逆転夫婦



気分を変えて


大住省悟と妻の梨帆が出逢ったのは大学時代だった。
大学時代から交際を始め、卒業を機に結婚した。
梨帆は会社勤めもせず専業主婦におさまった。
そんな二人の結婚生活はそろそろ10年になろうとしていた。
その間、省悟は課長に昇進し、順風満帆の人生のようだった。
しかし、プライベートではあまりうまくいってなかった。
子宝に恵まれることなく、梨帆と二人だけの生活にはすきま風が吹き始めていた。
夫婦の営みは月に数えるほどしかなく、全くなかった月も少なくなかった。
まさに倦怠期まっただ中という状況だった。


「ねえ、たまには気分転換してやらない?」
ある日曜の夜、梨帆は省悟に提案した。
「何だ?気分転換って?」
省悟は特に興味を感じることなく口先だけの返事をした。
「ちょっとしたおまじないを教えてもらったの。今までに経験したことのない経験ができるんですって」
「何だそれ?騙されてるんじゃないか。単なるおまじないだろ?」
「いいじゃない、別に。もし面白いことが起これば儲け物じゃない?そうでしょ?」
「そりゃまあそうだが」
「いくら冷えてきたと言ってもたまには妻につき合ってくれてもバチは当たらないでしょ?」
「分かったよ、つき合えばいいんだろ?」
「それじゃあね……」

梨帆がどこかに電話をかけた。
それは時報案内だった。
電話のスピーカーから時報のアナウンスが流れた。
『午後11時52分10秒をお知らせします…』
部屋に無機質な時報案内が流れた。

「どうして時報なんだ?」
「いいからわたしの言う通りにして。まず裸になって」
省悟は言われるままに全裸になった。
梨帆も全裸になり、向かい合った。
今さら妻の全裸を見てもそれほど興奮しない。
したがって股間の物は少し大きくなっているが、それほどガチガチというわけではなかった。
省悟は梨帆の指示にしたがって右手を梨帆の左胸に手を置いた。
そして左手は梨帆の女性器に当てた。
梨帆も右手を省悟の左胸に置き、左手を男性器に当てた。

「この状態のまま0時ちょうどにキスするの。そしたら面白いことが起こるんですって」
「何が起こるんだ?」
「いいからいいから。とにかくちゃんとキスしてね」
「分かった」
省悟と梨帆は奇妙な態勢のまま時を待った。
『午前0時ちょうどをお知らせします』
「それじゃいくわよ」
梨帆が言った。
『プップップップー』
午前0時ちょうどに省悟と梨帆は唇を重ねた。


重ねた唇を離すと、目の前の景色が変わっていた。
目の前のいたのは自分自身だったのだ。
「わあ、本当に入れ替わったぁ」
省悟の顔をした男は無邪気に喜んでいた。
「何だ。何がどうなったっていうんだ?」
省悟が発した声はいつもの省悟の声ではなかった。
女の声だった。
「分かるでしょ?わたしたち入れ替わったのよ」
自分の顔で無邪気に喜ばれるというのは決して気持ちのいいもんじゃあない。
「お前、梨帆か?」
「そうよ。で、あなたがわたしになったの」
そう言って梨帆が省悟の乳房をつかんだ。
「…ん、痛っ」
「あはは、ね?女になってるでしょ?」
「そんなことより元に戻れるのか?」
「何よ、せっかく入れ替わったのに元に戻ることなんか考えて」
「しかしこのままだといろいろと困るし…」
「大丈夫だって。もう一回同じことをすれば元に戻れるはずだから」
「はず?そんなんで大丈夫なのか?」
「もう信用ないのね。だったらもう一回やってみる?」
「そんなこと言ったってさっきのお前の説明が本当だったら夜中の12時じゃないとダメなんだろ?」
「あっ、そうか。だったら元に戻るのは明日ね。とりあえずやりましょうよ♪」
省悟になった梨帆は梨帆になった省悟を押し倒した。

「ちょっと待て。まだやるとは言ってないぞ」
「何のために入れ替わったと思ってるの!さあやるわよ」
梨帆は省悟に有無を言わさなかった。
強引に省悟に覆い被さった。
「わたしっていい匂いするのね」
梨帆が省悟の胸元に鼻をつけてクンクン匂っている。
「やめろよ。何か恥ずかしいじゃないか」
「あなただっていつもわたしが嫌がってるのに匂いを嗅ぐじゃない」
「そりゃそうだけど…」
「ん?何?」
「…何か恥ずかしくなったんだ」
「わたしの身体になって、わたしの感覚になってるのかな。わたしも自分の匂いがいい匂いってのは男性として感じてるのかもしれないし」
そう言って、省悟の乳房を軽く揉んだ。
「…ぁ……」
省悟の口から甘い吐息が漏れた。
「気持ちいい?」
「…ぁ…ぃゃ……」
「気持ちよかったら声を出していいのよ」
声を出せば梨帆に屈したような気がする。
省悟は少々気持ち良くても声を出さないようにしようと思った。
それは省悟の男としてのプライドがそうさせたのかもしれない。

梨帆の手が下腹部に置かれた。
省悟は少し緊張して股を強く閉じた。
梨帆の手がやや強引な感じで臍下の溝に入ってきた。
「痛いっ!」
溝の中の突起物に省悟は痺れるような痛みを感じた。
「でしょ?あなたって女はここが感じると思ってるせいかすぐに触るけど、準備ができてないと痛いのよ」
「そう…なんだ。ごめん」
「元に戻ったらしっかり準備をしてから触るようにしてね」
「あ…ああ…、これから気をつけるよ」
「それじゃあなたの身体の準備をしてあげるからね」

梨帆の手は何本もあるようだ。
梨帆は省悟の身体のあらゆるところを触わってきた。
省悟が性的にそれほど感じるとは思っていなかった腕や手でさえも感じてしまうことに驚いた。
省悟は梨帆に翻弄されていたが、声は出さないように必死に耐えていた。

「省悟、声出すの我慢してるでしょ?」
「…そんな…こと………ない…」
しかし省悟は息絶え絶えになっていた。
感じているのは明らかだった。
「まあいいわ。今度はクンニしてあげるね」
梨帆が省悟の脚の間に身体を入れた。
「省悟、すっごく濡れてるわよ。やっぱり感じてたんだ。かなり我慢してたでしょ?」
「だ…から…そんなこと…ひゃゎ…」
股間の強烈な感覚に省悟はおかしな声を出してしまった。
梨帆がクンニを始めたせいだった。
「や…やめろ…おかしくなる……」
省悟は襲ってくる快感に、ついには喘ぎ声を漏らしていた。
いやらしい梨帆の舌の音と省悟の喘ぎ声が部屋に響いた。

「これだけ準備すれば十分よね」
そのころには省悟は意識朦朧になっていた。
信じられないくらい強い快感だった。
クンニが終わった今もまだ頭がボォーッとしていた。

「準備はいいようね。それじゃいくわよ」
梨帆が省悟の脚を抱えるように広げて、梨帆のペニスが入ってきた。
自分の身体の中に異物が入ってくるのは何とも言えない感覚だった。
気持ちがいいというよりも不思議な感じだった。
「わたしの中ってあったかぁ〜い」
梨帆はペニスを入れたまま、省悟にキスをした。
唇も立派な性感帯だ。
挿入された状態でキスされるとそれだけで気持ち良かった。
「わたしのってすごく絞まるのね」
省悟が感じると、梨帆のペニスを強く締めつけるのだった。
「動くのってどんな感じですればいいのかな?」
そう呟きながら、梨帆はゆっくり腰を動かした。
梨帆の動きはゆっくりでリズミカルだ。
なんかすごく気持ちがいい。
省悟は少しずつ快感が強くなっていくように感じた。
「…あ…あああ……」
省悟が少し気持ち良くなった程度で、梨帆がいってしまった。
「ごめんね。男初心者だから許して」
「…ぁ…うん、全然いいよ。俺も気持ちよかったし」
そう言ったが、省悟は昇りつめることができなくて残念に思った。
梨帆は省悟の姿のまま大の字になって眠ってしまった。
省悟はしばらく悶々としていたが、やがて眠りに落ちていった。


入れ替わり生活


朝になり、目が覚めた。
隣では自分の身体がまだ寝ている。
(そうか、俺たち入れ替わったんだっけ…)
寝惚けてはっきりしない頭が急にはっきりした。
重要なことを思い出したのだ。
「おい、今日会社あるぞ」
今日は月曜なのだ。
省悟は隣で寝ている自分の姿をした梨帆を起こした。
「おい、早く起きろ」
「何よ、今日はあなたが妻なんだからあなたが朝食の支度してよ」
「そんなことより今日は会社があるんだぞ。どうするんだ?」
「大丈夫。わたしが代わりに行ってあげるから」
「何言ってんだ。そんなの無理だって」
「だったらどうするの?休んでいいの」
「いや休んでられないんだ」
「でしょ?だったらわたしが行くしかないじゃん」
梨帆は慣れた感じでスーツを着て、会社に出掛けて行った。


家に取り残された省悟はやきもきしながら電話を待った。
しかし一向に電話はかかってこない。
省悟は近くのスーパーで惣菜を買ってきた。
とりあえず夕食の支度くらいはしておくべきだと思ったからだった。
スーパーで買った惣菜をそれなりに皿に盛りつけて、梨帆の帰りを待った。
それでも梨帆はなかなか帰ってこなかった。


梨帆が帰ってきたのは10時を過ぎたころだった。
何となくやつれて見える。
「お帰り。どうだった?」
「何とかやれたと思うわ。それにしても疲れたぁ。会社なんて初めてだし、男のふりをしなくちゃいけないし、すっごく疲れたわ」
梨帆は食事も取らずに寝室に入っていった。
「おい、寝るなよ。12時に元に戻る約束だろ!」
省悟がいくら起こそうとしても一度眠ってしまった梨帆は身動き一つしなかった。
そうこうしているうちに12時を過ぎてしまった。
(まったく何してんだよ。もう一日このままか)
そんなことを思いながら、それほど嫌がっていない自分に驚いていた。

省悟が諦めて風呂に入ろうとしたときに梨帆が目を覚ました。
「今何時?」
「もう12時半だよ」
「ええ、嘘。ちょっと寝るだけのつもりだったのに何で?」
「知らないよ、そんなの」
「それにしてもお腹減った。何か食べる物ある?」
「今から食べるのかよ」
「だってあまり空腹だと寝られないでしょ」
省悟は仕方なく冷蔵庫に入れた夕食のおかずを温め直した。
梨帆はすごい勢いで食事を食べると、食器もそのままに風呂に入ってしまった。
(何だよ、食器くらい片づけてくれればいいだろう)
そう思うのだが、よく考えるといつもの自分の行動そのままなのだ。
(元に戻ったらもう少し梨帆のことを考えてやんなきゃな)
食器を洗いながら省悟はそんなことを考えていた。


梨帆は風呂から出ると「あなたも入ってきたら」という言葉を残し、寝室に入っていった。
省悟は湯舟に入りながら「もう一日梨帆でいられるんだ」と梨帆の身体を愛おしく眺めていた。

「ねえ、やる?」
寝室に行くと梨帆のムードも何もない言葉が飛んできた。
そんな言葉にげんなりしながらも結局梨帆に抱かれた。
前戯は充分満足のいくものだった。
(女の絶頂を感じてみたいな)
省悟のそんな願いをよそに梨帆は前夜のようにひとりでいってしまった。


火曜の夜、やっと無事に戻ることができた。
「ねっ、ちゃんと戻れるでしょ?」
「ああ、そうだな」
元に戻ると、すぐに省悟として梨帆を抱いた。
これで3夜連続のセックスだ。
こんなことは新婚以来かもしれない。
まさに気分転換の効果なのかもしれない。
男としてセックスするのは随分久しぶりのような気がした。
それにしても梨帆の感じ方を理解したためかいつもよりうまくやれている気がする。
腕の中で梨帆も満足そうに見えた。


省悟は無事に元に戻れることを確認すると、すぐに梨帆と入れ替わりたいという欲求が湧いてきた。
それでもウィークデーは会社があるので我慢した。
だから金曜日の夜に再度入れ替わろうと考えていた。
金曜は朝から落ち着かなかった。
会社でも梨帆と入れ替わることだけが頭を占めていた。
おかげでほとんど仕事が手につかなかったくらいだ。
終業時間になると省悟は仲間からの誘いも無視してまっすぐに家に帰った。


再び入れ替わって



「なあ今日も入れ替わらないか?」
省悟は梨帆に提案した。
「どうしたの、入れ替わりにはまっちゃったとか?」
「ああ、梨帆になるのは嫌いじゃないしな」
「もうそんな言い方しないで『梨帆になりたい』って言えばいいのに。要はあなたも入れ替わることを気に入ってくれたってことね」
「まあ、そういうことだな」
「それじゃ入れ替わりましょうか」
「ああ、だたし日曜の夜に戻ってくれよ」
「仕事があるから?」
「ああ」
「分かったわ」

0時になった。
再び省悟と梨帆は入れ替わった。

「なあフェラしてやろうか?」
「あら?今回は積極的なのね。いいわよ」
省悟は入れ替わる前に風呂で念入りに身体を洗っていたのだ。
それも自分がフェラするために綺麗にしていたからだった。

梨帆のモノはすでに大きく硬くなっていた。
(俺のってこんなにでかかったっけ?)
省悟は梨帆のペニスに顔を近づけた。
いくら綺麗に洗っても特有のオスの臭いが鼻につく。
(あんまり気持ちのいいものじゃないな)
それでも思い切ってペニスを銜えると、意外と臭いは気にならない。
何より舌の動きに微妙に反応するのが面白かった。
「気持ちいいわよ」
おかまのような話し方が少し残念だが、それでもペニスを銜えていることに省悟は興奮した。
夢中で口と指でペニスをしごいていた。
「もうやめて。出ちゃう」
そんな梨帆の呟きも聞いていない状態だった。
ついに梨帆が省悟の口の中で爆発した。
その瞬間省悟は我に返った。
(うぇ、梨帆のやつ、口の中で出しやがった。それにしても不味いもんだな…)
省悟はフェラチオに剥きになりすぎたことを少し悔いた。
口に出されたモノをティシュに吐き出した。
「ごめんね、すごく気持ち良かったんだもん。でもあんなに激しくするあなたも悪いのよ」
「悪かったよ。…まだできるか?」
「どうかしら?あなたの身体ってそんなに強くないから」
しかし少し休むと復活した。
結局、入れ替わってから土曜はずっとセックス三昧で過ごした。
疲れたら二人で眠った。
目が覚めれば抱き合った。
空腹になると買い置きのカップ麺を食べた。
こんな状態は新婚のときですらなかった。
それにしてもこれだけやっても省悟はなかなか達することができなかった。
それが不満だった。


夕方、二人で微睡んでいると、省悟の携帯が鳴った。
『大橋部長』と表示されていた。
「どうする?出たほうがいい?」
省悟になった梨帆が省悟に聞いてきた。
「出るしかないだろ」
「そ、そうね」
梨帆が携帯に出た。
「もしもし、大住です。あ…はい…。え…今からですか?」
梨帆が省悟に『どうする?』というふうに顔を見た。
省悟は肯いた。
「分かりました。すぐに参ります」
梨帆が電話を切った。
「どうした?」
「よく分からないけど、すぐに会社に来てくれって。何かあったのかしら?」
今日幹部会議が開かれていたことを省悟は思い出した。
折からの不景気のため経営状態が悪く、その対策を検討していたのだ。
(そう言えば何かあれば緊急招集をかけるとか言ってたな)
省悟は梨帆との入れ替わりに心が行っていて真面目に話を聞いていなかった。

省悟は分かっている状況を梨帆に伝えた。
「それじゃ行ってくるわね」
「悪いな、入れ替わったばっかりに」
「いいのよ」
土曜にもかかわらず梨帆は会社に出掛けて行った。

この時間に出ていくとなると帰りは相当遅くなるかもしれない。
そう思っていると案の定だった。
《ごめんなさい、今日は帰れそうもないみたい》
そんなメールが来たのは11時を過ぎてからだった。

(せっかく入れ替わったのにな)
元に戻るまでずっと女として抱かれていたかったのに。
それでもずっとセックスしていたせいか一気に疲れが出たようで省悟は深い眠りに落ちて行った。



日曜日の朝、電話がかかってきた。
省悟は寝ぼけ眼で電話をとった。
『もしもし、あなた?』
聞いたことのある声だった。
省悟の声ではない。
女の声だ。
部下の香菜の声のようだが、話し方が違う。
「もしもしどなたですか?」
省悟は警戒しながら聞いた。
『そんなに改まっちゃって。わたしよ、わ・た・し』
「もしかしたらお前梨帆か?」
『あら、すぐ分かっちゃうんだ。さすが夫婦ね…って言いたいところだけど、あなた、わたしを裏切っていたのね』
「えっ!?」
『香菜さんって可愛い人ね』
「あ…いや…それは……」
省悟は部下の香菜と不倫していたのだ。
梨帆は省悟として会社に行ったんだから、香菜からのアプローチでもあったんだろう。
すぐにバレるはずだ。
それにしても昨日は課長以上が呼ばれたはずで、香菜は来ないはずだが。
どうして…。
そんな省悟の思ったことが伝わったのか梨帆は説明し出した。
『昨日の部長の呼出しの件はすぐに終わっちゃったの。それでせっかく家を出たんで、香菜さんのところに電話したの。あなたと香菜さんの関係は月曜会社に行って、すぐ分かったわ。だってあんなメールが来るんだもん』
「それにしてもどうして香菜と入れ替わったんだ!」
『どうしてってちょっとした悪戯かな』
「えっ!?」
『でも香菜さん、あなたになれたことを喜んでるみたいよ。彼女、男になりたかったんだって。彼女、わたしのこと省悟自身だって疑ってないのよ、可愛いわね。今日はこれから入れ替わった状態でデートなの。デートが終わったら、あなたになった香菜さんを家に帰すわね。おそらく彼女はばれないように一生懸命あなたの振りすると思うわ。これもゲームだって彼女には言ってあるの。だからあなたもばれないようにしっかりね。あっ、彼女がシャワーから出てくるみたいだから、もう切るわ。それじゃあね』
省悟は電話を掛け直そうとしたが、省悟の携帯に電話すべきか香菜の携帯に電話すべきか分からなかった。
今掛かってきたのは省悟自身の携帯だった。
しかしそれは省悟になった香菜が取るだろう。
そうなると入れ替わりのことになんて触れることはできない。
男のくせに妻の身体になって喜んでいる変態だなんて香菜には思われたくない。
仕方がなく、省悟は夜まで待つことにした。


初めての高揚



夕方になり、省悟の姿になった香菜が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
省悟はまずは梨帆のふりをして、本当に香菜なのかを探ることにした。
省悟の姿をした人物は靴を脱ぎ、入ったところで立ち尽くしていた。
梨帆だったらさっさと部屋にダイニングにいくだろう。
香菜だからどの部屋に向かえばいいのか分からないのかもしれない。
しかし梨帆が芝居してるのかもしれない。
いつもと様子が違うことを指摘して探ってみるのがシンプルでいいような気がする。
しかし自分が梨帆になってることはどう説明すればいいのだろう。
夫婦で変態プレイをしているように思われてしまう。
そんなことを思われるのはプライドが許さない。
「あなた、どうしたの?先にご飯にする?」
省悟は梨帆の話し方を思い出しながら、梨帆っぽい話し方をした。
「あ…ああ…いただきます」
緊張してるせいか言葉遣いが変だ。
やはり目の前の省悟の中身は香菜だろうと結論づけた。

「いただきます」
香菜が料理に箸を伸ばした。
「おいしい。梨帆さんってお料理上手なんですね」
「えっ?」
「ぁ…いや……今日のはおいしい…ぞ」
間違いなく香菜だ。
省悟は笑いを抑えるのが大変だった。
時々怪しい男言葉を使いながらとても美味しそうに食べている。
スーパーで買ったものだって分からないんだろうか。
省悟はそんな香菜を本当に可愛いと思えた。

「あなた、お風呂、先にどうぞ」
香菜は浴室がどこか分からない。
着替えを運ぶ振りをして、それとなく浴室に誘導した。

香菜はいつまでもリビングに戻ってこなかった。
寝室を確認すると香菜はすでにベッドに入っていた。
しかも香菜はいつも梨帆が寝る側のベッドにいた。
(まあどっちでもいいけどさ)
省悟は風呂に入って、省悟自身の定位置のベッドに潜り込んだ。
「あなた、お休みなさい」
そう言って枕元の照明を消した。
(さすがに求めるわけにはいかないよな。今日はお預けだな)
そんな省悟の予想に反して、香菜が省悟のベッドに潜り込んできた。
「梨帆さん、いい…だろ?」
「えっ?…うん……」
省悟は嬉しい驚きを覚えた。

香菜の愛撫はとても丁寧だった。
省悟は香菜に抱かれているんだと思うと、異常に興奮した。
自分が意識して梨帆の振りをして女言葉であることも影響しているようだ。
香菜が入ってきたときになぜか軽くいったような気がした。
梨帆との関係の中ではなかった経験だった。
香菜の動きは変化があり、激しかった。
「あああああ…んんんんんん……」
省悟はだんだん快感が強くなるのを感じていた。
(あ…なんだ…こんなにすごいなんて……)
省悟はさらに深い快感を求めて腰を振った。
香菜のペニスから熱いモノが省悟の中に放たれた。
(あ…あつい…すごすぎる……)
同じ身体なのにどうしてこんなに感じ方が違うのだろう。
香菜が入った省悟との性的な相性がこんなにいいなんて思わなかった。
このまま香菜が省悟でいてくれるなら、自分も梨帆のままでもいいかもしれない。
初めて知った女性の快感のためか正常な判断ができないとは言え、そんなことを考えていた。
省悟は香菜の腕に抱きつき、心地よい眠りに落ちていった。


知らされた条件



「行ってらっしゃい」
省悟は香菜を送り出した。
昨日のセックスが充実していたせいか何となく身体の調子が良いように思えた。
無意識のうちに鼻唄が口を突いて出てくる
気持ちは心なしか弾んでいた。

香菜が出て行ってしばらくすると電話が鳴った。
『もしもし、おはよう。あなた誰?』
香菜の声だった。
ということは梨帆だ。
「わたし?香菜よ」
省悟は少し浮かれていたせいで、悪戯心から香菜の振りをした。
『…香菜なのか?』
電話の向こうで慌てている梨帆の様子が伝わってきた。
省悟の振りをするつもりらしい。
『そうか。香菜と梨帆で入れ替わったのか』
「そうよ。今奥さんがあなたとして会社に行ったところよ」
省悟は笑いを必死に抑えて香菜の振りを続けた。
『そうか、それじゃ今日は俺の奥さんが上司ってわけか。それも面白いな』
「でしょ?もし今日省悟さんが省悟さんになった奥さんに抱かれたら、精神は夫婦だけど、身体は浮気になるのよ。面白いでしょ」
『とにかくすぐ入れ替わってくれて良かったよ。言い忘れたけどもし入れ替わった状態で100時間経つと二度と入れ替わりできなくなるんだ。つまり元に戻れなくなるってことだ。だからあまり入れ替わった状態を続けるのは拙いんだ』

その言葉に省悟は慌てた。
「どういうことだ!」
省悟は香菜の振りしていたことを忘れて、気がつけば叫んでいた。
しばらく沈黙が続いた。
やがて電話の向こうから声が聞こえてきた。
『やっぱりあなただったのね』
梨帆に電話で話している相手が省悟だとばれてしまった。
『あなた、わたしたちが結婚したときの約束、覚えてる?』
「ぁ…ああ…」
省悟は全然覚えてなかったので、曖昧に返事した。
『浮気したら即離婚って約束したわね?』
そんなことを言ったかもしれない。
男は誰だってそんなできもしないことを言って女性を手に入れるものなんだ。
「そうだったっけ?」
『あなたが忘れてたっていいわよ。わたしとしてはもう独身になれたんだもの。しかもバツイチでも何でもない綺麗な戸籍のままのね』
「香菜のままでいるってことか。そんなことできるわけないだろう。香菜だってそんなことを許すわけないじゃないか」
『それは彼女に直接聞けばいいでしょ。とにかく100時間の件は伝えたからね』
金曜の夜に入れ替わったから今晩か明日の晩までに入れ替わらなければならないということか。
省悟がそんなことを考えているうちに電話が切れた。

省悟は急いで香菜に電話をかけた。
「もしもし」
『今会議中だ。帰ってからにしてくれ』
それだけ言って電話は切れた。
その後はいくら電話しても全然出てくれなかった。
会社の代表番号にもかけてみたが、全然取り次いでもらえなかった。
省悟は香菜の帰りを待つしかなかった。


結局香菜が帰ってきたのは0時を過ぎてからだった。
「ただいま」
「どうしてこんなに遅いんだ?」
省悟は梨帆の振りをする余裕などなくなっていた。
そんな省悟の姿を見て、目の前の男はニヤッと笑った。
「省悟さんが奥さんになってるんですってね」
香菜ももはや省悟の振りをしなかった。
「どうして知ってるんだ」
「だって今まであたしになった奥さんに会ってたんだもん」
「なっ…どういうことだ!」
省悟は驚いた。
省悟になった香菜と香菜になった梨帆が浮気をしていたということか?
「省悟さんが奥さんになったのは金曜の夜だったんでしょ?明日の夜、奥さんの身体から出ないと一生そのままなんですってね」
「そうだ。だからすぐ戻らないと!」
「でも今日はすでにタイムリミットね。明日とりあえずあたしと省悟さんが入れ替わらないといけないわね。省悟さんは省悟さんの身体に戻って、あたしはあなたの奥さんになるしかないんだ。不倫関係がいきなり夫婦なんてなんかすごいね」


ずっとふたりで



香菜は火曜早く帰ってきた。
香菜も自分が元に戻るように協力してくれているんだ。
省悟はそう思い少し安心した。

食事をして風呂に入ってもまだ11時前だった。
「ねえ、もうすぐ戻るんだから…。いいでしょ?」
「最後にって…。入れ替わっても、また入れ替わればいいんじゃないか」
「それもそうだけど。でも今やりたいの」
「香菜も好きだな…」

香菜とのセックスは省悟にとって最高の喜びだった。
何度も何度も絶頂を迎えた。
香菜が省悟の中で弾けた。
省悟の意識も一緒に弾けた……。

気がつくと、ニコニコした自分の顔が目の前にあった。
「省悟さん、イッちゃったんだ」
「イッたってあんな感じなのか?」
「うん、完全に意識がなくなってたよ」
まだ身体には抱かれた余韻が残っていた。
(そうか。女がイクのってこんなにすごいんだ)

急に省悟はあることが気になった。
「今何時だ?」
「えぇっと…12時10分だよ」
香菜の答えに省悟は言葉が出てこなかった。
「今日戻らないともう戻れなくなるって言っただろ。どうすんだよ」
省悟はかなり狼狽えていた。
「とりあえず一度やってみよう」
省悟は香菜とおまじないのポーズをとった。
もちろん何も起こらなかった。
「一生梨帆のままなのか…」
ショックを受けている省悟に対して、香菜は笑顔だった。
「わたし、自分の世話をしてくれる奥さんが欲しかったの。家に帰ってきてもご飯が準備されてるってすっごい憧れだったんだもん。だって今の世の中、絶対女のほうが損でしょ?男のほうが出世しやすいしね。わたしってこう見えても出世欲が強いのよね」
「どういう意味だ?」
「あたしはこのままで、省悟さんのままでいたかったってこと。だから12時になっても省悟さんを起こさなかったの」
「嘘…だろ……」
「これから省悟さんはあたしの可愛い奥さんよ。言うことを聞かないんだったらすぐに離婚するからね」
「何言ってんだよ」
省悟は困った顔を香菜に向けた。
香菜は嬉しそうに省悟を見て笑っている。
香菜の顔を見ていると何だか悩んでいるのが馬鹿らしく思えてきた。
(このまま気楽な専業主婦も悪くないか。香菜に抱かれたときの快感はすごいしな)
省悟はそんなことを考えていた。
「ねえ、それでいい?」
香菜が省悟の顔を覗き込んだ。
「分かった。ただし浮気はするなよ。もし浮気をしても、絶対に俺にばれないようにすること」
「分かったわ。やっぱり省悟さんは理想の奥さんだわ」
「それじゃ契約締結ということでもう一回抱いてくれるか?」
そう言って、香菜の腕に抱きついた。
「あたしの奥さんでいたかったらもっと可愛く言わないとダメよ」
「あなたもね。もう一回抱いてくれる?」
「ああ、いいよ」
省悟は香菜を求めた。
香菜も省悟を求めた。
香菜とのセックスは本当に最高の相性だ。
確実に絶頂に到達できるのだ。
セックスの相性が良ければ、うまくやっていけそうだ♪
香菜の腕の中で省悟はそう実感していた。


《完》

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