口を挟んだ。
「だって島津くんがブラジャーを持ってるわけないでしょ?だから誰か持ってる人いないか探しに行ってたってわけ」
だからさっき更衣室から出て行ったのか。

「私がつけてあげる」
田中美智子が久美子の手からブラジャーを取って僕の後ろに回った。
「そんなふうにしゃがんでちゃつけれないでしょ。さ、立って」
僕は胸を隠しながら立ち上がった。
「手がじゃま!」
僕は仕方なく手を下ろした。
すると美智子の手が僕の胸を掴んだ。
「柔らかぁい」
「やめろよ」
僕は美智子の手を振り払った。
「いいじゃない。女どうしなんだから」
「女どうしっていっても嫌なもんは嫌だよ」
そんな僕の言葉は完全に無視された。
「美智子だけずるぅい」
そんな声とともに無数とも思える手が伸びてきて、僕の胸を揉んだ。
僕はしゃがみ込んで必死にガードした。
それでも隙間から手が伸びて胸を揉まれた。
「やめろって」
なぜか僕の目から涙が零れた。
「あら、島津くん、泣いちゃったよ」
「本当。今どきの女の子は胸を触られたくらいじゃ泣かないよ」
「女の子初心者なんだからびっくりしたんじゃない」
「気持ちが弱くなってるのかもね」
皆が口々に話している。
しかし誰も僕に謝ろうとはしなかった。

「とにかく立って。早く着替えて仕事に戻らなくちゃ」
僕も泣いててはダメだと思い、優子の言葉におとなしくしたがった。
優子が美智子からブラを取り、僕につけてくれた。
「ストラップで調整したけど、それでもきついよね?」
「うん」
確かに締めつけられる感じが強かった。
「島津くんはアンダーバストが久美子よりも大きいみたい。カップは久美子ほどはないけどね」
確かに胸が締めつけれられるんだけど、カップはブカブカだった。
「島津くんはAか、よくあってBくらいみたいだもんね。私のはDだから合わないけど、パットでも入れて我慢してね」
久美子は何となく自慢げのように見えた。

そうはいってもパットはないので、ティシュをつめて誤魔化した。
「とりあえずこれで少しは落ち着いたでしょ。どう?」
「うん、そう言われればそんな気がする」
確かにブラジャーをしたことで胸元が落ち着いたような気がする。
「島津くんに合ったサイズを買えば、落ち着くっていう感じが分かると思うよ」
そんなものかなと思って、再度自分の胸元を見た。
自分の胸にブラジャーがついている。
何とも言えない喜びがあった。

「誰かカミソリ持ってない?」
僕は女性の身体になったからといって、無駄毛が自動的になくなっているわけではなかった。
女性らしい恰好をすると、腋から生えている毛がどうしても気になった。
「いいよ、今晩にでも自分で剃るから」
「制服の袖から腋毛が見えるなんていやでしょ?」
想像してみた。
確かにあまりいい感じではない。
「分かったみたいね。それじゃ綺麗にしようね」
僕は優子に腋毛を剃られた。

「制服は自分で着れるよね?」
「うん」
僕が制服を着ているのを、女子社員6人が見守っていた。

「あっ、島津くん、菜緒っていう名前になったんだ」
僕のロッカーに書かれた名札を見て、久美子が言った。
「そうよ。私がつけたの」
「菜緒って可愛い名前よね。今から島津くんじゃなくって菜緒って呼ぼうよ」
「そうね。そのほうが女の子どうしって感じが出ていいよね」
「それじゃ決定」

ようやく僕は制服を着終わった。
「わあ、菜緒、可愛い」
僕もそう思う。
「あとでストッキングを買ったほうがいいよ」
「いいよ、そんなの」
「昼休みにでも店に行きましょうよ」
何となくそんな話が決まっていた。

「はい、それじゃ仕事に戻るわよ」
優子の言葉に皆が更衣室を出て行ったが、僕は出て行くのを躊躇っていた。
やはり女子の制服で皆のところに戻るのは恥ずかしい。
「何してるの、大丈夫だから」
僕は優子に無理矢理引っ張られて部屋に戻った。

「おお〜」
僕が部屋に入ると、男性社員のどよめきが起こった。
男性社員はほとんど全員僕がどんな姿になって戻ってくるのかを待っていたようだ。
「なかなか可愛いじゃん」
「思ったより制服似合ってるよな」
どよめきの後にはそんな声が聞こえてきた。
僕は恥ずかしさを感じながらも嬉しくて仕方なかった。
そんな僕の表情を優子は見逃さなかった。
「ふふふ、菜緒ったら結構嬉しそうじゃない」
「そ…そんなことないよ」
僕は慌てて否定した。
しかしすぐに表情は弛んでしまう。
何だかんだ言っても褒められるのは嬉しい。
突然女になったことも何だか良いことのように思えてきた。
僕って単純だ。

そんなとき購買部の中谷和政がやってきた。
「おい、島津、お前、女になったんだって」
彼とは同期だったが、彼の図々しさに何となく性格が合わないようなものを感じていた。
「お前が女になりたがってるとは知らなかったなあ。その胸はパットか」
中谷の手が僕の胸を掴んだ。
「痛い!」
僕は胸を腕で隠した。
僕の声に優子と美智子が飛んできた。
「何すんのよ」
「何だよ。男どうしだから別にいいだろ」
「菜緒は今日から女性なんだからね。セクハラで訴えるわよ」
そんな優子の言葉に「今日から?明日には男に戻ってるかもしれないだろ」と心の中で突っ込みを入れていた。
僕って男に戻りたいんだろうか?
元に戻りたいとは思っているが、心の奥底で本当はどう思っているのか自分でも分からなかった。
(僕って男がいいんだろうか?それとも小説に書いているみたいに女に目覚めちゃうのかな?)
僕は腕で胸を押しながら、そんなことを考えていた。

「だって島津は男だろ?」
僕がボォーッと考え事をしているうちにも中谷が優子と言い合っていた。
「だから菜緒は女性になったんだってば」
「そんなこと言っても、昨日まで男だった奴の胸が本物だなんて誰も思わないだろう」
「だから菜緒自身も分かんないから悩んでるのよ」
「そうなのか」
「そうよ。それなのにあんたみたいな獣に胸を揉まれて可哀そう」
「可哀そうと言ってるわりには制服を着せたりして島津のことオモチャにしてるみたいだけどな」
「今朝は今の身体でいつもの男物のスーツを着てたのよ。すっごい変だったんだから。それを違和感のないようにしたんだからね」
「そうか。この部屋で制服ってのもかなり違和感あるけどな」
「何ですって!」
「…いや、そんなこともなさそうだな」
優子にそんなことを言って、そして僕に向かって「悪かった。ごめんな」と逃げるように去って行った。

「本当に男って乱暴よね?菜緒もわたしたち女性側に来れてよかったよね」
「あ…うん…」
僕は優子の勢いに押される形で頷いてしまった。
「手塚さん、おトイレ行きたいんだけど」
僕は小声で言った。
「ん?行けば?」
「どっちに行けばいいと思う?」
「…あ、そういうこと。当然女子トイレでしょ。ついて行ってあげようか」
「お願いします」
僕は優子と一緒にトイレに行った。
「本当に入っていいかな?」
「何言ってるの。そんな恰好で男子トイレに入ったら、それこそ問題でしょ」
「そりゃまあそうなんだけど、誰か入ってたら騒がれない?」
「大丈夫じゃない。菜緒が女の子になったのは有名だし。とにかくそんなことに悩まないでさっさと行ってきなさいよ」
「うん、分かった」

僕は意を決して、女子トイレに入った。
幸い誰もいなかった。
僕は個室のひとつに入ってスカートを下ろした。
トランクスが現れた。
(そう言えばトランクスだったんだ)
僕はトランクスのままだったことを思い出した。
(なんかおかしいよな)
ともかく用をすますことが先決だと思い、さっさとおしっこをして優子のところに戻った。
「意外と早かったのね。もっとモタモタするかと思ってた」
優子は口紅を塗り直していた。
(そうか。女性にとってトイレって用を足すためだけじゃないんだ)

僕は優子と部屋に戻って、仕事を続けた。
しかし、スカートの下にトランクスを穿いていることが分かると、何となく落ち着かなかった。
別にスカートの中を見る人がいるとは思わないけど、やっぱりおかしいような気がする。
そんなことを思うためか妙に落ち着かなかった。

12時になった。
「ねえ菜緒、急いでお昼行こうよ」
優子に背中を押されるように会社近くのマクドナルドに行った。
大急ぎで食べ、すぐにデパートの下着売り場に連れて行かれた。
「こんなとこに着て何すんだよ。ストッキングだったらコンビニでいいよ」
僕は小声で優子に聞いた。
「ストッキングなんて後でいいの。それより下着とか買わないといけないでしょ」
「そんなのいいよ」
一応僕は断った。
「だってブラはともかく下のほうはそのままでしょ」
優子は僕がトランクスのままだってことを分かってたんだ。
「そうだけど…」
「でしょ?」
「……分かったよ」
渋々承諾せざるをえなかった。
「とにかく女性の身体には女性の下着のほうが合うんだから。まずはブラね。サイズ測ってもらおうよ」
優子は店員を呼んだ。
店員は手早くサイズを測った。
アンダー75、トップ87。
ちなみにウエストは58でヒップは89だそうだ。
「AカップかBカップね」
優子がB75のサイズのブラジャーを取った。
「これはどうかな?」
5000円以上もする。
「こんなの高すぎるよ」
僕は店員の人に聞こえないように優子に言った。
「えぇー、だって可愛いのに。絶対菜緒に似合うって」
「とにかくこれはダメ。こっちにする」
僕はデザインはともかく安いものを手に取った。
これだと2000円でおつりが返ってくる。
「えぇ、そんなのおばさんがつけるブラじゃない。安いのがいいんだったらこっちはどう?」
優子が選んだブラは確かに可愛い。
でも3000円を超えてしまう。
「それじゃこの2つ試着してみれば」
迷っていると優子が言った。
「下着なのに試着していいの?」
「だって試着しないと自分に合うかどうか分からないじゃない」
「でも下着だろ」
「下着だからこそフィットしないとダメでしょ?」
男と女でこんなに価値観が違うんだ。
僕は驚いたが、そんなものかとも思った。
「私も一緒に行ってあげる。だって菜緒はまだ一人でうまくつけれないでしょ?」

有無を言わさずに優子が一緒に入ってきた。
「ちょ…ちょっと……」
「いいからいいから私に任せなさいって」
僕は上半身はだかになった。
「それじゃこれをつけて」
僕はブラジャーのストラップに腕を通した。
「はい、それじゃ少し前屈みになっておっぱいをカップに入れて」
言われた通りにすると、優子が後ろでフォックを留めてくれた。
そして優子の手が腋から前に回り込み、おっぱいの周りの肉もカップに入れた。
「はい、私のほうを見て」
言われた通り、優子のほうを見た。
「ちょっと待ってね」
そういって、ストラップを調整してくれた。
「どう?」
「うん、ちょうどいいみたい」
実際久美子のブラジャーをつけているときより、かなり落ち着くような気がした。
「そうみたいね。それじゃちょっと腕を動かしてみて」
僕は腕を回した。
ブラジャーのワイヤが痛い。
「ワイヤが食い込んでちょっと痛いんだけど」
「そう。それじゃ次はこっちね」
優子が選んだほうだ。
同じように優子につけてもらった。
こっちは腕を動かしても痛みはなかった。
「こっちは大丈夫っぽいよ」
「それじゃブラはそれで決まりね」
決まりと言ったって、ブラジャーだけで3360円は痛い。

「それじゃショーツはこれで決まりね」
選んだブラジャーとセットと思えるショーツを選んできた。
2000円を超えている。

(あ〜あ、下着だけで5000円超えてしまった)
僕は渋々5570円を支払って、会計を済ませた。

「じゃ、次はスーツね」
「スーツ?」
「今日はどうやって帰るつもりなの?」
「どうやってって?」
「制服で帰るわけにはいかないでしょ?今日着て来た男物のスーツで帰ることもできないし」
「別に男物のスーツでいいよ…」
「何だかんだ言ってももうすっかりその制服姿が板についてきたでしょ?今さら男の服なんて着れないんじゃない?」
優子に言われてみて、僕は女の制服に違和感を感じなくなったことに気づいた。
「でもお金が…」
「少々の出費は気にしない、気にしない。男でしょ」
そんな優子の言葉に「今は女なんだけど」と小声で言い返したが、優子は僕の気持ちなんか全然気にしてないようだ。
僕は優子に言われるまま、婦人服のフロアに着た。
優子はいろいろと物色しているが、僕としては早く終わらせたかった。
「この辺りでいいんじゃない?」
優子が持ってきたのは黒のスーツだった。
「うん、これでいい」
さっさと終わらせたかった。
「サイズを見ておかないと」
僕は優子に背中を押されて事務的に試着室に入った。

「それじゃ私もちょっと見たいから一人で着てね」
(ブラのときは一緒に入ってきたくせに…)
優子が一緒に入ってくれないことを何となく不満に思った。
決して見せたいわけではないが、優子に冷たくされたように思ったのだ。

制服のブラウスはそのままでスカートを穿いた。
お尻を通すのに少しきつい感じだったが、ウエストは決してきつくなかった。
横のフォックを留めてファスナーをあげて、自分の姿を確認した。
斜めにラインの入ったシンプルなデザインだ。
膝上5センチ程度のミニスカートだけど、結構似合ってるように思える。
スーツを着るとイッパシのOLに見えた。
それにしても女のスーツはボディラインを強調している。
僕は結構いいプロポーションのようだ。

(こういう恰好をすると髪が気になるなあ)
僕が髪を手でボリュームをつけていると、カーテンが開いた。
「菜緒、着れた?」
「うん」
「いいじゃない。これにしなよ」
「うん」
「それで、こんな服を着ちゃうと髪型が気になってきたの?」
優子には隠し事ができないようだ。
「とにかくお会計済ましてくれば?」
僕は8820円を支払った。
さらに踵のそれほど高くないパンプスを3000円ほどで買った。


僕と優子は紙袋を抱えて会社に戻った。
優子が部長に何か話している。
「それじゃ着替えに行きましょう。部長には話しておいたから」
「えっ、本当に?」
「制服だとあの部屋では浮いてるでしょ?」
確かにそう言われると浮いているような気がする。

女子更衣室に入った。
「とにかく早く着て。下着まで全部ね」
優子が僕を急かした。
僕は仕方なく制服のジャケットを脱いだ。
ふと優子を見ると、楽しそうに僕を見ている。
「見るなよ」
「いいじゃない。女どうしなんだから」
僕はスカートを穿いたままトランクスを脱いだ。
「なあんだ。スカートを脱いで欲しかったなあ」
「痴女か!」
「そうだよ。だって菜緒ってば結構いやらしいプロポーションしてるんだよ」
「うるさいな」
僕は素早く買ったばかりのショーツを穿いた。
そして制服のスカートを脱ぎ、買ってきたスカートを穿き、スーツを着た。

「何してるのよ。ブラも買えなきゃダメでしょ」
「いいよ、もう」
「だぁめ、ちゃんと身体にフィットしたものをつけなきゃダメでしょ」
「分かったよ」
僕はスーツとブラウスを脱ぎ、ブラジャーを取った。
「高井さんには洗って返すね」
「菜緒の汗がついてたほうが久美子喜ぶかもよ」
「何言ってんだよ」
僕は久美子のブラジャーをロッカーの中にしまった。
「なあつけるの手伝ってくれよ」
僕はブラジャーを持ち、優子を呼んだ。
「明日からは自分でつけなきゃいけないんだから、自分でやんなさい」
「ちぇっ、分かったよ」
僕はカップにおっぱいをおさめ、後ろのフォックを留めた。
もう少し苦労するかと思ったが、思ったより簡単に留めることができた。
「なんだ、簡単に留めれるじゃない。さては前からブラジャーしてたとか」
「そ…そんなわけないだろ」
「慌てるところが怪しい…なぁんてね」
僕はブラウスとスーツを着た。

「あ、忘れてた。これ買っておいたから」
手にはパンストが握られていた。
「お前、わざとやってるだろ」
「ははは、やっぱそう思う?」
「もういいよ、今日は」
「穿いておいたほうがいいわよ。午前中はバタバタしてたから気づかなかったと思うけど、意外とエアコンが効いてるから」
そう言われると女性は冷房が効いていると夏でもひざ掛けをかけて仕事をしている。
男のころは暑いくらいの温度設定でも、女性には寒いのかもしれない。
「分かったよ」
僕は座ってパンストを穿こうとした。
「ダメよ。ちゃんと座って丁寧に穿かないと。伝線が入るわよ」
僕はおとなしく優子の言う通りにした。
スカートを穿いたままだとパンストをうまく上げることはできなかった。
仕方なく一旦スカートを脱ぎ、パンストを穿くことにした。
前では優子がニヤニヤしてこちらを見ていた。
僕は優子の視線を気にしながらパンストを穿き、スカートを穿いた。

「はい、それじゃこれ」
僕は優子から紙袋を受け取った。
「何、これ?」
「いいからいいから。見てみなさいよ」
僕は紙袋の中を見た。
ウィッグだった。
「一応それ私用に買ったんだからね。でも今日は菜緒に貸してあげる」
(わざわざ僕のために買ってくれたんだ。なのに自分用だなんて言ったりして)
優子のそんな気遣いが僕にはすごく嬉しかった。
「何泣いてるのよ?」
「えっ?」
僕は優子に言われるまで、自分が涙を流していることに気づいていなかった。
「なんか嬉しくって」
なぜか僕の声は涙声になっていた。
「女みたいにメソメソしないでよ」
「ごめん」
僕はウィッグを被ってみた。
優子が整えてくれた。
「ほら、こっちで見てみなさいよ」
入り口付近の全身が映る鏡の前に連れて行かれた。
濃いブラウンで、軽くウェーブがついた髪が肩にかかっていた。
髪型が違うだけで印象がかなり違う。
元の髪型でも女に見えていたが、このウィッグをつけると本当に可愛い女性だ。
「ちょっと待って」
優子は口紅を取り出し、僕の唇に塗ってくれた。
なんか油を塗られたような感触だ。
あまり気持ちのいいものではない。
それでも鏡の中の僕は、その口紅でグッと女度がアップしたように思えた。

「アクセサリもあったほうがいいでしょ?」
優子が僕の耳にイヤリングをつけてくれた。
「菜緒さえよければ今晩ピアスを買いに行こうよ」
僕は優子のそんな声を遠くから聞こえるような感じだった。

僕は鏡に映った自分に見入ってしまっていた。
(可愛い。わたしってすっごく可愛い)
自分のことを「わたし」と考えていることにも気がつかなかった。

「菜緒、早く仕事に戻りましょう」
「ん…うん」
僕はもっと自分の姿を見ていたかったが、優子に手を引っ張られ、部屋に戻った。
僕は皆の反応が楽しみだった。


部屋に入ると、全員が一斉に僕を見た。
一瞬時間が止まったみたいだった。
そして数秒後。
「ええええ〜〜〜〜〜」
皆が一様に驚きの声をあげた。
予想以上の反応だった。
僕はその反応が嬉しかった。
でも僕は素直に嬉しそうな顔をすることもできず、ただただ下を向いているだけだった。

僕の周りに女性陣が集まってきた。
「本当に菜緒なの?」
「すっご〜い」
「ちょっとヤバくない?」
そんな皆に優子が得意気な顔をしていた。
「でしょ?昼休みでここまでになるんだから一晩かけるともっとすごくなるわよ」
そんな言葉に「やだぁ〜」とか女性たちは喜んでいる。
(一晩かけるとってどういう意味だろう)
少し気になったが、あえて突っ込まずにいた。

「おい、みんな。騒いでないで仕事に戻れ」
部長の一声で皆がそれぞれの仕事に戻った。
僕は部長に騒がせたことを謝る意味で軽く会釈した。
すると部長は照れたような顔をしたのだ。
そんな反応は少し驚きだった。
部長はきっと僕を女性として認識しているのだ。
そんな部長のことを可愛いと思った。
男のときには決して感じたことのない感情だった。


僕は仕事を始めようとしたが、今の姿を考えると何となく落ち着かなかった。
落ち着かないというのは決して嫌な意味で落ち着かないわけではない。
僕は自分が可愛くなったことが嬉しくて落ち着かなかったのだ。
ウィッグとはいえ、髪が長くなったことも嬉しかった。
僕は指で髪を巻くような仕草で髪をずっと触っていた。
それに1時間に1回はトイレに立って自分の姿を確認した。
僕は鏡を見ながら作り笑顔を作っては、自分に魅入っていた。

席に座っていると、男性社員がチラチラと僕を見ている。
僕が男性社員のほうを見ると慌てて仕事をしているふりをした。
僕の存在は職場全体にいつもと違うものを持ち込んでいるようだった。

それにしても男があんなふうに見るときは頭の中で何を考えているか昨日まで男だった僕にはよぉ〜く分かっている。
きっと彼らの頭の中で僕は裸にされているんだろう。
それを思うと気持ち悪いようにも思うが、それ以上に優越感にも似た感情があった。
僕は女であることの誇らしさを感じていた。


終業の時間になった。
(やっと一日が終わったぁ〜。今日は残業せずに帰ろう)
僕はさっさと帰る支度を始めた。
「菜緒、一緒に帰らない?」
優子が僕のそばにやってきた。
「ごめん、今日はもう帰るよ。疲れたから」
僕は優子の申し出を断った。
昼間に優子が言った「一晩かけると」という言葉にひっかかっていたこともあったからだ。
「そりゃそうよね。女の子としては初日なんだもん」
意外にも優子はあっさりと引き下がった。
僕は優子に何度も謝って、家路についた。


僕はまっすぐに家に帰った。
電車の中では周りの男性が気になって仕方なかった。
痴漢されるんじゃないかと考えたのだ。
結局幸いなことに痴漢にあうようなことはなかった。
駅前でホカ弁を買い、コンビニでいくつかの買い物だけをして家に帰った。

「はぁ、つっかれたぁ〜」
僕は服を着たままベッドに寝転んだ。
そしてそのまま寝てしまった。

気がついたら10時を回っていた。
「いけね。寝ちまったんだ」
起きたばかりのせいか、それほど空腹感を感じなかった。

(とにかくシャワーでも浴びよう)
僕は服を脱ごうとした。
着ている女性服を見て、自分が女になっていることを思い出した。
(そうか、そうだったな)
僕は服を脱いだ。
身体は女のままだった。

僕はベッドに服を脱ぎ捨て、浴室に入った。
シャワーを浴びようとして、まだウィッグをつけたままだったことを思い出した。
(髪がこれくらい伸びたらいいのにな)
僕はウィッグを取った。

そしてシャワーを浴びた。
肌を叩くお湯が気持ちよかった。
(女の肌って本当に綺麗だな)
僕は自分の肌を優しく洗った。
自分が書く小説の中だと、このまま自慰でも始めるケースだろう。
しかしそんな気になれなかった。
自分の身体が愛おしい。
下手に触っては自分の身体を汚すように気がする。
僕は自分の身体を丁寧に扱った。
僕は胸のところにバスタオルを巻き、部屋に戻った。

シャワーを浴びたせいか空腹感を感じた。
僕は帰りに買ったホカ弁をレンジで温めて食べた。
空腹を満たすと大変なことを思い出した。
「ああ、もうひとつ下着を買うのを忘れた」
僕は脱いだばかりの今日買った下着と久美子から借りているブラジャーを洗った。
そして除湿機のそばにそれらを干した。
「明日もう少し下着を買っておかなきゃな」
僕は仕方なくトランクスを穿き、パジャマ代わりのTシャツを着た。

そのときWebサイトのことを思い出した。
(あ、この経験をちょっと脚色してWebにあげておけばいいや)
自分の経験を書く羽目になるなんて考えてなかったが、せっかくの機会だ。
僕はMacBookを立ち上げ、今日起こったことを書いた。
(今日のことだけでも結構な量を書けるな。続きは明日以降に書くことにしよう)
そう思ってMacを落とし、ベッドに入った。
僕はすぐに眠りに落ちた。


目が覚めた。
最初はぼぉ〜っとした状態だったが、少しずつ意識がはっきりしてきた。
(そう言えば女の身体になってたんだっけ)
僕は横になったまま身体をチェックした。
(やっぱり戻ってないか…)
落胆する反面、昨日みたいに可愛くなれると思うと胸が躍った。

起きて、立ち上がった。
(あれ?また変わってる…)

明らかに胸が重い。
僕はTシャツを脱いだ。
胸が大きくなっている。
手のひらに乳房を乗せて重さを確認した。
昨日はそれほど感じなかった重量が手に伝わってくる。

ふと視界に髪の毛が入っていることに気がついた。
(えっ?まさか!)
僕は洗面所に走った。
僕の髪の毛が肩よりも長くなっていた。
髪の先端は鎖骨辺りにかかっている。
(嘘だろ…)
僕は二日続けて起きている身体の変化に少し恐怖を感じた。

とにかく今日も会社に行かなければいけない。
僕は昨日コンビニで買っておいたアンパンをほお張りながら、昨日のブラジャーをつけた。
やはりきつかった。
試しに久美子から借りたブラジャーをつけると、ピッタリあった。
昨日はアンダーバストがきつく、カップがブカブカだったのに。
(仕方ない。高井のをもう一日つけていこう)

口の中に残っていたアンパンを飲み込むと、歯を磨いた。
そして昨日買った服を着ようとした。
(女が毎日同じ服だなんて多分ダメだろうな。もう少し服を買わないといけないかぁ…)
僕はスカートのフォックを留めた。
そのときに変化は胸と髪だけではないことを知った。
昨日買ったばかりのスカートのウエストが緩くなっていたのだ。
フォックを留めた状態でも簡単に回すことができた。
昨日よりも出るところは出て、へこむところはへこんだわけだ。
きっといいプロポーションになっているんだろう。
僕は鏡の前でポーズをとった。
確かにいいプロポーションだ。
ついさっき感じた小さな恐怖心は綺麗に消え去り、美しくなったボディラインに胸をときめかせていた。

僕はスーツを着ると、ブラシで軽く髪を整えた。
そして昨日コンビニで買った口紅を取り出した。
(化粧まではまだ無理だけど口紅くらいはつけとかないとな)
僕は昨日優子につけてもらったことを思い出しながら口紅をひいた。
スティックで直接つけるとイメージ通りにひけなかった。
試しに小指でひくとなかなかうまく塗ることができた。
(よし♪決まった)

僕は微妙な身体の変化で感じた恐怖も忘れて、会社に向かった。
風になびく自分の髪がなぜか嬉しく思えた。
周りの男性からの視線がなぜか心地いい。
僕の足取りはすごく軽かった。
オドオドしていた昨日とは全然心境が違っていた。


「あれっ、何か昨日と違うわね」
会社に行くと優子が目敏く僕の変化に気づいた。
「分かる?」
「髪の毛はウィッグじゃないよね?」
「うん。起きたらなぜか伸びてたんだ」
僕は自分の髪に触れた。
「あと胸が大きくなってる」
「そうなんだ。昨日買ったブラが合わなくって困ったよ。試しに昨日高井から借りたブラをつけたらちょうどだったんでそれをつけてきたんだ」
僕は胸を強調するように胸を張った。
「どういうこと?まだ身体は変化中ってことなの?」
「よく分かんないけど、そういうことになるのかな…」
「それにしても昨日よりプロポーションが良くなったわね。何か肌の色艶まで違ってるように見えるし」
肌の色艶なんて気にも留めなかったが、そう言われるとキメが細かくなっているような気がする。
僕を見た女性は一様に僕の身体の変化に気がついた。
さすが女性は見るところが鋭い。

男といえば「相変わらず女のままなのか」というのが数人いるだけで、変化に気がつく者は皆無だった。
そもそも遠巻きで近寄ろうともしなかったので、気がつかないのも当然だったのだが。

就業時間になった。
さすがに昨日とは違って、二日目ともなると職場は平静を取り戻していた。
僕も自分が女になっていること以外はいつものように仕事をこなした。


仕事が終わると、優子が近づいてきた。
「今日は絶対に一緒に帰るわよ」
「どうして?」
「女性としての身嗜みを教えてあげるの」

僕は強制的に優子にデパートの化粧売り場に連れて行かれた。
「化粧なんていいよ」
僕は逃げようとした。
「何言ってるの!菜緒のような若い娘がすっぴんでどうするの!」
優子は僕の手を握って放さなかった。
「すっぴんじゃないよ。口紅だけつけてるよ」
「そんなのすっぴんと同じよ。とにかくどこかの席が空いたら座るのよ」
そのタイミングで目の前の席が空いた。
「ほら、さっさと座る」
「…分かったよ」
僕はひとりの女の店員の前に座った。
「あら、あなた、全然お化粧してないのね」
「そうなんですよ。だから今日は連れて来たんです」
「でもあまり早くから化粧してなかったせいか肌はとっても綺麗よ。羨ましいくらいだわ」
店員は僕の顔にいろいろと塗りたくった。
ものすごく女性っぽい匂いがする。
酔いそうだ。
しかし、その結果出来上がった顔に自分自身が驚いた。
(こういうシーンで「これがあたし?」とか言うんだろうな)
そんな冷静な突っ込みを入れている自分がいる一方、自分自身に見惚れている自分がいるのも事実だった。
傍目からはただボォーッと見惚れているだけにしか見えないだろう。
それほど長い間鏡の中の自分を見つめていた。

こんな状態の隙を突かれ、化粧品だけで数万円の物を買わされた。
それでも数万円で綺麗になれるのなら安いものだ。
僕はそんなふうに考えていた。

家に帰るとネットで調べながら、一生懸命化粧の練習をした。
3時間ほどするとそれなりに化粧できるまでになった。
(何かどんどん深みに嵌っていってるなあ)
そんなことを考えないわけではないが、綺麗になることができる喜びのためには一生懸命になることができた。
女の人は男性に見られるために綺麗になるわけではない。
ただ自分が綺麗になりたいから、その一心だけなのだ。
今の僕自身がまさにそういう状態だった。



次の日は特に身体の変化はなかった。
髪の毛も昨日くらいの長さだったし、胸の大きさも変化はなかった。
僕は公私共々何ら変わりのない一日を過ごした。
ただ一点自分が女性であることが特別と言えば特別だったが、日に日にその特別感は薄れていった。
僕は女性であることを受け入れつつあった。



金曜の仕事も終わった。
帰ろうとすると優子が近づいてきた。
「菜緒、今日はつき合ってよ」
優子が意味ありげな笑顔を浮かべている。
こんなときは何かを企んでいるときだ。
「つき合うって何?」
「合コンよ、ゴ・ウ・コ・ン」
やっぱり変なことを考えていた。
「合コン!やだよ、絶対」
僕は即座に断った。
「そんなこと言わないで。実は美智子が急に始まっちゃって、今日はやめとくなんて言い出すから」
「それじゃ、私も始まったから帰る」
僕はいい加減なことを言って帰ろうとした。
「ええぇぇぇっ!菜緒もついにあったのぉ」
「うそぉ〜。菜緒もお月さまが来たんだ」
「それじゃお赤飯合コンだね」
またまた女性陣が騒ぎ出して収拾不可能な状態になりつつあった。
かしましいとはまさにこのことだ。
「嘘だよ、ウ・ソ!そんなのあるわけないだろ」
「なぁんだ、嘘なの。でもいつ始まってもおかしくないよね、その身体だと」
周りから「なあんだ」という声が漏れた。
「もしその日が来たらみんなでお祝いしようね」
「うん、しようしよう♪」
また話が何か分からない方向に行ってる。
僕は苦笑するしかなかった。

「島津のやつ、生理だってよ」
「本格的に女になったってことか」
「そしたら島津とやっちゃったら妊娠しちゃうかもしれないのか」
「それでも今の島津なら一度お手合わせ願いたいな」
男連中も好きなことを言ってる。
もうどうにでもしてくれ。
そんな気分だった。

結局事態をややこしくしたとかいう冤罪で合コンに参加させられた。
相手は医者の卵たちらしい。
でも僕はそんなものに何の興味もない。
「自己紹介しまぁす」
馬鹿な男が叫んでいる。
男たちが次々と自己紹介をしている。
僕は冷めた目で見ていた。
次は女性の番だ。
僕の番になった。
「島津菜緒です。よろしく」
僕の自己紹介は一言で終わった。
「へぇ、菜緒ちゃんって言うんだ」
「クールビューティだね」
男たちは盛り上げようとそんなことを言っていたが、僕は無視した。
合コンは僕を無視して進行した。
それでも男たちの何人かは時々思い出したように僕にチョッカイをかけてきた。
僕のほうも男たちを無視した。
当然二次会には行かずにさっさと帰った。



土曜日。
会社は休みだ。
僕はかねてから考えていたことを実行に移すことにした。

そもそもTS小説を書いている僕だ。
普通の男より女になることを妄想している。
妄想の中ではもちろん男に抱かれることもある。
日々自分が女に変わったことを特別なことだと感じなくなってるくらいだ。
僕はせっかくのこの経験を活かして週末女の子として過ごそうと考えていたのだ。
そういう計画を立てるくらいには気持ちの余裕は戻っていた。

朝起きると朝食もとらずにシャワーで寝汗を流した。
そしてバスタオルを胸のところに巻き、念入りに化粧した。
化粧はこの数日でかなりうまくなったと思っている。
ある程度満足する出来に仕上がると、この日のために準備した服を着た。
年齢からするとちょっと無理のあるかもしれないフェミニンな服だ。
でも僕個人としては今の僕にすごく似合っていると思っている。
まずトップスは透かし編みでハート模様が入った七分袖の薄手の白いセーター。
身体にフィットして、僕の身体のラインを綺麗に出していた。
そしてスカートはフリルを多く使った膝上20センチほどのフレアのミニだ。
色はグレー。
僕は鏡で自分の姿を確認した。
綺麗な白と落ち着いたグレーが、とても可愛い。
赤とかピンクとかいかにも女の子の色じゃなくてもこんなに可愛くなれることが普通の女の子のようでとても嬉しかった。
それでもさすがにこんな短いスカートはちょっと恥ずかしかった。
でも恥ずかしくてもこんなスカートがとても似合う女の子になり、堂々と穿けることが嬉しかった。

僕はブーツを履いた。
ブーツを履くのがこんなに大変だとは思わなかった。
僕は苦労してブーツを履いた。
ヒールが10センチほどある。
少し歩きづらいが、初めてのハイヒールが何となく嬉しい。
僕はベージュのトートバッグに化粧道具を詰めて家を出た。

僕は予約していた駅近くの美容室に行った。
「すみません、予約していた水野ですけど」
「水野さまですね、お待ちしておりました。パーマとカラーですね」
「はい、こんな感じでお願いできますか」
僕はヘアスタイルの雑誌の1ページを見せた。

僕の髪は黒からチョコレートブラウンになった。
髪には軽いウェーブをかけてもらい、とても女性らしくなった。
「いかがですか?」
仕上がりに僕は満足した。
(来週になったら会社でまた騒がれるだろうな)
そう考えると心が躍った。

僕はファッションビルに入り、いろいろと見てまわった。
何人かの男から声を掛けられた。
どれもチャラい男で、ちょっとでもつき合えばすぐに身体を求められそうだ。
僕はかかわらないように注意しながら適当にあしらって無視し続けた。

かなりの店を見てまわったせいか僕はかなり疲れていた。
それでベンチに休んでいた。
慣れないハイヒールのせいでふくらはぎがパンパンに張っていた。
(ハイヒールって結構アキレスにくるんだな)
僕は手で軽く脚を叩いてマッサージした。

ふと女の子のかしましい声が耳についた。
見ると近くに5人の女子高生らしき女の子がいた。
彼女たちはペチャクチャと話していて、とにかく賑やかだ。
しかも通路の真ん中で話しているから、通行の妨げになっていた。
僕は特に意識するわけでもなく彼女たちを見ていた。
(へぇ、あの服はあんなふうに着こなせば可愛くなるんだな)
僕は女子高生の服装を見ながら女性のファッションを勉強していたのだ。

あまり僕が見ていたせいか、リーダー格らしい女子高生と目が合ってしまった。
彼女はきつい目で僕を睨み返してきた。
僕は彼女から視線を外した。
するとその彼女が僕に向かってきた。
「何ジロジロ見てんだよ」
「えっ!別にジロジロは…」
「さっきからずっと見てただろ。何かあたいたちに文句あんのか」
「いや…別に…」
僕は厄介なことに巻き込まれてしまったことに焦っていた。
もし警察に連れて行かれて事情聴取されたらどうしよう。
僕は自分のことをどう言えばいいんだろう。
免許証とかは『男』になっている。
女であることを証明するためには裸になればいいかもしれないけど、それだって性転換手術をした男としか見られないだろう。
そんな意味も分からないことを考えてパニックになりかけているところに、ひとりの男性が近づいてきた。
「おい、陽子。わりぃ、遅れて」
男は僕の近くにやってきた。
(何言ってんだ、この男。誰だ、陽子って?)
男の顔は福山雅治似のいい男だ。
よく見ると少し福山雅治よりは間が抜けているように見える。
異常に格好良くないところが安心感を持てた。
「どうしたんだ?何かあったのか」
男は僕の顔を覗き込んだ。
突然の男の登場で女子高生は戸惑っていた。
僕は間の抜けた福山雅治の顔になぜか笑いそうになるのを必死に抑えた。

先に口を開いたのは女子高生だった。
「なぁんだ。男連れだったんだ。ちょっと恰好いい彼氏がいるからって調子乗ってんじゃないよ」
そう言い残して女子高生たちは離れて行った。
姿が見えなくなると男が小声で僕に告げた。
「これでもう大丈夫だね。それじゃ気をつけて」
「あ…あの…」
「ん?何?」
「…できればもう少し一緒にいてもらえませんか。もしかしたらまた彼女たちに会うかもしれないし」
「うーん…どうしようかな」
男性は時計を見ながら考えているようだった。
そのとき僕のお腹がなった。
男性が僕の顔を見て微笑んだ。
「どうせもうすぐしたら昼飯の時間だし、ちょっと早めのランチにしようか。ただし割り勘で勘弁してくれよ」
「はい!」
僕たちは近くの洋食屋に入った。

僕はレディスセット、男は豚の生姜焼き定食を注文した。
頼んだ物が来る前に男の素性を聞いた。
「すみません、お名前教えてもらっていいですか」
「僕の名前?川島、川島淳だよ。君は?」
男はあっさり名前を教えてくれた。
そりゃ男が自分のことを隠すなんてことはないだろう。
しかし僕は自分のことを正直に話すわけにはいかない。
一瞬会社で使っている名前にしようかと思った。
しかし全く架空のもののほうが良いだろうと考えなおした。
「…沙亜矢。水野沙亜矢といいます」
浮かんだ名前はサイトで使っているものだった。
自分ではすごく気にいっていることもあり、この名前を使いたかったこともあったように思う。
「沙亜矢さんか。可愛い名前だね」
「うふふ、ありがとうございます」
淳にそう言ってもらえて僕は嬉しくなった。
淳って男がいい男に思えてきた。

注文したものが運ばれてきた。
料理は意外と美味しかった。
僕は料理に箸をつけながら淳のことを聞いた。
彼はメーカ企業の広報部門に勤めているとのことだった。
(メーカ?まさか一緒じゃないよね?)
僕の勤めている会社もメーカなのだ。
僕は会社で使っている名前を明かさなかった自分の判断に感謝した。

その後は僕たちはあまり会話が弾まなかった。
もしかすると淳は僕のことを訝ったのかもしれない。
あまり話をすることもなく、食事は終わった。

最初は割り勘だと言っていたが、会計に行くと淳が支払ってくれた。
「私の分は自分で払いますから」
「いいよ、これくらい奢るから」
「そんな…悪いです」
「いいからいいから」
「そうですか。それじゃご馳走になります」

店を出た。
「それじゃこれで」
淳がすぐに離れようとした。
「あ…あの…」
「何?」
「あ…いえ、別に」
「…あ、そうか。またあの女子高生に見つかってイチャモンつけられたらここに電話して」
淳は勝手に気を回して僕に携帯番号を書いたメモを手渡してくれた。
「それじゃ気をつけてね」
「あ…ありがとうございました」
淳は去って行った。

僕はひとりで店を見て回った。
可愛い服を見つけた。
それを買ってから家に帰った。


その夜、僕は変な夢を見た。
夢に出てきたのは淳だった。
僕はその夢の中で淳に抱かれていた。
淳のモノを受け入れ激しく腰を振った。
いよいよ行きそうなタイミングで目が覚めた。

ショーツの中が気持ち悪かった。
(あんな夢を見たせいだろうな)
そう思ってショーツを見ると血がついていた。
(!)
それが生理の始まりだと分かるのにはさすがに時間がかかった。

もしかしたら生理のせいであんな夢を見たのかもしれない。
生理になると性欲が高まるという話を聞いたことがある。
それが僕にも起こったのだろう。

僕は初日にコンビニで買ったナプキンを使った。
女に変わった初日に何となく買わないといけないような気がして買ったのだ。
それにしても本当にこんなことを経験するとは思わなかった。
下腹が痛くて何とも言えない身体のだるさがあった。
(女の人って毎月こんなものを経験してるんだ。それなのにそんな気配も見せないなんてすごいな)
僕はこの日も外出しようと思っていたのだが、初めての生理にとてもそんな気分になれなかった。
僕は一日中布団に出たり入ったりダラダラと過ごした。



月曜になった。
生理の痛みはかなり楽になっていた。
(昨日の痛みだったら絶対会社に行けないよな)
僕は女性にとっての生理休暇の必要性が心底理解できた気分だった。
僕は会社に出た。
ショーツのナプキンが何となく気持ち悪かったが、それさえ我慢すれば何とか過ごせそうだった。
(僕が本当に生理になったって知ったら、皆が驚くだろうな)
僕は金曜のような反応をしてくれることを期待していた。
でもなかなか信用してくれないかもしれない。
そうなったら持っているナプキンを見せたりして信用させるしかないかもしれない。
僕はそんなことを考え、一人でニヤニヤしていた。

「おはよう」
僕は部屋に入ると入り口近くの久美子に声をかけた。
久美子は僕の声が聞こえなかったのか全くの無反応だった。
僕はもう一度久美子に挨拶した。
すると久美子はチラッと僕のほうを見ただけでこれ見よがしに無視した。
(何だよ。どうしたってんだよ)
僕は久美子の態度に少し腹が立った。
しかし、他の女性にも声をかけたが、皆久美子と同様に女性陣が冷たい。
どうやら何か僕が怒らせるようなことをしたようだ。

「ねえ、優子。みんなどうしたの?」
僕は土曜に女の子を演じたせいか無意識に女の子の話し方になってしまった。
「何よ、菜緒ったら。急に女の子っぽい話し方なんかして」
「あ…ごめん。今の姿だとこんな話し方のほうがいいと思って」
「そりゃまあそうだけど、そんなことしたら余計に久美子たちを怒らせると思うわ」
「えっ、どうして?」
優子の説明によると、金曜の合コンで僕が男どもの人気を独り占めにしたことが癇に障ったらしい。
2次会に行こうと誘ったのだが、僕が帰ったせいで男たちも帰ってしまったということだ。

僕は何とか久美子たちと仲直りしたかった。
「ほっときなさいよ。そのうちに久美子たちの気持ちもおさまるでしょ」
優子のそんな慰めの言葉の通りにはいかず、僕は久美子たちから無視され続けた。
久美子は女のネットワークを使って、女子社員全員で僕を無視することにしたらしい。
僕と話してくれる女子社員は優子だけで、僕は完全に女性の中で浮いた存在になってしまった。

「お〜い、田中くん。お茶くれないか」
「お茶が欲しければ男性に人気ナンバー1の島津さんに入れてもらったらいいんじゃないですかぁ」
部長がお茶を頼んでもこんな具合だ。
僕のことを目の敵にしているようだ。

どうしてこんなことになったのだろう。
週末を迎えたときの楽しい気分は消え去り、気が滅入ってしまう。

「おい、島津、どうしたんだ?今日は女子から仲間外れか」
隣の課の村岡浩一郎が僕に声をかけてきた。
「あ…うん…」
「何かあったのか?」
「いや別に何も」
「急造女のくせに自分たちよりもてるなんて許せないって話してるの、聞いたんだけどな」
「……」
「とにかくやっぱり男は男どうしだよな。俺たちと一緒に昼飯食いに行かないか」
「いや、いい」
僕はコンビニでサンドイッチでも買ってすまそうと思っていたのだ。
とても外に食事をとる気分じゃなかった。

女性陣に無視されるのは堪えた。
生理中で精神的に不安定なせいかもしれない。
そんな精神状態で仕事に集中できるわけはなかった。
僕はただ席に座って仕事をしている振りをして時間を潰していただけだった。

仕事時間が終わるとノロノロと帰り支度を始めた。
「今度こそつき合えよ」
性懲りもなく村岡が僕を誘いにきた。
あまり気乗りはしなかったが、また断ると厄介事が増えそうだ。
仕方なく、村岡の誘いに乗ることにした。
村岡は三輪修哉と広木和友にも声をかけていたようだ。
僕が店に行くとすでに二人が席に座っていた。

すでにビールが4つ置かれて、食べ物もいくつか並べられていた。
「よっ、噂の島津。来たな」
「今日はお前を元気づける会だからな」
僕は単純にこの男たちの気持ちが嬉しかった。
「ありがとう」
僕は三輪の隣に座った。
「それじゃ、島津が元に戻ることを祈って乾杯!」
「「「カンパァ〜イ!」」」
僕たちはビールを飲みながら食べ物に箸をつけた。
「ところでお前、本当に女の身体になったのか?」
「そうだよ、アレだって始まったんだから」
「アレって?」
「生理だよ。セ、イ、リ」
僕は声を落とした。
「なら全くの女なんだな。戸籍とか変更しないのか?」
「まだ戻るかもしれないからね」
「そうか。でも戸籍を女にすれば結婚もできるだろうしな」
「金持ちを見つけて玉の輿って可能性もあるわけだ」
「今の島津だったらあり得るな。何たって美人だもんな」
「そんなこと絶対ないって。いくら身体が女になっても、まだ精神的には男のまんまだからな」
「まだ…ね」
「何だよ、その言い方」
僕はその言い方に少しムッとした。
「いや、身体が急に女になったんなら、精神的にもそのうち女になるだろうって考えるのが普通だろ?」
そう言いながら隣に座っている三輪の手が僕の膝の上に置かれた。
「やめてよ」
ちょうど店の人が料理を運んできたので、それを意識して話した。
「あ、わりいわりい」
三輪はすぐに手を除けた。
しかし少し時間が経つと今度は太腿を撫でるように手を置いてきた。
「いい加減やめろよ」
「何だよ、その言い方。さっきみたいに可愛く言えねえのかよ」
「さっきは店員が来たからあんな言い方しただけだ」
「せっかく美人になったんだし、お前も自分の身体を楽しんでるんだろう。俺たちにもお裾分けしてくれたってバチ当たらないって」
三輪以外の男も『そうだそうだ』と囃し立てた。
「何言ってんだ、お前ら」
「だって今日は女になった島津と仲良くなる会なんだからな」
「お前らって最低だな」
僕は一万円を置いて、さっさと店を出た。
3人が追いかけてくる様子はなかった。

女性から無視されたからと言って安易に男のほうに行くのは危険なようだ。
結局男性にとって僕は性の対象しかないのだから。
男はいつもチャンスがあれば、と狙っているのはよく分かっているつもりだった。
でも女に無視されて男に歩み寄ってしまった。
それがこのザマだ。

僕は明日からどうしていけばいいのだろう。
女性の身体になったときは戸惑いはしたが、そんなに落ち込むことはなかった。
でも今は本当に暗澹たる気持ちだった。
元に戻ればこんな状態から抜け出せるのかもしれないが、何となくそんなことは難しいような気がしていた。
軽いとは言え、生理の痛みがそう教えているような気がした。



次の日もそのまた次の日も女子社員からの無視は続いた。
男たちの見え見えの誘いも連日のようにあった。
そしてそれがさらに女子社員の嫉妬を増幅していくという悪循環に陥っていた。
僕は絶望を感じていた。



金曜の仕事を終えると、僕は気分転換を兼ねてひとりで映画を見に行った。
見たのは『ナイト&デイ』。
僕の周りはカップルばかりだった。
僕は映画館で孤独感を深めただけだった。
僕のことをチラチラ見て彼女を怒らせている馬鹿な男がいたことが、唯一笑えたことだった。

映画館を出て、コンビニでおにぎりとお茶を買った。
お金を払うときに財布に小さな紙切れがあることに気づいた。
(これって何だっけ?)
レジで支払いを済ますと、店を出てその紙切れを広げて見た。
それは淳の携帯番号だった。
(そう言えばあのとき携帯番号もらったんだっけ)
僕はなぜか淳に会えればいいなと思った。
別に淳のことを好きというわけではない。
しかし気になる男性であることは確かだ。
そんな会いたいという思いは時間が経つうちに抑えられないほど大きくなっていた。
そしてついに僕は自分を抑えることができず淳に電話した。

『もしもし川島です』
何故かすごく懐かしい声に感じた。
「あのぉ…沙亜矢です」
僕は電話を通じて自分の鼓動が伝わるように感じていた。
『沙亜矢?』
「この前の土曜に高校生にからまれていたときに助けていただいた…」
『ああ、あのときの人か。で、何かあったの?』
「今から会っていただけませんか?」
『今からって僕まだ仕事中なんだけど』
「あ…そうなんですか。すみません、あなたの都合を全然考えなくて」
僕は電話を切ろうとした。
『あ…ちょっと待って。もうちょっとで仕事が終わるから10時に新宿でどう?』
「分かりました。それじゃ10時に。ありがとうございます」

時計を見た。
8時48分。
今から行くと9時半までに着きそうだ。
少し早いとも思ったが、少しでも早く彼に会いたかった。
どうしてそう思うのかは自分でも理解できなかった。
とにかくこの嫌な状況を確実に忘れさせてくれるような気がしていた。
僕は真っ直ぐ新宿に向かった。
駅に着いたのは9時24分だった。
僕が待っている間多くの酔っ払いが僕に声をかけてきた。
僕はその全てを笑顔でかわした。
心に少し余裕があると男の厭らしい視線も楽しむことができた。

10時を過ぎた。
彼はまだ来ない。
1分、2分、3分……。
僕はからかわれただけなんだろうか。
諦めて帰ろうとした。
ちょうどそのとき淳が小走りに近づいてくるのが目に入った。
時間は10時9分だった。

「ごめん、少し遅刻しちゃったね」
淳は僕に笑顔を見せた。
「どこか行く?」
「ううん、ここでいい」
僕は雑踏の中で、淳に会社での僕の置かれた状況を話した。
淳は何も聞かずにずっと話を聞いてくれた。
僕は胸の内を吐露するとかなり気持ちが楽になった。
それと同時になぜか涙が流れた。
淳は黙って僕を抱きしめてくれた。
僕は淳の腕に抱かれ心の中に温かいものが流れてこんでくるようだった。
僕は淳の腕の中で思い切り泣いた。
道行く人は僕たちをチラッと一瞥するが、何も見なかったように通り過ぎて行った。

「落ち着いた?」
どれくらいの時間泣いただろう。
僕自身こんなに泣けるなんて思いもしなかった。
「うん、ありがとう」
僕は淳を見上げた。
視線が合った。
数秒の沈黙の後、僕はまぶたを閉じた。
別に積極的にキスしたいと思ったわけではない。
何となくその場の空気が僕にまぶたを閉じさせたのだ。
温かい淳の唇を感じた。
その瞬間僕の中で何かが爆発した。

僕は淳のことが好きだ。
そんな思いが僕の心の中で膨らんでいった。
僕は淳の首に腕をまわし貪るようにキスを求めた。
淳は最初少し戸惑ったようだが、やがて僕の欲求に応じてくれた。
数分間、雑踏の中で濃厚なキスをかわした。

「二人きりになりたいの」
僕は小さな声で懇願した。
淳は何も言わずに僕の手を握ってくれた。
少し汗ばんだ淳の手が僕を正常な世界に繋ぎ止めてくれるように思えた。
僕は淳の手を離さないように必死に握った。

気がつくとラブホテルの前にいた。
「いいかな?」
僕はそんなこと聞かないでほしいと思いながら小さく頷いた。
淳は僕の手をひき、ホテルに入っていった。

部屋に入ると淳に身を任せた。
淳の愛撫は優しくて気持ちよかった。
しかし初めての体験は強烈に痛かった。
それでも彼とひとつになれたことが嬉しかった。
そのとき僕は心の中まで女になったように感じていた。

淳が射精の瞬間、抜き出して僕のお腹辺りに精子を放った。
欲望だけでなく妊娠しないように気を配ってくれる淳の気持ちが嬉しかった。
僕は淳の身体にしがみつくように抱いた。

「どうだった?」
淳が僕にセックスの感想を聞いてきた。
(やっぱり聞くんだ)
僕は少しがっかりしたが、「嬉しかった」と一言答えた。
淳は「嬉しい」の意味が分からないようだった。
僕は淳の手をとり、僕の女性器に当てた。
淳は僕が触って欲しいと願っているように思ったようだ。
僕の女性器をまさぐろうとした。
僕はそれをとどめて「手を見て」とお願いした。
淳の手には僕の破瓜の血がついていた。
「えっ…まさか初めてだったのか?」
僕は恥ずかしそうに頷いた。
「そうか。初めてを俺にくれたのか」
淳は嬉しそうだった。

服を着ても股間に何かが入っているような違和感がとれなかった。
だから歩き方がややがに股のようにならざるをえなかった。
(ああ、これで本当に女になれたんだ)
僕はセックスを経験したことで、これから女として生きていけるように思えた。

「今日はありがとう」
「明日も会えるかな?」
「ええ、わたしから電話するね」
「ああ、待ってる」
淳は別れのキスをしてその日は別れた。
少し前まではものすごく悩んでいたのに、淳のおかげですっかり元気になっていた。
淳さえいれば何もいらない。
そんな気持ちになっていた。



次の日、少し朦朧とした気分で目が覚めた。
(どうしたんだろう?何か身体が重い…)
僕は頭をはっきりさせるため、シャワーを浴びることにした。
浴室に入り、パジャマ代わりのTシャツを脱いだ。
「えっ?嘘!」
思わず叫んだ。
僕の身体はなぜか男に戻っていたのだ。

身体が元に戻ったことに、僕は安堵していた。
身体が戻ったせいか、淳への意識はなくなった。
今となっては男を好きだなんて考えることさえ無理だ。
昨日までの出来事が夢のようにさえ思えた。
それにしても経験し得ないことをいろいろ経験できたことは大きい。
枯渇したアイデアも充分補充できたはずだ。
もしかすると、僕が作品を書き続けるための神様の応援だったのかもしれない。
そんなふうに思えることができた。

しかし、ふと重大なことに気づいた。
女性としてのオーガズムを経験していない。
初体験の痛みは経験できたのに。
せっかく女の子になれたのに、最高の快感を経験していないなんて。
いろいろ大変な思いをしたのに、肝心な物を忘れた思いだ。

「せっかく女の子になったのに…。もう一回女の子になりたい」

僕の憂鬱はまだまだ続きそうだ。


《完》

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