夜更けの街で



不倫する奴なんてバカだと思っていた。
ところが僕はその台詞を自分に対して発しなければならなくなる……。
僕は自分の身体を見下ろして絶望的な気持ちになった。


中尾秋奈に会ったのは4ヶ月前の梅雨の最中のことだった。
朝出社すると部長が皆を集めて秋奈を紹介したのだ。
「今日から我々の仕事を手伝ってくれる派遣の中尾秋奈さんだ。みんなよろしく頼む」
「中尾です。いろいろ不慣れで皆さんにご迷惑をおかけすると思いますが、早く皆さんの戦力になれるよう頑張りますのでよろしくお願いします」
僕はそんな挨拶をほとんど聞いていなかった。
その後に控えた先週のトラブルをいかに報告するかで頭がいっぱいだったのだ。

秋奈が派遣されたのは同じ部とは言え、別の課だった。
しかも僕の仕事とはほとんど関係のない課だった。
この先仕事で秋奈と言葉を交わすことは皆無と言っていい。
加えて僕の席からは視界に入りづらいところにその課はあった。
朝の挨拶を聞いただけで、昼前には新しい派遣社員が来たことなどはすっかり忘れていた。


秋奈の歓迎会はその日のうちに行われた。
その日の夜は毎週管理職のマネジメント会議が行われている。
その日のうちにやってしまえばうるさい部長や課長が来られないだろうという思惑が働いたのだった。
「渡辺さん、今日中尾さんの歓迎会をやることになったんですが、参加しません?」
そんな誘いで僕は秋奈の存在を思い出した。
この時点ではどんな女性だったかも思い出せなかった。
女性だと覚えていただけでもある意味奇跡だ。
「分かった。参加させてもらうよ」
僕は妻に夕飯がいらないことをメールした。
『分かった。楽しんできてちょうだい』
妻からのメールはシンプルなものだった。

妻とは7年前に結婚した。
いわゆる職場結婚というやつだ。
交際のきっかけは僕からだったし、プロポーズも僕からだった。
ついこの間3歳になったばかりの娘がいる。
子供が生まれてからは妻は子供につきっ切りになった。
世の中の家族もそんなものなんだろう。
僕は愛すべき妻と娘のためにひたすらお金を稼ぐだけの生活だった。
あと2年ほどで40歳の大台を迎える。
最近の流行にはどんどん疎くなってきた。
AKBなんて誰が誰なのかさっぱり分からない。
僕が若い頃軽蔑していた"オヤジ"のひとりに立派に成り下がっていた。


歓迎会で初めて秋奈の顔をしっかり見た。
秋奈は童顔で可愛いタイプの女性だ。
痩身で身長は160センチ前後だろうか。
僕がまだ結婚してなかったらたぶんアタックしていただろうな。
そう考えてしまうタイプだった。
25歳にもなっていないように見えたが、年が明ければすぐに30歳になるそうだ。
(友紀子と3歳しか違わないのか)
独身のせいか妻よりもずっと若く見えた。


皆に適度なアルコールが行き渡ると、お決まりの質問タイムが始まった。
「中尾さんは結婚してるんですか?」
今年入社した飯田が質問した。
「いいえ、独身です」
「恋人は?」
「いません。募集中です、と言いたいところですが、それほど積極的に募集はしてません。自然な流れで交際できればいいなって思ってます」
「好きなタイプは?」
「優しくて誠実な人がいいです」
「うちの会社で言うと?」
質問したのは30を過ぎてまだ独身の黒崎だ。
きっと自分の名前を出して欲しいのだろう。
「まだよく分からないし、もしいたとしても言えません」
当然の回答だ。
「俺は俺は?」という黒崎の声が飛んだが、秋奈からも他の者からもスルーされた。
「ねえ、中尾さんは男の浮気についてどう思うの?」
アラフォーの山本女史だ。
「男も女も浮気なんてありえません」
「中尾さんは恋愛対象として俺みたいな妻帯者はダメなの?」
最近結婚した小林くんだ。
いつもはこんなことを言う奴じゃないんだけど。
かなりアルコールが入っているようだ。
「もちろんです」
「もし結婚して旦那が浮気したらどうする?」
秋奈が真っ直ぐ小林くんの顔を見た。
それは睨みつけたといってもいいだろう。
小林くんはかなりたじろいでいるみたいだ。
秋奈が静かに口を開いた。
「浮気なんかしたら即殺します」
一瞬の静寂の後、ウォォーという声があがった。
女性からは当然よねという声だ。

「中尾っておっかないな」
僕と年が近い塚口がそばにやってきた。
「でもまあ結婚する前の女性ってそんなもんだろ。結婚に対して夢を持ってるもんな」
「それにしてもこんな場で『殺します』なんて普通言わないだろ」
「そりゃまあそうかな」
「そういう意味であいつはかなりやばい奴だと思うぜ」

秋奈の歓迎会とは言え、結局僕はいつもの話しやすいメンバーと話していただけだった。
秋奈とは一言も交わさないうちに、歓迎会はお開きになった。


秋奈を含め、若い連中は二次会に行こうということになったようだ。
「それじゃ僕はもう失礼するよ」
僕は早々に会場を出ようとした。
「そうですよね。それじゃお疲れ様でした。友紀子に一度飲もうって言っておいてください」
余計な一言を言ったのはあの山本女史だ。
確か妻とは同期だったんだっけ。
そんな記憶が蘇った。
「渡辺さんって結婚してるんですか」
「普通あの年齢だったら結婚してるでしょ」
「友紀子さんって」
「奥さんの名前よ。元はうちらの同僚だったのよ」
「ふーん」
そんな秋奈と山本の会話を背後に聞きながら、僕は帰宅した。



その日から10日程経った週末、僕は大学の友人たちといた。
同じ大学のテニス同好会の友人だ。
同窓が10人近くいたのだが、なぜか現在の4人でこうして定期的に会うようになった。
別に学生時代に取り立てて仲が良かったわけではなかった。
卒業した後に仲が良くなった恰好だ。

いつものように乾杯から始まった。
4人とも大学の頃の面影が残っているが、全員明らかに大学卒業時より太っている。
いつものように家庭のこと、会社のことを話して、そして大学時代の頃の話に移っていった。

「渡辺。お前、運動してるか?」
荒谷が急にそんな話題を話し出した。
聞かれるまでもなく、僕も含めて明らかに運動なんてしていない連中ばかりだ。
そもそも仕事に追われて運動なんてできるわけがない。
「この身体を見たら分かるだろ。運動なんてもんは何年もやってないよ」
「そうだろ。そこでだ…」
荒谷は何か含みのある笑みを浮かべている。
「今からボーリングに行こうぜ」
ボーリング?
どうしてまた?
理由なんか特になく急にやりたくなったそうだ。
そんなんだったら飲む前に言えばいいのに…。

アルコールが入っていたせいか4人ともボロボロだった。
100さえ越えれば余裕でトップだ。
「今日はダメだ。今度は素面でやろうぜ」
荒谷が悔し紛れにそんなことを言っている。

ボールを返したときにふと目の前のレーンを見た。
女の子がひとりで投げていた。
もう7ゲーム目だ。
よっぽどボーリングが好きなんだろう。
そう思って見ていると、投げ終わって振り返った女の子と目が合った。
秋奈だった。
「えっ?」
「あ…」
二人とも言葉にならない声を漏らした。

そんな様子に荒谷が気がついた。
「渡辺、何してんだ。行くぜ」
「あ…そうか…」
僕が見ている視線の先を荒谷が目で追った。
「何だ?知り合いか?」
「あ…ああ。会社の子だ」
次の瞬間、荒谷が秋奈に向かって言葉を発した。
「俺たち、これからカラオケにいくんですけど、一緒にどうですか?」
僕は驚いて荒谷の顔を見た。
「ダメに決まってんだろ?」
「どうして?」
秋奈が不思議そうな顔をして聞いてきた。
「だって中年のオヤジたちばかりだし、しかも僕も含めて知らない顔ばかりだろ」
「でも人と知り合うときって、最初はその人のことを知らないものでしょ?」
「そりゃまあそうだけど」
「お邪魔でなければ…。いいですか?」
「もちろん、お邪魔なわけないじゃん」と荒谷がはしゃいでいた。

秋奈は歌うのが好きなようだった。
僕たちのうち誰かが歌うと秋奈が歌った。
しかも人が歌っているときはカクテルを結構な勢いで飲む。
その結果、終電の時間を過ぎてしまった。
「おい渡辺。送ってってやれよ」
秋奈はかなりの酩酊状態だった。
秋奈のバッグから免許書を探し出し何とか住所を知ることができた。
帰る方向は違うのだが、同じ会社だということで僕が秋奈を送ることになったのだ。
秋奈の家のそばまで来ると、タクシーに待っていてもらい、彼女を部屋まで届けた。
僕の肩を貸してあげないととても前に進んでいけなかった。


秋奈からメールが来た。
『昨日はありがとうございました』
『大丈夫だった?』
『はい、何とか。まだ少し頭が痛いですけど』
『また何かの機会に誘っていいかな?』
『はい、楽しみに待ってます』

この時点では僕には秋奈に対する恋愛感情はなかった。
久しぶりに妻以外との女性とのプライベートなメールのやりとりに心躍る思いをしていたのは確かだ。
それでもしばらく秋奈と話す機会がなかった。
何となく距離が縮まったような気がしたのだが、まあそんなもんなんだろう。
少しずつ秋奈のことを考える時間が少なくなっていった。


そんな状況に変化をもたらしたのは知り合いの業者からもらったJリーグのチケットだった。
『二名様招待の食事券をもらったんだけど一緒に行ってくれませんか?』
そんなメールを秋奈に送った。
奥さんと行けばいいじゃないですか。
もしそんな返事が来たらそれ以上深追いする気はなかった。
しかし秋奈から来た返事はいい意味で期待を裏切るものだった。
『いいんですか!一度スタジアムで見たいなと思ってたんです』
その週末、秋奈と二人きりで日産スタジアムにいた。

妻には素直にサッカーを見に行くと言ってきた。
ただし相手は複数の後輩ということにしてあった。
「あなたってサッカーなんて全然興味ないと思ってたのに」
「取引先からチケットをもらったんだけど、それがかなりいい席らしくって行かなきゃ勿体ないってサッカー好きの後輩が言うもんだからさ。そいつらと一緒に行くことになったんだよ」
「ふーん、そうなの。どうぞ楽しんで来てちょうだい。夕飯はいらないでしょ?」
「多分そういうことになると思う。遅くなりそうなら先に寝ててくれ」
そう言って家を出てきたのだ。

「実はあんまりサッカーって知らないんだけど」
「そうなんですか?私が教えてあげますって」
選手が入場してくると、秋奈は饒舌に選手の説明をしてくれた。
マリノスと言えば中村俊介くらいしか知らなかった。
しかし誰が中村俊介なのかさっぱり分からない。

ゲームは1点も入らず素人の僕としては面白くも何ともなかった。
しかし秋奈のほうは充分楽しんだようだ。
「オフサイドでしょ」
「審判、どこに目をつけてんのよ」
「クロスが遅い」
「バックパスばかりしてどうすんの」
ゲームの間中叫びっぱなしだった。

「ああ、面白かった」
「全然点が入らなかったじゃないか」
「でもゲームは結構熱かったでしょ」
僕はまたチケットが手に入ったら誘っていいか尋ねた。
「どうして私なんですか?」
「この前が楽しかったからかな」
そういうと秋奈がニコッと笑った。
この瞬間僕は完全に恋に落ちた。


仕事では相変わらず接点はなかった。
だから仕事時間中は秋奈は僕以外と誰かと話すことになる。
そんなとき、僕は楽しそうに話をしている奴らを見てはジェラシーを覚えた。
そんな感情は何年も忘れていたものだった。
僕は高校生に戻ったように秋奈のことばかり考えていた。
妻への罪悪感はなかったわけではない。
友紀子には何ら落ち度はないのだ。
彼女は妻として母として本当に良くやってくれてると思う。
しかし僕のうちから湧き上がる秋奈への恋心は自分ではどうしても抑えきれなかった。

僕はJリーグの試合だけでなく、代表戦のチケットも手に入れるよう頑張った。
サッカーだけが僕と秋奈をつなぐものだった。
僕はそれ以上の関係になりたいと欲しながらも、それ以上の関係になることを恐れていた。

秋が深まった。
Jリーグもあと数試合で終わってしまう。
そう考えると僕の感情はどんどん強くなった。

その日もまたJリーグのゲームを見た帰りだった。
僕は秋奈とゲームの話をしながら夕食を取った。
その後、二人で公園を歩いた。
辺りは暗い。
周りはカップルばかりだ。
気持ちが高揚してきた。
僕は立ち止まった。
「どうしたの?」
秋奈が立ち止まり僕の顔を見た。
僕は秋奈の身体を引き寄せ抱き締めた。
拒絶される覚悟だった。
それで終わるのならそれでもいいと思っていた。
いや、そうなるほうがお互いのためだとさえ思っていた。

しかし秋奈は抵抗することなく僕の背中に腕を回した。
驚きながらも僕は嬉しかった。
「愛してる」
何の考えもなしに自分の気持ちを吐露してしまった。
「私も」
そんな秋奈の言葉が信じられなかった。
秋奈の髪の香りが鼻をくすぐった。
僕の下半身が急激に力を帯びてきた。
この状況で離れたくない。
しかしこれ以上踏み込むと取り返しのつかないことになる。
ずっと僕の心の中では警鐘が鳴っていた。

「もう少し一緒にいたい」
秋奈の言葉が僕の中から理性を消し去った。
秋奈に誘われるまま、僕は秋奈の部屋に行った。

夜は更けていった。


僕は秋奈に夢中だった。
秋奈とのセックスに夢中だった。
彼女は30近いとは思えないほど身体のラインが綺麗だった。
彼女の前では最近の妻との交わりではあり得ないほどペニスが硬くなった。
僕はこの年齢になってこれほどセックスに夢中になれるとは思わなかった。
僕には過去にあまり女性経験はなかった。
そんな僕は妻との相性がそれほど悪くないものと思っていた。
しかし秋奈との相性は最高だった。
シンプルなセックスでも最高に感じることができた。
秋奈の前では僕は青春真っ只中の青年になれた。

サッカー以外でも同じ時間を過ごすことができるようになった。
水曜と金曜は比較的早く仕事を切り上げることができたので、水曜・金曜は必ず秋奈の部屋で過ごすようになった。
仕事を終え秋奈の部屋へ向かうときから秋奈を抱くまで僕は最高にときめいていた。
しかし、時計が11時を過ぎたころ、僕はどう帰宅を切り出すかに頭を悩ませることになった。
「そろそろ帰る?」
いつもこの秋奈の一言に救われた。
「ああ、そろそろかな」
「それじゃ気をつけて帰ってね」
そうして僕をキスで送り出してくれるのだ。

そして帰宅の途で妻への言い訳を考える。
基本的には取引先とのつき合いということにしていたので、それほど多くは語らないことにしていた。
しかし急に話が出てきたときに矛盾なく答えることができるように、登場人物や行った店、簡単な出来事などを適当に頭の中で構成しておくのだ。
こうすることで妻に疑いを持たせないように対応することができる。

亭主が他の女と寝てきたことも知らずに、僕に今日の娘の様子を楽しそうに話してくれる。
そんな友紀子の顔を見ていると自分のしていることに罪悪感を覚える。
しかし秋奈との関係は終わらせたくない。
僕は友紀子と秋奈の間で揺れていた。
こんな不倫を続けている男にはそのうち天罰が下るのかもしれない。
それでも僕は秋奈と別れる気はなかった。
妻にばれないように、家庭を壊さないようにしつつ、秋奈ともうまくやっていく。
僕はそんなずるい男なのだ。

「今日は安全日だからスキンつけないでいいわ」
「いや一応念のために…」
「あなたを直接感じたいの」
それでも僕は秋奈の中に放出する勇気はなかった。
僕は出そうになったときに秋奈から抜け出ようとした。
「いやっ、そのまま出して」
秋奈が僕を強く抱き締めて離さなかった。
「やばいって」
僕は腰の動きを止めた。
その途端に僕は爆発してしまった。
秋奈が僕のモノを強く締め付けてくる。
僕はあまりの気持ちの良さに意識が薄れていった。


少しの間眠っていたのかもしれない。
ふと時計を見ると11時を過ぎていた。
やばい、帰らないと。
僕は慌てて起き出した。

何か変だ。
僕は自分の身体を見下ろした。
えっ?
目に飛び込んできた状況が理解できなかった。
僕は一度目を閉じた。
夢だ、夢を見てるに違いない。
僕は恐るおそる再び目を開けた。
やはり夢ではなかった。
僕の胸には乳房がついていた。
どうして?
不倫をした天罰で僕が女になったというのか。
パニックになっていると隣で寝ていた人物が目を覚ました。
それは"僕"だった。
「えっ、それじゃあ…」
僕は鏡の前に急いだ。
そこに映っていたのは"秋奈"だった。



不倫する奴なんてバカだと思っていた。
だから僕はバカだ。
それにしてもどうしてこんなことが…。
僕は自分の身体を見下ろして絶望的な気持ちになった。



「どうして私がもう一人いるの?」
背後から女性の話し方をする僕の声が聞こえた。
無条件に気持ちが悪い。
でもその話し方は秋奈だった。
僕が秋奈になっているのだから、僕の身体の中にいるのは秋奈なんだろう。


「秋奈なのか?」
「ええ。……もしかして渡辺さん?」
僕は頷いた。
「どうして?どうして入れ替わっちゃったの?どうすれば戻るの?」
「分からないよ」
秋奈は黙りこくった。
僕も黙った。

「ねえ、もう一度やれば戻るかも」
秋奈は絶望の中から唯一の光明を見つけたように呟いた。
「もう一度やるって?」
「セックスよ。これまでと違うことってスキンをつけないで、中に出したってことでしょ?だから同じ条件でやれば戻るかもしれないでしょ!」
「可能性はあるかもしれないけど……」
「グズグズ言ってないでやってみようよ。このままじゃお互い困るでしょ?」

ついさっき交わったばかりだ。
すでにお互い全裸の状態だ。
しかも体格でも力でも敵わない秋奈の身体になってしまっている。
僕は何の抵抗もできずに押し倒された。
「お、おい、落ち着けって」
「これが落ち着いていられる状態だって言うの!」
僕になった秋奈の力は強かった。
いくら僕がはむかおうとしても無駄だった。

秋奈の指が僕の胸の先の部分を摘んだ。
「ぁんっ………」
「渡辺さんって可愛い」
僕の漏らした声に秋奈は嬉しそうだった。
秋奈はなおも僕の胸を攻めた。
「私って胸が感じやすいの、気持ちいいでしょ」
僕は秋奈の指に翻弄されていた。
僕は秋奈の腕の中で悶えた。
女の感じる快感に完全に飲み込まれていた。

女の快感に翻弄されて、呼吸も満足にできなかった。
それほどものすごい快感だった。
頭がボォーッとしていた。
気がつくと秋奈が僕の脚を広げて、股間にペニスを押し当てた。
「…ちょ…ちょっと待て。まだ心の準備が……」
逃げようとしたが身体がうまく動かなかった。
「男なんだからグズグズ言わないで」
秋奈は腰を前に押し出した。
「うっ!」
僕の中に異物が入って来るのを感じた。
入れられてる!
何か変な感じだ。
気持ちがいいのとは少し違う。
どちらかと言えば気持ち悪いといったほうが近い。
「んんん……」
僕の口から声が漏れた。
「全部入ったわ。私の中って気持ちいいのね」
「おい、もういいだろ。早く出してくれよ」
結合を解いてくれという意味だった。
しかし秋奈は違った意味で理解したようだ。
「分かったわ。すぐに出してあげる」
そう言うと秋奈は僕を突き始めた。
すぐに身体の中から熱い物が湧き上がってきた。
初体験の快感だ。
「…ぁ……おかしく…なりそう……」
僕は秋奈に突かれていることに興奮していた。
自分は秋奈に犯されている女。
そんな状況に興奮していたのだ。
自分が女であることに酔っていた。
無意識に自分の口から女っぽい言葉がこぼれた。
秋奈の動きが激しくなった。
「渡辺さん、出そう……」
「来て、来てぇ……」
僕は秋奈の性を求めた。
無意識に腰の動きを早めた。
より強い快感を得るために。

身体の中に熱い物が放たれたのを感じた。
僕は秋奈の身体にしがみついた。
あまりの快感に自分がどこかに飛んでいきそうな気がしたのだ。
強烈な女性の快感に耐えきれないように僕は意識をなくしていった。


気がついたのは10分以上経ってからだ。
僕は相変わらず"秋奈"だった。


「ダメだったね」
秋奈がすぐ横で僕の顔を見ていた。
「ずっと見てたのか?」
「うん、私の寝顔って可愛いなって思って…」
「秋奈ってナルシストなんだな」
「私、自分のこと、そんなに嫌いじゃないわ」
「そんなことより今何時なんだ?」
時計を見ると12時を回っていた。
「もう帰らないと」
そう言って慌てて着替えようとした。

「その姿でどこに帰るって言うの?」
秋奈に言われて、今の自分の姿を思い出した。
秋奈になっていたんだった…。
「…どうしよう?」
「私が渡辺さんとして渡辺さんの家に帰るしかないみたいね」
秋奈が布団から抜け出て、僕が脱いだ服を着出した。
「えっ?秋奈が僕の家に!」
「それしかないでしょ?」
確かにそれ以外に手はなさそうだ。
「僕の家は分かるのか?」
「住所を教えて。タクシーの運転手さんに住所を言えばが連れてってくれるから。今はGPSっていいものがあるんだし」
「それもそうだな。でも妻とは…」
「それは当たって砕けるしかないでしょ?本当に砕けちゃったらまずいでしょうけど、きっと大丈夫だって」
「そうかな…僕は秋奈みたいに楽観視できないけど、とりあえず秋奈に任せるしかなさそうだな。頼むよ」
僕は秋奈に住所を教えて、友紀子の人となりを簡単に説明した。
「それじゃ行ってくるね。ちょっとドキドキするわね」
僕は僕の姿になった秋奈が帰っていくのを見送った。
何だか変な感じだ。


秋奈が出て行くときに外の空気が入ってきた。
その空気に肌寒さを感じた。
その感覚は今自分が全裸のままだということを思い出させてくれた。
(シャワーでも浴びよう)
僕は給湯器のスイッチを入れ浴室に入った。
浴室の鏡に秋奈の姿が映っている。
(これが僕、なのか)
僕は鏡の中の秋奈を観察した。
化粧がかなり落ちていたが、素材の良さは充分に見て取れた。
とても30近いとは思えない顔の造作だ。
身体だってとても綺麗だ。
きっと食べ物とかいろいろと気をつけているんだろう。

「くしゅんっ」
自分がしたとは思えない可愛いくしゃみが出た。
寒いっ。
(とにかくシャワーだ)
僕はシャワーの蛇口を捻った。
始めは冷たい水だったが、少しずつ温かいお湯が出てきた。
(気持ちいい…)
身体を打つシャワーが気持ち良かった。
(女性の肌ってやっぱりきめ細かいんだな)
僕は大切なものを洗うように優しく手で洗った。
ふと太腿の内側に何か流れていることに気づいた。
僕の中に出された精液だ。
(安全日って言ってたけど、こんなに出されて妊娠してないんだろうか?)
僕は何気なく下腹部を撫でた。
(自分で自分の子供を妊娠するなんて笑えないよな)
僕は急に不安になってきた。

僕は濡れた身体をバスタオルで拭きながら身につけるものを探した。
当然のことながら部屋には秋奈のものしかない。
(僕は今秋奈なんだから…)
僕は自分に言い聞かせるようにブツブツ言いながらタンスを物色した。
そしてタンスの中から適当に下着を選んだ。
それはエメラルドグリーンのショーツだった。
まだ一度も穿いたことがなかったのだろう。
まっさらだった。
(新しいみたいだけいいのかな。勝負下着だったりして…)
少しだけ躊躇したが、気にしないことにして脚を通した。
お揃いのブラジャーが目に留まった。
しかし妻が寝るときはブラジャーをしていなかったことを思い出して身につけるのをやめた。
(さてと着るものは…)
僕は時々目にしていた紺のスウェットを探した。
すぐに見つかった。
紺と赤と白の上下セットがあったのだ。
僕は見慣れた紺色のスウェットを取り出した。
スウェットを着ると何となく気持ちが落ち着いた。

(これからどうなるんだろう…)
そんな鬱屈した気持ちで布団に潜り込んだ。
眠ろうとして無意識に手が動いた。
手が動いたのは股間だった。
そこには何もなかった。
(本当に秋奈になってしまったんだなぁ…)
僕はスウェットの上からその場所をなぞった。
自分の身体の変化に平静でいられるわけがない。
うつらうつらしただけで、ほとんど満足に眠ることができなかった。

外は太陽が昇ったようだ。
充分に明るい。
僕はゴソゴソと起き出した。
頭をすっきりとさせるべく冷たい水で顔を洗った。
目の前の鏡を見ると素っぴんの秋奈がいた。
(やっぱり化粧はしていかないとまずいよな)
そうは思っても化粧の方法なんて知らない。
どうしようかと思っていると、インターホンが鳴った。
(誰だろう、こんな朝早く)
時間は6時を過ぎたばかりだ。
僕は警戒しながらドアを開けた。

「ダメじゃない、チェーンロックしておかないと」
ドアの前に立っていたのは秋奈だった。
「それより何しに来たんだよ」
「だってあなたのお化粧とか服装とかが心配で」
「それより昨夜は大丈夫だったのか?」
「うん、思ったほど怒ってなかったわよ」
どういう魔法を使ったのだろう。
よく分からない。
とにかく変な事態にはならなかったことに安堵した。
普通に考えると入れ替わるというとても変な事態になっているのだが…。

「朝からやる?」
秋奈が僕を抱き締めて言った。
「バカ言うなよ。そんなことしてたら遅刻だろ」
「遅刻しないんだったらやりたいってこと?」
「そんなことしに来たわけじゃないだろ?」
秋奈はこの言葉でこの部屋に来た目的を思い出してくれた。
秋奈は僕に手順を説明しながら化粧した。
僕は秋奈の説明を覚えようと努力した。
重要だと思ったところはメモにとった。
このときすでに無意識のうちに戻れないことを覚悟していたのかもしれない。


会社に行くと、普段秋奈と仲がいいであろう連中が話しかけてきた。
僕は適当に話を合わせるようにした。
「どうしたの、中尾さん?今日はおとなしいけど」
鋭い突込みを入れてきたのはあの山本女史だ。
「そうですか?いつもと一緒ですけど」
「そう?もしかして女の子の日なの?あんまり無理しなくていいわよ」
「はい、ありがとうございます」
山本を何とかやりすごしたかと思うと、次に岡部が話しかけてきた。

この岡部というのは僕の大学のかなり下の後輩にあたるまだ入社3年目くらいの奴だ。
配属されてすぐのときには「先輩、先輩」とうるさいくらいつきまとわれたものだった。
だが、仕事を覚え出すと僕のところに来ることもかなり減っていった。
それでも数ヶ月に一度くらいのペースで一緒に飲んだりしていた。
一応先輩として慕われていたわけだ。

その岡部が僕に今日の仕事を指示しているのだ。
秋奈の仕事は営業の資料作成とは知っていたが、どうやら岡部もサポートする相手のようだった。
作成すべき資料の仕事の背景、顧客が求めている要件、プレゼン資料で訴求するポイントの説明を受けた。
そして必要なデータを示して、明日の午前中までに資料を作るよう指示されたのだ。
レイアウトなんかは秋奈に任せているようだった。
僕は資料を作るためにPCを立ち上げた。

PCが立ち上がるのを待っているときに、秋奈のほうを見ると秋奈は僕の仕事を始めようとしているようだ。
(大丈夫かな?)
少し心配だったが、心配しても仕方がないと思い直し、自分の仕事に取り掛かることにした。

岡部からもらったデータだけでは薄っぺらい内容にしかならないように思えた。
したがって必要な情報をインターネットで調べて、業界の動向を交えて訴求ポイントを強調した。
頼まれた資料を作り上げたのは16時前だった。

「えっ、もうできたの?」
岡部はPCを操作して僕の作った資料をチェックしている。
「参ったな、僕が作る以上のレベルだよ。それに予想以上に早いし」
「それじゃこれでいいですか」
「うん、ありがとう」

とりあえず一段落したので僕は秋奈にメールをした。
『どう?うまくやれてる?』
少し時間が経ってから秋奈から返事が返ってきた。
『うん、何とか大きな失敗はしてないみたい。でも精神的にすっごく疲れてるし、もうちょっとしたら客先に行く振りして帰ることにしようと思ってる』
サボりかよと思ったが、変なことをやらかす前に消えてもらったほうが安心だ。
『分かった。僕も仕事が終わったらすぐに帰る』
しばらくすると秋奈が「外回り行って、そのまま直帰します」と席を立って、出て行った。

就業時間が終わると、僕はすぐに帰り支度を始めた。
すると岡部がスーッと近づいてきた。
「中尾さん、今日晩飯一緒にどうですか?」
「ごめんなさい。今日は約束があるので」
「そうですか。それじゃまたそのうち」
僕は岡部に「お先に失礼します」と言って会社を後にした。


秋奈自身の部屋に戻ると、秋奈がすでに来ていた。
「お帰りなさい」
そう言って僕を抱き締めキスしてきた。
いきなり自分の顔が迫ってくるなんてキモいことはない、はずだった。
しかし身体の反応は違った。
股間がジュンッと湿るのを感じた。
僕は秋奈を求めていた。


秋奈が準備してくれた簡単な食事を済ませると、食事の後片付けもそこそこに、秋奈が迫ってきた。
「ちょ…ちょっと…そんなに急がなくても」
「だってお互い早く戻りたいでしょ」
秋奈は僕を引き寄せると、そのまま僕を横たえ覆い被さってきた。
そして服の上から乳房を触りながら、僕の首に舌を這わせた。
僕は秋奈の性急さが恐くなった。

「なあ、秋奈。俺たち、戻れるかな?」
「えっ?」
僕の意図通り、秋奈の行動が止まった。
「僕たちは元に戻るためにやるんだろ?」
「そう、その通りよ」
密着した身体から、秋奈の股間のものはすでに大きくなっていたことは分かった。
彼女はすでに男性として興奮状態にあるのだ。
少しでも秋奈を落ち着かせようとした。
しかし秋奈は僕と話すのも煩わしいようで、首に這わせていた唇で僕の口を覆った。
「んんん……」
僕は口を塞がれ言葉を発せなくなった。
秋奈の手が服の中に滑り込み、直接乳房に触れてきた。
感じる。
しかし声を出せなかった。
苦しくなってきた。
僕は秋奈のキスから逃れようとした。
しかし秋奈はそれを許さなかった。
僕は秋奈のキスで口を塞がれたまま呼吸困難な状態になっていった。

やがて秋奈が僕の服を脱がせるべく、身体を離した。
ようやく息ができるようになった。
しかし軽い酸素不足になったせいか頭がボォーッとしていた。
そんな僕の状態を利用するかのように秋奈は素早く僕の服を脱がせ、自分も全裸になった。

「今日は心の準備はできてる?」
秋奈の言葉にほとんど意識なく頷いた。
秋奈のペニスが入ってきた。
今日は何だか気持ちいい。
「あああ……」
僕は自然と声を出した。
「渡辺さん、気持ちいい?」
僕は頷いた。
秋奈は僕の表情を楽しむようにゆっくりと腰を動かし出した。
部屋は明るいままだったので秋奈がじっと見ていることは僕にも分かっていた。
僕は何とも感じていないように装おうとした。
しかしそんなことができるはずもなく、僕は感じるまま表情を崩していった。
秋奈に見られている。
そんな恥ずかしさが僕を興奮させた。
僕はどんどん昇りつめていった。
秋奈の腰の動きが激しくなった。
「出…出そう……」
「ぁ…ぃ…ぃくぅぅぅ……」
秋奈の出した言葉に呼応するように僕も声を出してしまった。
そんな声を出した自分が恥ずかしかった。
その恥ずかしさがさらに興奮度を高めた。
秋奈が射精すると、僕は身を反らして痙攣した。
そして意識が真っ白になった。
満たされた。
最高に幸せだった。
僕は秋奈の肌の温もりを感じながら眠りに落ちていた。

「渡辺さん、今日も戻れなかったね」
遠くで男の声がした。
「それじゃ先に帰るね」
誰かが出て行く様子を感じた。
それでも僕はそのまま眠っていた。


目が覚めたのは朝の5時過ぎだった。
秋奈として迎える2回目の朝だ。
まだたった2回目。
それなのに今の自分の身体にほとんど違和感を覚えなかった。
もうずっと前から自分は秋奈のような感じだ。
どうしてだろう。

起きるとテーブルに放置された昨夜の汚れたままの食器が目にとまった。
(そういやそのままやっちゃったんだっけ)
僕は昨夜のことを思い出した。
食事の後片付けをしようとしているときに秋奈に迫られたことを。
(そう言えば秋奈っていつの間に帰ったんだろう?)
起きたばかりのときは一人だけでいることに疑問を抱かなかったが、今さらながら疑問に思えた。
僕は汚れた食器をシンクに浸しながら、記憶をたぐった。
そう言えば、夜中に「先に帰るね」と言われたような気がしてきた。
何となく夢のような気もするが、現実だったような気もする。
(きっと現実だったんだろうな)
食器をシンクにつけ終わると、自分の身体の汚れのほうが気になってきた。
僕は汗まみれの身体を綺麗にすべく、シャワーを浴びた。
内股に乾き切った精液の残骸が膜になってこびりついていた。
僕はそれを洗い落とし身体を綺麗に洗った。
別段乳房を揉もうとかそういう変な感情は湧いてこなかった。
自分の身体なんだから当然と言えば当然だ。
しかし2日前は他人の身体だったのにこの馴染み方はどういうわけなんだろう。

濡れた身体から簡単に水分を拭き取ると、そのバスタオルを胸のところにで巻いた。
そして身体の前に座ると化粧にかかった。
昨日秋奈に教えてもらった手順を思い出しながら化粧した。
どういうわけかすぐに満足な出来に仕上がった。
鏡に映る自分の顔を見て悦に入っていると、秋奈がやってきた。
「あら?もうお化粧終わっちゃったの?」
「あっ、うん」
僕は自分の美しさをアピールするように微笑んでみせた。
「なかなかうまくできてるじゃない。もしかして渡辺さんってそういう趣味だったの?」
「そんなことないよ。ところで、その"渡辺さん"ってのやめてくれないか?」
「どうして?」
「渡辺って呼ばれると、その瞬間は元に戻ったような気になってしまうんだよ。でも僕の姿は秋奈のままだろ?だからさ…」
ただ何となく前の名前で呼ばれるのが嫌だっただけだ。
僕は秋奈自身になりたがっている。
自分でそんな感じがしていた。
「それもそうね。それじゃいっそのこと、二人のときもお互いの立場を入れ替えてみましょうか。あなたが"秋奈"で、私は"渡辺さん"?……う〜ん、それより下の名前のほうがいいかもね、"卓也さん"って」
秋奈は自分で言って自分で照れていた。
元の自分の身体がおかまになったようで気持ちが悪い。
「ねっ、呼んでみて。卓也さんって」
「えっ?」
「ほら、ねっ」
「卓也…さん……」
何となく馬鹿馬鹿しく感じていた。
それでも秋奈のほうは盛り上がっていたようだ。
「秋奈っ」
秋奈が僕を抱き締めてきた。
そして熱い長いキス。
口紅をもう一度塗り直さなきゃいけないなと僕は考えていた。


僕は秋奈を先に行かせ、時間をずらして家を出た。
昨日は秋奈になったばかりだったため不安で一緒に出掛けたいと思ったのだが、今日はそうではなかった。
二人で一緒のところを見られて、変な噂を立ててはいけない。
そう思っていたのだった。
秋奈が出てから10分以上経ってから、僕は家を出た。
秋奈が待っているかもしれないと警戒していたが、そんなことはなかった。
秋奈は秋奈でさっさと会社に向かったようだった。

その日は岡部ではなく課長からの指示でデータをまとめていた。
昼休みになると岡部がやってきて昼食に誘われた。
女子社員たちを見ると「行ってきなよ」といった感じの雰囲気を醸し出している。
「それじゃ」と僕は岡部の誘いに乗ることにした。
会社のそばの食堂はどこも満員だった。
結局サブウェイでサンドイッチを食べるだけだった。
サンドイッチを手にしたときは昼休みはすでに残り10分程度だった。
食べることに必死でそれほど会話も弾まなかった。
ただ仕事の延長のような話をしただけだった。

戻ってきてすぐに女子社員たちの餌食になった。
「ねっねっ、岡部くんから告られた?」
「デートの約束とかしたの?」
「何もなかったわ」と彼女たちの追及をかわした。
ただこれだけは間違いなかった。
岡部は秋奈のことを好きだってことだ。


会社を定時に退社し、秋奈を部屋で待った。
帰りのスーパーで買った総菜を適当に皿に盛りつけたものを食卓に並べておいた。
別に秋奈になったからやったわけではない。
先に家に着いたものがやればいいと考えただけだ。
ただ僕は料理ができない。
できないならば出来合いの物を買えばいいだけだ。
(このまま秋奈のまま戻れなかったら料理くらいは覚えたほうがいいのかな)
そんなことを考えながら秋奈が来るのを待った。
1時間ほどで秋奈がやってきた。
「さすが秋奈、夕食の支度をしてくれたんだ」
「秋奈になったからね」
秋奈にはそう言っておいた。

二人で食事を取り、そしてその後ゆっくり食器を洗った。
今日の秋奈は性急ではなかった。
僕が食器を洗っている間、秋奈は食後のインスタントコーヒーをゆっくり飲んでいた。

「それじゃ秋奈、そろそろやる?」
食器を洗い終わったのを見計らって、秋奈が誘ってきた。
僕は静かに頷いた。
秋奈が力強く僕を抱き締めた。
「…卓也…さん…、い…痛い……」
秋奈の力が強く少し痛かったが、それがなぜか心地いい。
秋奈と呼ばれて突かれるのもたまらない。
秋奈の腕の中で僕は歓喜の声をあげていた。


僕と秋奈は完全に立場を入れ替えた。
そもそも会社では僕は秋奈として振る舞っていたし、秋奈も僕として振る舞っていた。
それが二人だけの時間にも広がっただけだ。
僕は秋奈のことを「卓也さん」と呼び、秋奈は僕のことを「秋奈」と呼んだ。
そんな変化が僕を興奮させた。
僕は秋奈として何度も何度もイクことができた。

会社では岡部の誘いを適当にあしらい、夜は秋奈に抱かれる毎日だった。
毎日毎晩抱き合った。
当初は元に戻ることを目的として抱かれていたはずだった。
しかしいくら抱き合っても元に戻らなかった。
戻らないことに安心している自分がいた。
そもそも元に戻るためというのは自分の自尊心を保つための理由でしかなかった。
本当は僕は女の快楽を求めるために秋奈に抱かれているのだ。
僕は女性として秋奈に抱かれた。
今日も戻らない。
これで明日もまた抱いてもらえる。
僕は秋奈として女として抱かれる喜びを手放したくはないと思うようになっていた。
恋愛感情なんてものはなかった。
僕はただただ快楽に溺れる女になっていた。


そんなある日のことだった。
その日は午後から下腹部が重かった。
(昼に食べたものが悪かったのかな?)
女として経験の浅い僕は腹の調子が悪いのは風邪か食べ物くらいしか思いつかないのだ。

その日の夜、秋奈と抱き合おうとしたまさにそのタイミングで女性特有の生理現象が流れ出したのだ。
「妊娠してなくて良かったわね」
秋奈は顔を赤らめながら、流れ出た物を綺麗に拭き取ってくれた。
そして生理用ショーツを取り出し、ナプキンをつけてくれた。
それを穿いた。
なんかゴワゴワして気持ちが悪い。
僕はショーツを少しずつずらし、違和感の少ない位置を探した。
「ところで話があるんだけど」
秋奈の声がした。
顔を上げると、秋奈がこっちを見て神妙な顔をしている。
何だか嫌な予感がした。
「もういくら抱き合っても戻れないみたいだし、もうこんな関係終わりにしない?」
「何言ってんだよ。そんなことしたら僕はどうなるんだ」
「考えてもみてよ。今は"秋奈"は妊娠していないけど、こんな関係を続けてたらいつそういうことになるか分からないでしょ。もしそうなったらあなたも友紀子さんも傷つくのよ。あなたはそれでもいいって言うの!」

不倫する奴なんてバカだと思っていた。
そんな言葉が脳裏をかすめた。
不倫した挙げ句、僕は秋奈になり、そして捨てられた。
この不倫で手にしたものは秋奈の身体だ。
秋奈の人生も手に入れたのかもしれない。
今まではそばに秋奈がいてくれたからあまり不安ではなかったが、別れてしまうとすごく不安になった。
その日の夜は下腹部の鈍痛とこれからのことを考えると暗澹たる気持ちになった。


次の日は体調が悪いと連絡して会社を休んだ。
生理のため腹痛だったというのは嘘ではない。
それよりも会社に行き秋奈の顔を見るのがつらかったのだ。
もしかすると急に泣き出してしまうかもしれない。
そうなると"渡辺卓也"としての秋奈の立場が危うくなるかもしれない。
「派遣社員に手を出した男」とレッテルを貼られてしまうかもしれない。
そうなると窓際になってしまう。
最悪はリストラに追い込まれてしまうかもしれない。
もう戻れないかもしれないが、自らそんな状況に追い込むような行動はしたくなかった。

僕は一日中部屋で横になっていた。
起きようと思えば起きられるが、とてもそんな気にならなかったのだ。
それにしても女性は毎月こんなものと付き合ってるのだ。
それだけでも尊敬に値すると思う。

土曜になると、生理痛がかなり楽になった。
昨日は生理痛のせいで気分的に鬱になっていたのかもしれない。
今日は気分的にはかなり明るくなっていた。
もしかすると秋奈が来てくれるかもしれない。
そんなことを考えるほどになっていた。
入れ違いで逢えなくなることを恐れ、どこにも出掛けなかった。
しかし、僕の期待は叶わなかった。

週が明けた月曜にも体調が悪いと言って会社を休んだ。
やはり何となく会社に行きづらかったのだ。
もちろん生理による出血はほとんどなかったし、生理痛もなかった。
土日買い物に行かなかったせいで、冷蔵庫の食料は底をついていた。
僕は近くのスーパーマーケットで食料品を調達した。
部屋を掃除して、締め切っていた部屋の空気を入れ替えた。
そんなことをしているうちに、夜を迎えようとしていた。
明日はどうしよう?
このまま一人で生きていく自信はない。
そのうちお金がなくなり、食べる物もなく一人で死を迎えるのだろうか。

夕食をとり、後片付けをしていると、インターホンが鳴った。
秋奈が来てくれた!
僕は喜んで玄関のドアを開けた。
そこに立っていたのは岡部だった。
「岡部さん…」
「もう起きて大丈夫なの?」
岡部が心配そうに聞いた。
「あ…ええ、もう大丈夫みたいです」
「良かった。金曜から今日までずっと具合が悪かったんだろ?いつも元気な中尾さんだから、とても心配で……」
こいつは本気で僕のことを心配してくれている。
そう思うと感情をうまくコントロールできなくなっていた。
僕の目からは次々に涙がこぼれた。
「あ、ごめん。何か変なこと言ったかな」
突然の僕の涙に岡部が狼狽えていた。
「あ、いえ…。とにかく中に入って……」
何とか岡部を中に招き入れると、僕の中の何かが切れた。
僕は嗚咽をあげて泣いた。
岡部は何も言わずに僕を抱きしめてくれた。
岡部の身体の温もりを感じると、ますますコントロールできなくなった。
さらに激しく泣き狂った。
岡部の手が優しく髪を撫でてくれた。
それが心地よかった。

長い時間泣き続けたことで、気持ちが少し落ち着いてきた。
僕は顔をあげて岡部のほうを見た。
視線が合った。
なぜかその視線を外せなかった。
僕はなぜか目を閉じた。
岡部の熱い息を近くに感じた。
僕の唇に温かいものが触れた。
僕は岡部にキスされていたのだ。
僕の頬には涙が流れた。
しかしその涙の意味するものはさっきまでとは違っているような気がした。

僕は混乱していた。
今の状況がうまく理解できないでいた。
どうして僕は抱かれているのか?
キスされたことは覚えている。
その後の記憶が曖昧だ。
よく分からないが、僕は全裸で岡部に抱かれていた。
意識の混乱にもかかわらず、身体は敏感に反応した。
岡部の愛撫に甘い吐息を漏らしていた。
「中尾さん、好きだ」
岡部はそんな言葉を繰り返しながら僕の首筋・乳房・腋に舌を這わせていた。

「岡部さん、やめて……」
僕は快感の中で蚊の鳴くような声しか出せなかった。
そんな僕の訴えは簡単に無視された。
僕自身、本当にやめて欲しいわけではなかった。
ただいきなりのことに混乱していただけだ。

快感に身を任せていると、僕の股間に岡部の手が伸びてくるのを感じた。
「いやっ、やめて」
そのときになって、僕は急に怖くなった。
何に怖くなったのか分からない。
岡部に犯されることに対する恐怖なんだろうか。
それとも次々と男を替え、快感だけを貪る女になって堕ちていく自分への恐怖なのか。
得体の知れない恐怖から逃れるため、僕は岡部から逃げようとした。
身をよじって、岡部の手から逃れようとしたのだ。
しかし無駄だった。
「中尾さん、好きなんだ」
岡部は僕の両脚を掴み、股間を広げた。
そして、僕の脚の間に割って入ってきて、ペニスを膣口に当てた。
岡部のペニスは僕のものよりも二回りくらい大きかった。
「秋奈、愛してる」
そう言って強引に僕の中にペニスを突き立てた。
「あ……はん……」
恐怖を感じていたにもかかわらず、充分濡れていたせいで、何の抵抗もなく岡部のものを受け入れた。
「愛してる、愛してる、………」
岡部はただただ激しく腰を打ちつけてきた。
子宮が突かれている。
僕はそんな感覚を持った。
激しいだけのセックスだった。
僕はなかなか昇りつめることができなかった。
「ああ…出そうだ……」
そう言ってすぐ岡部は僕の中から抜け出た。
そして僕のお腹の上に精液をぶちまけた。
僕はイクことができなかった。
もうちょっとでイケたのに。
僕は完全にイケなかった恨めしさに岡部を睨んでいた。
それを岡部は別の意味に取った。
「ごめん、抑え切れなくて」
僕は黙っていた。
謝るくらいなら抱くなと言いたい気分だった。

岡部はティシュで自分のペニスを拭きとった。
そのティシュにわずかに赤い物がついていた。
また布団にもわずかに赤い物がついていた。
生理がまだ完全に終わってなかったせいで、その痕跡がついたのだ。
岡部はそれを勘違いした。
「中尾さん、初めてだったんだね」
それに対し、僕は明確な返事をしなかった。
岡部はそれを肯定の意味ととったようだ。
「ありがとう。きっと幸せにするから」
その言葉はプロポーズなのだろうか。
とにかく秋奈として一人で生きていく自信のない僕にとっては渡りに舟だ。
岡部のことはよく知っているし、いい奴であることは間違いなかった。
異性として好きとは決して言えない。
だが、僕の中で打算が働いた。
僕は「嬉しい」と言って岡部に抱きついた。
心の中では舌を出していたが。



翌日から岡部は職場で僕との交際していることを誰彼かまわず話していた。
二人がつき合っていることを必要以上にアピールしたいのだ。
僕もあえて否定はしなかった。
皆に冷やかされているうちに僕にも岡部の彼女としての自覚のようなものが出てきた。
好きとか嫌いとかは関係ないのだ。
僕は岡部の彼女なのだ。

職場で秋奈と目が合っても完全に無視した。
僕にはもう新しい恋人がいるのだ。
元カレなんて何の未練もない。
僕は岡部を愛している。
と思い込もうとしていたのだ。

岡部は毎晩僕の身体を求めた。
僕もその行為自体は嫌いではなかったので、岡部の求めに応じた。
岡部はいつもイキそうになるとペニスを抜いて外に出した。
それが妊娠を避けるためだと分かっていても何となく物足りたい感じがいつも残った。
岡部だけがいつも満足している。
僕はいつも置いてけぼりだった。
何となく不満だった。

やがて岡部は半同棲のように僕の部屋に泊まることが多くなった。
それとともにセックスは少しずつ雑な感じになっていた。
僕は岡部との関係に疑問を持ち始めたときだった。
いつものようにキスから始まって、僕の首筋・乳房・腋に舌を這わせてきた。
最初のときほど感情が入ってないせいか、最初のときほど感じることはなかった。
それでも僕は感じているような振りをした。
それがマナーだと思っていたから。
もうすぐ触られるんだろうな。
まだそれほど湿っていないから今触られたら痛いかもしれないな。
そんなことを考えていた。
すると岡部の舌が乳房からさらに下に下がってきて、臍の辺りを舐め出した。

(えっ、ウソ)
そう思った時は岡部の手が、僕の膝の裏に入っていた。
そして脚を大きく広げたような恰好にさせられた。
部屋の灯りを消していないので、僕の恥ずかしい部分が岡部に丸見えになっていた。
「いやっ、見ないで」
僕は両手でその部分を隠そうとした。
しかし岡部が邪魔するように頭でブロックした。
その結果僕は自分の手で岡部の頭を恥ずかしい部分に押し付けることになった。
「あ…あぁんん……」
岡部が何か言おうとしたのか股間に妙な感じが走った。
僕は手を離した。
「秋奈、恥ずかしがらなくてもいいだろ。全然可愛いよ」
岡部がジッと見ている様子が伝わってくる。
僕は手で自分の顔を隠した。
恥ずかしくてそうせざるを得なかったのだ。
岡部の息を股間に感じる。
羞恥のせいでどんどん興奮してきた。
その結果、どんどん濡れていく。
「秋奈、感じてるんだね」
岡部の言葉がさらに羞恥の心を強くした。
僕は指の間から岡部の様子をうかがった。
岡部はジッと女性の部分を見ているのだと思っていたが、あいにく僕のほうをジッと見ていた。
岡部と視線が合った。
岡部はニコッと笑った。
僕は顔から火が出る思いだった。
慌てて再び顔を隠した。

敏感な部分に生温かいモノを感じた。
岡部が僕のあそこを舐めたのだ。
「…ヒァン………ィャ………」
ものすごく恥ずかしかった。
汚いんじゃないか。
変な臭いがしてるんじゃないか。
いろんなことが頭をよぎった。
しかしそんなことを考えられなくなるほどものすごい快感だ。
あまりの快感に脳が溶けてしまったとさえ思える。
そんな錯覚を覚えるほど僕はおかしくなっていた。
おそらく大きな声を出しているのだと思う。
でも自分では声を出していたのかそうでなかったのかすら分からなかった。

顔を被っている僕の手に何かがあたった。
岡部のペニスだった。
岡部がいつの間にか体勢を変えていたのだ。
これって銜えろってこと?
僕は働かない頭で状況を把握しようとした。
でもやはり頭が働かない。
半ば朦朧とした意識のまま目の前のモノを銜えた。
苦い。
それにおしっこ臭い
それでも僕は一生懸命口の中のモノを舐めた。
岡部が僕のモノを舐めてくれるのなら僕もそれに応えようという思いだけだった。
彼のモノを口に入れたまま何度か意識が薄れた。
軽くイッたのだろう。

「もういいよ。ありがとう」
僕の口にあったペニスが急に取り出された。
「ぇ…ぁ……」
おそらく僕は物欲しそうな表情をしていたのだと思う。
ペニスがなくなった後も同じような口をしていた。
自分で判断することなどできない状態だった。
ただただ与えられる快感に対してだけ僕は反応するのだ。
そんな意識が朦朧となっている中、僕のペニスが入ってくるのを感じた。
「…ぁぁぁ……ぃぃ……」
岡部が相変わらず激しく突いてきた。
僕も呼応するように腰を動かした。
僕はどんどん昇りつめていった。
岡部の腰がさらに激しくなった。
「…ぁ…イキそう……」
僕は岡部を強く抱き締めた。
「俺も出そう…だ……」
岡部の動きが止まった。
また抜こうとしてる。
僕は両手両脚でがっしりと岡部を抱いた。
「お…おい…、出てしまうって……」
次の瞬間岡部のペニスが僕の中で弾けた。
熱いモノが僕の中を満たしていった。
「ぁぁぁぁぁぁぁ……」
僕は完全にイケた。
岡部が覆い被さっているせいで岡部の体重を感じる。
それが心地いい。

彼が離れようとした。
「もう少しこのままでいて…」
そんな僕の言葉に岡部は笑顔で応えた。
僕はそのまま岡部を感じていた。


気がついたときにはすでに岡部は抜け出ていた。
すぐ隣で僕の顔をずっと見ていたようだ。
「すごく感じてたね」
「…いつもと一緒よ」
「そう?それならそういうことにしとこうか」
「クンニって好き?」
岡部が必要以上に僕の顔に近づいて聞いてきた。
「…バカ……」
おそらく僕の顔は真っ赤になっていたのだと思う。



その日を境に僕の心境にも変化が現れた。
当初は打算から始めたつき合いだった。
セックスによってもたらされる快感だけを求めて、秋奈、そして岡部に抱かれた。
しかし、僕は岡部を愛し始めていた。
愛情を抱くと、感じ方も違ってきた。
イケることもずっと多くなってきた。
また、積極的に彼のモノを銜えることができるようになった。
彼に感じて欲しい。
そんな気持ちが僕を突き動かした。

正常位だけだった体位も、後背位、座位、騎乗位など、いろいろ応じた。
中でも僕は騎乗位が好きだった。
自分で調整できるし、自分の乳房を彼に見せつけられるからだ。
正常位も好きだった。
彼の顔を見ながらイケるのはいい。
心理的な変化のせいか、一度イッたせい
か、その後も必ずイクことができた。
その頃には僕は岡部のことを"信雅"という名前から「信くん」と呼ぶようになっていた。


そうしたある日、僕にとっての2回目の生理を迎えた。
「今日はお預けか」と残念そうな彼に対し「フェラしてあげよか」と提案した。
岡部は嬉しそうな顔をした。
いつものセックスと違い、お互い全裸になるわけではない。
お互い服を着たままだ。
僕はスカートに皺がつかないように気をつけて岡部の前に跪いた。
そして、ズボンのベルトを緩めた。
「こういうシチュエーションも興奮するな」
岡部の股間はすでに大きくなっていた。
僕は「ふふふ…」と意味ありげに笑い、チャックを下げた。
そしてズボンの下に隠れていたペニスを取り出した。
すでにはち切れんばかりの状態だ。

異臭が鼻をつく。
僕は岡部の顔を見上げながら、パクッと銜えた。
銜えてしまうと臭いは少し治まる。
それでもわずかな異臭を鼻腔に感じた。
僕は綺麗に舐め上げるようにペニスを舐めた。
岡部が髪を撫でてくれた。
充分舐め上げたところで、僕は口を窄めて、顔を前後させた。
頭上で岡部の「ぁぁ…」という声を漏らした。
感じてくれている。
僕はさらに速く頭を動かした。
岡部も僕の頭をつかんで揺するように動かした。
口の中のモノが大きく脈打った。
(出るっ!)
次の瞬間、僕の口の中に粘っこい液体が満ちた。
そのとき僕が考えたのは『スカートが汚れる』ってことだった。
襞の細かいプリーツスカートを穿いていたのだ。
男の人の精液がついた状態でクリーニングに出せるわけがない。
僕は必死にこぼさないように一滴残らず飲み込んだ。
決しておいしい代物ではなかった。
それでも僕は飲み込んだ。
そんな僕を岡部は抱き締めてくれた。
「飲んでくれたんだね」
自分の出したものを飲み込んだことに感激したのだ。
分からないでもないが、本当の理由はただ単にスカートを汚すのが嫌だっただけなのに…。
まだ精液が残っていた僕の口の中を舐めつくすようなキスをしてくれた。
自分の出したモノが僕の口に残っているなんて考えないんだろうか。
それにしても岡部との関係はいつも勘違いで盛り上がる。
まあそういう出来事が恋愛には必要なのだが。



そろそろ3回目の生理を迎えるときがやってきた。
しかし、なかなかその兆しがない。
予定日から2週間が過ぎると、さすがの僕も"アレ"を確認する必要性を感じていた。
もちろん前回の生理から何度も岡部と抱き合った。
したがってそういう可能性があることは頭にあった。
僕は検査薬を購入して、自ら検査した。
予想通り陽性だった。

岡部に話すタイミングを図っていた。
元男としてはこういう話が一番難しいことがよく分かるからだ。
いつものように僕の部屋で抱き合って、その余韻を感じていたときだった。
「秋奈、結婚しよう」
僕は驚いて岡部の顔を見た。
僕自身望んでいたであろう言葉だが、実際に言われるとさすがに驚いた。
「私もうすぐ30よ。信くんならもっといい女性いるんじゃない?」
口から出てきた言葉は自分でも思ってもないものだった。
本当は二つ返事で承諾の返事をしたかったはずなのに。
「俺が秋奈だけって分かってるだろ」
僕の目から涙がこぼれた。
秋奈の身体になってからよく涙するようになったものだ。
「いいよね?」
僕は肯くと、顔をクシャクシャにして泣いた。
一頻り泣くと、今度は僕の番だ。
「実は……」
僕は妊娠検査薬の結果を話した。
「あっちゃぁぁぁ…、できちゃった婚になっちまったか。周りの奴らには妊娠させたから仕方なく結婚するって思われるかもな…。なあ、秋奈、俺が先にプロポーズしたって皆に言ってくれよ。そうでないと俺のプロポーズが無駄になるだろ?」
そんなことにムキになる彼を可愛いと思った。
プロポーズが無駄になるなんてことは絶対にないのに。
「分かった。信くんが『結婚しよう』って言ってくれたって皆に宣伝するわ」
「いや、わざわざ宣伝までしてくれなくていいよ。あんまり言うと逆に冷やかされちまうし」
「とりあえず赤ちゃんのことはしばらく内緒にして、婚約だけ皆に言っておかない?」
「そうだな、そうしよう。それじゃ秋奈の身体が心配だし、明日にでもすぐ病院行ってこいよ。会社には午前休って言っといてやるから」
「産婦人科に行ってるって言うの?」
「それは内緒だろ!」

翌日、近くの総合病院の産婦人科を訪ねた。
医者からは予想通りのことを言われた。
病院から出て、その足で会社に出勤した。
てっきりそのまま会社で発表するのかと思ったが、少し待ってほしいと言われた。
まず報告したい人がいるとのことだった。
週末にその人に会わせたいということだった。
会って欲しい人って誰なんだろう?
僕が聞いてもニヤニヤしてるだけで教えてくれなかった。

そうして週末を迎えた。



連れて行かれたのは元の自宅だった。
つまり渡辺卓也の家だった。
そう言えば、秋奈は今週の初めから出張に出ていた……ような気がする…。
少なくとも1度も顔を合わせなかった。
と言っても岡部とつき合うようになってからは、意識的に秋奈を見ないようにしていたため、会社にいたかどうかはほとんど分からない状態だった。
久しぶりに正面から顔を見ることになるのだ。
僕の鼓動は自然と速くなっていった。

岡部がインターホンを押した。
逃げ出したい気分だ。
しかしそんな気持ちとは裏腹にすぐに玄関のドアが開いた。
秋奈が出てきた。
「岡部、時間通りだな」
「はい、先輩との約束っすから。入っていいすか?」
「ああ、どうぞ」
「お邪魔します」
岡部がさっさと入ってしまったので、僕はひとり取り残された形になった。
「どうしたの?早く入ったら?」
秋奈はわざとらしく以前の秋奈っぽく話した。
僕はチラッと一瞥しただけで急いで家に入った。
秋奈は意味ありげな笑みを浮かべていた。
まさかこういう話で秋奈に面と向かって会うとは思ってもいなかった。
僕はどんな顔をしていいのか分からず、秋奈の顔を見ることができなかった。


居間に入ると、妻の友紀子がいた。
久しぶりに見る妻の顔だ。
僕はボロを出さないように軽く会釈するだけで何も話さなかった。
会釈したときにチラッと友紀子を見るとなぜか妻は驚いた顔をしていた。
まさか正体がばれた?
そんなはずはない。
今の僕は誰がどう見ても中尾秋奈のはずだ。
もしかしたら女の直感というやつで、僕の正体を見破ったというのか。
僕は必死に動揺を隠して友紀子と目が合わないように努めた。
僕は秋奈とも友紀子とも目を合わせないようにしていた結果、ずっと下を見ている羽目になってしまった。

岡部が口火を切った。
「先輩、俺、彼女と結婚することになりました」
「そっかぁ。やったな。おめでとう。で式はいつだ?」
「まだ何も決めてなくって」
岡部が頭を掻いた。
「招待してくれるんだろうな」
「それはもちろん。俺としてはあまり堅苦しくないもんでいいかなって思ってるんですけど……これから二人で考えます」
「基本的には結婚式なんて女性が主役だから中尾さんの思い通りにするのが一番だと思うぞ」
「そうですね。彼女のやりたいようにやることにします」

そのあとも二人の話は弾んでいた。
友紀子はお茶菓子を出したり、甲斐甲斐しく働いていた。
女性としてはそれを手伝ったほうがいいかとも思ったが、友紀子と二人になりたくない。
したがって、恥ずかしがってフィアンセの隣から離れられない女性の役をやり続けることにした。

秋奈の家には2時間ほどいた。
僕にとってはかなり長い時間だった。
ようやく帰れるときがきたときはホッとした。
秋奈の家をあとにしたときは倒れこみそうなほど疲れていた。
僕は岡部の腕をつかんで何とか歩いている状態だった。
秋奈たちから見れば、仲の良い婚約者たちに見えたのかもしれないが。

角を曲がり、秋奈の家が見えなくなったときに、誰かからメールが届いた。
『秋沢友紀子』と表示されていた。
妻の旧姓だ。
どういうことだ?
なぜ妻からメールが来るんだ?

僕は恐るおそるメールを見た。

『驚いたわ、あなたがまさか結婚するなんて。しかも私のところに挨拶にくるなんて、すっごい偶然ね。とにかく旦那がいない日に連絡いれるから、一度遊びに来てよ。旧交を温めましょう。楽しみにしてるわ。』

文面から推測すると、おそらく秋奈と友紀子は知り合いだったのだろう。
それにしてもどういう知り合いなんだ?
年齢は6歳も離れているのだ。
友達ということは考えにくい。
幼いころ近所に住んでいたお姉さんといったところだろうか。
とにかく事前に秋奈から情報を仕入れておく必要がありそうだ。


そんなことがあった翌週の月曜日、仕事が終わり帰宅の準備をしていると、すぐそばで岡部が残業を命じられていた。
僕は目立たないように「先に帰るね」という意味で小さく手を振った。
岡部が小さく頷いたのを確認して部屋を出た。

会社を出たところで、腕をつかまれた。
つかまれた方向を見ると、秋奈が立っていた。
「何?」
「ちょっといいかな?」
秋奈は周りを気にしながら小声で話した。
僕は秋奈について近くの公園のベンチに腰かけた。
目の前では幼稚園児らしき子供たちが遊んでいた。
僕たちはそんな子供たちを見るともなく見ながら言葉を交わした。
「友紀子から連絡あった?」
「うん、あった。あれ、どういう意味なの?」
僕は周りの目を気にして、できるだけ不自然でない話し方をした。
「"あれ"って言われてもどんなメールか知らないしな」
「それじゃ質問の仕方を変えるわ。あなたと友紀子は知り合いだったの?」
「ああ、そうだよ。大学受験のとき家庭教師として来てくれていたのが友紀子だったんだ」
家庭教師か。
それなら分かるような気がするが、それだけではないような気もしていた。
「そうだったの。だったら先生って呼んでたの?」
「いや、"ゆきねえ"って呼んでた」
「ユキネエ?」
僕は秋奈の表情を確認するために秋奈の横顔を見た。
「友紀子姉さんで"友紀ねえ"よ」
急に元の秋奈の話し方になった。
気持ちは昔に戻っているみたいだ。
視線が遠くを見ているようだった。
「なるほどね。先生と生徒の関係だったのね?」
「もちろんそれ以上の関係だったわ」
「私が友紀子さんを友紀ねえって呼ぶようになったのはそういう関係になってからよ」
「"そういう"って?」
「"そういう関係"は"そういう関係"よ、分かるでしょ?」
秋奈によると、親のいないときに迫られたそうだ。
好奇心旺盛な時期だったし、秋奈自身友紀子のことを好きだったため、何も抵抗せずになされるままだったとのことだった。
「初恋だったかもしれないわね……、あっ!余計なことまで言っちゃったようだな」
急に話し方が元に戻った。
「とにかくそういうわけだから友紀子と話すときはうまく口裏を合わせてくれ。友紀子に変な疑念は持たれたくないからな」
「うん、分かった」
「ならいいんだ。じゃあな」
秋奈がひとりで帰って行った。
僕は秋奈の後ろ姿を見ながら携帯を取り出した。
今の僕と二人きりになったら友紀子はどういう行動に出るのだろう。
僕は妙な期待を抱きながら友紀子にメールを打った。



僕は今全裸で友紀子と向き合っていた。

あの日出したメールの返事はすぐに返ってきた。
土曜の午後から会おうと。
その日秋奈は休日出勤で不在らしい。
僕は岡部の誘いを適当な理由をつけて断って、友紀子の家に来ていた。
そして形式だけの挨拶の後、すぐに寝室に誘われたのだ。

期待通りの展開だったが、正直戸惑っていた。
友紀子の身体が自分の記憶以上に綺麗だったからだ。
女の感覚から見ると男のときとは違うように見えるせいかもしれない。
それは秋奈の身体になってから様々なケースで何となく感じていたことだ。
それにしても…。

「友紀ねえ、綺麗…」
僕は思わず呟いた。
「そんなことないわ。あの頃に較べたら、衰えちゃってるわよ」
「でも本当に綺麗だわ」
「そう?旦那のおかげかな」
「え?」
僕は想像もしなかった言葉にひどく動揺した。
「ちょっと前からかな。旦那がうまくなったのよ。あの頃、多分浮気してたんだと思うけど、その確証をつかめなくって」
友紀子は意味ありげに笑った。
何か勘付いている?
「キスなんかがすごくうまくなったの。まるであなたとしてるみたいだった…」
僕は友紀子と目を合わせることができなかった。
「そんなに怯えなくていいわよ。浮気しても、そのおかげでうまくなるんだったらいいわ」
友紀子が僕の肩に手を置いた。
僕は顔を下に向けていたが、無理矢理唇を重ねられた。
優しいキスだった。
友紀子の唇がこれほど柔らかいとは気づかなかった。
とろけるようなキス。
まさにそんなキスだった。
二人の身体の間で乳房が押し潰された。
身体が動くと、乳首どうしが擦れ合い、その度に鋭い快感が身体を走った。
ビクッビクッと身体を震わせた。

唇を覆っているものが離れた。
「ぁ…ぁん…んん……」
僕の口から吐息が漏れた。
「秋奈、気持ちいい?」
「…ぇ…ぁ…ぅん……」
僕の股間はキスだけでぐっしょりとなっていた。

友紀子の手と口は無数に存在しているかのようだった。
それからも間断なく僕の身体に快楽を与え続けた。
僕は友紀子の腕の中で何度も弓なりに身体を反らせた。
呼吸さえ乱れがちだった。

ふと友紀子が離れた。
僕はボォーとした意識で友紀子の姿をみていた。
振り返ったとき友紀子の腰にはペニスバンドがついていた。
僕のものより倍ほどの長さだ。
「それじゃ最後はこれを使ってあげるね」
友紀子が近づいてきた。
あんなものを入れられたら壊れてしまう。
「それじゃ昔みたいに秋奈の口でこれを湿らせて」
友紀子が腰を前に突き出して僕に銜えるよう促した。
「あ…うん…」
僕は怖ず怖ずとそれを手に取った。
「ほら、早く」
僕は躊躇いながら口に含んだ。
「何か秋奈らしくないわね」
そんな言葉に僕は一生懸命に舐め回した。
「もういいわ。なんかあなた変わったわね」
友紀子は僕を乱暴に押し倒し、それを僕の膣に宛てがった。
「それじゃ一気に入れてあげるからね」
「やめて、そんな長いの。赤ちゃんがいるから優しくして」
僕のそんな言葉に友紀子は僕の顔をジッと見た。
そして急に大声で笑い出した。
「赤ちゃん?ウソ!」
「嘘じゃないわよ」
「もう我慢できない。男のくせにお腹に赤ちゃんがいるっていうの」
「えっ!」
どういうことだ。
もしかしたら秋奈が僕だってことを知ってるというのか?
どう考えてもそうとしか思えない。
まさか秋奈がばらしたのだろうか?

動揺していると股間に痛みが走った。
友紀子が一気にペニスバンドを僕の中に入れたのだ。
「やめて。痛いから」
「いつまでも秋奈の振りしなくていいわよ。あなたの正体は分かってるんだから」
友紀子は僕の顔をうかがいながら腰をゆっくりと動かし出した。
「気持ちいいでしょ?あなたに女どうしの良さを教えてあげる。そのうちあなたから腰を振るようになるわ」
最初の痛みは一瞬で僕はすでに快感に溺れていた。
友紀子は僕の感じるところが分かっているようだ。
友紀子が言った通り、僕はさらなる快感を求めて腰を振っていた。
「ほら、言った通り、あなたから腰を振ってる」
友紀子が嫌らしい笑いを浮かべた。
「すっかり女の子してるのね、卓也」
友紀子の口から「卓也」と呼ばれた瞬間、僕の意識は快感から現実に引き戻された。
それでも友紀子の動きは止まらない。
「あなたが秋奈と入れ替わったってことは最近聞いたの」
意識は現実に引き戻されていたが、突かれることで湧き上がってくる快感は変わりがない。
僕は喘ぎ声をあげながらも友紀子の話を聞こうとした。
「驚いたわ。でも考えてみると、卓也が急にセックスがうまくなったことが何よりの証拠だと思ったの。セックスのやり方から考えると、彼の中身は確かに秋奈のような気がする。なら秋奈はどうだろう?昔のように秋奈を抱けば、それが秋奈自身なのか、それとも卓也が秋奈になっているのか分かるんじゃないかなって思うのって自然な発想よね?」
友紀子は僕を突きながら一人で話していた。
僕は意識の一部だけで友紀子の話を聞き、大部分は快感を貪っていた。
「あなたを抱くと、やっぱりあなたは卓也としか思えない。最後まで知らない振りしておこうと思ったんだけど、さすがに妊娠は笑えるわね」
友紀子は的確に僕の感じるところを攻めてきた。
僕はもう友紀子の話を聞く余裕はなかった。
「そんな話はいいから、もっと突いて。メチャメチャにして」
僕はさらなる快感を求めた。
「卓也ってもうすっかり淫乱な女の子になっちゃってるのね」
ペニスバンドは無機質なものだったが、果てることがない。
友紀子はなかなか僕を解放してくれなかった。
僕は友紀子の腕の中で何度も身体を反らせた。
体力的にも精神的にももうクタクタだ。
「もう勘弁して」
「まだまだこれからよ」
解放してくれたのはそれからかなり経ってからだ。
友紀子が僕から抜け出てくれると僕は疲れ切って眠ってしまった。


「女同士もいいものでしょ、た・く・や・さん」
「えっ?」
気持ちよくまどろんでいると耳元で男性の声がした。
僕は驚いて目を開けて、声がした方向を見た。
そこには秋奈がいた。
ベッドのすぐ横でひざまずいていたため、僕の頭のすぐ近くに秋奈の顔があった。
「友紀ねえに全部ばらしちゃった」
秋奈は悪戯っぽく舌を出した。
そんなことをしても全然可愛くない。
そもそも姿は男なのだ。
しかも元僕の姿だ。
気持ち悪い以外の何物でもない。
それにしても何てことをするんだ。
腹立たしいだけだ。

「あなたたちが挨拶に来たあと、すぐに友紀ねえに全部話したの」
秋奈が口を開いた。
「全部って?」
「私とあなたの身体が入れ替わったってこと」
「どうやって入れ替わったかも言ったの?」
僕は友紀子に聞かれないように小声で聞いた。
「出会い頭にぶつかったってことにしておいたわ」
秋奈も同じように小声で話した。
さすがにセックスの結果入れ替わったなどと言えなかったのだ。
自分の不倫相手が昔のレズの相手の夫だとは知らなかったんだろう。
しかしおそらく友紀子はそんな嘘に気づいている。
女のカンは馬鹿にできない。
自分自身が女になって何となく分かるのだ。
とにかくそういう匂いを感じるのだから仕方がない。
分かろうとしなくても分かってしまうものなのだ。


「それじゃ私も仲間に入れてもらうわね。そのために早く帰ってきたんだから」
そう言って秋奈が服を脱ぎ出した。
「友紀ねえ、元の私の身体、抱いてもいい?」
「どうせそのつもりなんでしょ?旦那の身体で浮気されるのはあんまり気持ちのいいもんじゃないんだけどな」
「へえ、意外。友紀ねえって意外と保守的なのね」
「良妻って言って欲しいわね」
「リョウサイって?」
「良い妻ってことよ」
「ああ、良妻ね。それじゃ良妻の友紀ねえの前だし、上のお口でやってもらおうかしら?」
そう言って、僕の目の前にペニスを突き出した。
「いくら何でもフェラなんてするはずないでしょ」
友紀子のそんな言葉を聞きながら、僕は目の前のペニスを銜えた。
「えっ、嘘…」
友紀子が言葉を失って僕のほうを見ていた。
友紀子自身、フェラはほとんどしてくれなかった。
おしっこが出て来るものを口に入れるなんて汚いんだそうだ。
僕は友紀子に見られていることで興奮していた。
僕はチラッと友紀子の顔を見て、すぐに視線を外して、フェラに集中した。
「本当に卓也なの?ただの好きモノの女じゃない。……分かった。本当は入れ替わってなくって、二人で私をからかっているのね」
友紀子の急な変化で、秋奈が慌てだした。
「そんなわけないじゃない。私が秋奈で、元の私の身体に入っているのが卓也さんよ」
「私の卓也が男のチンポを銜えて喜んでるなんてありえないじゃない!」
僕は友紀子の怒りに乗じることにした。
このまま淫乱女の役を演じておけば、この僕が卓也だなんて友紀子が思わなくなるだろうと思ったのだ。
やはり第三者に入れ替わりを知られることは恥ずかしい。
できれば知られたくない。

僕はさらに一生懸命にフェラチオした。
顔には恍惚とした表情を浮かべることを忘れなかった。

「もういい!分かったから」
友紀子が立ち上がった。
かなり怒っていた。
「私を騙して二人の不倫に私を巻き込もうとしたんでしょ!そうはいかないわ。私が邪魔なんだったら別れてあげるわよ」
「そんなわけないでしょ?私が秋奈よ、分かって」
秋奈は腰をひいて、僕の口からペニスを出した。
僕はそれを追いかけてもう一度ペニスを銜えた。
友紀子はそんな僕を軽蔑したように見つめていた。
「いつまでそんな茶番を続けるつもり?馬鹿にするのもいい加減にしてよ!」
友紀子が服を着て、外に出て行こうとした。
「どこに行くの?」
「実家に帰らせていただきます。すぐに離婚届にサインして送ってあげるわ。あなたが出しておいてね」
「ちょっと待って」
「さよなら!二人でお幸せに」
振り返ることもなく、友紀子が出て行った。

「どういうつもり!」
秋奈は僕を突き飛ばした。
「お前が入れ替わったことをばらすからだろう。いくら何でも友紀子には知られたくないからな」
「だからあんな小芝居したって言うの?まさか渡辺さんがフェラするなんて思わなかったわ」
別に小芝居したわけじゃないんだけど…。
そう思ったが、あえて言わなかった。
「ねえ、何だったらもう一回してくれる?」
秋奈がペニスを突き出した。
すぐにでも口に含むことができたが、躊躇する振りをした。
フェラが好きだと思われるのが嫌だったからだ。
「やっぱりさっきは無理してたのね、良かった。いくら何でも渡辺さんがフェラを好きだなんて嫌だもん」
秋奈が僕を押し倒した。
「それじゃ今度は私がお返ししてあげるね」
秋奈は僕の足首を持ち、そのまま僕の肩辺りに足が来るようにした。
僕は最も恥ずかしい部分を秋奈の目の前にさらけ出す体勢になったのだ。
僕は恥ずかしさにいたたまれない思いになった。
「やめて。恥ずかしい……」
僕は恥ずかしさのせいで、女の子の話し方になってしまった。
「あれ?急に女の子になっちゃったの?」
秋奈は意地悪っぽく僕を虐めてきた。
それが僕の興奮度を高める。
「ねえ、本当に友紀ねえと離婚しちゃってもいいの?」
「………」
僕は見られている恥ずかしさと思わず女の子の話し方をした恥ずかしさで何も言えなかった。
「どうせあなたは岡部くんと幸せな結婚するんだもんね。所詮他人事でしかないよね」
秋奈が話すとその息が僕の敏感な部分を刺激する。
僕はさらなる刺激を欲した。
「あれ?濡れてきてるわよ」
僕の興奮は確実に身体にも現れていた。
「そろそろ入れてあげようか?」
「…うん、お願い……」
「渡辺さんって感じると本当に女の子になるのね。…ねえ、ちゃんとお願いしてみてよ」
「えっ?」
「そうでないと入れてあげないわよ」
「……」
「私は別にこのままでもいいのよ」
「お願い。わたしのおまんこに卓也さんのおチンチンを入れて欲しいの。わたしをメチャメチャにして」
「そうね、私がめちゃくちゃにしてあげるわ。赤ちゃんも流産させてあげようか」
「それはダメ……」
「何それ?もしかして母性本能?」

秋奈のペニスが入ってきた。
「…ぁぁ……ぃぃ………」
「本当に女ね、羨ましいくらいだわ」
秋奈の腰がゆっくりと動き出した。
僕の感じるところを確実に攻めてくる。
僕は女の快感を求める一方、異状な今を考えた。
秋奈と僕が入れ替わって、何かがおかしくなった。
友紀子まで巻き込んで皆が不幸になっていくような気がした。
やはり二人は戻ったほうがいい。
僕が岡部と結婚して子供を産むなんてナンセンスなんだ。
僕は秋奈に突かれながら一部の冷めた部分でそんなことを考えていた。



「卓也さん、起きて」
耳元で秋奈の声がした。
久しぶりの女性としての秋奈の声だ。
(えっ?)
僕は慌てて目を開けた。
そこにはついさっきまで自分だった姿があった。
「起きた?また入れ替わっちゃったみたい。どうする?もう一度入れ替わることを期待してセックスする?」
「い…いや、いい。この状態のほうが普通なんだ」
「でもそうなると卓也さんが離婚されたことになるんだよ」
「いいよ。そうなっても仕方ないことをしたんだから」
「それじゃ私は岡部さんと幸せな結婚をすればいいの?」
「君がそれで良ければな」
「それはまだ分かんないけど…」
秋奈は自分の部屋に戻って行った。


次の日、友紀子から離婚届が届いた。
友紀子のサインと判子が押されていた。
(こういうことは早いんだよな)
自分が蒔いた種だし、離婚したほうが後腐れないのかもしれない。
僕もさっさと離婚届に自分の署名をした。
そして決心の鈍らないうちにと思い、すぐに役所に届けを出した。


家に戻ってみると、玄関の前に秋奈が立っていた。
僕の帰りを待っていたようだ。
「何しにきた?」
「私、あんな奴と結婚するなんて絶対にイヤッ!」
「何言い出すんだ」
「絶対にいやなの!」
「こんなところじゃなく、家に入ろう」
僕は秋奈を家に招き入れた。

秋奈の話によると、岡部のセックスは独りよがりで最低なんだそうだ。
「セックスって大事よ。いくら愛し合っていてもセックスの相性が悪ければ付き合う意味はないと思ってるもの」

僕は秋奈を抱いた。
秋奈の身体はついこの間まで僕の身体だったわけで、どこをどうすれば感じるかが分かっていた。
僕は丁寧に秋奈の身体を愛撫した。
秋奈からは僕が期待した通りの反応が返ってきた。
僕は秋奈を抱いていると同時に秋奈の快感を共有していた。
秋奈がイキそうになることで、僕にも射精が間近に迫ってきた。
僕が秋奈の中で爆発したとき、この女とずっと一緒にいたいと思った。

「やっぱり卓也さんとの相性のほうがずっといいみたい」
「……」
「卓也さんはどうなの?私とのセックスがいい?それとも私の身体で抱かれたほうがいい?」
「えっ?」
僕は慌てた。
無意識のうちにそんな比較は避けていたのだ。
僕は男としての快感よりも女としての快感のほうを気に入っている。
自分は男であるという意識から女の快感のことは考えないように無意識に抑え込んでいた。
しかし秋奈の言葉でそんな意識に気づいてしまった。
僕は確実に秋奈として抱かれるほうが好きだ。
女として抱かれる喜びを感じている目の前の秋奈が羨ましい。
「その顔は私と入れ替わってたときのほうがよかったって顔ね。私はどちらかというと男のほうがいいかな…。二度入れ替わったんだから、またそのうち入れ替わるかもしれないわね。だからこのまま一緒に暮らさない?私は岡部なんかとは別れるから」
「でもお腹にはあいつの子供が…」
「あなたが私だったときにできと子供でしょ?だったらあなたの子供でもあるわけよね?あなたの子供でもあって、私の子供でもある。だったら、あなたと私が結婚してもいいわよね?」
「何だよ、それは」
そう言いながら僕は秋奈とずっといたいと思っていた。
いや願っていた。
なぜなら再び秋奈になれるかもしれないのだから。


僕たちは少しばかり世間体を気にして、すぐに婚姻届を出さないことにした。
しかし実質はその日から一緒に過ごすことにしたのだ。
岡部には僕から説明した。
岡部からは一発殴られたが、彼は潔く引き下がってくれた。
やはり岡部はいい奴だった。

一週間もしないうちに僕の願いが実現することとなった。
僕と秋奈は再び入れ替わったのだ。
「これで二人とも望み通りね」
僕になった秋奈は微笑んだ。
「こうなっても結婚する決意は変わらない?」
秋奈の言葉に僕は静かに頷いた。

僕たちはすぐに婚姻届を出した。
僕は日に日に大きくなるお腹を抱えながら幸せだった。
僕の身体になった秋奈は真面目で優しい旦那だった。
もちろんセックスの相性は抜群だ。
3年後には本当の意味での二人の子供を産み落とした。

二人の子供に振り回されながらも女として母として毎日が喜びに満ちていた。
僕は秋奈になれて本当に幸せだ。


《完》

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